バスの揺れる振動が、体の軸を見失わせる。
体として真っ直ぐある姿勢がなくなっているから、その揺れのどこに自分がいるのかわからなくなる。
あっちに揺れて、こっちに揺れて、、、
バスに乗車して家に向かっているという現実から離れそうだった。
気がつくと、自分の手で、前にある手摺りを握っていた。
手摺りを握るその感覚が、現実の世界と自分をつないでくれているみたい。
綱渡りをしながらの帰宅。
しばらくして、手を手すりから離し、杖を握っていた。
現実とのつなぎ目が入れ替わる感覚。
さっきとは違う触れ。
そのつなぎ目を頼りに、バスから降りていた。
バス停から家までは真っ直ぐな道。
その道を感じながら、見つめると、小さく見える家があった。
なんかいつもよりもかすれて見える、、、
でも、見えている目的地に向かって足を進める。
足を出して、杖を出して、また出して、、、
その繰り返し。
今日は、3つの感覚が順番に並ぶようだった。
右足、左足、そして杖。
それぞれが交互に地についていく。
それを感じながら、かすかにある目的地へ向かっていく。
しばらく歩いてふと周りを見た。
あれ?さっきと同じところにいるって思った。
目的地までの距離も縮まっていない。
どういうことだろう?
一生懸命に歩いている。
でも実際は、進んでいる感覚がない。
家までの道が、すごく長くどこまでも続いているようだった。
前に進んでいるけど、同じ場での足踏みをしてるみたいだった。
変わりない自分のある場。
そこで感じる周りの風景が動いていかない。
混乱していた。
でも、行きたい場は家。
とにかく帰って休みたかったから、歩き続ける。
歩いて歩いていく。
でも、だんだんと歩いているのかさえ分からなくなっていた。
気がついたら、坐骨から伝わる、硬く冷たい感覚があった。
あ、家についたんだって思った。
しばらく座り込んで休んで、、
2階へ行って布団に入った。