facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

秋色の吾妻峡~川原湯温泉

2008年11月30日 | 山&ハイキング
夏に草津国際音楽アカデミーに行くとき必ず通る吾妻峡や川原湯温泉。いつも気になりながらも通り過ぎていた、このやがてダムの底に沈む名勝地を、紅葉がちょうど見頃を迎えた時季に初めて訪れた。

 2008年11月2日(日)

計画では初日に岩櫃山の登山、2日目に吾妻渓谷のハイキングだったが、関越道や国道の渋滞のせいで岩櫃山の登山口付近に辿り着いたのが遅くなってしまったので計画を入れ替えて、まず吾妻渓谷をハイキングした。

【吾妻峡】
吾妻渓谷が近づくと渋滞がひどくなった。1キロや2キロ余分に歩いても構わないので早く車をどこかに停めて歩きたい。ハイキングコースの入口でもある鹿飛橋の少し手前の、国道から少し脇へ入ったところにスペースを見つけそこに駐車してハイキングへ出発。太陽が眩しい。

国道を吾妻渓谷に沿ってしばらく歩く。国道から渓谷を見下ろすと紅葉した樹々の斜面を下った谷底にエメラルドグリーン色の渓流が見えてなかなかの絶景。

国道に沿ってJR吾妻線も走っていて、「日本一短いトンネル」というトンネルを何人ものカメラマンが待ち構えるなか、丁度電車が通り抜けて行った。


国道から渓谷へと降りる階段があり、そこを下りると鹿飛橋が架かっていた。赤い橋脚が風景に浮かび上がって絵になる。そのあたりは観光客がいっぱい。

橋を渡ると本格的なハイキングコースになった。人通りはかなり多いし、行く人来る人の格好は町を歩くのと殆ど変わらないかなりの軽装が多い。「この格好で長いコースを歩くの?」という感じ。

途中コースを外れて落ち葉が敷きつめられた山の緩やかな斜面でようやく弁当にできた。カエデの色づきがちょうど始まった頃で、緑から赤へのグラデーションが楽しめる。



おにぎりを食べていたらガサガサと近くの落ち葉が音を立てたのでみるとキジが2羽、ゆっくりと歩いていた。

弁当を済ませてハイキングコースを進む。「渓谷沿いのコース」ということだが、川が流れているところよりかなり高い場所に道があり、その渓流を高所から見下ろせるスポットは限られているので「渓谷歩き」という感じはあまりしないが、紅葉した樹々の中のハイキングコースは歩きやすく、対岸の色付いた木々が覆う山々もきれい。だけどこのコースはずっと国道が近く(渓谷自体が国道に沿っているため)いつでも車のエンジン音がけっこう近くて、静けさ漂う雰囲気というわけにはいかないのが残念。

40分ほど歩いて「展望台」という表示のある視界が開ける場所に出ると、川原湯方面の渓谷の片岸はずうっとダムの工事で削り取られて荒涼とした眺めが広がっていた。「関東の耶馬溪」とも謳われたという吾妻峡も、この展望台から見ると台無しだ。

ハイキングコースは川原湯までの一本道で周遊できないため、この辺りで来た道を戻ることにした。もう日も傾いているにもかかわらず相変わらず軽装のハイカー達が結構歩いていて、うちらが起点に戻ってきた頃になってもこれから出発する感じ人達と何人もすれ違った。ぼくらが歩くこの類のハイキングコースはこの時間になると殆ど人に会わなくなるのだが、ここの賑わいはすごい… というか、そんな軽装で今からこのコースを歩いて大丈夫?って感じ。これにはいつも時間が押せ押せになるpocknファミリーもちょっとびっくりした。

【川原湯温泉 王湯と高田屋】
吾妻峡から川原湯温泉は近い。川原湯温泉の中心は何か時代から取り残されたようなたたずまいの家屋がひしめき合い、湯煙をあげる共同浴場があり、何軒かの温泉宿が肩を寄せ合うように佇んでいた。そんな中の一軒「高田屋」がこの旅での宿。和風のしゃれた門から段を上がり玄関へと導かれる雰囲気がいい。

昔は帳場があったみたいなレトロな玄関、館内のあちこちには古い家具調度類が品良くおかれ、狭い階段や廊下が迷路のように入り組んでいてノスタルジックな空間。部屋は8畳半(?)の畳敷きにゆったりした長椅子が置かれたカーペットのスペースが付き、ユニットバスルームもあった。

宿の温泉に行く前に宿でタダ券をもらい、下駄を引っ掛けてはす向かいの外湯「王湯」に行った。和風の建物は歴史を感じさせる。風呂は夏に行った別所温泉の外湯に似た昔ながらのお湯といった感じ。露天風呂は開放感は足りないが、それだけそこにいる人同士が緊密になれる空間。内風呂は殺風景だが何となく郷愁を誘われる。掛け流しの熱いお湯に水を混ぜて適温にしているそのお湯は、あたりが良くて肌がサラサラになった。

続いて入った高田屋のお風呂、内湯は昔ながらの浴場で年季も入っているが、露天風呂は打って変わってモダンな「和」の雰囲気。暗い中に照らされた間接照明と流れるジャズの調べがムードを演出する。木の浴槽には柔らかく淡い照明の光が優しく沁み込んでゆくようだ。


夕食処の大広間は金の屏風に朱の布が敷かれ、京風の調度類が置かれた雅な空間。そこで供された食事は山のもの、季節のものをふんだんに使い、盛り付けも器もきれい。

ヤマメやマスの刺身がこんなにおいしいなんて知らなかった。アユやナマズを使った料理も絶品。鴨鍋に舌鼓を打ちキノコや栗の入った釜飯などなど、本当に素晴らしい料理!



