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新国立劇場オペラ公演「シモン・ボッカネグラ」

2023年11月19日 | pocknのコンサート感想録2023
11月15日(水)新国立劇場オペラ公演
新国立劇場

【演目】
ヴェルディ/歌劇「シモン・ボッカネグラ」

【配役】
シモン・ボッカネグラ:ロベルト・フロンターリ/アメーリア:イリーナ・ルング/フィエスコ:リッカルド・ザネッラート/ガブリエーレ:ルチアーノ・ガンチ/パオロ:シモーネ・アルベルギーニ/ピエトロ:須藤慎吾/隊長:村上敏明/侍女:鈴木涼子

【演 出】ピエール・オーディ【美 術】アニッシュ・カプーア【衣 裳】ヴォイチェフ・ジエジッツ【照 明】ジャン・カルマン【舞台監督】髙橋尚史

【演奏】
大野和士 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/新国立劇場合唱団

上演の機会は少ないが、傑作と云われているヴェルディの「シモン・ボッカネグラ」を初めて観た。天皇ご臨席の初日、主要キャストの誰もが出色の歌唱を聴かせ、大野和士指揮東フィルはデリケートさとパワーを併せ持ち雄弁にドラマを進め、新国の合唱は豊穣で熱い歌を響かせた。赤と黒で統一された象徴的でシンプルなステージや演出も印象的で、オペラに必要な要素の全てがハイレベルに調和した公演だった。

ただ、あらすじをざっと読んだだけで初めて接したこのオペラは、ストーリーが複雑で登場人物も入り組んでいて、前半の1幕が終るまではストーリーを掴めず、今歌っているのは誰?ということも多々あり、本当にその良さを理解したとは言い難い。それでもオケと歌手のパフォーマンスは素晴らしかったし、主要キャストと合唱が揃ってアンサンブルを繰り広げた1幕終盤のシーンには大いに心惹かれた。

あらすじをしっかり読み直して臨んだ休憩後の後半は、渦巻く憎しみや愛の人間模様が演奏とリアルにリンクして伝わって来て、どんどんステージに引き込まれていった。出色揃いのソリストのなかでもとりわけ絶品だったのは、アメーリア役のルングとガブリエーレ役のガンチだ。ルングの歌唱は、ふくよかで美しい声が、滑らかななかに豊かな表情を湛えていた。熱く心情を訴える場面では聴き手の心をがっちりと抱きしめるように雄弁に歌い、心の内をそっと伝える場面での線の細い歌声にも抑揚や色彩が溢れ、アメーリアの心の綾を細やかに描いていた。

ガンチは艶やかな美声と力強く朗々と伸びのある表現で、アメーリアへの愛や、シモンへの憎しみ、そこから転じた愛を熱く歌い上げる姿が頼もしかった。タイトルロールのフロンターリも大きな存在感で貫禄の歌唱を聴かせたし、フィエスコ役のザネッラートは、特に3幕でのシモンやアメーリアと情を交わす場面が胸に深く迫ってきた。

このオペラは、主役だけでなく多くのキャストがそれぞれの役をしっかり歌わなければ魅力を発揮できないと云われているが、今夜の公演ではそれぞれがハイレベルの歌で立派に仕事を果たしていた。

そして讃えたいのが、大野指揮東フィルの働き。冒頭のデリケートで美しい調べは、このオペラのテーマの一つでもある「愛」を端的に表現していたし、そんな柔らかな表現から毅然としてパワフルな描写まで、幅広いダイナミックレンジに渡って濃厚なサウンドを高い精度で熱く鳴らし、歌を盛り立て、ドラマを雄弁に物語っていた。

舞台装置や照明、衣装などからは、現代アートを思わせる斬新性が感じられたのと同時に美しい仕上がりになっていた。1幕での黒い塊がうごめく合唱、統制の取れた人物の動きや配置、最後に出てくる黒い月?など、視覚的なインパクトも大きく、どんな意味が込められているかはわからなくても単純に楽しめるところに好感が持てた。

フィンランドとスペインの歌劇場との共同制作というこの新演出は、東京を皮切りにヘルシンキとマドリードでも上演されるとのことだが、演奏陣も一緒に世界へ出てもらいたいと思う上演だった。

新国立劇場オペラ公演「ボリス・ゴドゥノフ」 2022.11.17
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