【2009年12月4日(金)】
◆読んだ新聞
日本経済新聞 12月4日(金) 朝刊 11面
◆記事の見出し
《ブランド変調 3 危機後の選択》《次の「公式」模索》《巨費投入の宣伝 限界》
◆記事の内容
★キリンビールが創業100周年の2007年3月に「ラガー」、「一番搾り」に続く主力ブランドに育てることを念頭に投入した「ザ・ゴールド」が今春、全国の店頭から姿を消した。発売当初につぎ込んだ販促費用は数十億円に上るとみられる。500万本のサンプルを配るなど全国でPRした。テレビCMなどメディアでの宣伝も過去最大級で展開した。しかし、初年度の販売量は予定の6割にとどまり、2008年はさらに販売量がしぼんだ。
★原材料高による食品・日用品などの値上がりで、生活防衛から消費者はビールより約3割安い「第三のビール」へのシフトをすでに強めていた。2008年秋の同時危機がこの傾向を顕著にした。経営陣は生産中止を決断せざるを得なかった。
★有力企業がヒト・モノ・カネをつぎ込み、消費者へ浸透を図るブランドづくりの「公式」が世界経済の大きな転換の中で機能しにくくなっている。
★サマンサタバサジャパンリミテッドは、若い女性向けバッグなどのブランド「サマンサタバサ」を
日本発の世界ブランドに育てようと、広告に米人気歌手のビヨンセさんなど日米欧のセレブを起用するマーケティングを展開、女性のあこがれを誘う手法で成長したが、2008年度は一転して最終赤字となった。同社の寺田和正社長は「有名人と同じモノを持とうとする気持ちが薄れた」と語っている。宣伝手法を見直すほか、海外出店もニューヨークに広告塔をつくるやり方からアジアで地道に広げる戦略に転換する。
★ブランドコンサルタント、ビーエムウィン・ブランディングオフィスの水野与志朗社長は「広告など既存の手法だけではブランド価値を高めるのは難しくなった」と指摘する。
★1~10月の登録台数が前年同期比22.8%減となるなど低迷が続く輸入車市場で、9月に輸入車初のハイブリッド車(HV)を発売したメルセデス・ベンツ日本は、日本でだけ「ハイブリッド」の文字を記したプレートを車体に付けられるオプションを設けた。トヨタ自動車のHV「プリウス」は一目でプリウスと認識できる外観が特徴である。しかし、ベンツのHVの見た目は普通のSクラスと変わらない。「販売店から外観でハイブリッドを強調できる方が売りやすいと言われた」ことのよる措置だが、老舗ブランドのベンツでさえ消費者の価値観の変化を考慮せざるを得ない。
★ティッシュ「ネピア」ブランドを持つ王子ネピアは、テレビCMを取りやめて、その宣伝費の半額を東ティモールのトイレ整備に振り向けたところ、値上げにもかかわらず衛生用紙市場でシェアがわずかに拡大した。
★新たな答えを導く公式は、エコや社会貢献なのか。ブランド力を磨くための模索は続く。
●今日の気づき
★生活者主権の時代に生活者を「魚」に見立てるのは、してはならないことだが、自分も「魚」の1匹だという認識で、あえて分かりやすい例として、世界の海を泳ぐ魚と漁師の関係で考えてみる。海面下の魚群は水温や餌事情など様々な変化で移動を始めているにもかかわらず、漁師は従来からよく獲れた漁場に従来と変わらない餌を撒き、網を張る。しかし、漁獲量は思わしくない。魚群探知機には確かに魚影が映っているので、同じことを繰り返すが、結果は同じで、むしろ漁獲量は減る一方である。魚に「意志」があるかどうかは分からないが、魚群探知機では魚影は映し出せても、魚群の「意志」、魚群の「意志」が向いている方向までは探知できない。海面の上からはよく見えないのだが、漁場が大きく変化していることは間違いない。
★消費市場も大きく変化している。過去の経験では予想がつかない変化軸を変えた変化が起こっているのではないだろうか。巨費を投入して効果のない宣伝などあろうはずがない。効果が出ないのは効果の出せない宣伝をしているからではないだろうか。的を射ていないだけであろう。あたかも魚影が見えているものの、魚群が変化を起こしているのに、従来と同じように餌を撒き、網を張っているのと似ている。
★「ザ・ゴールド」が例に取り上げられているが、すでに自社内で巨大2銘柄があり、それをも凌ぐようなインパクトがなかったように感じている。既存2銘柄に対して、激しい自社競合を展開するほどの目が覚めるような驚きと違いがあれば、メディアが取り上げ、消費者の関心も集めたと思われる。「ビール素人」にも分かるくらいの強いインパクトがあれば、自社3銘柄揃い踏みも可能であったように思う。
