12月21日(土)クリスチャン・ツィメルマン(Pf)
所沢市民文化センター ミューズアークホール
【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109
2. ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110
3. ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111
1年前に聴いたツィメルマンのリサイタルに感銘を受け、チケット代が高くてもまた来よう!と思っていたら、所沢で都内よりもはるかに割安で聴けるリサイタルが行われた。当初11月に予定されていた公演だが、ツィメルマンの健康上の理由で今日に振り替えられた。1ヶ月以内の出来事でよく実現できたものだ。病み上がりが少し心配だったが、ベートーヴェンの最後の3つのソナタを並べた重量級のプログラムを、ツィメルマンは高い緊張感を持続させて、充実したリサイタルを成し遂げた。
最初の30番のソナタが始まるや、ツィメルマンは聴き手を壮大かつ深遠な世界へと招き入れた。プライベートな告白とは対極にあるような、宇宙を包み込む大きな世界を、何一つ余計なパフォーマンスをすることなく提示した。真っ直ぐにこちらを見据えて、これしかない!という出すべき音と表現を厳選して挑んでくる。第2楽章の確固とした信念も、第3楽章の宇宙へ旅立ったような永遠性も、一貫した普遍性を感じる。
こうしたアプローチは続く31番のソナタでも素晴らしい効果をもたらす。しなやかな操舵で大海を航行する船に乗っているようなワクワク感とスケールの大きさに身を任せた。飛び散る波しぶきが光を受けて輝く様子や、夜空の星に届きそうなほど息が長く澄んだ音色のアリオーソの歌も心に深く刻まれ、最終楽章のフーガはさながら大きな帆に風をいっぱい受けて帰還する勝利の航行のイメージ。
そしていよいよ最後のソナタ。息が詰まってむせ返るほど緊迫した第1楽章。厳しく、急所を直撃するような切迫感は怖いぐらいだが、ツィメルマンは気まぐれに、心の向くままに掴みかかってくるのではなく、常に用意周到に緻密に狙いを定めて全体を統括する。それが、前半に演奏された2曲と同様の壮大なスケールを生み出す。第2楽章でも、こうした緻密な構成感を崩すことなく音楽を運んで行った。天から降り注ぐような清澄で透明な響きが、多彩なグラデーションに彩られて浮遊する高音は、言葉で言い表せないほど美しい。
めまいを誘うような濃厚な陶酔感にどっぷりと浸かることはなかったが、それはツィメルマンの、常に一点を見据える冷静な「目」が、毒や不浄な誘惑が入り込む余地を与えないためなのかも知れない。それほどに揺るぎなき崇高な演奏だった。
クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル ~2012.12.11 東京オペラシティコンサートホール~
所沢市民文化センター ミューズアークホール
【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109
2. ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110
3. ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111
1年前に聴いたツィメルマンのリサイタルに感銘を受け、チケット代が高くてもまた来よう!と思っていたら、所沢で都内よりもはるかに割安で聴けるリサイタルが行われた。当初11月に予定されていた公演だが、ツィメルマンの健康上の理由で今日に振り替えられた。1ヶ月以内の出来事でよく実現できたものだ。病み上がりが少し心配だったが、ベートーヴェンの最後の3つのソナタを並べた重量級のプログラムを、ツィメルマンは高い緊張感を持続させて、充実したリサイタルを成し遂げた。
最初の30番のソナタが始まるや、ツィメルマンは聴き手を壮大かつ深遠な世界へと招き入れた。プライベートな告白とは対極にあるような、宇宙を包み込む大きな世界を、何一つ余計なパフォーマンスをすることなく提示した。真っ直ぐにこちらを見据えて、これしかない!という出すべき音と表現を厳選して挑んでくる。第2楽章の確固とした信念も、第3楽章の宇宙へ旅立ったような永遠性も、一貫した普遍性を感じる。
こうしたアプローチは続く31番のソナタでも素晴らしい効果をもたらす。しなやかな操舵で大海を航行する船に乗っているようなワクワク感とスケールの大きさに身を任せた。飛び散る波しぶきが光を受けて輝く様子や、夜空の星に届きそうなほど息が長く澄んだ音色のアリオーソの歌も心に深く刻まれ、最終楽章のフーガはさながら大きな帆に風をいっぱい受けて帰還する勝利の航行のイメージ。
そしていよいよ最後のソナタ。息が詰まってむせ返るほど緊迫した第1楽章。厳しく、急所を直撃するような切迫感は怖いぐらいだが、ツィメルマンは気まぐれに、心の向くままに掴みかかってくるのではなく、常に用意周到に緻密に狙いを定めて全体を統括する。それが、前半に演奏された2曲と同様の壮大なスケールを生み出す。第2楽章でも、こうした緻密な構成感を崩すことなく音楽を運んで行った。天から降り注ぐような清澄で透明な響きが、多彩なグラデーションに彩られて浮遊する高音は、言葉で言い表せないほど美しい。
めまいを誘うような濃厚な陶酔感にどっぷりと浸かることはなかったが、それはツィメルマンの、常に一点を見据える冷静な「目」が、毒や不浄な誘惑が入り込む余地を与えないためなのかも知れない。それほどに揺るぎなき崇高な演奏だった。
クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル ~2012.12.11 東京オペラシティコンサートホール~