11月14日(土)ウェールズ弦楽四重奏団
Vn:﨑谷直人、三原久遠/Vla:横溝耕一/Vc:富岡廉太郎
~ベートーヴェン・チクルスⅢ~
第一生命ホール
【曲目】
1.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第4番 ハ短調 Op.18-4
2.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 Op.74 「ハープ」
3.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調 Op.59-1 「ラズモフスキー第1番」
今日のウェールズ弦楽四重奏団の演奏会からは、9月に初めてこのカルテットを聴いた時とは随分異なる印象を受けた。
最初はベートーヴェンが書いた最初の弦楽四重奏曲第1番。若いエネルギーに溢れるこの作品にウェールズ弦楽四重奏団はベートーヴェン晩年の作品を演奏するような姿勢で向き合った、と云っていいものか… 聴き慣れた演奏では意気盛んに始まり、トゥッティではエイヤッとアクセントを効かせて迫ってくる場面を、ウェールズSQは闇の中を手探りで進むような不確かさで進んでいく。朗々と歌わせる代わりに呟くように弱音でささやき、果敢に突進する代わりに戸惑ったようにテンポを落としたり、予期せぬ間を置いたり。弱音を基本にp(ピアノ)の記号をいくつも重ねたような最弱音を聴かせることもしばしば。空気が止まってしまうのではと困惑を覚えることさえあった。
音楽の自然な流れを止めたり、変えたりしてまで表現したいものは何なんだろうと思わずにはいられなかった。こうした演奏が客受けするとも思えないが、そんなリスクを冒してまで、これまで無数に演奏され、作品へのイメージが出来上がっているベートーヴェンの弦楽四重奏曲に新たな挑戦を仕掛けたことは確かだろう。
続く「ハープ」も同様のアプローチで、聴いていて戸惑うことが多い。ウェールズSQの演奏の一番の特徴は、息をひそめるほどの最弱音で精巧なハーモニーを作ろうとするところ。それが、血気盛んな気性の奥に潜むベートーヴェンの心の声を聴き取ったような、ピュアな美しさを感じる場面もあった。
休憩後は「ラズモフスキー第1番」。上声部の刻みにチェロが朗々とメロディーを奏でる冒頭は以外と「普通」と思いきやそれも束の間、チェロがスーッと消え入り、またフワッと音量を増す。まるで夜中に風にのって聞こえてくる遠くの電車の音のよう。第2楽章の途切れ勝ちに探り合うやり取りでは「これ、ホントはどんな音楽だっけ」と思ってしまうほどで、現代音楽を聴いているような気分。
それが第3楽章に入ると弱音の美しさが俄然心を捉えた。4人のメンバーがベートーヴェンの心の声を聴くことのみに全神経を集中させ、繊細な神経を極限まで研ぎ澄ませてハーモニーを作り上げているよう。それは少しでも力加減を誤って触るとパリンと壊れてしまう極薄で精巧な美しいガラス細工のよう。それまでも美しいと思うことはあったが、ここでは楽章全体が本当に美しく、ずっと心を捉えた。続く最終楽章もこの美しさの余韻が全体を覆って、共感を持って聴き終えることができた。
このようなアプローチを行うことには、メンバーの相当突っ込んだディスカッションがあったのではないだろうか。その結果として提示された演奏だと考えると、単に好き嫌いだけで聴くべきではないのかも知れない。そして、その一部ではあるが共感することも出来た。とは言え、このスタイルでベートーヴェンのカルテットを全曲聴くとなると覚悟が必要だな…
宮田大 & ウェールズ弦楽四重奏団 ~2020.9.30 ヤマハホール~
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1.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第4番 ハ短調 Op.18-4
2.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 Op.74 「ハープ」
3.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調 Op.59-1 「ラズモフスキー第1番」

今日のウェールズ弦楽四重奏団の演奏会からは、9月に初めてこのカルテットを聴いた時とは随分異なる印象を受けた。
最初はベートーヴェンが書いた最初の弦楽四重奏曲第1番。若いエネルギーに溢れるこの作品にウェールズ弦楽四重奏団はベートーヴェン晩年の作品を演奏するような姿勢で向き合った、と云っていいものか… 聴き慣れた演奏では意気盛んに始まり、トゥッティではエイヤッとアクセントを効かせて迫ってくる場面を、ウェールズSQは闇の中を手探りで進むような不確かさで進んでいく。朗々と歌わせる代わりに呟くように弱音でささやき、果敢に突進する代わりに戸惑ったようにテンポを落としたり、予期せぬ間を置いたり。弱音を基本にp(ピアノ)の記号をいくつも重ねたような最弱音を聴かせることもしばしば。空気が止まってしまうのではと困惑を覚えることさえあった。
音楽の自然な流れを止めたり、変えたりしてまで表現したいものは何なんだろうと思わずにはいられなかった。こうした演奏が客受けするとも思えないが、そんなリスクを冒してまで、これまで無数に演奏され、作品へのイメージが出来上がっているベートーヴェンの弦楽四重奏曲に新たな挑戦を仕掛けたことは確かだろう。
続く「ハープ」も同様のアプローチで、聴いていて戸惑うことが多い。ウェールズSQの演奏の一番の特徴は、息をひそめるほどの最弱音で精巧なハーモニーを作ろうとするところ。それが、血気盛んな気性の奥に潜むベートーヴェンの心の声を聴き取ったような、ピュアな美しさを感じる場面もあった。
休憩後は「ラズモフスキー第1番」。上声部の刻みにチェロが朗々とメロディーを奏でる冒頭は以外と「普通」と思いきやそれも束の間、チェロがスーッと消え入り、またフワッと音量を増す。まるで夜中に風にのって聞こえてくる遠くの電車の音のよう。第2楽章の途切れ勝ちに探り合うやり取りでは「これ、ホントはどんな音楽だっけ」と思ってしまうほどで、現代音楽を聴いているような気分。
それが第3楽章に入ると弱音の美しさが俄然心を捉えた。4人のメンバーがベートーヴェンの心の声を聴くことのみに全神経を集中させ、繊細な神経を極限まで研ぎ澄ませてハーモニーを作り上げているよう。それは少しでも力加減を誤って触るとパリンと壊れてしまう極薄で精巧な美しいガラス細工のよう。それまでも美しいと思うことはあったが、ここでは楽章全体が本当に美しく、ずっと心を捉えた。続く最終楽章もこの美しさの余韻が全体を覆って、共感を持って聴き終えることができた。
このようなアプローチを行うことには、メンバーの相当突っ込んだディスカッションがあったのではないだろうか。その結果として提示された演奏だと考えると、単に好き嫌いだけで聴くべきではないのかも知れない。そして、その一部ではあるが共感することも出来た。とは言え、このスタイルでベートーヴェンのカルテットを全曲聴くとなると覚悟が必要だな…
宮田大 & ウェールズ弦楽四重奏団 ~2020.9.30 ヤマハホール~
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