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WINS通信は小売業のマネジメントとIT活用のための情報室

小売業・IT活用・消費市場の今をウォッチング/WINS企画/東 秀夫wins.azuma@sunny.ocn.ne.jp

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第44回 「どれがおいしい」でなく「どれもおいしい」

2009年12月04日 18時53分13秒 | 今日の気づき
【2009年12月4日(金)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 12月4日(金) 朝刊 11面


◆記事の見出し

 《ブランド変調 3 危機後の選択》《次の「公式」模索》《巨費投入の宣伝 限界》


◆記事の内容

 ★キリンビールが創業100周年の2007年3月に「ラガー」、「一番搾り」に続く主力ブランドに育てることを念頭に投入した「ザ・ゴールド」が今春、全国の店頭から姿を消した。発売当初につぎ込んだ販促費用は数十億円に上るとみられる。500万本のサンプルを配るなど全国でPRした。テレビCMなどメディアでの宣伝も過去最大級で展開した。しかし、初年度の販売量は予定の6割にとどまり、2008年はさらに販売量がしぼんだ。

 ★原材料高による食品・日用品などの値上がりで、生活防衛から消費者はビールより約3割安い「第三のビール」へのシフトをすでに強めていた。2008年秋の同時危機がこの傾向を顕著にした。経営陣は生産中止を決断せざるを得なかった。

 ★有力企業がヒト・モノ・カネをつぎ込み、消費者へ浸透を図るブランドづくりの「公式」が世界経済の大きな転換の中で機能しにくくなっている。

 ★サマンサタバサジャパンリミテッドは、若い女性向けバッグなどのブランド「サマンサタバサ」を
日本発の世界ブランドに育てようと、広告に米人気歌手のビヨンセさんなど日米欧のセレブを起用するマーケティングを展開、女性のあこがれを誘う手法で成長したが、2008年度は一転して最終赤字となった。同社の寺田和正社長は「有名人と同じモノを持とうとする気持ちが薄れた」と語っている。宣伝手法を見直すほか、海外出店もニューヨークに広告塔をつくるやり方からアジアで地道に広げる戦略に転換する。

 ★ブランドコンサルタント、ビーエムウィン・ブランディングオフィスの水野与志朗社長は「広告など既存の手法だけではブランド価値を高めるのは難しくなった」と指摘する。

 ★1~10月の登録台数が前年同期比22.8%減となるなど低迷が続く輸入車市場で、9月に輸入車初のハイブリッド車(HV)を発売したメルセデス・ベンツ日本は、日本でだけ「ハイブリッド」の文字を記したプレートを車体に付けられるオプションを設けた。トヨタ自動車のHV「プリウス」は一目でプリウスと認識できる外観が特徴である。しかし、ベンツのHVの見た目は普通のSクラスと変わらない。「販売店から外観でハイブリッドを強調できる方が売りやすいと言われた」ことのよる措置だが、老舗ブランドのベンツでさえ消費者の価値観の変化を考慮せざるを得ない。

 ★ティッシュ「ネピア」ブランドを持つ王子ネピアは、テレビCMを取りやめて、その宣伝費の半額を東ティモールのトイレ整備に振り向けたところ、値上げにもかかわらず衛生用紙市場でシェアがわずかに拡大した。

 ★新たな答えを導く公式は、エコや社会貢献なのか。ブランド力を磨くための模索は続く。


●今日の気づき

 ★生活者主権の時代に生活者を「魚」に見立てるのは、してはならないことだが、自分も「魚」の1匹だという認識で、あえて分かりやすい例として、世界の海を泳ぐ魚と漁師の関係で考えてみる。海面下の魚群は水温や餌事情など様々な変化で移動を始めているにもかかわらず、漁師は従来からよく獲れた漁場に従来と変わらない餌を撒き、網を張る。しかし、漁獲量は思わしくない。魚群探知機には確かに魚影が映っているので、同じことを繰り返すが、結果は同じで、むしろ漁獲量は減る一方である。魚に「意志」があるかどうかは分からないが、魚群探知機では魚影は映し出せても、魚群の「意志」、魚群の「意志」が向いている方向までは探知できない。海面の上からはよく見えないのだが、漁場が大きく変化していることは間違いない。

 ★消費市場も大きく変化している。過去の経験では予想がつかない変化軸を変えた変化が起こっているのではないだろうか。巨費を投入して効果のない宣伝などあろうはずがない。効果が出ないのは効果の出せない宣伝をしているからではないだろうか。的を射ていないだけであろう。あたかも魚影が見えているものの、魚群が変化を起こしているのに、従来と同じように餌を撒き、網を張っているのと似ている。

 ★「ザ・ゴールド」が例に取り上げられているが、すでに自社内で巨大2銘柄があり、それをも凌ぐようなインパクトがなかったように感じている。既存2銘柄に対して、激しい自社競合を展開するほどの目が覚めるような驚きと違いがあれば、メディアが取り上げ、消費者の関心も集めたと思われる。「ビール素人」にも分かるくらいの強いインパクトがあれば、自社3銘柄揃い踏みも可能であったように思う。

 ★しかし、これは現実が示すように、不可能に近いほど困難なことではなかったのかもしれない。あまりにも周りの味が向上しているので、違いが出し切れなかったのではないか。あるいは、専門家から見て、確かな違いがあったとしても、周りの味のレベルアップが、その違いを生活者に気づかせられなかったのではないだろうか。一方、割安とはいえ、「第三のビール」は競うように味を上げ、新商品を連発し、次から次へと宣伝攻勢をかけている。「ザ・ゴールド」の宣伝展開も品質・味のアピールも、こうした新しい動きの中に埋没した観があり、宣伝の効果を目立たなくしてしまったのではないだろうか。

 ★そういう市場環境を作ってきたのはビール業界自身である。毎年、銘柄名を覚えられないほど、ビール系3ジャンルで新商品が発売される。銘柄名だけを見て、ビールなのか、発泡酒なのか、第三のビールなのか、言い当てられる人は少ないのではないだろうか。値段を見て、初めて判別でき、売場で買おうかどうしようかと考えていると、頭に映像が残るテレビCMに背中を押されて、つい買ってしまうと、意外とおいしいと、買ったことに後悔をしない。といって、次もその銘柄を買うかというと、違った銘柄を試してみようと、初めて経験する銘柄を買ってみる。ほとんど後悔することはなく、それなりに、味に合格点を与えている。銘柄に頑なにこだわっている人以外は、そんな感じではないだろうか。銘柄にこだわっている人でも、大勢で飲む時には、普段はあまり飲まない銘柄でも、おいしく飲んでいる光景をよく見る。

 ★2008年11月初旬1週間の首都圏コンビニエンスストアのビール系飲料のPOSデータが手元にある。ビール、発泡酒、第三のビールとも、上位の銘柄を見ると、同じ銘柄の500ml缶と350ml缶が隣り合わせの順位で並んでいる。ところが、ビールは「アサヒ スーパードライ」と「キリン ラガー」は500mlが上位で350mlが下位だが、他の銘柄は350mlが上位で500mlが下位となっている。一方、発泡酒と第三のビールは同じ銘柄で500mlが上位で350mlが下位で並ぶ。ビール党は量を我慢して出費を抑え、ビール党以外は量を優先して出費を抑える傾向が見て取れる。

