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10月B定期(プレヴィン指揮)

2011年10月27日 | N響公演の感想(~2016)
10月27日(木)アンドレ・プレヴィン指揮 NHK交響楽団
《2011年10月Bプロ》 サントリーホール

【曲目】
1. ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 Op.77
 【アンコール】
 ユン・イサン/「庭園のリナ」から第5曲「小鳥」
Vn:チェ・イェウン
2. モーツァルト/交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」
3.R.シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」組曲

約1年ぶりにN響定期に登場したプレヴィンは、足腰が更に弱ってしまった様子で、キャスタ付きの歩行器を押して指揮台へ。今夜は、演奏でそんな衰えを垣間見せるシーンもあったが、プレヴィンならではの魅力を味わうことはできた。

前半に置かれたショスタコーヴィチの大曲、ソロは、現在活躍目覚ましいという韓国の若手ヴァイオリニスト、チェ・イェウン。イェウンはしっとり落ち着いた、深みのある音色で、この曲の奥底にある「静かに燃える炎」を、切々と、誠実に描いた。第2楽章での速いパッセージも、烈しいエモーションを赤裸々にぶつけるのではなく、全体を俯瞰してコントロールを行き渡らせ、徐々にテンションを高めて行く。第3楽章から第4楽章へ至る長いカデンツァ風のソロの味わいは、遠くで揺らめく静かな炎が、次第に大きく、近くなってくるような、光と熱の接近を肌に伝え、確信に満ちたフィナーレを迎えた。イェウンは、この長大で意味深な音楽を、抜群の安定感と深く気品のあるアプローチで、大人の演奏を聴かせてくれた。

転じてアンコールでは、小鳥達の鳴き声をチャーミングに表現、南国の原色の鳥ではなく、東洋の趣きを秘めた鳥の声を感じたのは、イェウンの持ち味もあるだろうが、終演後の掲示で、この曲がユン・イサン(尹伊桑)の作曲と知り、これは作品にふさわしい演奏者を得た結果だと納得。ユン・イサンというと、抑圧された怨念が訴えるような作品が思い浮かぶが、こんなチャーミングな曲があったことは意外。最近は演奏会で聴く機会がなくなってしまったこの作曲家の作品を、また聴きたくなった。

後半の最初は、プレヴィンお得意の「リンツ」。オケの編成をぐっと抑えてコンパクトにしたN響の響きは、「リンツ」の堂々としているはずの序奏が、天上からの響きのように、フワフワと浮遊しながら降り立つように始まった。こじんまりした編成のN響メンバーが、ひざを突き合わせてプレヴィンのもとに集まって演奏している親密感が、見た目からも、耳からも伝わってくる「リンツ」。どこにも力みがなく、音楽のエッセンスだけをふわりと放っているような演奏は、モーツァルト最晩年の音楽を聴いているよう。テンポはゆっくりというほどではないが、一つ一つの音にたっぷりとテヌートをかけられることが多いため、ゆったり気分が助長されていた。モーツァルトの魅力のひとつである、天上的な愉悦は十分伝わってきたが、もう一つ、モーツァルトの大きな魅力である、ワクワクする弾ける生命力が弱いように感じたところに、プレヴィンの衰えも感じてしまう演奏だった。

しかし、最後の「ばらの騎士」では、命を吹き返したような生命力が伝わってきた。今度はオケの団員はステージいっぱいに並び、音量よりも、豊穣な響きをたっぷりと聴かせてくれた。オクタヴィアン的若々しさより、マリー=テレーズ的な芳醇な大人の魅力と香りが終始伝わってきた。プレヴィンは何の気負いもなく、シュトラウスのオーケストレーションの魔法をN響にかけ、N響は、それをごく自然に響き合わせているという感じ。クラリネット、オーボエ、フルート、ホルン、トランペットといった管楽器のソロの歌いまわしや表情も素晴らしく、古き良きウィーンの宮廷での恋物語の色彩と香りが、音の端々から漂ってくるようだった。

会場からの大きな拍手とブラボーに嬉しそうな表情を浮かべ、歩行器を使っておぼつかない足取りでステージを行き来するプレヴィンを見ていると、拍手を続けて呼び出すのが気の毒に思えてしまう。よくまた日本に来てくれたという感謝の念が浮かんだ。次の来日も是非実現してほしい…

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