政治ウォッチ!

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自民党の難点・民主党の難点 まとめ 最終回「民主党の課題 その3」

2009-08-28 16:31:10 | 政治

マル激トーク・オン・ディマンド「自民党の難点・民主党の難点」をテキスト化。第10回。今回で終了です。

(神保)

次にメディア問題をやりたいんですが、何を言いたいかというと、民主党が政権を取って既得権益との対立が始まった時にメディアがそれをどういう風に報じるかということで、世論が民主党に付くか既得権益側に付くかが左右されるんじゃないかと思うんです。

それは小泉政権の時の教訓で、小泉政権の時というのは道路公団や郵政の民営化にしても、メディアがなんだかんだ言いながら小泉さん側に付いたという事がほぼ受動的に支持を受けた。だから抵抗があるものでも出来ちゃった。抵抗する人が悪者になるんですね。

問題は民主党にとってメディアも既得権益の一部。それがメディアにとって中立的に一つの既得権益との対立を報じるモチベーションがあるだろうか?というところが恐いんですね。

(宮台)

そこは一つアイデアがありまして、官僚側が色んな法制を敷く場合、例えばメディア規制に関する法制を敷く場合に分断統治、ディバイド・アンド・ルールを使いますが、それを逆利用した方がいいと思うんです。

つまり、記者クラブにしか開かれていない会見という既得権益にぶら下がっているメディアというのはマスメディアの中の一部ですよね。週刊誌・その他のメディアはぶら下がれていない。こういう人間達がいる以上、こういう人たちを民主党が味方につけてうまく利用していく必要がある。なので、既得権益にぶら下がろうとしている全国紙であるとか、それにぶら下がっているテレビ局を徹底して叩くということをやらせる。それは今から準備しておいたほうがいいですよね。

(神保)

政策論という意味でも、あるいは戦術論という意味でも民主党は国自体を改革しなきゃいけないわけですよね。だけど、国の改革をする時にメディアの力を利用しないという手は無いですよね。するとメディアを敵に回してしまう事によってそれがうまく出来なくなるんじゃないか。

上杉隆さんに聞いた話なんだけど、かなり民主党はメディアから弾が飛んできている。だから、メディア改革なんてやってると他の改革が出来なくなっちゃうよ。ということをメディア幹部なんかから親身なアドバイスとして貰っている人もかなりいるそうです。

一つはこれについてどう思いますかということと、一つはマル激の視聴者の方には、これから先、主要メディア報道が民主党に対して必ずしも客観報道ではなくなるというリスクを認識していただく必要があるのかどうか?

(宮台)

やはりディバイド・アンド・ルールを貫徹する事が重要で、オルタナティブメディアだけでなく、外国のメディア、あるいは外国のメディアの権益を代表する各国の政府とのコネクトをする必要があると思います。既得権益にぶら下がる度合いさもメディアによって温度差があるので、そういう意味でいえば霞ヶ関に対するカードの提示の仕方と同じで、どこが勝ち馬であるのかということを提示する事が大事なんです。

これは山本七平の「空気の研究」の応用ですけど、何か現然に見えると人は呑まれて白旗をあげるというのが日本人の一つの傾向なんで、それをうまく利用していくことが重要で、今からでも既得権益に固執する度合いの強いマスコミを包囲できるような方向性を模索しておいたほうがいいですね。

(神保)

それが民主党に出来るかなぁと心配なんだけど、もう一つあまり知られていない重要な政策に独立行政委員会というのを導入すると言ってるんです。その第一号として日本版FCCを作ると言っていて、これはどういうことかというと、日本は先進国の中で異常で放送免許を政府が出していて、権力の介入や総務省を通じて政治の介入も簡単に出来るようになっている。だからそれを第三者委員会で独立行政委員会というのを作ってやると。

でも、これは二重三重で大変な事で、まず役所が抵抗する。しかもメディアも抵抗する。ここは注目のところで、これが出来ればメディア戦争に勝てるかもしれないと思う。

(宮台)

でもメディアを使うしかないので、ポピュリズムを有効に利用出来るかどうかにかかっていると思います。そのためには有能な広報マン、広報戦略を打ち立てる人たちを党外から大量に抱え込まないと難しいでしょうね。