 ★ビール市場は縮小傾向にあるとはいえ、ビッグマーケットであることには変わりはない。ビール系飲料全体の味が上がり、味の差が接近している。様々と飲み比べて、「どれがおいしい」でなく「どれもおいしい」というのが現状と言える。そういう市場では、宣伝の効果が現われやすいはずである。金額もさることながら、マーケティングの在り方が問われているのではないだろうか。

 ★消費市場全体が冷え込む中で、エコカーの販売が好調である。様々な特典があるとはいえ、エコカーの市場は、従来の車の市場の延長でなく、新しい市場を形成しているのではないだろうか。PB商品が好調なのは、従来商品が安いというのでなく、「PB」という新しい市場が形成されているという見方ができる。従来の延長でありながら、そのつながりをいったん断ち切って、新しい市場を創造する、そういう市場の変化が大きく顕在化しているのではないだろうか。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第43回 PB新時代 三者三様にメリット

2009年12月03日 14時14分52秒 | 今日の気づき
【2009年12月3日(木)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 12月3日(木) 朝刊 13面


◆記事の見出し

 《ブランド変調 2 危機後の選択》《PB・新興勢台頭》《実質本位、低価格が魅力》


◆記事の内容

 ★イトーヨーカ堂の売場に4月、市場シェアトップのハウス食品の主力カレールー「バーモント」のそばに、同じくハウス食品が製造元のセブン&アイ・ホールディングスのPB商品「セブンプレミアム」のカレールー2品目が並んだ。「バーモント」より約2割安い。

 ★カレールーは味やコクに応じて商品が細分化しており、顧客は好みのブランドを繰り返し購入する傾向が強く、汎用品のPBには馴染まないとされてきた。しかし、発売半年で売れ筋2位に浮上し、業界の常識をあっさり覆した。

 ★日本ハム、カルピス、味の素……。セブン&アイのPB生産を請け負うメーカーには食品各分野のトップが名を連ねる。大手小売だけでなく、中堅スーパーのベイシアのPBも鍋つゆやレトルト米飯などは大手メーカーが供給する。食品市場の縮小が加速しており、有力メーカーもラインの稼働率維持を考えると、攻勢を強めるPBを無視できない。

 ★調査会社の富士経済によると、2009年のPB食品の市場規模は前年比22%増の2兆3,380億円の見込み。食品全体の9%になる。食用油や即席みそ汁など30%に迫る分野もある。NB(ナショナルブランド)神話は揺らぐ。

 ★家電製品でも「日の丸ブランド」が押されている。調査会社のBCNによると、10月のネットブック販売台数で台湾勢のシェアは計約3割という。白物家電では中国メーカーが台頭しアジアブランドが店頭を浸食する。PB同様に、余分な機能や宣伝費を削ぎ落とした低価格を武器に、消費者をとらえる。

 ★NBの逆襲はあるのか。日清食品は4月、「カップヌードル」の希望小売価格を据え置き、具材のミンチ肉をより上等なチャーシューに替えた。以来、PBに押されて減っていた販売量は回復している。

 ★技術力の向上などでコストを下げつつ、商品の品質を高める。NBメーカーの進化を、変わる消費者を味方につけたPBや新興ブランドが促している。


●今日の気づき

 ★PBの動向は、消費社会の成熟、消費市場の縮小、品質の向上、賢い生活者の台頭等々、今までの延長ではない、まったく新しい消費市場が誕生していることを如実に示している。新しい市場といっても、時間軸は過去・現在・未来と途切れることなく連続しているので、徐々に継続しながら変化しているように見えるが、変化軸が上記のように変わっているので、同じ線上での変化ではない。まったく新しい消費市場が芽生え形成されつつあると見るべきだろう。

 ★食品トップメーカーのPB製造を考えてみる。顧客、小売企業、メーカーの三者ともメリットがある。従来に比べてマイナスの数字が出るなどの損をするところが見当たらないのである。マイナスの数字が出ないので小売企業はPBを充実させ、メーカーはPB製造を請け負うのである。

 ★まず、顧客はトップメーカーの製造技術で生産されたNB並みの商品をいつでも割安価格で購入できる。安心・安全面でも信頼できるので、メリットがある。

 ★小売企業はトップメーカーの製造技術で生産されたNB並みの商品をいつでも割安価格で販売できるので、顧客にメリットを与えられ、来店を促し、売上・利益に貢献し、ストアロイヤルティを向上させることができる。また、トップメーカーが持つ商品開発とマーケティングのノウハウを生かした「よく売れるPB」を充実させることができる。

 ★メーカーは生産ラインの稼働率を維持し、雇用を維持し、市場が縮小する中でPB価格ラインの市場向けに商品を投入でき、その市場情報の入手も可能となる。また、NB強化にもメリットがある。NB対PBという競争の構図を描いてみると、競争相手のPBの手の内と市場を知ることができるので、NBの顧客価値再構築では得がたい情報を手に入れることができる。大手小売企業とのパイプが強固になり有力な販路の確保にもつながる。

 ★一方、PBを手がけることで、顧客から見たメーカーのイメージが低下することはあるのだろうか。小売企業の下請け企業になったようなイメージになるのであろうか。NBにこだわる以上は、そうはならない。仮にNBから撤退しPB専業のようになれば別だが、むしろ、こういう時代で生活者が求める低価格商品を小売企業に協力して製造しているというイメージの方が評価は高まるかもしれない。それには条件がある。NBなど自社商品へのこだわり、より良い自社商品を提供していこうという強い意思を生活者に伝えることが重要になる。

 ★かつてのPBは小売企業のメリットが優先されていた。顧客は「安かろう、悪かろう」を買わされ、トップメーカーはメリットがないのでPBに対応してこなかった。時代は変わった。顧客は家計が厳しく、小売企業は売上が伸びず、メーカーは縮小する市場への対応に迫られている。三者三様に厳しい状況の中で、三者三様にメリットが見出せる今のPBの登場となった。これは当面の厳しい状況の打開策ではなく、新しい消費市場対応への模索の第一歩でもある。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第42回 無形の価値再構築と付加価値マーケティング時代

2009年12月02日 18時41分10秒 | 今日の気づき
【2009年12月2日(水)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 12月2日(水) 朝刊 11面


◆記事の見出し

 《ブランド変調 1 危機後の選択》《消える欧米品信仰》《消費者成熟、背伸びせず》


◆記事の内容

 ★モノやサービスの信頼の証しであり、付加価値を生む「ブランド」に変化の波が押し寄せている。海外高級品は顧客離れに直面し、小売業の自主企画品や新興国の製品が国内有力メーカー品に匹敵する支持を得ている。変わったのは経済危機を経験し多くの情報と肥えた目を持つようになった消費者である。

