樹海の七首
少し前でしたかねぇ、青木ヶ原の樹海、あの、富士の樹海へ、ロケで行ったんですよ。 これは、私の話を、CDやDVDにするんで行ったんですよ。 面白いんですよね、あの樹海ね。 同じね、自殺して、亡くなる方でも、状況を知らないで行く人と、状況を知って行く人ではね、自殺する場所って言うんですかね、それが違うんですよ。 変な話ですよね。 ある人は下準備をしてる人、またある人は行き当たりばったりの人。その差で、たどり着く場所が違うんですよ。 それで、行き当たりばったりの人っていうのは、俗に言う「風穴」という、ところのそばに行くんですね。こっちへ行く方は、だいたいがそうです。 もう一方の、下準備をしている人は、樹海がほとんど分かるらしいんです。あーここ行きゃ良いんだな、こっち行けばいいんだって。樹海を結構、知ってる人。自殺の通な人。変な話ですけどね。 で、樹海にですね、行って撮った。 その監督をしてる人って、私の友人なんですけど、よく、樹海を知ってる人でしたよ。 富士の樹海というのは、意外と、多くの人が入ってるんですよね。ただ、冬は入らない。7、8月頃に入って、ずいぶん亡くなるんですよ。だから、10月に死体の回収するんです。 夜中のロケしてましてねぇ、丁度夏へ入る頃です。本格的な夏の、ちょっと前ですよ。 さすがに、この監督、樹海のことをよく知ってますから、みんなに夏服を着せてるんですよね。 で、とるシーンって言うのが、死んだ人が「う??」って出てくるシーンなんです。 すると、監督が、「ただ、同じように出てんじゃ、つまらないんで、皆、この樹海で一体どうやって死んだか、その死に方に合わせて、自分のキャラクターつくろうよ!」って言ったんです。「分かりましたー」って俳優さん言ったんですよね。9人くらい、いたかな。その死んだ人の役が。「じゃあ、えーと、キミ、何で死んだの?」「えっ、あっ、僕ですか? 僕、薬です。睡眠薬。ええ、それ飲んで死にました」「そう、じゃあ、そんな感じでお願いね」「はい」「で、あんたは何で死んだ?」「え、あの、僕あの、首くくって死にました」「首吊りね。じゃあそんな感じでお願いね」「はいっ」 今度は、また、別の人に、「あんたは何で死んだの?」「あの、凍死です」 さっきも言ったとおり、着てるの夏服なんですよね。「まあいいかーしょうがない、それでいこうかー」 で、また、別の人に、「あんた何で死んだんだ」って聞いた。「え? 僕ですか? うん、何で死んだって。あの僕ね、電車飛び込みです」 電車なんかないんだ、樹海にはね。 まあ、そうこうしているうちに、始まったんですよ。「うう???」 俳優さんが呻ってる。と、意外と皆きれいなんですよ、声がね。「うううう????」 ってきたんですよ。そんなに悪くはないんです。 でも、若手の俳優がきて、言うんです。「稲川さん、何かみんな、ちょっと声、高いですよねぇ、もう少し、こう何かしっくりくる声が、欲しいですよね」「うーん、それもそうだね」 そうなって、で「よーい、はいっ」って始まったんですよ。 すると、そん中に「ヴ───ッ…」って声が入ったんですよ。 あ、いいんじゃないの、と思ったんですよ。雰囲気はいいんですよ。誰か言ってる。「ヴ───ッ…」