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2013年11月B定期(ソヒエフ指揮)

2013年11月21日 | N響公演の感想(~2016)
11月21日(木)トゥガン・ソヒエフ指揮 NHK交響楽団
《2013年11月Bプロ》 サントリーホール


【曲目】
1.リャードフ/交響詩「魔の湖」Op.62
2.ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第2番嬰ハ短調 Op.129
Vn:諏訪内晶子
3.チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調 Op.64

今月のN響定期でAとB、二つのプログラムを振るソヒエフは、ロシア出身の36歳の若手指揮者。ベルリン・ドイツ交響楽団の音楽監督をはじめ、既にかなりのキャリアを積む実力派ということで、どんな演奏になるか楽しみ。

最初のリャードフの「魔の湖」は弱音で終始する穏やかな音楽。ソヒエフ/N響は、ヴェールに包まれたような柔らかな表情を紡ぎ出す。オケは大編成だが鮮度、透明度は絶品で、淡い水彩画を湖に浮かべ、絵の具が少しずつ水に溶けていくようなニュアンスを醸し出していた。大編成のオケが音量やパンチ力のためにではなく、微細なグラデーションのために機能していることを実感する演奏で、うたかたの幻想に揺れる気分に浸った。

続くショスタコのヴァイオリン・コンチェルトはオケもよかったが、やはり諏訪内晶子の独壇場と言ってもいい。諏訪内のヴァイオリンは、出だしから強い意思を表出し、深く大きな線を描いて行った。熱い吐息を感じる熱の籠った音は高貴な光沢を帯び、どんな場面でも動じることなく、自信たっぷりに音を綴って行く。その姿は何とも頼もしい。1つ1つの音が語りかけて、フレーズとなって信念のある明確なメッセージを伝え、それらが有機的な受け渡しをしつつ、全曲が一本のしなやかな線でつながっていく。静かに沈思する歌も、焦燥感を伴った激しいパッセージも、全てがショスタコーヴィチがこの音楽に込めた思いとなって、聴き手に訴えかけてきた。

ソヒエフ/N響は、深く大きな呼吸や緊迫した焦燥感など、場面場面のポイントを的確に押さえ、諏訪内と充実した共演を繰り広げた。特にソロヴァイオリンと様々な管楽器とのデュオでN響プレイヤーの実力を聴かせたが、その中でも出番が多く、この曲の重要なパートだった福川さんのホルンは絶品!柔らかな美音で、ヴァイオリンとのたおやかなダンスを見ているようだった。それにしても諏訪内さんは聴く度に、ホンモノの音楽を伝える大家への道を着実に歩んでいることを感じさせた。

後半はチャイ5。これがまた最高に充実した、気合十分の名演となった。導入部は驚くほどゆっくりとしたテンポでじっくり、たっぷりと練り上げて行った。伊藤さんの息の長いクラが絶品!響きが中心にまとまって聴き手の神経を引き寄せる。

主要部に入ってからは聴き慣れたテンポになったが、表現の濃さ、集中力は変わらない。N響から出てくる音は終始熱を帯び、切れ味がよく、能動的に語りかけてくる。ソヒエフは凝縮されたエネルギーを、シーンごとに全開したり、じわりじわりと出したり按配するコントロールやバランス感覚が実に巧い。演奏全体が息づき、それはまるで、サバンナでトラが、全身をエネルギーでみなぎらせて繰り広げる絵に描いたような見事な狩の様子を、一部始終手に汗握りドキドキしながら見ているような気分。

チャイコの5番はもちろん名曲だし、これまで何度もライブで感動したことがあるが、このところどうも感動しなくなっていた。フィナーレだけいくら景気よくやっていい演奏になっても「だから何?」と感じることが多かったが、今夜は最初から最後まで、徹頭徹尾、濃厚に歌い、深く語りかけ、バランスの行き届いた素晴らしい演奏で、久々にこの曲の魅力を再認識した。

これはソヒエフの指揮が大きく貢献した結果だと思うが、一丸となって熱くて上手い(福川さんはここでもホレボレするホルンを聴かせた)演奏をやり遂げたN響の実力にも改めて賞賛の拍手を送りたい。

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