 ★高級ブランドの中古品販売最大手のコメ兵の業績が振るわない。減収減益だった2009年3月期に続き2009年4~9月期もバッグ・衣料の売上高が前年同期比5%減、時計は同28%減である。「信仰」とまで評された日本の消費者の高級ブランド志向が昨秋のリーマン・ショックを境に薄らいでいる。割安な中古品ですら手が伸びないのだから、新品を扱う海外ブランドの日本法人はどこも苦しい。

 ★仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは日本国内の2009年1~9月期売上高は前年同期比19%減。「カルティエ」などを持つスイス・リシュモンの同4~9月期売上高は同25%減である。大手海外ブランドの日本市場の売上高構成比は約1割だが、旅行先での日本人観光客の購入分も含めると2~3割に上ると言われている。

 ★仏服飾雑貨ランセルジャパンの今村真也社長は「1990年代のバブル崩壊時は需要が潜在化しただけで、時間がたてば客足が戻った。今は欲しいと考える顧客そのものが減った」と話す。J・フロントリテイリングの奥田 務社長は「欧米のように身の丈にあわせた消費になってきた」と。

 ★こうした変化にさらされるのはバッグや時計だけではない。ブランドの持つ付加価値をいま一度問い直す動きは、あらゆる商品やサービスに広がる。企業はブランドづくりの根本的な転換点に立たされている。


●今日の気づき

 ★もともと、ブランドは商品の品質を保証する信頼の証しだった。有形の商品自体と無形の信頼の証しは一体となって商品の価値を高めてきた。それが進むと、ブランドは商品自体に信頼の証しを与えつつ、信頼だけでなくデザインなど無形の付加価値をどんどん膨らませて「高級ブランド」という商品のカテゴリーを形成してきた。有形の商品価値さえ保証されていれば、無形の付加価値はそこまで大きくなくても良いというニーズが出てきてもおかしくない。経済危機がきっかけとなったことは否めないが、成熟社会では、たどり着くスピードはともかく、当然の帰結に向かっているのではないだろうか。

 ★商品の品質は下がることはない。向上に向かい続ける。極論すれば、ブランドマークで保証されなくても、生活者の信頼を得る品質レベルの商品が今後どんどん増えてくるということになる。そうなるとブランドは不要ということにもなる。今のブランドに求められているのは品質保証以外の部分で膨らませてきた付加価値の再構築である。東京・大阪間を3時間で結ぶ新幹線ができた時は「夢の超特急」と言われた。「夢」が日常的な「現実」になった時、2時間半に短縮されると、一部には3時間で良いという利用者が出てきた。将来1時間が実現した時には、新幹線のすべての利用者を「1時間」の顧客へと誘導することはできないだろう。2時間半や3時間のダイヤが組まれている限りは。

 ★市場が今までの延長線上で変化しているのではなく、市場を貫く価値観(価値基準)が変化しているので、市場が置かれている次元そのものが変化しているとも言える。当然、マーケティングも変わらなければならない。付加価値も「付加」の意味するものと「価値」の意味するものを分けて見直さなければならないかもしれない。

 ★「成熟」と「品質の向上」が市場の変化に大きな影響を与える。いったん過去の価値観を否定し、かつ過去の価値観の延長線上にまったく異なる新しい価値観を構築しなければならない時代に来ていると言える。その時、もう1つ大きな要素が加わることになる。エコ、環境問題、企業の社会的責任・社会貢献などである。付加価値をいかにマーケティングに結び付けていくのか。付加価値マーケティングの時代が来たと言えるのではないだろうか。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第41回 HCのPBに賢い生活者への対応が望まれる

2009年12月01日 23時00分28秒 | 今日の気づき
【2009年12月1日(火)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 12月1日(火) 朝刊 13面


◆記事の見出し

 《ホームセンター PB重視》《コメリ、インテリア製品開発》《ペット用品 カインズ拡充 円高生かし海外調達》


◆記事の内容

 ★ホームセンターがPB商品の拡大を急いでいる。各社は円高を生かして国外から調達した住居関連用品に自社ブランドを付け、低価格で消費者への浸透を狙う。PBはスーパーの食品などを中心に広がってきたが、ホームセンターがインテリア分野などで本格化することで市場拡大に弾みがつく。

 ★業界4位のコメリは11月から日曜大工や園芸用品など分野ごとに分かれていたPBを「コメリセレクト」に1本化し新たなロゴマークや包材を用意してブランド力を高める。新たにカーテンや寝具などの分野でもPBを開発する。PBの売上高構成比率を28%から5年後をメドに40%に引き上げる。今後は円高を利用して東南アジアなどからの仕入を拡大し店頭売価の値下げも検討する。

 ★2位のカインズはペット用品などの海外調達を増やすのに加えて薄型テレビや加湿器などの家電製品の開発も積極化する。PB比率を現在の3割超から数年内に5割まで高める。

 ★3位のコーナン商事は輸入品を含むPB比率20%を半年前倒しでほぼ達成し来期中に25%まで上げる。

 ★中堅では今春に資本・業務提携したダイユーエイト(福島市)とリックコーポレーション(岡山市)が12月から共同PBを本格展開し2011年2月期に2,000~3,000品目を販売する。

 ★ホームセンターは、近年、ドラッグストアなど他の小売業との競合が激化し主力の住関連用品の価格競争力も低下している。日本ドゥ・イット・ユアセルフ協会によると、2008年度の市場規模は約3兆9,000億円で3年連続で前年割れしている。

 ★各社の取り扱う住関連用品は一部を除き中堅・中小メーカー製が多かった。今後は円高を追い風に自社PBを浸透させて顧客の囲い込みにつなげる。

 ★スーパーも住関連分野でPB強化の動きが目立つ。イオンや西友が寝具などの格安PBの投入を積極化しており、こうした分野でのPB開発競争が激化しそうである。


●今日の気づき

 ★PB化、低価格化の流れは止まらないであろうし、もっと様々な分野で出てくるものと予想される。その背景にあるのは、品質の向上(安心・安全の確保)と生活者の賢明な買物意識の向上(品質と価格のバランスを見極める判断力の向上)である。量ではなく、いわば質の需要と供給の関係である。

 ★品質の向上は、素材開発技術や生産技術の向上により実現されてきた。商品作りの技術の向上は止まることはない。今後も進んでいく。その結果もたらされる商品は、価格軸で見れば、低価格商品、中価格商品、高価格商品に分かれるだろうが、低価格商品とはいえ、かつての中価格商品以上の品質が得られており、安心・安全の確保は格段に向上していると言える。

 ★生活者の賢明な買物意識の向上は、経済情勢の悪化がその傾向を促進させているということもあるが、商品の品質向上が進んでいくと、賢明な買物意識は必ず高まっていく。賢明な買物というのは品質と価格のバランスを見極めた買物ということである。

 ★今の生活者のPB支持率の向上は、価格だけの問題ではなく、品質の向上、すなわち商品の安心・安全の確保が前提にある。中国製冷凍餃子事件以降の中国産食品の購買意欲の減退は低価格指向だけで生活者は買物行動を起こしているのではないことを示している。