(神保)

そこでもう一つ気になるのが、民主党はやたら政治主導と言ってるんですがそこに気負いがあって、党外から民間の人を引き込んで入れるということにどこまで積極的かということが見えない。

(宮台)

そこは党外という場合に民間の事だけを考えていなくて、官僚の利用が大事だと思ってるんですよ。それはライフリンクの清水康之代表とここで何度もお話をしましたが、そこで必ず出てくる問題で、やっぱりライフリンクがこれだけ有効な機能を発揮してこれた理由は役人をうまく利用したということが大きいんです。

腐っても鯛というか、元々情報を持っているし、ノウハウもあるので役人が持っているリソースはそれなりに大きいんです。そのリソースを何のために使うのかということに問題があったわけで、官僚の持っているリソースを官僚の昌益、個人益のためではなく、公益の為に利用させるようなインセンティブメカニズムを作ればいいんです。そういうマインドが今のところかなり弱いかもしれない。

僕が民主党の議員さんと話すなかでは、その中でも優秀な方々は霞ヶ関の役人を使わないとどうにもならないということを思ってらっしゃる方がいるんだけども、今の段階での民主党的ポピュリズムでは素朴なメッセージに集約されすぎています。

官僚主導から政治主導はいいんですが、政治主導という場合に、先進国並に市民主導が期待できないのが今の日本の状態であるとすれば、市民主導化していくためのNPO税制を含めた様々な手当てをしていくのと同時に、今まで官僚が主導してきたのであればそれを市民の為に使わせるようにしますと言った方がいいと思うんです。官僚を横に置いて何かしますという発想を強調しすぎていますよね。

(神保)

二項対立の構造を作ろうという気配がありますよね。


自民党の難点・民主党の難点 まとめ Part.9「民主党の課題 その2」

2009-08-27 16:57:57 | 政治

マル激トーク・オン・ディマンド「自民党の難点・民主党の難点」をテキスト化。第9回。

 

(宮台)

「友愛」というのはディーセンシーの問題で、今後も資本・市場主義のメカニズムを利用していくしかない。それ以外の体制は今後もないんですよ。

ただ、だったら資本主義で万々歳かといったらそうじゃなくて、資本主義は運用の仕方を誤ると社会を滅ぼしてしまうんです。資本主義体制しかないんだけれど、資本主義が社会を滅ぼさないようにするために人々のある種のパブリックマインド、ディーセンシーが必要なんですね。それをどうやって調達をするのか?

そこでやっぱり教育の問題が重要になるし、この場合の教育というのは学校教育だけじゃなくて、じゃあ親なのかというとそうでもなくて、地域社会の中で育まれる帰属の観念であったりとか、公共的な観念だったりするということもあるので、そういう所まで含めて善い人が営む資本主義という方向に向かうための道筋が欲しい。

(神保)
   
包摂性の話の延長で、本当は包摂性(市民参加)というのが民主党の場合入るんだけど、これはどう教育します?意外と知られていないんだけど民主党は学校評議会という制度を打ち出している。

これは今の教育委員会にまるまる取って代わるもので、ほぼ学校単位、地域単位で学校評議会が出来て、その関係員はもちろん学校関係者、親も入るんだけどそこに地域の識者の住民とかが入った上で、使う教科書、カリキュラムまで審議する。和田中のモデルに非常に近いものなんだけど、一つの市民参加ということで教育を決めていく。そうすると、文科省が上から指導要綱を決められてそれに縛られるとか、中央でやった教科書検定で認定された教科書を選ばなきゃいけないとかいうのが無くなるということになっているんだけど、例えばそれなんかは宮台さんが課題として言っているもののあれにはなり得るんですか?