夕食のとき無料のマッサージサービスが回ってきた。数分の肩のマッサージだったがとても丁寧にやってくれて体全体がスーッと軽くなった。こんなサービスまで付いているなんてますます極楽気分。終わったあと有料マッサージの案内をされることもないのでこれは本当に純然たるサービスだ。


館内に貼られた断り書きで、50年以上に渡っていつどうなるかわからないダム建設の計画に反対し、悩まされ続けたために施設の老朽化、不便をかけてしまうことへのお詫びと理解へのお願いを読むと、そんな状態の中で出来る限りのもてなしをしようという高田屋さんの信念、プロの精神が伝わってきて、嬉しくもあり、またやるせない気持ちにもなった。

ここがダム湖の底に沈んで新生「川原湯温泉」が再開したら、高田屋もそこでまた開業するのだろうか。是非その精神を後世まで伝えて欲しい。そうしたらもちろんまた来たいが、その前にダム湖に沈む前にもまた訪れたい。


11月3日(月) 少し

【川原湯温泉散策】
前日のお天気は今日までもってくれず、空は雲に覆われていた。「きのう岩櫃山に登れていればなぁ~。。。」とちょっと恨めしい気分。
しかし、温泉街の散策は雲っていても差し障りはない。近い将来湖底に沈んでしまう川原湯温泉界隈をゆっくりと散策した。



一晩お世話になった高田屋の趣のある入り口を出てお散歩に出発!


昨夜訪れた外湯の「王湯」は朝の10時にはもう開いていた。玄関口をきれいにして朝風呂を浴びに来たお客を迎える。一番風呂がお目当てで来た人はやっぱり地元の人だろうか。
駅に向かって緩い下り坂を歩く道沿いの建物はみんな時代を感じる。物干し台の小屋もなんだか懐かしい…
そんな懐かしい気分に浸っていたら突然目の前に現れたダムの工事現場。やっぱり本当にダムの底に沈んでしまうのか… と現実に引き戻された気分




JR川原湯温泉駅の駅舎は古めかしく質素なつくりで温かさを感じる。駅の前に立っているのは駅長さんだろうか。来る人来る人に「おはようございます」と声をかけ、質問にもひとつひとつ丁寧に答えていた。


昨日歩いたハイキングコースの反対側の入口を少し入ると「滝見橋」という橋から白糸の滝という一本筋の滝が落ちているのが見える。その橋から反対を振り向いた鉄橋にさっき駅で時刻を確かめておいた電車がちょうどやって来た。

このあたりは岩の造形が織り成す渓谷美がことのほか美しいうえに紅葉もちょうど見ごろだった。この景色を見られるのもあと何年だろう…


この水の色はまぎれもない天然色
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来た道を戻る途中にある茅葺屋根の郷土料理のお店の隣りは古びているが現役の水車小屋が建っていた。



王湯に戻ってきた。向かいの石段を上ると小さなお社があって王湯を見下ろせる。
王湯の目と鼻の先にある新源泉には最近出来た足湯があってなかなかのにぎわい。川原湯温泉を一巡りしたあとはこの足湯に足をつければ体も気分も爽快!




足湯のお湯はその上の高温の源泉から注がれているが、そこでは網に卵を入れてゆで卵を作っていた。商売しているのかと思いきやそうではなくて一般の人たちだった。足をお湯につけながら卵がゆだるのを待つなんてとても優雅だなぁ…


初めて訪れた川原湯温泉は懐かしい気分に誘われる風景に包まれ、宿でも外湯でも、お店でも駅でも、あるいは道を歩いているだけで地元のひとの温かさを感じてとても居心地がよかった。

何代にも渡って暮してきた場所を立ち退き、そこが湖底に沈んでしまうことを受け入れざるを得ない人達はたくさんのものを克服して未来を見ているのだろうか。以前は都心の水がめとして不可欠のように言われた八ッ場ダムは近年になってその存在意義自体が疑問視もされているようだが、ここまで工事が進んでいるのを目の当たりにすると「ダムなんているの?」なんていう言葉は多くの犠牲を背負っている地元の人達の心を徒に痛めてしまうだけかも知れない。とにかくダムが大いに有効利用されるよう国交省は誠心誠意力を尽くさねばならない。

実際に川原湯温泉の集落の移転が済んでダムができるまでにはまだ5年以上かかるそうでその日程も未定とのことだが、上部にできるという「新川原湯温泉」がダムの底に沈んでしまう長い歴史ある温泉の伝統のうえに、前途有望な素敵なスポットとして再生することを祈るのみだ。

「岩櫃山へ登る」へ

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