 ★食品PBは「安かろう、悪かろう」から「安かろう、良かろう」へと、様々な経験を積んで進化してきた。その土台が今のPB開発を支えている。食品と住関連用品・インテリア商品では、購買頻度も川上・川中事情も異なるので、同じ平面状で「PB市場」を考えることはできないが、生活者は「安かろう、良かろう」を求めていることは共通している。食品では体の中の安心・安全を求め、住関連用品では体の外の安心・安全を求めている。生活関連用品のPB開発においても、食品PBの経験を生かし切り、生活者の生活環境が向上することを期待したい。生活者は賢明である。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第40回 万引をしない させない 見逃さない

2009年11月30日 23時38分32秒 | 今日の気づき
【2009年11月30日(月)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 11月30日(月) 夕刊 19面


◆記事の見出し

 《警視庁、都内の被害試算 万引き 年670億円》《届け出の100倍》


◆記事の内容

 ★警視庁はこのほど、東京都内の万引き被害額の総額は年間約670億円という試算を初めてまとめた。実際に警察に届けられる被害額の約100倍になる。

 ★警視庁は「『たかが万引き』と思われがちだが、経済的損失は甚大で厳しい対応が必要」と指摘し、万引き容疑者を発見した場合は必ず警察に届けるよう店舗側に呼び掛けている。
 
 ★試算に協力した特定非営利活動法人「全国万引犯罪防止機構」(東京)の調査によると、小売業で仕入れた商品のうち販売されないまま所在が分からなくなった商品の割合「ロス率」は平均で0.94%に上り、このうち約半分が万引き被害とみられている。警視庁は都内の小売業のうち書店やスーパーなど万引き被害が想定される57業種の2007年度の総販売額約14兆2,712億円に、このロス率の半分を掛け合わせることで被害額を推計した。

 ★警視庁によると、2004~2008年の都内の万引き認知件数は約1万5,000~1万8,000件で被害額は5億~6億円。推計被害額と大きな開きがあることから、警視庁は「被害に遭っても、店舗側が警察に届けないケースが相当数ある」と分析している。

 ★被害を届けるには従来、手続きに数時間かかっており、店舗側がその手間を嫌って通報を敬遠しているとの指摘があった。そこで警視庁は11月、届け出を促そうと手続きを大幅に簡素化。必要な調書や証拠類を見直し、約1時間で手続きが終わるようにした。

 ★警視庁幹部は「ゲーム感覚で万引きを繰り返しているケースもある。軽い犯罪として大目に見るのではなく、社会全体が万引きに厳しく対応する必要がある」と話している。


●今日の気づき

 ★大事な内容なので、記事の内容をほぼ紹介した。試算の内容をもう少し詳しく知りたくて警視庁に問い合わせたが、警視庁からの発表ではなく、日経独自の取材のようである。全国万引犯罪防止機構のホームページを開くと、12月2日に、警視庁において「東京万引き防止官民合同会議」が開催されるとある。17の小売業団体をはじめ、18の関係団体、都庁、東京都教育庁、警視庁関係者等約100人近い構成の大規模な会議になる予定である。最初から最後まで報道関係に公開される。同会議では、「万引きをしない させない 見逃さない」共同宣言が行われることになっている。

 ★警視庁は、特に少年の万引は将来の治安に悪影響を及ぼすとして、万引防止には強い関心を持っており、2008年4月から6月にかけて万引被疑者の犯行の態様、動機・原因、再犯等に関する調査を実施した。調査結果に専門的な分析、検証等を加え、社会全体としての万引防止の諸対策の提言を行うために、「「万引きをしない・させない」社会環境づくりと規範意識の醸成に関する調査研究委員会」を設置し、同委員会は2008年8月に「万引きに関する調査研究報告書」をまとめた。同報告書の冒頭「まえがき」で警視庁の万引防止対策についての基本的な考え方が示されているので、その一部概要を次に紹介する。

 ★上記報告書の「まえがき」より。警視庁は2007年12月に政府の犯罪対策閣僚会議が策定した「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」に基づき、各部門が横断的に取り組むべき新たな治安上の課題について総合的な検討を行い、的確な施策の策定と推進に資するため、「警視庁施策総合検討委員会」を設置、同委員会の1つの柱として、「社会における規範意識向上に向けた対策」を検討してきた。これは、社会における規範意識の低下が、万引、落書き、ゴミ放置、交通ルール違反といった軽微な秩序違反行為の蔓延につながっており、これらの問題にきちんと対処しなければ、将来の東京の治安に悪影響を及ぼすとの問題意識からくるものである。
 軽微な犯罪の中でも、万引をめぐる状況は極めて深刻である。万引は初発型の犯罪であり、これを放置することで再犯を繰り返して犯罪がエスカレートしていく傾向がある。特に少年による万引は「初発型非行」の1つとして、他の重大な非行の入口となる犯罪である。2008年に入って少年による万引、特に中学生による万引が著しく増加していることは極めて憂慮すべき変化である。将来の治安を考えれば、今こそ抜本的な取り組みが不可欠である。
 2003年以降、高齢者による万引が急増していることは非常に注意を要する。今後の更なる高齢化の進行を踏まえれば、この点での対策も急務である。
 被害者の側から万引問題を見ると、小売業にとって万引の被害は極めて深刻な状況にある。とりわけ金融・経済危機により厳しい経営状況が続く中では、万引被害は各小売店舗にとって経営を左右しかねない死活問題となっている。
 こうした状況下で、われわれに求められていることは、「たかが万引き」といった社会の風潮に警鐘を鳴らし、人々が万引に手を染めないような、あるいは手を染めさせない環境をつくり、万引の犯行を可能な限り抑止することである。不幸にして万引に手を染めてしまった者に対しては「二度と万引を犯すまい」と当人が決意するような感銘力のある措置を講ずる必要がある。
 最も大切なことは、これらの取り組みを、警察、行政、小売店舗、家庭、学校、地域住民、民間ボランティア等社会を挙げた総合的な取り組みとすることである。

 ★同報告書をまとめるに当たり、都内6店舗に対して委員による現地聞取調査を行っているが、そのうちの1店舗は住宅街の中規模スーパーである。同報告書は現地調査結果の特徴的な部分を抽出して記載しているが、中規模スーパーの記載部分を以下に紹介する。
 ・中高年の万引が多い。主に食料品が被害に遭っている。エコバッグに盗んだ物を入れる犯人が多いので注意して見ている。
 ・販売履歴を毎日確認して被害を把握している。
 ・声かけ運動により「いらっしゃいませ」と声をかけることにより、被害を防止している。
 ・状況によって警察に通報している。初犯の者は犯人に買い取らせている。
 ・高齢者(女性)の万引犯人を出入禁止にした後、「万引しない」旨の誓約をさせてから入店を許可したが、直ぐに万引をしたので万引は病気だと思う。

