4月29日(水)伊藤 恵 ピアノ・リサイタル
~新・春をはこぶコンサートVol.2~
浜離宮朝日ホール
【曲目】
1.ショパン/3つのマズルカOp.50
2.ショパン/3つのマズルカOp.56
3.シューベルト/ソナタ第4番イ短調D.537
4.ショパン/4つのマズルカOp.67
5.ショパン/4つのマズルカOp.68
6.シューベルト/さすらい人幻想曲ハ長調D.760
【アンコール】
シューマン/色とりどりの小品OP.99~3つの小品~第1曲
毎年恒例の伊藤恵さんの「春をはこぶコンサート」シリーズに夫婦で出かける。今回はポリーニのリサイタルのようにステージ後方左に臨時の席が設けられ、学生風の人達が陣取り春の風が吹いてくるよう。
曲目はこのシリーズのメインであるシューベルトにショパンが加わった。シューベルトとショパンは一見毛色が違うようにも思えるが、音楽の底に流れる「哀しみ」という部分では共通するし、華やかなイメージが付きまとい勝ちなショパンの作品の中でのマズルカは地味な存在。それだけにマズルカからはショパンの心の奥底に潜む「哀しみ」や「痛み」の本音が伝わってくる。恵さんがショパンのマズルカだけをシューベルトの曲と並べた意図は大いに納得。
そして演奏を聴いてそんな恵さんの意図が見事に結実したコンサートとなったことを実感した。恵さんの弾くマズルカはどれもが孤独な哀愁が温かな体感を伴って心にヒシヒシと伝わってくる。マズルカの独特な三拍子のリズムはポーランド人でないと表現できないとよく言われる。恵さんのマズルカのリズムがポーランド人のリズムかどうかは知らないが、恵さんのリズムの微妙な揺らぎは踊りの中でごく自然に力加減を変えることで生まれる揺れとして感じられた。その揺れが周りの空気の温度や色をサッと変え、そんな自然でちょっとした変化が内面をくすぐる。
その「音の仕草」は、ふっと心によぎる不安だったり、遠い懐かしい記憶を呼び覚ますものだったり、或いは夢をみているような気分だったりと、魂を揺らすように働きかける。ショパンのメランコリックな望郷の思いと、恵さんの慈しみ深いハートから紡ぎ出される歌の、時代と距離を越えたデュエットが哀しくも温かいもので心を満たしてくれた。伊藤恵さんの持ち味がショパンでも大いに発揮されることを証明した。
シューベルトのイ短調のソナタは20歳の時の初期の作品ということだが、デリケートでシューベルトらしい哀感を湛えた魅力溢れるソナタだった。恵さんは叙情たっぷりにこの曲を歌い、岩から湧き出る清水とか、蕾が花開くような初々しさといった生命力や眩しい光りを感じる素晴らしい演奏だった。
最後に置かれたさすらい人幻想曲はその前のマズルカop.68の絶筆となった第4曲のまさに息絶えるような終わりから続けて演奏されたことで、息を吹き返したような生命力に満ち満ちて始まった。非常に技巧的で華やかなこの曲が全体の曲目の中で浮いてしまうのでは… とも思ったが、恵さんはもちろんこの難曲をものの見事に弾きながらも、この曲の深いところに潜む陰の部分とか、或いは華やかな様相を呈しているときもどこかはにかんだような内気なシューベルトの表情を伝えているように聴こえた。この曲をこうしてじっくり聴くのは久々だが、シューベルトさんは作曲でちょっと頑張り過ぎかな… とも感じてしまった。
伊藤 恵/新・春をはこぶコンサートVol.1
~新・春をはこぶコンサートVol.2~
浜離宮朝日ホール
【曲目】
1.ショパン/3つのマズルカOp.50
2.ショパン/3つのマズルカOp.56
3.シューベルト/ソナタ第4番イ短調D.537
4.ショパン/4つのマズルカOp.67
5.ショパン/4つのマズルカOp.68
6.シューベルト/さすらい人幻想曲ハ長調D.760
【アンコール】
シューマン/色とりどりの小品OP.99~3つの小品~第1曲
毎年恒例の伊藤恵さんの「春をはこぶコンサート」シリーズに夫婦で出かける。今回はポリーニのリサイタルのようにステージ後方左に臨時の席が設けられ、学生風の人達が陣取り春の風が吹いてくるよう。
曲目はこのシリーズのメインであるシューベルトにショパンが加わった。シューベルトとショパンは一見毛色が違うようにも思えるが、音楽の底に流れる「哀しみ」という部分では共通するし、華やかなイメージが付きまとい勝ちなショパンの作品の中でのマズルカは地味な存在。それだけにマズルカからはショパンの心の奥底に潜む「哀しみ」や「痛み」の本音が伝わってくる。恵さんがショパンのマズルカだけをシューベルトの曲と並べた意図は大いに納得。
そして演奏を聴いてそんな恵さんの意図が見事に結実したコンサートとなったことを実感した。恵さんの弾くマズルカはどれもが孤独な哀愁が温かな体感を伴って心にヒシヒシと伝わってくる。マズルカの独特な三拍子のリズムはポーランド人でないと表現できないとよく言われる。恵さんのマズルカのリズムがポーランド人のリズムかどうかは知らないが、恵さんのリズムの微妙な揺らぎは踊りの中でごく自然に力加減を変えることで生まれる揺れとして感じられた。その揺れが周りの空気の温度や色をサッと変え、そんな自然でちょっとした変化が内面をくすぐる。
その「音の仕草」は、ふっと心によぎる不安だったり、遠い懐かしい記憶を呼び覚ますものだったり、或いは夢をみているような気分だったりと、魂を揺らすように働きかける。ショパンのメランコリックな望郷の思いと、恵さんの慈しみ深いハートから紡ぎ出される歌の、時代と距離を越えたデュエットが哀しくも温かいもので心を満たしてくれた。伊藤恵さんの持ち味がショパンでも大いに発揮されることを証明した。
シューベルトのイ短調のソナタは20歳の時の初期の作品ということだが、デリケートでシューベルトらしい哀感を湛えた魅力溢れるソナタだった。恵さんは叙情たっぷりにこの曲を歌い、岩から湧き出る清水とか、蕾が花開くような初々しさといった生命力や眩しい光りを感じる素晴らしい演奏だった。
最後に置かれたさすらい人幻想曲はその前のマズルカop.68の絶筆となった第4曲のまさに息絶えるような終わりから続けて演奏されたことで、息を吹き返したような生命力に満ち満ちて始まった。非常に技巧的で華やかなこの曲が全体の曲目の中で浮いてしまうのでは… とも思ったが、恵さんはもちろんこの難曲をものの見事に弾きながらも、この曲の深いところに潜む陰の部分とか、或いは華やかな様相を呈しているときもどこかはにかんだような内気なシューベルトの表情を伝えているように聴こえた。この曲をこうしてじっくり聴くのは久々だが、シューベルトさんは作曲でちょっと頑張り過ぎかな… とも感じてしまった。
伊藤 恵/新・春をはこぶコンサートVol.1