6月6日(金)古楽アンサンブル コントラポント第17回定期演奏会
~南仏バロックの巨匠 ジャン・ジル~
東京カテドラル聖マリア大聖堂
去年と一昨年に聴いた演奏会で、とてつもなくピュアで滑らかな歌に驚嘆したアマチュアのヴォーカルアンサンブル「アラミレ」、このアンサンブルの命名者であり指導者でもある花井哲郎氏により結成されたプロの古楽アンサンブルが東京カテドラルの大聖堂でジャン・ジルのレクィエムをやるというチラシを見つけた。ジャン・ジルなんて名前は聞いたこともなかったが、花井氏が結成したプロのアンサンブルによるカテドラルでのコンサートを聴けるなんて願ってもない機会。大雨の中、演奏会を聴いてきた。
花井氏によって結成された古楽アンサンブルがカテドラルでレクイエムを演奏する、というだけで勝手に中世・ルネサンスの音楽をイメージしていたが、ジャン・ジルはバッハと時代的にはあまり変わらないフランスバロックの作曲家なので、「アラミレ」とは演奏スタイルはかなり異なり、「聴き慣れたクラシック」ではあったが、これはこれで十分に魅力的だった。
まず、ジャン・ジルという自分にとっては未知だった作曲家の音楽に触れ、その魅力を堪能できたこと。
ジャン・ジルの音楽は、前半のグラン・モテもレクイエムも多彩な表情に溢れ、バッハとは異なる華やかさや香りがある。グラン・モテの方には舞曲のセンスもあり、明るい空気感に溢れていた。ただのシンプルな明るさではなく、微妙なニュアンスの陰影に富み、音楽には豊かな表情と奥行きが備わっている。今夜のメイン、レクイエムは、死者のミサの特有の悲痛な気分や厳粛さはなく、天にのぼる魂を賛美するような明るい音楽で、希望の光が射し込んできた。今までこの作曲家の存在をスルーしていたが、とてもいい出逢いになった。
そしてこの出逢いをもたらしてくれた花井哲郎/コントラポントのハイレベルの素晴らしい演奏!オーケストラも合唱も、空気をそっと包み込むようなデリケートな感触で、柔らかくふくよかな響きを醸し出す。その音は単音で歌うときもハーモニーを奏でるときも濁りがなく可憐でピュアな美しさを湛えていた。どんなフレーズでも音が発せられてから収まるまでの軌跡が滑らかな弧を描く。天上から歌いかけてくるようなレクイエムでは優美な舞いが目に浮かび、グラン・モテで登場する軽快な舞曲のリズムの音曲では、生き生きとした息吹を振り撒き、それぞれの曲調によって多彩な表情と息遣いを聴かせた。4人のソリストの歌も良かった。
~南仏バロックの巨匠 ジャン・ジル~
東京カテドラル聖マリア大聖堂
【曲目】 1.ジャン・ジル/グラン・モテ「あなたを愛します、主よ」 2.ジャン・ジル/死者のミサ(レクィエム) 【アンコール】 ジャン・ジル/「あなたを愛します、主よ」~「わたしは賛美して主を呼び求めます」 【演 奏】 花井哲郎指揮 古楽アンサンブル コントラポント S:花井尚美/カウンターT:中嶋克彦/T:大久保亮/B:春日保人 |
去年と一昨年に聴いた演奏会で、とてつもなくピュアで滑らかな歌に驚嘆したアマチュアのヴォーカルアンサンブル「アラミレ」、このアンサンブルの命名者であり指導者でもある花井哲郎氏により結成されたプロの古楽アンサンブルが東京カテドラルの大聖堂でジャン・ジルのレクィエムをやるというチラシを見つけた。ジャン・ジルなんて名前は聞いたこともなかったが、花井氏が結成したプロのアンサンブルによるカテドラルでのコンサートを聴けるなんて願ってもない機会。大雨の中、演奏会を聴いてきた。
花井氏によって結成された古楽アンサンブルがカテドラルでレクイエムを演奏する、というだけで勝手に中世・ルネサンスの音楽をイメージしていたが、ジャン・ジルはバッハと時代的にはあまり変わらないフランスバロックの作曲家なので、「アラミレ」とは演奏スタイルはかなり異なり、「聴き慣れたクラシック」ではあったが、これはこれで十分に魅力的だった。
まず、ジャン・ジルという自分にとっては未知だった作曲家の音楽に触れ、その魅力を堪能できたこと。
ジャン・ジルの音楽は、前半のグラン・モテもレクイエムも多彩な表情に溢れ、バッハとは異なる華やかさや香りがある。グラン・モテの方には舞曲のセンスもあり、明るい空気感に溢れていた。ただのシンプルな明るさではなく、微妙なニュアンスの陰影に富み、音楽には豊かな表情と奥行きが備わっている。今夜のメイン、レクイエムは、死者のミサの特有の悲痛な気分や厳粛さはなく、天にのぼる魂を賛美するような明るい音楽で、希望の光が射し込んできた。今までこの作曲家の存在をスルーしていたが、とてもいい出逢いになった。
そしてこの出逢いをもたらしてくれた花井哲郎/コントラポントのハイレベルの素晴らしい演奏!オーケストラも合唱も、空気をそっと包み込むようなデリケートな感触で、柔らかくふくよかな響きを醸し出す。その音は単音で歌うときもハーモニーを奏でるときも濁りがなく可憐でピュアな美しさを湛えていた。どんなフレーズでも音が発せられてから収まるまでの軌跡が滑らかな弧を描く。天上から歌いかけてくるようなレクイエムでは優美な舞いが目に浮かび、グラン・モテで登場する軽快な舞曲のリズムの音曲では、生き生きとした息吹を振り撒き、それぞれの曲調によって多彩な表情と息遣いを聴かせた。4人のソリストの歌も良かった。
オーケストラで、セルパンという長く曲がりくねった管楽器が使われていた。プログラムの解説によると、「17、18世紀のフランスの教会で、グレゴリオ聖歌を補強するように聖歌の同じ旋律を歌手と共に吹いていた」そうだが、これが太くてふくよかな音色を出し、オーケストラの響きを豊かにして、かつ安定感を与えていた。 音楽の良さ、演奏の良さに加え、今夜の会場となったカテドラルの独特の雰囲気と響きも演奏会を魅力的に演出した。特に今夜のような曲目や演奏にはぴったり。来年はモンテヴェルディの「聖母マリアの夕べの祈り」をやるとのことで、これは今からチェックしておきたい。 |