 ★引用が長くなったが、万引対策の大事なことと、万引は「する側」が悪いのはもちろんだが、「される側」の責任も深く考える必要があることから、引用を長くした。万引が将来の社会の治安に大きな影響を与えるのであれば、企業の社会的責任という観点からも、万引対策を考えなければならない。社会的責任ということでは、自店だけの対策ではなく、業界全体としても意思統一的に取り組む必要があるし、他の関係団体・機関または行政との連携も必要になってくる。

 ★自店だけの問題とするなら解決策は難しくないかもしれない。かつてテレビゲーム時代の始まりを告げるようなインベーダーゲームが大流行した時期があった。㈱タイトーが1978年にスペースインベーダーを発売し人気が沸騰、「インベーダーハウス」と呼ばれるゲームセンターや店内にインベーダーゲームマシンを並べた「インベーダ喫茶」が各地にできた。駄菓子屋の店頭や待合室にまで設置され、1日に何十袋も集金袋を運ぶので腰痛を起こす従業員が出たり、トラックの後部に機械や硬貨を楽に上げ下げするためにリフトが装備されたりした。このリフトが今日では一般的になっているトラック後部のリフトの元祖と言われている。全国で100円硬貨が不足気味になり、大蔵省・日本銀行・造幣局が100円硬貨を多く鋳造するというエピソードまで生んだ。その当時、総合スーパーでもインベーダーゲームマシンを置いて集客を促した。しかし、素行の良くない若者が集まる温床ともなり店内の雰囲気を悪くする店舗も出てきた。同一商圏で競合する2店舗の総合スーパーも同じ状況にあった。その時、1店舗が体育会系の学生をアルバイトで雇い警備に当てた。結果、その店舗から素行の悪い若者の姿が消え、もう一方の店舗に集まるようになった。

 ★万引防止も同じで、万引されにくい店舗づくり、万引しにくい店格づくりが求められる。万引防止対策を考えるということは自店を見直すということである。しかし、万引が病気の性格を持っているのであれば、その店舗で万引しなくなった病的万引常習者は他の店舗で万引するようになる。インベーダーゲームに群がる素行の悪い若者が集まる店舗を変えただけというのと同じである。素行の悪い若者が少なくなったり、素行が良くなったわけではない。

 ★万引防止ということを、自店の損失解消、企業の社会的責任など、局面ごとに考えることも大切だが、自店を見直す機会を含めて、総合的に考える必要がある。万引防止対策の先には企業体質改善の問題点が見えてくるかもしれない。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第39回 時代に敏感な広告ページに学ぶ

2009年11月27日 00時15分53秒 | 今日の気づき
【2009年11月27日(金)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 11月27日(金) 夕刊 10~11面 全面広告


◆記事の見出し

 《Tasting Time 広告企画》


◆記事の内容

 ★2ページ見開きの全面広告のページである。10ページの上約8段のスペースに第一ホテル東京のフランス料理「アンシャンテ」の紹介と同店シェフのおすすめレシピが、11面も同様のレイアウトで上約8段のスペースにロイヤルパークホテルの中国料理「桂花苑」の紹介と同店総料理長のおすすめレシピが掲載されている。おすすめレシピの詳細はTasting Timeのホームページで見られる。

 ★両ページの下約7段は広告スペースの「The Hotel Information」で、15のホテルのおせち料理やディナープランなどを紹介している。
 
 ※新聞は1面を15段で組んでいる。縦のスペースを段で表現するので、8段は縦半分より少し広いスペース、7段は同少し狭いスペースとなる。


●今日の気づき

 ★普段なら広告スペースは飛ばすように目を通すだけだが、11月25日の本コラムで「プロの技の生活者への提供は社会を豊かにする」とタイトルを付けて原稿を出したところだったので、広告の「シェフのおすすめレシピ」の文字に目が留まった。

 ★Tasting Timeのホームページを開いてみた。「レストラン 今月の旬の味」、「シェフの味にトライ!」、「レストランガイド」、「ホテルカード&メンバーズカード」、「ホテルインフォメーション」、「コラム」に分けて情報を提供している。「シェフのおすすめレシピ」は「シェフの味にトライ!」に収められている。そして、「シェフの味にトライ!」は日本料理、中国料理、イタリアン、フレンチ、洋食一般、エスニック・その他、デザートのカテゴリーから過去に掲載したレシピが見られる。その数からして、かなり前から続けられている広告企画のようである。使う食材や調味料の数が多くなく家庭でも簡単にできそうなメニューを探してみると、案外多くある。食材や調味料の多少をどの基準で見るかにもよるが、料理素人が見ても、簡単に一味違う料理ができそうと感じるものが多い。頻繁にではなくても、たまに忘れたころに食卓に出てくると、家庭の食生活が豊かになるだろうと思われる。

 ★ホテル内レストランのシェフがレシピを生活者に提供することで、自店の顧客が減るとか、同業他店の営業にマイナスの影響を与えることはない。ホテル、レストランは広告に付加価値を付けて広告効果を高めることができる。生活者は無料でプロの技を織り込んだレシピ情報が得られ、それにかかる経費は広告料で吸収されている。ホームページとも連動させ効果をより高める「広告」という側面と、プロの技を生活者に金銭的負担をかけないで提供することによる家庭内食事シーンに豊かさを提供するという成熟社会におけるプロの「社会貢献」の要素を含んでいる。成熟社会の広告企画として評価したい。

 ★広告ページも重要な時代の変化を伝えるメッセージを含んでいる。広告は内容やセンスもさることながら、読者の反応と読者の購買行動にどれほど結び付くかが評価の基準になる。広告は時代に敏感である。広告ページも大事に見ていく必要がある。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第38回 新市場でも蓄積が大事。そして革新性。

2009年11月26日 21時26分26秒 | 今日の気づき
【2009年11月26日(木)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 11月26日(木) 朝刊 1面


◆記事の見出し

 《JTB、国内200店閉鎖》《11年度メド 全店の2割 ネット強化、商品倍増》
 《旅行、値下げ競争加速へ》


◆記事の内容

 ★旅行業最大手のJTBは2011年度末までに全国店舗網の約2割に当たる200店近くを閉鎖する。閉鎖は集客力の低い駅前立地の中規模店など。店舗には従業員の3割に当たる8,800人を抱えるが、閉店後は主に配置転換で対応する。一部の退職は避けられない見通し。観光庁によると、主要旅行62社の2009年度上期(4~9月)の取扱高は2兆8,600億円弱で前年同期比約17%減。うちJTBはグループで約18%減の7,400億円強。JTBは旅行市場全体で2011年度の店頭販売額は2007年度に比べて約3割落ち込むと見ている。

 ★需要低迷を受け主力の店舗販売を縮小する一方、成長市場のネット事業を強化する。JTBは取扱額に占めるネット比率(2009年度見込みで7%)を2011年度に12%へ引き上げる計画。外部企業・観光団体サイトからのJTB商品のネット予約を可能にしているが、提携先を2010年度に10倍の100社・団体に増やす。ネット販売の商品数も2倍の約30万種類にする。

