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東京春音楽祭2021:ムーティ指揮「マクベス」

2021年04月22日 |  pocknのコンサート感想録2021
4月19日(月)イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2
~東京・・音楽祭 2021~
【演目】
ヴェルディ/「マクベス」(演奏会形式)

東京文化会館

【配役】
マクベス:ルカ・ミケレッティ/バンコ:リッカルド・ザネッラート/マクベス夫人:アナスタシア・バルトリ/マクダフ:芹澤佳通/マルコム:城 宏憲/侍女:北原瑠美/医者:畠山 茂/召使い & 刺客:氷見健一郎/伝令 & 第一の亡霊:片山将司/第二の亡霊:金杉瞳子/第三の亡霊:吉田愼知子

【演奏】
リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ/イタリア・オペラ・アカデミー合唱団


巨匠リッカルド・ムーティの指導のもと、若い音楽家たちがレクチャーを重ね、その成果を披露する東京・春・音楽祭の一大プロジェクト「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」が、ムーティを迎えて実現した。演目は、昨年中止となったヴェルディの「マクベス」。ソリスト、オケ、合唱の全てがムーティの求心力の元に結集し、全身全霊、血と魂をつぎ込んで一丸となった凄い上演だった。

私欲のために殺戮を繰り返すおどろおどろしいシェイクスピアの原作にヴェルディが付けた音楽を、人間の醜さだけでなく、愛や情熱、心の陰影に至るまで熱くドラマチックに、細部も丁寧に描いた。聴き手の心を激しく揺さぶる場面では、音が巨大な火の玉のように燃え盛って迫り、弱音のシーンでは、深く血が通った美しいハーモニーで心の奥に語りかけてきた。

アカデミーの最大の成果は、このために結成され、ムーティと共にレクチャーを積み重ねてきたオーケストラだろう。オケは、妖しい空気を漂わせた冒頭から耳を引いた。それを皮切りに、身体の芯までズシリと衝撃が伝わる入魂の演奏を展開。ムーティの指揮に食らいつき、恐怖へ陥れる場面の凄みや、全体を揺るがすダイナミズムは圧巻でありながら、オケのメンバーはノリノリに楽しんでいる余裕すら感じられた。

第3幕の長いバレエ音楽はそんなオケの独壇場。バレエはなくても、オケのパフォーマンスは視覚にも訴えてきた。決して荒っぽくならず、一つ一つの音が有機的に連なり、艶と密度のある響きで魅了した。歌と共に随所で聴かせるカンタービレは「これぞイタリアオペラ」と云いたい朗々とした色のある表情がステキだった。

総勢40名の合唱は、ギュっと引き締まった濃密で艶やかなハーモニーと大胆で深みのある表情で、オペラの大切なシーンを盛り上げた。弱音でも豊かさを失わない美しい響きにはとりわけ聴き惚れた。

歌手陣の極めつけは、マクベス夫人を歌ったアナスタシア・バルトリと、タイトルロールのルカ・ミケレッティ。オペラの重要な役を担う2人が揃って凄い歌を聴かせた。バルトリはスラリとしたスタイルと気高さ漂う顔立ちで、歌う前から威光を発し、歌ではたちまち心を鷲掴みされ、陶酔へと導かれた。ピーンと張りつめた美声が隅々まで届き、凄みすら感じる圧倒的な存在感。最弱音から最強音まで濃厚で艶やかな歌唱は、残酷さや貪欲さだけでなく、妃としての気高さを放ち、他を寄せ付けない。オペラには疎くてチェチーリアは知っていてもアナスタシア・バルトリは知らなかったが、これは世界のオペラ劇場で引っ張りだこになるに違いない逸材だ。

その相手、マクベス役のミケレッティは、バルトリに勝るとも劣らない切れ味と煌めく精悍さを発揮。殺人に手を染めたことや亡霊に怯える様子でも迫真の歌唱で強烈に印象付けた。もう一人の外来歌手、バンコ役のザネッラートは、2幕までの出番ながら、貫禄や包容力から大器を感じさせた。

久々に優れた外国人歌手の歌にたっぷりと触れて感じたのは、圧倒的な存在感と器の大きさだ。コロナ禍で多くの優れた日本人歌手に出会う機会があり、外国人歌手に劣らぬ素晴らしい歌を聴いて来たが、ふてぶてしいほどのアクの強さや、他を圧倒する個性がぶつかり合って生まれるスケールの大きさを感じずにはいられなかった。

とは言え出演した日本人歌手は、出番は少ないながら皆大活躍だった。最も印象に残ったのはマルコム役の城宏憲。ギラリと光る鋭い刃を思わせる迫真の歌唱が鮮やかだった。伝令や亡霊役は合唱団のメンバーが合唱団席から歌ったが、どれもが役どころをしっかり押さえた立派な歌を聴かせた。合唱団にこのレベルの歌い手が揃っているのは頼もしい。

終演後は大喝采がいつまでも続き、1階は殆どがスタンディング。陰で盛り立てたバンダメンバーもステージに勢ぞろい。コンマスの長原さんらとムーティががっちりとリアル握手!バルトリとミケレッティも手を取り合ってステージに立ち、万雷の拍手を浴びた。出演者が掃けたステージに、最上階までスタンディングとなった聴衆からムーティが呼び戻された。

世界がこんな状況のなか、こんな凄い公演に東京で立ち会うことが出来た私達は本当に幸せだ。ウィーンフィルのニューイヤーコンサートで無観客だったムーティも、長らくステージに立てなかったイタリア人歌手たちにとっても、感銘深い公演として心に刻まれるに違いない。幾多の困難をクリアしてムーティらの来日を実現させ、公演を成功に導いた「東京・春・音楽祭」全ての関係者の尽力に心からの敬意と感謝を捧げたい。メディアは、日本で今、このような公演が実現していることを積極的に世界に発信してもらいたいものだ。

東京春祭2019:ムーティ指揮「リゴレット」~2019.4.4 東京文化会館~
ムーティ指揮 シカゴ響/ブラームス:1番&2番~2019.1.30 東京文化会館~

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