(宮台)

成り得ますね。僕がずっと申し上げている事の一つは、日本の明治維新以降の近代化のツールが学校だった。明治5年以降の学制改革が目指したものは従来の村人達、あるいは村人を包摂している村落社会を一旦組み替えること。

組み替えるときに何を軸にするのか?学校を軸にするんだということで、簡単に言えば学校に天皇陛下のご真影を置いて、そこをベースにして「天皇陛下とはみんなの理想のお父さんです」と伝えていくわけです。この機能は両面あって、天皇陛下をイメージしやすくするということと、元々理想の家族というものは日本に無かったんですが、理想の家族とはどういうものなのかということを上から押し込んでいくという二つの機能があったという風に言われている。

その結果、実際には社会を中抜きして国家と個人が繋がる。中間集団があるように見えるんだけど、日本の場合は、こういう言い方がいいかどうかはあるんですが、国家の出先機関なんですね。町内会から隣組から自治会まで何もかもそういう風に機能させられてきたという節があるんですが、これは日本の近代化を成功させた成功モデルなんですね。

しかし、ある時期以降、参加する政治や相互扶助が重要になってきた。つまり社会を大きくしないと国家を小さく出来ない。国家を小さくすると財政が破綻して終わってしまうということがはっきりしてきた。その時に今までの日本の近代化のシステムを逆手に取るシステムが必要なんです。学校を中心として上意下達的な出先機関としての中間集団という風に組替えていったとすると、今度は逆の方向に学校を機能させることが重要で、どういう風に機能させるかと言うと、空洞化してしまった地域社会、地域集団であるとか相互扶助とかいうことを人々がイメージしやすくする。あるいは、それをベースにして様々な相互扶助のネットワークをこさえていけるという意味で学校を利用するということなんですよね。

それは教育に子供だけじゃなくて親や地域社会の大人たちを巻き込むという意味じゃないんですよ。それを言うと佐藤学的「学びの共同体」になってしまうんですけど、そうではない。むしろ子供たちにとって有益な実りのある教育を施せるようにするためには、一定の相互扶助のネットワークが地域社会にないと機能しないではないかということを証明し、それをベースにして説得をしていくということで、学校を梃子として利用して地域を再生していくというプログラムなんですね。

(神保)

必ず地域にあるし、スペースもあるし、物理的にまずいいですよね。

(宮台)

コストの面でもそうですし、大人たちが顔を合わせて自分たちの地域のことを議論するという意味でも学校は凄くいいんですよ。それ以外にいい場所はない。自治会館とか公民館なんて殆ど死んでますよ。

 

(神保)
   
実は民主党の昔のインデックスに、「日本中の公立中学校の芝生化」というのが入ってたんだけど、なんかそれほど熱心じゃなくて消えちゃった。東京都は独自にやってたりして随分芝生になっているんです。芝生も鳥取モデルというのがあって、随分安くニュージーランドの方式を使って芝生化できるという方法もあってノウハウがあるんだけど、芝生を植えると子供が遊べるだけじゃないんですよ。芝刈りをしなきゃいけなくなって、それを地域の人たちがやるというところから入っていくのは作戦として結構ある。そのためにもやるべきなんじゃないの?という話をしたことがあるんですが、消えてしまった。

(宮台)

そういう選択が大変重要で、芝刈りが入り口でそこからどこにいくのかというと、芝刈りを子供たちのいない放課後とかにやるとして、その芝刈りをした大人たちが地域の事を話したり、趣味の事を話したりする為に教室を利用することが有効で、何故かと言うと僕に経験があるんです。

廃校になってしまった学校というのが東京にもいっぱいあって、その一部では自治体が色んな市民団体、あるいは人々に教室を貸しているところがある。教室の中で会合をやると、みんな小学校の頃を思い出すんですよ。すると何が起こるかというと、小学生は誰もが経験したから誰とでも繋がれるんです。「どんな先生が憎かったですか?いじめはありましたか?」みたいな話が出来る。そういう意味では学校という場は凄くいいんです。

(神保)

あと、公共的なマインドにならざるを得ないですよね。

(宮台)

なので大人を教育に巻き込むんじゃなくて、学校という場を使って地域のネットワークを再考するということが重要だと本当に思っていますので、是非やって欲しい。


自民党の難点・民主党の難点 まとめ8「民主党の課題 その1」

2009-08-26 16:19:34 | 政治

マル激トーク・オン・ディマンド「自民党の難点・民主党の難点」をテキスト化。第8回。

 

(神保)

