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アンヌ・ケフェレック ピアノリサイタル

2012年12月04日 | pocknのコンサート感想録2012
12月4日(火)アンヌ・ケフェレック(Pf)
~光と神秘~
王子ホール
【曲目】
1.スカルラッティ/ソナタ より
   イ短調 K54/ヘ短調 K481/ニ長調 K33/ロ短調 K27/ニ長調 K96  
2. モーツァルト/ピアノ・ソナタ第12番へ長調 K.332
3. ラヴェル/鏡
4.ドビュッシー/喜びの島
【アンコール】
1. セヴラック/古いオルゴールが聞こえるとき
2. モーツァルト/トルコ行進曲
3. ドビュッシー/月の光


ケフェレックのピアノを初めて生で聴いたのは、もう今から25年以上も前になる。そのとき演奏した、高貴とも言えるほど上品なスカルラッティに心底酔って以来、ケフェレックと言えばスカルラッティ、というイメージが焼きついた。今夜のリサイタルはそのスカルラッティから始まった。

今夜の演奏を聴いて、そのときの感動が久々に甦った。磨きぬかれた美しい音は宝石のように輝き、ロココ調な優美なトリルが心地よく胸をくすぐる。上品に歌い、踊る複数の声部が、お互いに品よく会話を交わす姿は、何とも素敵な佇まいを見せてくれた。それに今夜は、ケフェレックのスカルラッティが、ただ優美で上品なだけでなく特に後半の2曲を聴いて、エモーショナルでドラマチックな一面も持ち合わせていることを体感した。前半の3曲がソロで踊る品のいい優美なバロックダンスだとすれば、後半の2曲では複数の男女のダンサーによる、若さと熱気溢れるアンサンブルを見ているようだった。5曲それぞれが、多彩で雄弁な姿を印象づけたスカルラッティを聴いて、ケフェレックはそれまでイメージしていた以上に幅広くパワフルな表現力も備えていると感じた。

次のモーツァルトでもスカルラッティのような優美な演奏をしてほしいのだが、ケフェレックはモーツァルトではよりクリアで、感情と音が直結した演奏を聴かせた。もう少し間にオブラートのようなクッションを入れてふわっと感を出してほしいところだが、ケフェレックのモーツァルトはストレートで燃焼度が高い。少々それが空回りしているのか、けっこう痛いミスがいくつか出てしまった。

後半はまずラヴェル。「鏡」を全曲聴けることはあまりないので貴重な機会でもある。前半のモーツァルトにも通じるストレートでクリアな音を聴かせてきたが、ラヴェルではこれがとてもフィットして、鮮やかで活き活きとした演奏になった。第1曲「蛾」で、かなり生々しくノイジーな印象を与えたかと思えば、第2曲「悲しい鳥たち」では透明でクリスタルな高音が美しく心に反射してきた。第3曲「洋上の小舟」の輝かしい光はまぶしすぎるほどに打ち震え、次の「道化師の朝の歌」では、ケフェレックのエモーショナルな部分がアグレッシブに炸裂した。終曲の「鐘の谷」では見事に声部を弾き分け、絵画のようなコントラストを実現していた。これは素晴らしい「鏡」だった。

最後はドビュッシー。これも前のラヴェルと同様に「攻め」の演奏だが、攻め方がやや一本調子で、色彩も単調な感じがした。そのためか、クライマックスへ向かって徐々に高まっていくワクワク感や、変幻する色彩の魅力には乏しかったように思う。ラヴェルとドビュッシーはよく一緒に語られることが多いが、二人の音楽は明らかに違う、ということを逆説的に感じてしまった演奏でもあった。

アンコールでは、スカルラッティでも聴いた宝石箱のようなキラキラとした美しい音が楽しめたセヴラックと、アンコールモードのノリで躍動したトルコマーチで、ケフェレックの優美な面とアグレッシブな面がそれぞれに楽しめて良かった。でもやっぱり次はスカルラッティ特集をやってほしい。

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