 ★コストの安いネット商品に本格的に取り組むことで値下げ競争が激化するのは必至。ネット旅行商品は他社と価格比較が容易のため店頭商品より安い場合が多い。ネット通販の消費市場は身近な分野で急速に拡大しており、企業の事業構造転換を加速しそうである。


●今日の気づき

 ★見出しを見て一番初めに感じたのは、旅行商品に対する安心感がネット販売を拡大させているということである。物品であれ、サービスであれ、商品に信頼が増してくると、ネット市場に載ってくる。ネット通販が成長する背景には商品の品質の向上と商品の信頼性が必ずある。マクロ的な消費市場の変化軸に品質の向上と商品への信頼性が加わる時代に入った。

 ★ネットで紹介される旅行商品を見ると、安心できる情報が多いと言える。旅行先のホテルや旅館が有名であること。知らないホテルや旅館であっても、一般的には無名でも個性のあるところがあるが、有名な旅行会社が案内するので信頼できること。価格比較など旅行商品を横断的に比べられるサイトで旅行会社が提供する商品を判断できること。ホテルや旅館がいい加減な情報を提供したり、旅行会社がいい加減な提案をすると、利用者のリピートが来ないだけでなく、評判がネットで伝わり、リピートを得られない以上のダメージを受けることになる。もう1つ。旅行商品のネット購入者が増えており、自らの経験や友人の経験など身近に判断材料が多くなっていることなども商品の信頼性を高くしている。

 ★チケット購入などで旅行会社の店舗に行った時、隣りで旅行商品の説明を受けている顧客がいることがある。その機会に少し見る限りだが、旅行先や宿泊施設はネットで見るのと同じようなパンフレットを見せているし、説明も基本的にはネットでもわかるような内容が多いように感じる。パソコンを利用している人にとっては、店頭まで足を運ぶメリットが少なくなっているのではないだろうか。ネット情報ですべてが満足できるというのではなく、知りたいことがあれば、電話で聞くことができるし、ネットで調べることもできる。予約の申込やチケットの発券などの事務的なことはパソコンからで十分である。店頭で説明を受けたり申し込んだりすることの半分以上が、または当然店頭に行かないので100%が、パソコン上で事足りることになる。

 ★旅行商品を考えると、旅行会社のオリジナル要素は、交通手段、観光スポット、宿泊施設以外で作らなければならない。宿泊施設が旅行会社によって同じ条件なのに料理や料金を変えるのは難しい。価格も同じ条件で公共交通機関を利用する限りは差異を付けにくい。付加価値サービスをどう設定して、どう価格的な魅力を付けるかである。ネット通販の拡大は市場を形成する要件をフラットにする。要素の組み合わせだけでは差異が出せない。顧客が認める付加価値をどう創り出すかがポイントになる。ある意味で、ネット通販の普及は、従来の思考では大手の規模のメリットが出せなくなってくるのではないだろうか。市場の変化軸が変わるということは、スポーツであれば競技場だけでなく競技の内容も変わっているということで、戦う選手に求められる条件も違ってくる。新しい消費市場への対応では蓄積と革新の重要性が増している。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第37回 プロの技の生活者への提供が社会を豊かにする

2009年11月25日 05時46分19秒 | 今日の気づき
【2009年11月25日(水)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 11月25日(水) 朝刊 35面


◆記事の見出し

 《カルチャー教室 都市ホテル盛況》《接待作法など プロの指導 好評》


◆記事の内容

 ★都市ホテルが開くカルチャー教室が盛況。接待の作法、料理、葉巻の吸い方までテーマは様々。一般的なカルチャー教室より割高だが、ホテルのプロから学べる点が受けている。

 ★京王プラザホテル(東京・新宿)の「ビジネスパーソン向け接待術講座」は宴会に不慣れな20~30歳代の男性会社員に人気。グランドハイアット東京(東京・港)は12月に親子で参加できる料理教室を開く。クリスマス料理をホテルの総料理長から学べる。ホームパーティを控えた主婦の予約が目立つ。セルリアンタワー東急ホテル(東京・渋谷)は来年2月にホテル内のバーで葉巻の吸い方を学ぶ講座を開く。


●今日の気づき

 ★学歴、知識、情報、行動範囲、生活物資、消費など、あらゆる分野で、特に質より量の部分で成熟してきている。こうした成熟社会における「豊かさ」を考える時、プロの知識や技をいかに一般庶民に還元するかが大きなポイントになると考えてきた。それもビジネス色をできるだけ小さくして専門知識を提供することが大事だと思っている。人が動き、事を起こすためには費用がかかるが、それをいかに吸収し、専門知識の循環システムを築くかが課題である。

 ★記事で紹介しているカルチャー教室はビジネスだが、プロの知識と技の生活者への提供では注目したい。といって、この類いのカルチャー教室は今に始まったことではなく、ずっと前から行われてきたし、もちろん、ホテルだけでなく、百貨店や自治体などでも実施されてきた。ただ、こうしたことが、特別な催しでなく、地域の有名店や商店街の老舗、特技を持った地域の人たちが普段に行うことで「豊かな地域」ができないだろうかと、いつも考えてきたが、記事の見出しが、その考えを思い起こさせた。ビジネスとはいえ、プロの知識や技の社会への還元は大賛成である。

 ★発生する費用の負担をどういう形で吸収するかは別にして、プロの知識と技の範囲にもよるが、生活者の出費はゼロか少額が望ましい。ゼロより少額の方が学ぶルールを作りやすいかもしれない。料理教室などがわかりやすいので、1つの仮定で考えてみた。町の大衆食堂、高級レストラン、ホテルのレストランがそれぞれ料理教室を開いたとする。開く場所は地元とそれ以外の両方を考えてみる。

 ★そうすると、自店と同業他店にマイナスの影響を与えるのは町の大衆食堂だけである。ここで想定した大衆食堂は料理のコツを伝授することで家庭でも同じ味が出せて顧客の来店が減る懸念がある場合である。食堂で外食する要素は味だけでなないこと、大衆食堂の味のレベルは様々なので、あくまでも仮定として考えたい。そうした大衆食堂が地元で料理のコツを提供すれば、地元の顧客の来店が減ることがあり得る。他地域で教室を開いた場合は、自店の地元客への影響はないが、教室を開いた地域の同じような大衆食堂にはマイナスの影響が出る可能性がある。自店に影響がないとはいえ、同業者にマイナスの影響が出ることは行うべきではない。また、生活者のためになるとはいえ、自店ならびに同業者にマイナスの影響が出ることを自ら行う理由は見当たらない。

 ★一方、高級レストランとホテルのレストランの場合は、一般的には、生活者の料理知識と技との差が大きいので、プロの技の伝授は、生活者の家庭内料理の質を高めることはできても、レストランの味との差は歴然なので、技の伝授が顧客の来店に影響を与えることはない。むしろ、店舗の宣伝になり来店客が増えることが考えられる。どの地域でも同じ状況が考えられるので、自店の出店地域以外で料理教室を開催しても、その地域の同業者に影響を与えることはないと言える。高級レストランやホテルのレストランは広域商圏なので出店地域外での教室は自店の宣伝にもなる。間接的に、生活者の料理技術の向上は家庭内料理と大差のない味の領域で止まっている大衆食堂は影響を受けてしまうかもしれない。