僕らの間で民主党の難点、課題を充分に議論してきていない気がしたのでやっておきたい。

まず、鳩山さんの献金問題がある。この問題に対して僕は厳しい事を言ったと思っています。でも、それは下火になっている。僕はそこがとても心配で、やはりあの献金問題は問題として全然解決してないんですよ。とりあえず今はいいんですが、総理になった瞬間に総理の献金スキャンダルになるんですよね。この問題が国会で追及されるようになって、それで説明がつかないことになろうものなら忽ちに内閣が立ち往生をしてしまう可能性がある。

だとしたら、今がチャンスなんだという気持ちは分かるけど問題をいま出さないでどうするんだと。今やらなかったら政権を取った時に問題になるじゃないかと。それはスキャンダルじゃなくて、政策上の問題点もいま出せば間に合うかもしれないけど、取ってからでは間に合わないですよ。その意味で、いまあえて釘を刺しておきたい。

そこで気をつけなければいけないのは、メディアは民主党のマニフェストにけちをつけることを得意技としていて、なんだこの番組でもメディアと同じ事をするのかと思われるかもしれませんが、そういうつもりじゃない。なので、一筋ニ筋違った形でやりたいと思います。

(宮台)

一つだけ補足すると、自民党は後だしジャンケンをしていて、報道する方も物事の順序を追いかけると、後だしをした自民党の言う事を消化するだけで民主党にけちをつける形になっているので、そこにアンフェアな立ち位置があるわけではないと僕は思っています。

(神保)

民主党の政策の難点をあげるとしたら、宮台さんは何が一番だと思う?

(宮台)

最も抽象的に言えばさっきの子供手当ての話が典型なんですが、再配分をする時に既得権益を剥がすのはいいけどその結果どのような道筋を辿って社会の包摂的な相互扶助を回復するのか?ということがよく見えない。

なので再配分の結果、社会がますます弱体化し、個人がばらばらになった上で国家にぶら下がる可能性に楔が打ち込まれていない。なので、その辺についてどういうマインドを持っているのかが全然メッセージとして伝わってこないんです。

もう一つ似たような論理で、どういうプロセスを辿って官僚を従来の様な自分たちの権益のためではなく社会の自立性を保つために働かさせるようにしていくのか?そのプロセスにおいて霞ヶ関をどう手当てするのか?という道筋が見えないところがポイントになる。

(神保)

その道筋が見えないと、子ども手当も高校無償化も農業の個別所得保障、生活保護の拡充などが、全部ただ国にぶら下がってしまう人が増える可能性に繋がる。それでいて社会の分厚さが回復しなければ、下手をすると単にぶら下がる人達が更に増えてしまうことがあるということですね。そうすると典型的な「非効率な大きな政府」に陥るリスクがある。財政負担ばかり増えて全く社会の活性化に繋がらないと。そういう意味では給付が多いんですよね。


一応、民主党の名誉のために言っておくと、マイノリティの権利の保障とか施策的に包摂性を出そうとしていると思うんですよね。そこが逆に民主党にとってリスクになっている。外国人なんて嫌だとか、性的マイノリティを広く認めるなんて嫌だという人達がまだまだ日本にはいる。その意味では、リスクを覚悟の上で包摂性を打ち出しているんだけど、宮台さんはそこをどう見ますか?

(宮台)

いま紹介された範囲ですと、いわゆるフェアネス、つまり行政の扱いを平等にするとか、行政にアクセスするチャンスや権利を与えるということで、その意味で言えば包摂性の一種ではあるけども相互扶助のネットワークに彼らが入るという事ではないですよね。むしろそういう人たちもぶら下がれるようにするとなる可能性も高い。なので、個別的な政策よりもどういう社会に向かおうとしているのかというイメージを提示していかないと正当性が与えられないと思うんです。

今は社会が疲弊した状態にあり、時間をかけて回復しなければならないので、緊急的な措置が必要なのは当たり前。そこから言えば、解雇規制も派遣規制も仕方がない面もある。しかし、それをクリアした後にどういう社会に向かうのかという事を提示しないと自民党との間に有効な差別化が出来なくなってしまう。   

(神保)

