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10月C定期(プレヴィン指揮)

2009年10月24日 | N響公演の感想(~2016)
10月24日(土)アンドレ・プレヴィン指揮 NHK交響楽団
《2009年10月Cプロ》 NHKホール

【曲目】
1.プレヴィン/オウルズ(2008 日本初演)
2.モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488
Pf:池場文美
3.ショスタコーヴィチ/交響曲第5番ニ短調Op.47

N響と数々の超名演を聴かせてくれているプレヴィンが首席客演指揮者として毎年N響を指揮するという嬉しい知らせのあとの初の定期シリーズ。B定期を待ちきれず1週早くC定期を訪れた。

椅子に座っての指揮ながら元気そうなプレヴィンが最初に置いたのは自作の「オウルズ」。「プレヴィンが自宅近くで見つけた弱ったフクロウの赤ちゃんが、その後回復して元気に森に帰って行った」ということがきっかけでできたというこの曲は穏やかでファンタジックな音楽。いろいろな森の動物達の様子が描かれているということだが、動物達の活き活きとした野生的な動きではなく、それを育む森の大きな息吹を描いている感じ。大きく深い呼吸を感じる弦の伸びやかな調べが印象的だった。

続いてはモーツァルトのビアノコンチェルト23番。今回はプレヴィンの弾き振りではなく、ムターの伴奏者としても知られる池場文美をソリストに迎える。冒頭の弦楽合奏が鳴り始めるともう会場の空気はサーッとプレヴィン色に染まる。とろけるようにデリケートて温かい響きに包まれて、甘美な歌が紡がれて行く。ちょっとしたアクセントが薄明かりのなかでポッと一瞬だけ灯って残像が見える光のよう。N響の実に木目の細かいアンサンブル、柔らかなハーモニー作りへのホルンの貢献度の高さがプレヴィンのモーツァルトを理想的な姿に高めている。

池場さんのピアノは聡明さを感じるでくっきりとした演奏で、粒立ちの揃った音が活き活きとオケの間を駆け抜けて行くが、プレヴィンが弾き振りをしたら聴けるであろう陰影に富んだナイーヴさやデリケートさとは違うタイプのピアノ。明るく嬉々とした第3楽章が池場さんの持ち味がプレヴィンとの共演で最も発揮されていただろうか。

さて、後半はショスタコの5番。プレヴィンがどんなショスタコの5番を聴かせるか興味津々だったが、第1楽章は「哲学的」という趣きの漂う深く思索的な演奏となった。そこには派手なパフォーマンスはなく、しかし地味なモノトーンではない、深く織り込まれた色彩が淡い光を放っているよう。前半の曲目でも感じた「生きた呼吸」が、オケの編成の大きさや音楽としての規模の大きさに見合ったように更に深く大きな呼吸をしている。

第2楽章でも空騒ぎにはならず常にしっかりと一点を見据え、第3楽章は巨大なエネルギーを秘めた大海原の波が、静かに遥か遠くまで繋がって行くように始まり、それが大きなうねりとなって覆いかぶさり、また静かに凪いでいく… そんなドラマがあった。フィナーレでは充溢した力がグワッと上りつめ、巨大な頂点を築いたが、お目でたい凱旋のファンファーレとは一味違う、人生の集大成のような重さがあった。

そんな立派な演奏だったが、この演奏中にちょっとしたハプニングがあった。恐らく第1プルトに座っていた第2ヴァイオリン奏者の弦が切れたか何かで演奏中に楽器の受け渡しがあったのだが、それがスムーズに行かず、受け渡しの人同士が大きく手招きしたりキョロキョロしてかなり目立ってしまった。これはもう少しスマートにできなかったのだろうか… 更にその後戻ってきたヴァイオリンがちゃんと調弦されていなかったのか、第1プルトで一人いつまでも調弦に苦労している様子、結局ダメで予備のヴァイオリンに持ち替えていた。

弦楽器セクションの第1プルトというのはアンサンブルの要であることはもちろん、視覚的にも要となっている。第1プルトがあのように合奏から離れてしまって後ろの奏者は動揺しないだろうか、とか考えてしまって聴くほうの集中力が途切れ、その気分が尾を引いてしまった。不可抗力であることは十分わかっているし、ちゃんと調弦されていないヴァイオリンが渡されたご本人は気の毒ではあるが、もう少しハッタリをきかせて動じていない風を装って欲しかった、なんていうのは酷な注文だろうか…

【開演前の室内楽】
1. イベール/2つの間奏曲
2.グーセンス/組曲

Fl:細川順三/Vn:青木調/Hp:早川りさ子

久し振りに聴いた開演前の室内楽では、フルート、ヴァイオリン、ハープというお洒落な組み合わせによるフランスのお洒落な音楽が演奏された。後藤アナウンサーの紹介でフルートの細川さんが来月定年を迎えることを知った。「温厚な人柄同様の穏やかで温かいフルートの音色を長年聴かせてきました」という後藤アナウンサーの言葉通りの、温かく表情豊かな素敵なフルートを聴かせてくれた。

イベールの曲も、それからグーセンスなんて名前も聞いたことなかったが、どちらもおしゃれなだけでない深い詩情をたたえて心に語りかけてきたのは、細川さんの心のメッセージが見事にフルートに乗り、そこに青木さんのヴァイオリンと早川さんのハープが見事に唱和して実を結んだからに違いない。

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4 コメント

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プレヴィン素敵すぎます (IANIS)
2009-10-25 10:36:38
お久しぶりです。通勤帰途中の車の中であらまし聴いておりました。自作の「オウル」が可愛らしい音楽で、「愛情」を感じさせる作品でした。鳥の声が武満の「鳥は星形の庭に降りる」を連想させたのは興味深かったですが(多分オーケストレーションのせい)。
モーツァルトは温かくて素直で、一本筋目が通ったピアノと、それを包むようなオーケストラのバックが素晴らしく美しかったです。あいにくショスタコーヴィチは途切れ途切れでしたので、BSでチェックしますが。
しかし、人生の終着点に迫ってきて、どうしてこのように幸福な音楽を演奏できるのか、秘訣を聞きたくなりますよね。
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Re: プレヴィン素敵すぎます (pockn)
2009-10-26 00:41:27
5月にウィーンで聴いたプレヴィンのハープコンチェルトからも武満の香りを感じました。
http://blog.goo.ne.jp/pocknsan/e/1e68f498e9de4dd7c96ee9b5b0a0e2f8
今度はプレヴィンの指揮で武満を聴いてみたいですね。
今回の演奏会はもちろん素晴らしかったのですが、ここに書いたような事情で自分のなかではもう一つ完全燃焼とまではいけませんでした。今度のB定期に全てを託します
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同じ感想を (jeams)
2009-10-26 15:52:23
ショスタコーヴィチの5番のときの受け渡し
見ていてハラハラしました。
目の前であんな動きをされたら指揮者落ち着かないだろうなーなんて考えながらの鑑賞でした。
もし、あの場面を見なかったら・・・
もっと感銘度は深い気がしました


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Re: 同じ感想を (pockn)
2009-10-27 00:53:56
jeamsさま、はじめまして!
僕も「プレヴィンがナーバスになっていないだろうか…」とちょっと心配していましたが、それは大丈夫だったようでホッとしています。
目を閉じて聴けばいいのかも知れませんが、目をつぶっていると眠くなっちゃうことがありまして…
またいつでもコメントくださいね。 
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