 ★大衆食堂とはいえ、料理のコツを公開しても、家庭内料理との差が埋まらない味と来店のメリットを十分に提供できていれば、高級レストランやホテルのレストランと同じように宣伝効果を出すことができる。大事なことは、顧客に支持されるプロの要素を、レストランの規模や業態に関係なく、それぞれの対場で提供できているかどうか、提供できる努力をしているかどうかが問題である。

 ★競争の激しい時代には、何か1つ光るものを持っているところが生き残っていける。そうしたプロの知識と技の生活者への提供と自店の繁栄は両立できるものと考えられる。その結果、自店も繁栄し地域の生活者の生活も豊かになると。成熟社会の先を目指して、様々な試行錯誤が続けられていくだろうが、「生活者が主役」の一点だけは外すことはできない。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第36回 顧客の「囲い込み」は時代遅れの戦略

2009年11月24日 16時04分58秒 | 今日の気づき
【2009年11月24日(火)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 11月23日(月) 朝刊 1面


◆記事の見出し

 《企業 強さの条件》《序章 多極世界に挑む 5》
 《地方にある「国際価格」》《小回り生かし外資に勝つ》


◆記事の内容

 ★「新北海道価格」を掲げる札幌の食品スーパー、ビッグハウスエクストラは競合店が追随できない低価格で年間売上高は50億円にのぼる。利幅を削る値下げ競争とは一線を画し、売上高経常利益率は業界平均の2倍以上の7%。惣菜の容器をポリ袋にし、電気代もぎりぎりまで削るなど、経費削減に努力しており、まだ値下げ余力はあるという。同店を運営するアークスの横山 清社長が言う「所得が低下しても十分な生活ができる価格」という方針も紹介している。

 ★東北のユニバースや東海・北陸のバローなど地方の上場スーパーの業績予想は半数以上が増収増益である。鹿児島の東京ドーム3.7個分の「A-Zスーパーセンター」を構えるマキオも2010年2月期は30%近い増収を見込んでいる。牧尾英二社長の「消費が多様化すれば、品ぞろえや値決めで小回りがきく地方企業が強い」とのコメントも紹介している。

 ★首都圏地盤の食品スーパー、オーケーは価格交渉を進めやすい2位以下の企業の商品を中心に大量調達し顧客の強い支持を受けているが、飯田 勧社長は米ウォルマート・ストアーズの幹部の訪問を受けて、顧客に支持されている理由を聞かれたという。

 ★グローバル化が進んでも、国や地方ごとの消費動向に違いは残る一方で、ネット通販の普及で価格はフラット化する。法政大学の矢作敏行教授は「国際価格」の広がりを予測する。消費者は世界を見渡して安い商品を探し出す。

 ★北海道の地方企業から家具最大手になったニトリはアジア生産で低価格を実現してきたが、次のターゲットは物流だという。「割高な日本のインフラは可能な限り使わないようにしたい」という似鳥昭雄社長の話も紹介している。ニトリの価格は世界最大手のイケアにほぼ並ぶ。両社はさらに激しい値下げ合戦を繰り広げ、ニトリの効率経営が巨大外資の価格戦略を変えるという。


●今日の気づき

 ★この記事を読んで、一番初めに感じたことは、「顧客は賢い」ということと、メーカーが追い続けてきた付加価値が“飾り物化”して、メーカーが作ってきた商品の価値と顧客のニーズとの間が広がりつつあるのではないかということである。その背景にあるのは「品質の向上」である。賢い生活者と品質の向上が世界の消費社会を大変革させようとしている。そういう賢い生活者を相手に「顧客の囲い込み」という戦略は時代遅れになっているのではないだろうか。

 ★小売業は、商品は変わらないのに、きれいな陳列ケースに並べることで商品の見栄えを良くし、きれいなトレーに惣菜を盛ることで、商品陳列の見栄えを良くし、そのまま食卓にも出せるというイメージを提供してきた。しかし、顧客は、陳列ケースは清潔でさえあれば特別のこだわりを意識しなくなり、トレーはトレーという認識で、きれいなトレーが食卓に並んでいても、陶磁器の盛り皿の代わりになって素晴らしい食事のシーンが作れたと感じる顧客はほとんどいないのではないだろうか。むしろ、用済みのトレーはきれいに洗ってリサイクルに出さなければならなくなり、後始末の方が面倒だと感じている生活者も多いと思われる。皿に移し替えた時に美味しく感じられるようにできるのであれば、持ち帰る容器がトレーであることに付加価値は見出しにくいのではないだろうか。味が良ければポリ袋で十分で、それで安くなるなら、さらに良いということになる。

 ★2位以下のメーカーといえども、大企業である。万が一にも億が一にも、粗悪品を造っているメーカーであったとしても、いくら安くても生き残っていける時代ではない。小売業も粗悪品を売って廉価販売をしていては生き残ることはできない。生活者はきちんと見るべきものは見ている。信頼できる小売業が仕入れた信頼できるメーカーの商品は生活者の支持が得られる。顧客がその商品を選ぶかどうかは、顧客の嗜好と価格への納得性による。生活者が見極めに失敗しても、連戦連敗はあり得ない。商品の陳列の仕方、提供の仕方などは商品を選ぶ要素のランクを下げてきていると感じている。

 ★かつて、家電製品であまりに多機能化して、生活者にとっては、あったらいいなと思っても使わない機能が盛りたくさんで、“シンプル・イズ・ベスト”指向が強調された時期があった。使わない機能をカットして、その分、価格を下げた方が購買マインドが強くなるということである。家計支出に今より余裕のあった時ですら、そうである。家計支出が縮小している現在では、なおさらである。

 ★品質の向上は、世の中を大変大きな変革へと向かわしめる。現在のパソコンの能力は初期の汎用コンピュータを凌駕していると言われている。品質の向上がパーソナル市場からビジネス市場への発展を実現させた。インターネットのビジネス市場での活用では、ついこの間まで、回線ダウンが心配だと言われていたが、今は言われなくなった。「クラウド・コンピューティング」という言葉を目にしない日がないくらいである。

 ★品質の向上は生活者の価値観を変えた。生活者は、失敗もするが、日々の買物で学習している。消費期限間近の商品をディスカウント販売している小売店に顧客が押し寄せている光景がテレビで紹介されたりしているが、安いからだけで顧客が集まっているのでない。品質への安心感が背景にある。中国食品を敬遠する生活者も消費期限間近の商品を買っている生活者も、同じ価値観を持つ生活者である。20年ほど前、ニューヨークのドラッグストアでカメラのフィルムを買ったが、消費期限2か月前のフィルムであった。日本で売られているフィルムの消費期限が2年くらい先のものが普通だった時のことである。商品の保管に少し不安を感じたが、すぐ使うものだったので安心して買った。世界のコダックの商品であることが安心感を与えた。使ってみて何の問題もなかった。店舗経営上は発注管理や在庫管理に問題はあったと言える。品質に裏付けされた商品の信頼感は、小売の形態、販売の仕方を大きく変える可能性を秘めている。ネット販売が伸びるのも、買物の便利さや価格比較をしやすいという理由だけでなく、品質への安心感が背景にあるからである。