自民党も「自分たちは保守党だ」と言っているけど、政策を見ると基本的には再配分的なことが色々と書かれている。だから再配分政党が二つあるとすると、方向が違うんだというのがないと困る。しかし、残念ながら両党とも再配分によってどういう社会を目指すんだということが政策やマニフェストを見る限り出てないですよね。

(宮台)

自民党側からの喧伝がありそうだなということを踏まえて言うんですけど、差別化をどこで量られるかというと、軍事・外交で量られるという風になる可能性がある。

自民党は「国家の力強さを目指すんだ!」、「民主党は個人主義者ばっかり育てて国家を弱体化させる道を歩もうとしている」という風になって、国家を重視する自民党と、個人を重視して国家を軽視する民主党という対立軸になる。

しかし、これはあまりにも古い図式で頭を抱えてしまう。今の欧州を見ると分かるんですけど、右も左もそんなことは言わないんですね。再配分を重視すると。理由は社会を分厚くするためだと。右も左も同じ事を言ってるんです。ただ右と左には、理性とか合理性とか計画に対してどれだけ信頼を置くのか、あるいは同じような意味で伝統なるものにどういうスタンスを取るのかという違いがある。そこには個人とか国家とかいう話が出てこないんです。


(神保)

理性とか伝統に対して懐疑的であるかどうかという違いね。

ただ、理念という意味で政策を見ていって違いを感じられるとしたら民主党は「オープン・フェアネス・包摂性・メディア・地方分権」という5つの柱があると思っているんですが、これではまだ不充分ですか?

(宮台)

不十分なのではなくて、トータルパッケージを国民に分かりやすくイメージさせるための手当が少ない。個別に見ると、それはいいね!という感じになるんですが、それをつまみ食いできるのか?

つまり、どれかだけを達成して、どれかを達成しないということが出来るものであるのか?あるいは、同時に達成する事によって目に見える形で何が変わるのか?そういうことが分かるようにして頂かないと。

(神保)

多分鳩山さんの中では明確なイメージがあると思うんですが、問題はそれが共有されていないということ。


自民党の難点・民主党の難点 まとめ7「既得権益について」

2009-08-25 16:20:39 | 政治

マル激トーク・オン・ディマンド「自民党の難点・民主党の難点」をテキスト化。第7回。

 

麻生総理の会見を受けて

(神保)

まず、市場原理主義から決別すると。要するに、小泉路線を否定するということね。
それから、「我々は保守主義だから、家族とかそういうものを大事にする」と。我々は保守だとはっきり言いましたよ。

(宮台)

じゃあ何で、地方、地域共同体、家族、共同性がこんなにも空洞化してるんでしょうね。その事を最も憂うるべき政党が保守というもの。なんていう意地悪はそれはそれとして、やっぱり今後は再配分が重要だということは間違いないんです。

その場合に二つポイントがあって、一つのポイントは既得権益を剥がした再配分なのか、既得権益を前提とした、あるいは温存した再配分なのかという問題がある。

もう一つの重要な問題は、再配分による動機付けのスポイルという話が出ましたけど、再配分をしたとして国家に依存しない自立した社会を作る時に、何を自立した社会、健全な社会とみなすかということ。要は、「特定の家族イメージを温存するのか、家族的な機能を温存するのか。」こういうことなんです。

これはサッチャー政権の時に起きた事ですけども、特定の家族イメージに固執することによって家族的な機能がむしろずたずたになってしまうということが現に有り得るわけです。逆にいえば、これは社会学の機能主義的な発想をする人の定番でもあって、何が大事なのかを伝統において見出す機能が大事なんですね。伝統が果たしてきた機能が大事なんであって、見かけ上の違いがあろうとも、あるいは昔ながらの所謂伝統的な家族と違っているように見えても、伝統的家族が果たしていた機能を今日維持したり、再建したりする場合にはどういう形が適切なのかという風に考えていく、そういう意味の保守であるのか。

見かけを保守するのか、機能を保守するのかが重要な柱となります。

(神保)

今回、消費税を巡る立場にそれがはっきり出たと思う。
つまり、民主党の4年間議論もしないという言い方が良かったかどうかは分からないですけど、ただ民主党の立場というのは無駄がこれだけある中で増税というのはどう考えても正当性が無いし、理解が得られないと。本当に引っ剥がすだけ引っ剥がして、それでも財源が足りなかったら消費税を上げるっていうときにそれで市民が納得するかどうかが民度が問われるところになりますが、それはそれとして、とにかく4年間は引っ剥がす事に専念しますということを言っている。

