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オーケストラ・プロジェクト2011 ~新作初演~

2011年11月01日 | pocknのコンサート感想録2011
11月1日(火)山下一史 指揮 東京交響楽団
オーケストラの測鉛 ~未来へのアナログ遺産~

東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

【曲目】
1.平井正志/境界(Boundary)―管弦楽のための
2.中村滋延/6つの哀歌(Six Laments)―ソプラノと管弦楽のための
S:持松朋世
3.高嶋みどり/Baby Univers III(揺りかごの宇宙)―管弦楽のための
4.宮崎 滋/想夫恋 II―ソプラノとオーケストラのために
S:薗田真木子

こうした邦人作曲家によるオーケストラの新作展を聴くのはとても久しぶり。前衛音楽が盛んだった時代は昔日のものとなりつつあるとも言える昨今、どんな作品が聴けるかあまり予想がつかなかったが、4人の作曲家はそれぞれに、今この時代に大編成のオーケストラの新作を提示することの意味について真摯に向き合い、それぞれの答えを出す現場に立ち会えた。『デジタル化が進む世の中で、昔からの伝統を担うオーケストラという手作りの世界を媒体に行なう作曲という活動を、「未来へのアナログ遺産」と捉え、オーケストラの魅力の本質に迫る』という今回の「オーケストラ・プロジェクト」のコンセプトが見える演奏会だった。

トップバッター、平井氏の作品は、壮大な絵巻物の物語を思わせるドラマチックな音楽。ドビュッシーを思い起こす色合いの響きが、物語に豊かなニュアンスを与えていた。ヴァイオリンのソロをはじめ、いろいろなパートのソロ演奏もよかった。続く中村氏のソプラノ独唱の入った作品は、タムタムの一撃で始まり、タムタムの静かな響きで終わる、遥かな昔の宗教的儀式を思わせ、太古の鼓動が地の底から響いてくるよう。ソプラノの持松さんの歌は、巫女のような妖艶さを醸し出していた。声がオケの音色に融け、全体の響きとしての独特な色彩感をもっていた。

後半の2作品は、どちらも前衛の気概を感じる音楽。まず高嶋さんの、宇宙の誕生を描いた曲は、星が宇宙のあちこちで誕生するかのように、オケがいくつものパーツに分解し、それぞれが生を受けて輝きだす自発性が伝わる。オーケストラのプレイヤーが、自分の楽器以外に、息の音を使って「合奏」したり、クラリネットやフルートなどが、特殊奏法を使って個性的な音像を描いたりなど、多角的なアプローチが随所に感じられた。終盤では、それぞれのパーツがトゥッティとして大きな形を成し、宇宙空間の有機的な繋がりを巧みに表していた。

最後は宮崎氏の、これもソプラノソロの入った曲。宮崎氏は、後期ロマン派スタイルの音楽を聴かせるかと思いきや、チャンスオペレーションを取り入れ、拍節感も希薄な独特な響きの世界を作り上げていた。オーケストラの団員は、それぞれが自分のパートの短いモチーフを、他者と交感し合いながらくり返し、全体としては大きな呼吸を感じる。間もなく入るソプラノのソロは、息の長い旋律を歌うために、全体の響きの中に浮かび上がってくる。薗田さんは、凛とした風格と気品で、「平家物語」や「オンディーヌ」、シュトルムの「みずうみ」の一節を、格調高く歌い上げ、オーケストラの柔らかな響きと共に、夢幻の音世界を作り出していた。オリジナリティに富んだ魅力的な作品。

山下一史指揮の東響は、クリアなサウンドや柔らかなタッチなど、作品によってアプローチを変え、それぞれの作品の持ち味をよく出していた。「オーケストラ・プロジェクト」のシリーズが、今回で26回目と回を重ねているのは、こうした作曲家と演奏者の真剣な取り組みが続いているからなのだろう。

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