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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ドールズタウン ~結城座 糸あやつり人形芝居~

2007年06月05日 | pocknの気まぐれダイアリー
6月5日(火)

招待状を頂いて江戸時代から370年続くという糸あやつり人形劇団「結城座」の公演を、昨夜下北沢のザ・スズナリという小さな劇場に観に出かけた。

芝居を観にいくこと自体が本当に久し振りだが、人形芝居というのは初めての体験。歴史と伝統のある糸あやつり人形劇団が現代劇をやるというのも興味深い。

下北沢という街も、そこを歩く人達も独特の雰囲気を持っている。本多劇場をはじめ、芝居小屋がいくつもあり、人形芝居を観に集まってくる人達も自分の世界を持っていそうな人が多く、ビジネススーツ姿の人なんて一人もいないというのも面白い。150人足らずしか入らない「ザ・スズナリ」だが超満員のお客が集まり、開演前から熱気ムンムンだった。


鄭義信 作・演出の2時間にも及ぶ人形芝居「ドールズタウン」は、実際の役者二人(ひょっとことおかめ)の登場で幕を開ける。舞台は戦中のとある町。やがてこの二人に人形達が代わり、人形達の現実のような夢想のような不思議な物語が展開してゆく。その合間にも何度か最初に登場したひょっとことおかめが現実の世界を演じる。

何人もの人形遣い達が、自ら役者となりせりふを発しながら巧みに人形を操ってゆく。空中戦や取っ組み合いなどのシーンの見事さにすっかり人形劇の世界に引き込まれてしまう。おもしろおかしいセリフや動きがしばしば観客の大笑いを誘う。でもどんなにおかしな場面でもそこに常に何か張り詰めたシビアなものがあるというその空気は、モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」に通じるところがある。

様々な人間模様を展開し、結局この「ドールズタウン」は空襲で壊滅し、少年一人を残して皆死んでしまう。その空襲の苦しくなるほどの悲惨な情景、緊迫感、そして残されることになった少年の母親が炎に包まれる場面に釘付けとなり体が硬直する。

少年の仲良しの女の子がハーフで「アイノコ」とからかわれたり、お母さんが思いを寄せる流れ者の男は、いわゆる被差別出身の人だったりと、戦争の悲惨さと共に、在日韓国人の作者鄭義信のものすごく重いメッセージに押しつぶされそうになったり、純粋に力をもらったりする。

一人ぼっちになった少年にはこの先どんな人生が待っているのだろうか? ハーフの女の子の幽霊が「辛いときにはスマイル!」と少年に微笑みかける場面もただ悲しい。BGMで何度も流れていたクリスマスのグレゴリオ聖歌「今宵キリストは生まれたまえり」が作者の慈悲を暗示しているようにも感じる。

人形劇が現実以上にリアルなものが伝えてくる。その世界の中に完全に入り込んでしまった。そんな架空の世界から現実の街に出て、帰りの電車に乗り込み、そこで広げた新聞記事が、野坂昭如の連載エッセーで偶然にも悲惨な空襲体験のはなし。また芝居の世界に引き戻された気分。

そしてその晩、アメリカの爆撃機が日本に来襲し、空襲警報が発令される中、家族と離れ離れになるという恐ろしい夢をみた。こんな夢をみたのははじめて。あらためて人形劇「ドールズタウン」の恐るべき影響力に驚いた。

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