一方で、自民党は経済成長が戻れば上げるって言っている。そもそも戻るかどうかという大問題があるんだけど、戻れば上げると。そこが宮台さんのポイントから言ったところの、既得権益を剥がしてからじゃないと再配分というのは有り得ないという立場は自民党はとっていないということですね。結局ここまでの路線は延長だけど、運良く景気が戻れば税金を上げると言っている。そこがもしかすると大きな違いかもしれない。

ただ、既得権益を引っ剥がすと言うと、僕は今回これ書いて少し叩かれているんですが、善いことだと皆さんは思うわけですよね。だけどかなりの場合、実はあなたも既得権益なんですよということを言っている本人が自覚的じゃない。

例えば、民主党の場合は今の社会のスペクトルにおける既得権益というのと同時に今度は時間軸の既得権益の話にした時に、現役世代が未来世代に対して云々という場合、現役世代が全員既得権益者になるんですよね。未来世代のためになんか残せと言ったら、僕らが既得権益者として引っ剥がされる側になるですよね。そこで、既得権益を剥がしてから再配分と言うと、その方が良いと皆言うかもしれないけど、そこら辺も考えないといけない。

大企業なんかのサラリーマンなんかが、「既得権益を引っ剥がして再配分した方がいい!」なんて言うのは自殺行為に繋がってしまう場合が無いわけではは無い。しかし、長期で見れば善いことで、回りまわって善いことになると思う。ただ、短期的には痛みがある選択をしている。問題は、それが自覚的じゃないと投票したはいいけど自分に痛みがある政策をやられて「なんだこいつらは!」となるのが一番まずいんじゃないかなと思う。

(宮台)

そこは大事な問題で、既得権益なるものが直ちにそれ自体としてアンフェアだという議論は元々成り立たない。基本的に社会を成り立たせる文脈が変わってきたわけですが、変わる前にキャリアプランニングをした人達がいる。学歴を獲得して、正社員になって、馬車馬のように働いて、その分リターンを貰える。だから、投資として学歴もつけたし、一生懸命働いた。そういう人たちが突然文脈が変わって、配当金がゼロになりました!と言われるわけですよね。

(神保)
しかも、その文脈がソ連が崩壊したという文脈だったら、可哀想といえば可哀想ですよね。

(宮台)
そういう意味で言えば、個人の視座から見た場合アンフェアですよね。

(神保)

だとすると、既得権益に対して対決的なスタンスを取るというのはマイナスになるんじゃないか。不正をしないで権益側にいる人たちの抵抗を受ける。小泉さんはそれをショーにして、抵抗する人をいたぶってみせて支持率に繋げた特殊能力の持ち主だったけど、果たしてそうなるかどうかということが心配。

(宮台)

政局を左右する、あるいは操縦するために劇場を構成しようと、それをするためにルサンチマンや怨念を利用しようとなるとこれは大変に不幸なことで、何故不幸かと言うと、神保さんが仰ったことはこう言い返ることが出来て、

例えば沖縄を考えると、沖縄は土建屋を中心とする既得権益がありますけど、何故今でも与党翼賛路線が強いのかと言うと、それは沖縄が血縁主義社会で、本土からすると想像がつかないくらい分厚く広い血縁ネットワークがあり、その中に必ず土建業の人やそれを支える議員がいて、その人達が持っているリソースの中で再配分をしてもらっているという人が沢山いるからなんです。実はその中には土建屋だけじゃなくて、いわゆる基地の為の土地を貸すことによって利益を得ている基地地主にぶら下がっている血縁ネットワークの人というのも沢山いる。

何故この話をするのかと言うと、既得権益を引き剥がすという言い方には語弊があるというか、敵対感情を招くので良くないと。それで既得権益をそうでないものにシフトさせていくことが出来るのか? それはある条件があれば出来るんです。