 ★生活者にとっては、これだけ自由に店舗や商品を選べて、買い方や支払方法まで選択肢が広がっているのに、小売業に「固定客」にされたり、「囲い込み」をされるのは、決してうれしく思っているわけはないと思う。小売業がそういう言葉を使っていても、顧客にその言葉を直接伝えるわけでもないので、戦略の表現の仕方に過ぎないとも言えるが、「固定客」、「囲い込み」という言葉には、海で魚を獲るように、魚の方が人間より「下」というようなニュアンスを感じてしまう。人間と魚の関係でなく、人間と人間の関係だから、そういうニュアンスには抵抗感を感じる。

 ★顧客には自由に泳いでもらって、こちらの企画を投げた時に、どれだけ集まってもらえるかの勝負である。「固定客」や「囲い込み」というと、固定化されたターゲットの顧客があって、その顧客のニーズにいかに対応していくのかという印象になるが、顧客横断的にニーズを切り口に集客するポジショニングの確立が最も必要な時代に来ているのではないだろうか。低価格ニーズの恒常的な高まりの中で同質化競争が強くなっている。同質化競争でも勝ち、異質化競争でも勝たなければならない、大変舵取りの難しい時代に入っている。時代の大きな変革期、なかんずく、小売業にとっては消費社会、消費者意識の大変革期である。これからの日本、世界の動向を考える時、避けて通れない、通過しなければならない「時」を迎えているように感じている。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第35回 「値下げ」は「客単価アップ」挑戦への好機

2009年11月20日 17時28分17秒 | 今日の気づき
【2009年11月20日(金)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 11月20日(金) 朝刊 1面


◆記事の見出し

 《食品・日用品の6割 値下げ》《7~10月店頭価格 本社60品目調査》《ティッシュ サラダ油 特売で集客》
 《原料高、値上げの動きも》


◆記事の内容

 ★食品・日用品の店頭価格下落が続いている。日本経済新聞社は、全国のスーパーの販売情報を集める「日経POSデータ」を使い、7月~10月の食品・日用品60品目の店頭価格を調査した。その結果、7月から10月にかけて6割弱の34品目が値下がりした。

 ★調査したのは生鮮食品を除く食品38品目、日用品22品目で、主要メーカー品やPB商品の平均価格を調べた。10月の価格が7月に比べて下がったのは、ティッシュ(下落率4.4%)、食品包装フィルム(同5%)、バター(同3.6%)、サラダ油(同3.3%)など集客の目玉商品が多い。

 ★一方、22品目は値上がりした。食パン(上昇率2.5%)、シャンプー(同1.6%)、牛乳(同0.5%)などである。

 ★店頭価格の推移では、昨年夏までは原材料高騰を受けて上昇したが、昨年9月のリーマン・ショックを機に消費が低迷すると、今年に入り小売各社が値下げ競争に突入した。今年の10月の価格を1月と比較すると、9割弱の52品目が下がり、上昇は1割の6品目にとどまる。昨年1月と比較してもサラダ油、ティッシュなど5割強の32品目が下がっている。

 ★集客をねらった小売の値下げは必ずしも売上の増加につながっていない。価格下落はなお続く可能性が高く、景気の落ち込みを招く恐れもある。


●今日の気づき

 ★一度値を下げた商品を値上げするのは難しい。顧客を「値上げ」に付いて来てもらうためには顧客の所得環境が相当改善しなければならない。また、相当納得してもらえる材料がなければならない。原料高で軒並み値上がりをした時には、顧客は仕方なくという気持ちを抱きつつも、「値上げ」に付いて来た。しかし、所得環境が悪化すると、値下げをしないと、顧客は財布を開けなくなった。顧客が、値下げした商品の値上げを受け入れるほどには所得環境の改善は望めないだろう。値下げした価格が顧客にとっての「値ごろ感」になっている。定着した「値ごろ感」を変えるのは至難のことと言える。

 ★特売も同じである。いつも特売の対象になる商品などの店頭価格の下落は特売チラシを見ている限りは底値感がある。特売価格が通常価格化している。小売業が努力をして特売価格を10円や20円安くしても、顧客は買得と感じなくなっている。基本的には特売常連商品は特売で買うものという認識が強くなっている。冷凍食品は5割引特売で買うものと考えている顧客が多い。値上げすると、顧客は値上げしていないスーパーに奪われてしまう。チラシで特売常連商品を見続けていると、小売の値下げ努力は限界に近く、顧客離れを食い止めるためには値上げもできないという状況にあるように感じている。結果として、特売価格は通常価格化し、通常価格化した特売価格は、ワクワクするような特売の魅力を失いつつあるのではないだろうか。

 ★しかし、小売業側にとっての特売の魅力は集客できるということではないだろうか。問題は特売で集客しても売上増に結び付かなく、客単価が上がらないことである。価格訴求の特売は、現状以上に大きく変化させるのは難しそうである。特売はあくまでも集客手段と考え、客単価アップは他の売場の販売で行うべきだと考えている。小売業は当然、そう考えていることと思われるし、小売のプロが施策を練っても、それができないから売上が低迷しているのであろう。

 ★しかし、顧客の立場で店舗に行くと、考えさせられることがある。例えば、食パンは特売常連商品である。特売では大量陳列されている。食パンが特売で売られていても、インストアベーカリーのある店舗では、インストアベーカリー売場にも顧客はレジにたくさん並んでいる。インストアベーカリーの「値ごろ感」への対応が顧客の支持を受けているのだろうが、インストアベーカリーの食パンは大手メーカーの食パンより高いし、菓子パンも同様である。メーカーパンの2倍以上するような商品は多く買われないかもしれないが、決して安価なパンしか買われないということでもないと思われる。

 ★「低価格」という言葉を聞くと、消費の「二極化」を連想することが多いように思われる。確かに、二極化には違いないが、低価格指向の顧客層と、ちょっと上の価格帯を指向する顧客層に分かれるのではなく、一人の顧客が低価格指向とちょっと上指向を使い分けているのである。特売で集客しても客単価が上げられていないとすれば、ちょっと上指向への対応ができていないのではないだろうか。逆に言えば、ちょっと上指向への対応ができていれば特売による客単価アップ効果が出せるということである。

 ★「値ごろ感」の作り方の問題と言える。特売の「値ごろ感」は出来上がっていて変えるのは難しいかもしれないが、もう一方の「値ごろ感」作りは可能性を秘めている。その可能性を、どれだけ引き出せるかが「デフレ時代」の舵取りの妙味ではないだろうか。

(東)