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ジャン=ギアン・ケラス 無伴奏チェロリサイタル

2013年11月22日 | pocknのコンサート感想録2013
11月22日(金)ジャン=ギアン・ケラス(Vc)  
東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル

【曲目】
1.ブリテン/無伴奏チェロ組曲第1番 Op.72 
2. コダーイ/無伴奏チェロ・ソナタ Op.8 
3• ブリテン/無伴奏チェロ組曲第2番 Op.80
4. ブリテン/無伴奏チェロ組曲第3番 Op.87
【アンコール】
デュティユー/ザッハーの名による3つのストローフ~第1曲

今年は作曲家アニバーサリーイヤーの当たり年だ。なかでも、この機会にできるだけ聴きたいと思っていた作曲家のひとりがベンジャミン・ブリテンだ。

そんな願いを、今夜のジャン=ギアン・ケラスの無伴奏のチェロリサイタルが叶えてくれた。ブリテンの無伴奏チェロ組曲は3曲あるが、どれも馴染みは薄いし、多分今まで聴いたことはない。眠くなってしまうかも、とも思っていたがとんでもない、ケラスは作品の神髄を描き出し、深い感動を与えてくれた。

プログラムにはブリテンの3曲の組曲に、これも高度な技巧が求められるコダーイの無伴奏を加えた4曲構成。最初のブリテンの組曲1番は、多彩な技巧を散りばめた変化に富んだ音楽だが、ケラスの演奏を聴いていると、この音楽には抑圧された沈黙の声が奥底に込められているのが感じられた。それほどケラスはこの曲を冷静に、水の底を見つめるように突き詰めて、沈黙の声を聞き取り、表現しているようだった。

続くコダーイの組曲は、プログラムノートには民族色の濃い作品と紹介されていて、実際民謡調の音階やリズムが散りばめられているが、ケラスはこの音楽をまず自分のなかに完全に吸収し、咀嚼して、純音楽としての価値を徹底的に追及し、その魅力を出しているように感じた。民族の熱い血が伝わる演奏もいいが、ケラスの演奏からは人類全てが心の底で共感できるスピリッツが感じられた。

後半はブリテンの2番と3番。1番では抑圧された沈黙の声が聴かれたが、2番ではそこから解放され、伸び伸びと深呼吸して、指先まで養分を行き渡らせて自由に踊る様子が、3番では更に魂が解放されて、穏やかな悟りの境地に行き着いたような安息を感じた。

この3番の組曲を聴いている間じゅう、じっとこちらを見つめる2つの目の存在を感じた。この目は悲しみや喜びや不安など、様々な思いを無言で伝えているようで、最後は全てを心の奥底にしまって、満たされた気持ちで静かに閉じられた。深い感動がじわ~っと広がった。アンコールで弾いたデュティユーは、その満たされた魂がエピローグとして軽やかにダンスしているようだった。

全ての演奏を聴き終えてつくづく感じたのは、ケラスの並外れたテクニック。音程、音色、濃淡、息づかい、歌い回し、全ての要素を完全に掌握し、思いのままに描く。名人芸という次元を通り越して、崇高な世界を聴かせたケラスのテクニックに、感嘆を超えた感動を覚えた。


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