従来は既得権益者である土建屋や地主さんにぶら下がって僕たちは喰ってましたと。しかし、これからは従来の人たちからは既得権益を剥がしますけど、その分を別の人たちのところに権益が付きますと。ネットワークの右肩の権益は剥がされるけど、左肩には権益が付くのでネットワーク全体の収支はトントンになっていますよと言えればスムーズに移行できるわけです。

世代間の問題もそうで、世代間の相互扶助が存在する場合には、年長世代に分厚い既得権益が損愛する状態を改めて年少世代に権益がいくようにしますけど、しかし世代間に相互扶助があるのでその回路全体から見るとトントンですよと言えるわけです。

そうすると、相互扶助のネットワーク、あるいは社会の分厚さが元々あるかどうかなんです。それがあれば既得権益を剥がす代わりに新しい権益者がネットワークを支えますと出来るんですけど、果たして日本が出来るでしょうかということなんです。分厚くなければ、僕にはどういう風にして橋を架けていくのかよく分からない。

(神保)

民主党の政策というのは基本的には既得権益を壊していくということなわけですが、民主党が政権を取ったとしてその先を占う時に、既得権益問題というのが小泉さんと同じやり方になることを避けるべきじゃないかと思うんですが、だとすればどういうやり方があるのか?というのをそろそろ本当に考えないといけない時に来ているんじゃないかなと。

メディアでこれを言ったら、「またこいつらは民主党に肩入れしてやがる」という風になるからなかなか他所でこういう議論は出来ない。


自民党の難点・民主党の難点 まとめ6

2009-08-20 16:57:27 | 政治

マル激トーク・オン・ディマンド「自民党の難点・民主党の難点」をテキスト化。第6回。

(神保)

日本で休暇の消化率とか、育休・産休の参加率が低いという話をする時に大体出てくる話というのが、日本は今の状態でも国際競争力的にはかなり厳しくて、特に生産性が低いわりに人件費が高い。それがあるから、それを長時間労働で埋めている。それから休暇をとらないことによって出勤日数を増やしている。

そこで生産性が低いまま休暇や育休、勤務時間をヨーロッパ並にしようものなら、日本の競争力が地に落ちてしまうと。そこで休暇云々の話は出るんだけど、生産性を上げるという話にはならない。それを並行して進めないとまずいでしょう?

(宮台)

何故生産性が低いのかということについての研究も色々あるので、今一体どういうサーキットを回っていて、それをどういうサーキットにシフトすればいいのかという話をすればいいんです。

それは昔から「第三の道」を紹介する時に僕が申し上げている「動機付けのシステムを各所に仕込んでいく」ということであるわけです。そういう意味で言えば、雇用についての解雇規制であるとか派遣規制をするという形で企業から見た場合の雇用リスクを上げるというやり方はまずいんですよ。そうすると、基本的には企業は労働力を海外に求めるようになり資本が流出してしまい、国内の労働市場が縮小してしまう。つまり、全部正社員として抱え込むという事になってしまえば動機付けのシステムが働きにくくなってしまうわけです。

あるいは、セーフティーネットをちゃんと敷くことによって、雇用リスクを下げる。つまり、解雇規制・派遣規制をやらない代わりにセーフティーネットを敷くという場合に、そのあり方もちゃんと議論する必要があります。

これは本当は例えばベーシック・インカムとか、負の所得税とかが随分知られるようになって、先進国の多くのところで採用されているので、それを民主党は言った方がいいと思うんです。今の日本の生活保護というのは、貯蓄額とか家族が持っている資産を参照して打ち切るかどうか決めるということになるので、ある程度以上働くと限界を超えて貰えなくなるから働くのを止めるという方向に人々を動機付けてしまっている。そうではなくて、資産評価の無い給付を行うという意味での、負の所得税とかベーシック・インカムをセーフティーネットに取り込めば、最低限の生活を保障する代わりに動機付けが疎外されるという事がなくて、働いた分かならずリターンになるんだという風に作り上げていけるんだとか、このように各所が、どういう動機付けのシステムを仕込んでいく事によって再配分による動機付けのスポイルが有り得ないようにしていくのかということを絶えず国民に問うていくということをやらないと、かつての福祉国家政策の悪夢を再現する可能性があります。
  
(神保)
宮台さんはどうして日本は生産性が低いんだと思います?

