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新国立劇場オペラ公演 コルンゴルト「死の都」

2014年03月18日 | pocknのコンサート感想録2014
3月18日(火)新国立劇場オペラ公演
新国立劇場

【演目】
コルンゴルト/「死の都」

【配役】
パウル:トルステン・ケール/マリエッタ&マリーの声:ミーガン・ミラー/フランク&フリッツ:アントン・ケレミチェフ/ブリギッタ:山下牧子/ユリエッテ:平井香織/リュシエンヌ:小野美咲/ガストン(声)&ヴィクトリン:小原啓楼/アルバート伯爵:糸賀修平/マリー(黙役):エマ・ハワード/ガストン(ダンサー):白髭真二
【演出】
カスパー・ホルテン
【美術】エス・デヴリン 【衣装】カトリーナ・リンゼイ 【照明】ヴォルフガング・ゲッベル

【演奏】
ヤロスラフ・キズリンク指揮 東京交響楽団/新国立劇場合唱団/世田谷ジュニア合唱団

没後50年以上を経た今、大きな注目を浴びるようになってきた作曲家コルンゴルト。これまで実演では代表作のバイオリン協奏曲や、歌曲や室内楽曲をいくつか聴いているが、どれも濃厚な官能美に彩られ、魅力的な音楽だと感じていただけに、新国立劇場が「満を持しての上演」というこの作曲家を代表するオペラ上演はずっと楽しみにしていた。

何も予習していなかった身としては、「死の都」というタイトルから何やら退廃的で妖しい刺激を秘めた音楽を想像し、期待していたが、その意味での期待はかなり裏切られた。そもそも「死の都」という名前は、最愛の妻を亡くした主人公にとっての主観の世界がタイトルになったもの。亡き妻マリーへのパウルの思い、そこに現れたマリーとそっくりな踊り子マリエッタとの間で繰り広げられる愛と蔑みの葛藤。最大の山場となる部分は夢の中の出来事という設定で、乱暴な言い方かも知れないが、ストーリー自体はよくある昼メロみたい。

そこに付けられたコルンゴルトの音楽は息が長くこの上なく甘美ではある。ワーグナーや、とりわけシュトラウスの響きが感じられ、そこにフンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」のような歌謡性や世俗性感じられる。キズリンク指揮の東京交響楽団は息の長さや柔らかいニュアンスをよく出していた。けれども音楽は、ワーグナーのような常軌を逸した執念にも、シュトラウスみたいなむせかえる感情の発露にも及ばず、いつも甘美な装いで、いわば常にぬるま湯の心地よさに身を委ねている気分だった。

音楽面では不完全燃焼だったが、視覚的には面白かった。ステージはブルージュの街並みを窓から見下ろすマリーの部屋のワンシーンのみだが、多様な照明が部屋の小物を照らし、様々な場面を象徴する。壁が動いて空間の変化をうまく表し、戸外という設定の第2幕では、部屋の中まで町中のイメージを装う。

窓の外に見える街並みがまた凝っていて、今では「北のベニス」と称えられている美しい古都のイメージとは程遠く、オペラで設定された時代の町の景観を表して不気味なだけでなく、「最愛の人が死んだ町」を象徴しているよう。更に高所から町を俯瞰する構図は、逆に「死の町」(即ちマリー)がパウルやマリエッタの行いを監視しているようだった。

セットだけでなく、マリーの亡霊役として黙役で演じたエマ・ハワードの動きや表情も、パウルの心の動きを映し出すようで印象的だった。オリジナルの台本にはないというマリーの存在が、オペラの進行を邪魔することなく、ひとつの心証風景として大切な役割を担っていた。この舞台演出は、説明的になることなく、映画のワンシーンを観ているようで絵画的で幻想的な世界を作り出していた。

この舞台で歌った歌手たちも素晴らしかった。主役のパウル役と、その相方のマリエッタ役の二人は殆んど出ずっぱりで、ほぼこの二人だけでオペラは成り立っているようなもの。とりわけパウル役は声も体力も極限まで使い果たすような難役だと感じたが、テノールのケールは驚異的な声とスタミナで堂々と全幕を歌い、演じ切り、艶と輝きのある歌唱で聴き手の心を惹き付けた。マリエッタ役のミラーも見事。張りのある瑞々しい美声は最後まで衰えることなく、妖艶さを漂わせつつ、意外なひた向きさで訴えてきた。

バリトンのケレミチェフは、生真面目で真っ直ぐなフランク役と、ピエロのフリッツ役を見事に歌い分け、とりわけ「ピエロの踊りの歌」は官能的で甘美。日本人キャスト達も皆確かな実力の持ち主で健闘していたが、出番が少なかったのは残念。そんななかでも一番出番があったブリギッタ役の山下牧子は、情を感じる存在感を出して責任を果たした。

音楽にはあまり魅力を感じなかったと書いたが、パウルが夢から目覚めて現実の世界と向き合おうとする最後のシーンでは、音楽も現実味を表現するように「本気度」が一段上回ったようで、心に迫るものがあった。

予習もせず殆んど初めての作品だったので、もっと繰り返し聴けば音楽の良さにも気づくかも知れない。長い全幕をまた聴くのはしんどいが、「聴きどころ」と言われているところだけでもまた聴いてみようか・・・

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