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植物のふしぎ

植物をはじめ、生物のふしぎな生態をレポートします。
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キンギョソウとホソバウンラン

2025年04月03日 | 植物の生態

冬越ししたキンギョソウが3月下旬から咲き始めましたので今回はその話題。それと、後半ではキンギョソウと花が似ているホソバウンランの過去レポートを再掲したいと思います。

固いつぼみと開花直前のつぼみ

細かな毛が生えていて汚れが目立ちました。ペチュニアほどには気になりはしませんでしたが、これの毛も粘着性があるのかもしれません。

開花するとこんな複雑な形をしています。外からは花ずい(雌しべと雄しべ)が全く見えません。観察しにくい位置に咲いていたので、摘み取りました・・

正面の写真です。上のひらひらを上唇、下を下唇とよびます。下唇はこんもり山のように盛り上がっています。

横から見ると上唇と下唇の間に隙間が見られました。ここが花の入り口かもしれません。花冠を切り取って中を見てみると・・

写真上が切り取った下唇で、下が仰向けにした上唇です。花ずいは上唇側に沿って有りました。写真では花冠に隠されて見えませんが、花ずいの基部に蜜が貯められていました。

柱頭と葯付近を拡大してみると・・

2本の長い雄しべと2本の短い雄しべにより柱頭は4つの葯で囲まれていました。下唇を拡大してみると・・

花冠の出入り口に当たる部分にふさふさと細かな毛が生えていました

以上からまとめたいと思います。

【まとめ】

  1. キンギョソウの花は、上唇と下唇により閉じられているため 外からは花ずいは見えません
  2. 蜜は花の最奥、花ずい基部に貯められていました
  3. 花ずいは上唇側に沿い、長い雄しべ2本と短い雄しべ2本により柱頭が4つの葯に囲まれた配置になっていました
  4. 柱頭と葯が接していることから、雌雄の成熟期間をずらすなど自家受粉を回避する工夫がなされているのかもしれません
  5. 花の出入り口に当たる下唇側には細かな毛がふさふさしていてポリネーターが出入りする際、花冠に過剰の負担が掛からないようにしていると考えられます
  6. ポリネーターは閉じられた花冠をこじ開けられるくらい力のあるハナバチが想定されます

キンギョソウは、オオバコ科キンギョソウ属ですが、以前はゴマノハグサ科に分類されていました。同じくゴマノハグサ科に分類されていたオオバコ科ウンラン属のホソバウンランについて20年以上前の11月上旬に小諸市で取材していました。その時のレポートを再掲しますね。

  • ホソバウンラン (オオバコ科ウンラン属)

ユーラシア大陸原産で明治~大正時代に観賞用・薬用植物として持ち込まれた帰化植物です。日本の気候にも合っていて比較的丈夫なため各地で道ばたなどに野生化しています。花期は夏から晩秋で、長野県内でも野生化したホソバウンランを見ることができます。名前の通り、海岸の砂地に生えるウンランより葉が細長くなっています。

花はキンギョソウにも似ていますが、ホソバウンランの方は筒部の基部が下に長く伸びてになっているのが特徴です。この距の中に蜜を貯めていると考えられます。下唇が上に大きく膨らんでおり、トリカブトの僧帽形をした上がく片のようにも見えるので、「雌しべはどこかな?」とつい下唇の下をのぞいてしまいましたが、もちろんそこには何もありません。実はこの花は上唇と下唇が密着しており、筒部を隠しているので外からは雄しべや雌しべの存在が全くわかりません。

がくは5枚で花冠との位置関係もこの写真でわかります。

密着している上唇と下唇に少し亀裂を入れてずらしてみたものです。かなりしっかり密着しているので亀裂を入れないとこの様に写真が撮れませんでした。このような花を仮面状花とよんでいます。下唇の花冠内側には細かな毛がたくさん生えていました。11月上旬にこの花を見つけたのですが、観察中、訪花昆虫は見られなかったので、強く密着した花にどのように入って蜜を吸うのか見てみたいところです。おそらく、ハナバチの仲間が力強くこじ開けて花の中に入り、距にたまった蜜を長い口で吸っていくと考えられます。その際、ハチの背中が受粉に関わっているはずです。これだけ密着していれば蝶をはじめ送粉に関わらない昆虫は完全にシャットアウトされているに違いありません。

下唇を切り取って雄しべ、雌しべの位置関係を観察しました。

長い花糸と短い花糸が2本ずつあります。「>」の字形の葯と「<」の字形の葯が接しているため一見「X」の字に見えます。柱頭は長い方の葯と短い方の葯に挟まれていました。「XoX」と読めた?。。。配置の美しさに感動しました。花糸は花冠基部にくっついているので花が終わり花冠が落ちると花柱だけが残ります(2枚上の写真に花冠の落ちた花が写っています)。周囲の個体では小さな丸い実がたくさんできていました。


ホソバウンランのポリネーター(送粉昆虫)について。暖かな別日に観察しました。

ホソバウンランの花に訪れる昆虫はハチの仲間が中心です。観察した日は、この写真のハキリバチの仲間(バラハキリバチ?)とトラマルハナバチがポリネーターの中心でした。ハキリバチは上唇側にお腹を合わせ、花冠の中に頭を押し込んで吸蜜します。力の弱いハチの場合、この方が体重をかけられるし、花粉を集める所はお腹に生えている毛なのでこの体勢が適していると言えます。

トラマルハナバチは上唇側を背に合わせてもぐり込みます。花粉が、頭と背中の毛につきます。

次は盗蜜について・・

ホソバウンランには、ミツバチ、クロマルハナバチ、フタモンアシナガバチ、アリの仲間なども訪れていましたが、その多くが距の部分に口をつけ、盗蜜していました。上唇と下唇でがっちり閉じているこの花の蜜を吸うのは一苦労で、その分、盗蜜が横行しているようです。正確な統計は取っていませんが、訪花昆虫の8~9割が盗蜜のように感じました。最も多く盗蜜していたのはクロマルハナバチで、ミツバチやアリなどはマルハナバチが開けた穴を利用していたのかもしれません。

フタモンアシナガバチ

ミツバチやクロマルハナバチは正式ルートで吸蜜する個体もいました。上の写真は正しい作法で蜜を吸うクロマルハナバチです。頭と背中に花粉の付いた個体はその証拠となります。この個体は見ていた限り盗蜜することはありませんでした。逆に盗蜜蜂は盗み専門なので体に花粉は付いていません。作法を心得た蜂はこじ開けに手間取るので、蜜集めに時間がかかり盗蜜バチに比べて不利になります。特にミツバチは力が弱いので、なかなか花の中に入れずもがいて苦労していました。

全ての訪花昆虫が盗蜜に走ったらホソバウンランにとって一大事です。と同時に蜂側にとっても未来の花が減ってしまうことにもなるし、エサとなる花粉の供給源でもあるので急激に全ての虫が盗蜜を行うとは考えにくいです。しかし、盗みが横行している現在、植物側からも何らかの進化の必要性に迫られているのかもしれません。

コメント
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