(宮台)

う~ん。これはとても深い問題で、日本の場合にはご存知のように極めて特殊な近代化の政策を取ったんです。地域の共同体を空洞化させる代わりに、二つの受け皿を作った。一つは企業の共同体、もう一つは国家の精神共同体。

戦後は後者の部分については比較的軽くなったわけですけど、その代わりに地域の共同体が空洞化した部分を企業の共同体が埋めるということをやってきているんです。そうすると、ヨーロッパ、一部のアメリカのように個人が帰属する先が、特に男の場合は企業になってしまう。このことが日本の特殊性を構成していると一口で言う事ができます。従って、例えば国民が生活に困っているというときに何を要求するかというと、昔で言えば企業の賃上げ闘争があった、あるいは賃上げが出来るように財界が取り決めをしろとか、国が誘導をしろという話になるんですよね。どうしてもそれが抜けない。

つまり、自分たちの相互扶助でここまでやるから、それを助けるような何かをしてくれという方向にならなかった。それが大きいと思うんです。

(神保)

それは結局、帰属集団であるが故に他のところに助けを求める事が出来ないから賃金を求めてしまって、その人たちの労働に関係なく賃金が高くなったから相対的に生産性が低くなったということですか。つまり、日本の労働者って非常にコミットメント、ロイヤリティが高いし、長時間働くし、会社に対する忠誠心も高い。

(宮台)

それはでも、随分前の話ですよ。ロイヤリティはOECD加盟国の中では下から2番目か3番目ぐらいまで落ちてしまっています。だから、それは帰属先であったはずの企業がやっぱり営利的な目的を持ったアソシエーションであるということが景気の悪化の中で明らかになってしまったので、「やっぱり共同体では無かったんだな」ということが分かれば、当然人々はロイヤリティを失ってしまうわけです。そもそも、日本は生産性が元々高かったのかというのも疑問で、帰属先と言いましたけど、これは簡単に言えば居場所なんです。

居場所が会社にしかなければ、例えば会社にいることによって有効な仕事が出来るから会社にいるということじゃなくて、そこにしかいるところが無いので会社にいるっていう人が沢山いるわけです。

(神保)
だからベッドタウンという表現が出てくるんですよね。寝る為だけに帰るということでしょ。

(宮台)

だからどこの企業も今でもあると言われている、「上司が帰らないと、自分は帰れない」っていう、まぁ昔はある種の美徳でも有り得て、一丸となってチーム仕事をしているんだという風に。そういう感覚の現れだった可能性もあるわけだけど、そういう意味で言えば、皆が馬車馬のように働いて企業を回す。それだけ市場のニーズがあるっていう時はいいんだけど、不況になってきた時に同じようなシステムが機能するはずがないんです。

むしろ、やることも無いのに、居場所が無いから企業に居続けるような人達が増えて、不況になればなるほど生産性を上げなければいけないのに生産性は下がるんですよ。

(神保)

結局、だらだらと会社にいて、一見長時間拘束されているように見えても、実は生産性が低いからそれほどアウトプットしていないという状況。だけど、拘束だけは長いから賃金が発生して、企業にとってもアウトプットのわりに高いお金を払っている状態になる。

僕は海外で長く働いて、そこではそもそも長く働くということが評価されないし、否定的に見られる。その代わり時間のモラルの要求が厳しい。その凝縮されている時間に求められているコミットメントのレベルが非常に高くて、その代わり、とっとと帰れ!となる。それがいいかどうかは分からないけど、やっぱり長時間職場にいるとワークライフ・バランスというのはちょっと・・・

(宮台)

無理ですよね。生産性を上げなければ就業時間を短縮する事はできない。そうしなければ社会に参加できない。そうすれば企業や国家への依存度がますます高まって、企業に居続けるしかないという悪循環が生まれる。そこは手当てをするしかないし、失敗すればもう終わりですね。

(神保)
本当は政策的手当てじゃなくて、市場がそういう形で機能するのが望ましいんですけどね。

(宮台)
市場の投票機能ですよね。商品やサービスを購入する事を投票の代わりに使うということを我々が当たり前のものとして引き受けるようにならないといけませんね。