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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

VOICE SPACE ヨコハマ・インスピレーション

2014年11月16日 | pocknのコンサート感想録2014
11月16日(日)VOICE SPACE ヨコハマ・インスピレーション
   波止場の中也、
     風のなかの賢治

 ~横浜赤レンガ倉庫1号館3階ホール~

【出演】中村裕美(作曲・ピアノ)、小田朋美(作曲・ピアノ)、小林沙羅(ソプラノ)、 薬師寺典子(ソプラノ)、吉成文乃(メゾソプラノ)、 渡辺元子(尺八)、澤村祐司(箏・三味線)、石井千鶴(鼓)、豊田耕三(アイリッシュフルート)、大石俊太郎(サックス)、古川麦(ギター)、関口将史(チェロ)
【監督】佐々木幹郎
【脚本】早坂牧子
ほか
第1部
朝の歌~秋の一日~BGM~月夜の浜辺~湖上~間奏曲~アナザミミクリOp.1~リビング
第2部
おれはひとりの修羅なのだ
―宮沢賢治をえぐる音楽ファンタジー―2nd version
アンコール
明日


「んっ?」と興味を引くタイトル、声と珍しい楽器とのコラボ、横浜赤レンガ倉庫という特別な空間、演劇公演のようなチラシ… そのチラシによると、このVOICE SPACEという集団は「詩と音楽のコラボレーションの可能性を探求し、新しい日本語エン ターテイメントの形を提示するパフォーマンスグループ」とのこと。何か異次元的体験ができそうな予感。

最初は中原中也の詩につけられた歌。クロスオーバー的なリズムとハーモニーに乗って、3人のヴォーカルが歌い継ぐ。パッション溢れる薬師寺さん、透明で洗練された歌声で魅了する小林さん、色香を漂わせて心をくすぐる吉成さん、三者三様の歌でそれぞれに聴衆の心を掴んだ。

続いては、3人のヴォーカルと楽器のプレイヤーがステージに揃い、前半では中原中也+藤原安紀子と暁方ミセイ、後半では宮沢賢治の詩作をベースにして、言葉と歌とインストゥルメントが赤レンガ倉庫の暗い空間に音の光を放ち、それらが戯れたり反発し合ったり、手を取り合ったり…

ヴォーカルは普通に歌うだけでなく、言葉の断片を投げかけたり、朗読したり、楽器はピアノやチェロなどの洋楽器に、琴や鼓などの和楽器、アイリッシュフルートといった民族楽器が加わり、それらが奏でる音楽はジャズやケルト、邦楽やラテンなどの要素が入り交ざり、多国籍的な響きとリズムが会場を包む。多国籍の音楽が一つに溶けて混ざり合うというより、それぞれが自分のキャラクターを主張しつつ共存していて、それが聴覚を刺激する。

演奏者たち個々の乗りやリズム感の良さと、演奏者同士のやり取りや駆け引きの巧さが演奏の振幅を広げる。朗読やコーラスにはヴォーカリストだけでなく楽器プレイヤーも参加することで、発声や抑揚で異質なものが共存し、言葉や響きの面白さが助長され、多様性が広がった。

難解な詩であっても、それが声で表現されることで現れる効果を狙って作曲したたとのことで、詩全体から明確なメッセージが伝わってくるというものではなかったが、「言葉」が言霊のように自ら個性と意思を持って空間を行き交い、語りかけてくるのが感じられた。朗読が延々と続くところはもう少し別バージョンで攻めてもらいたい気はしたが。

いろいろと理屈を並べてしまったが、このパフォーマンスの渦中に身を置いていると、そんな理屈抜きに楽しく、刺激的で、異次元の世界に入ったような感覚を味わえる。最後には出演者が仮面を身に着け、またステージの後ろには仮面の意味深なアニメーションが投影され、異次元気分が益々高まっていった。

アンコールでは、本公演の監督も勤めた佐々木幹郎氏が、VOICE SPACEのために提供した震災をテーマにした詩に、中村さんと小田さんが曲を付けた「明日」をメンバー全員で演奏。これは2011年に矢野顕子が藝祭にゲストで来て藝大生とコラボをやった「やの屋」の公演で、あっこさんと一緒に声を合わせて感動した曲。今回のリードヴォーカル 小林沙羅さんの透き通った瑞々し声で歌われる優しく強い歌声が身体に沁みこみ、コーラスとインストゥルメントがそれを盛り立て、「あした~」のフレーズを観客も唱和し、赤レンガ倉庫の空間は大きな感動に包まれた。

公演をここまで作り上げたメンバーの情熱と努力もすごいが、今日だけの1回公演ではもったいない。もっと多くの人たちに「体験」してもらいたい素敵なステージだった。

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