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バッティストーニ/東フィルの「第九」

2015年12月18日 | pocknのコンサート感想録2015
12月18日(金)アンドレア・バッティストーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番 Op.72b
2.ベートーヴェン/交響曲 第9番 ニ短調 Op.125「合唱付き」

S:安井 陽子/A:竹本 節子/T:アンドレアス・シャーガー/Bar:萩原 潤/合唱:東京オペラシンガーズ

4年振りの年末の第9。今回第9を聴く気になったのは、バッティストーニの指揮だから。オペラを得意とするイタリアの気鋭の若手指揮者が、ドイツ系とは違った、歌とドラマとエネルギーに溢れた爆演を聴かせてくれることを期待した。

まずはレオノーレ序曲。冒頭の力のこもった濃厚な一撃から引き付けられた。力こぶみなぎる筋肉質の演奏。要所で聴かせるパンチの効果もなかなか。それでいて力みはなく、極端なことは仕掛けず、バランス感覚にも優れていて颯爽としている。最後の追い込み場面の熱い快進撃もさすが。幸先いいスタートとなった。

しかし第9の方は最初から唖然とした。混沌とした靄の中から始まるはずの第1楽章は、最初から覚醒してくっきりと光が射していて、「タター」のテーマが、何かに追いたてられるような速さ。楽章全体を通して、疾風が吹き向けるような速さと勢い。まるでロッシーニの序曲みたい。オケはなんだか大汗かいて必死でこのテンポにしがみついている感じ。このテンボには聴いていてもついて行けない。そもそもこのテンポ設定の根拠はなに?楽器には、ある音型を演奏する際に、十分に音が鳴り、歌えるテンポというものがあるはず。バッティストーニに型破りの演奏を期待していたところはあるが、これには閉口してしまった。

第2楽章以降は、第1楽章ほどハチャメチャのテンポではなかったが、聴き慣れた演奏のテンポよりはどの楽章もかなり速め。なんだか気持ちが落ち着かない。弦楽器は十分に響く前にどんどん先へ進み、管楽器もせわしない。第3楽章であのホルンがコケたのも、先へ先へとバッティストーニにせかされたせいかも知れない。あれよと言う間に終楽章になってしまった。

終楽章も全体のテンポは速かったが、じっくり溜めるところは溜め、疾走するところは走り抜け、緩急の変化をつけ、訴えてくるものはあった。冒頭の低弦によるレチタティーヴォは激しい抑揚がつけられ、悶絶するほどにのたうちまわる。弦はよくついてくるが、指揮に振り回されて気の毒な気もした。

歌のソリスト陣は上々の出来。なかでもテノールのシャーガーの朗々とした輝かしい歌が素晴らしかった。「勝利へ向かって」と歌うところを、拳を振り上げるような仕草を交えるなど、ジェスチャー付きの堂々たる名唱。4人のアンサンブルもボリューム感満点でハーモニーも美しい。東京オペラシンガーズの合唱はパワーと高い精度を兼ね備え、会場の隅々まで美しく輝かしいハーモニーを届けた。これこそプロの響きだ。

ソリスト、合唱が決まり、オケは少々雑なところはあったが、高いテンションを保ち、決めるところもきちんと決め、輝かしくエネルギッシュな「歓喜の歌」を轟かせれば、聴いている方もそれまでの不満は取りあえず脇へ置いて、人類愛を歌い上げる不滅の名曲にしばし浸ることができる。

それでも不満は少なくない。一番気に入らないのは、いくつものパーツに分かれているこの楽章のパーツ間を、アタッカのように間髪いれずにつなげてズンズン進んで行くこと。バッティストーニは、全てをこのやり方で繋げたわけではなく、十分な休符を取ったところもあったが、前の部分の余韻をぶっちぎって次へ進まれるとやっぱり「オイオイ」と思ってしまう。こういう演奏スタイルは、ベーレンライター版が幅を利かせるようになってから増えた気がするが、エディションと何か関係しているのだろうか。

こうしたイケイケ系の第9は流行りなのかも知れないが、僕としては待つところはじっと待ち、歌うところはたっぷり歌い、それで激しく攻めたてるところは猛進するような演奏がいい。好みの問題ではあるが、それだけでなく、今夜の演奏にはどこか無理が感じられた。

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