★しかし、これは現実が示すように、不可能に近いほど困難なことではなかったのかもしれない。あまりにも周りの味が向上しているので、違いが出し切れなかったのではないか。あるいは、専門家から見て、確かな違いがあったとしても、周りの味のレベルアップが、その違いを生活者に気づかせられなかったのではないだろうか。一方、割安とはいえ、「第三のビール」は競うように味を上げ、新商品を連発し、次から次へと宣伝攻勢をかけている。「ザ・ゴールド」の宣伝展開も品質・味のアピールも、こうした新しい動きの中に埋没した観があり、宣伝の効果を目立たなくしてしまったのではないだろうか。
★そういう市場環境を作ってきたのはビール業界自身である。毎年、銘柄名を覚えられないほど、ビール系3ジャンルで新商品が発売される。銘柄名だけを見て、ビールなのか、発泡酒なのか、第三のビールなのか、言い当てられる人は少ないのではないだろうか。値段を見て、初めて判別でき、売場で買おうかどうしようかと考えていると、頭に映像が残るテレビCMに背中を押されて、つい買ってしまうと、意外とおいしいと、買ったことに後悔をしない。といって、次もその銘柄を買うかというと、違った銘柄を試してみようと、初めて経験する銘柄を買ってみる。ほとんど後悔することはなく、それなりに、味に合格点を与えている。銘柄に頑なにこだわっている人以外は、そんな感じではないだろうか。銘柄にこだわっている人でも、大勢で飲む時には、普段はあまり飲まない銘柄でも、おいしく飲んでいる光景をよく見る。
★2008年11月初旬1週間の首都圏コンビニエンスストアのビール系飲料のPOSデータが手元にある。ビール、発泡酒、第三のビールとも、上位の銘柄を見ると、同じ銘柄の500ml缶と350ml缶が隣り合わせの順位で並んでいる。ところが、ビールは「アサヒ スーパードライ」と「キリン ラガー」は500mlが上位で350mlが下位だが、他の銘柄は350mlが上位で500mlが下位となっている。一方、発泡酒と第三のビールは同じ銘柄で500mlが上位で350mlが下位で並ぶ。ビール党は量を我慢して出費を抑え、ビール党以外は量を優先して出費を抑える傾向が見て取れる。
★ビール市場は縮小傾向にあるとはいえ、ビッグマーケットであることには変わりはない。ビール系飲料全体の味が上がり、味の差が接近している。様々と飲み比べて、「どれがおいしい」でなく「どれもおいしい」というのが現状と言える。そういう市場では、宣伝の効果が現われやすいはずである。金額もさることながら、マーケティングの在り方が問われているのではないだろうか。
★消費市場全体が冷え込む中で、エコカーの販売が好調である。様々な特典があるとはいえ、エコカーの市場は、従来の車の市場の延長でなく、新しい市場を形成しているのではないだろうか。PB商品が好調なのは、従来商品が安いというのでなく、「PB」という新しい市場が形成されているという見方ができる。従来の延長でありながら、そのつながりをいったん断ち切って、新しい市場を創造する、そういう市場の変化が大きく顕在化しているのではないだろうか。
(東)
◆読んだ新聞
日本経済新聞 12月4日(金) 朝刊 11面
◆記事の見出し
《ブランド変調 3 危機後の選択》《次の「公式」模索》《巨費投入の宣伝 限界》
◆記事の内容
★キリンビールが創業100周年の2007年3月に「ラガー」、「一番搾り」に続く主力ブランドに育てることを念頭に投入した「ザ・ゴールド」が今春、全国の店頭から姿を消した。発売当初につぎ込んだ販促費用は数十億円に上るとみられる。500万本のサンプルを配るなど全国でPRした。テレビCMなどメディアでの宣伝も過去最大級で展開した。しかし、初年度の販売量は予定の6割にとどまり、2008年はさらに販売量がしぼんだ。
★原材料高による食品・日用品などの値上がりで、生活防衛から消費者はビールより約3割安い「第三のビール」へのシフトをすでに強めていた。2008年秋の同時危機がこの傾向を顕著にした。経営陣は生産中止を決断せざるを得なかった。
★有力企業がヒト・モノ・カネをつぎ込み、消費者へ浸透を図るブランドづくりの「公式」が世界経済の大きな転換の中で機能しにくくなっている。
★サマンサタバサジャパンリミテッドは、若い女性向けバッグなどのブランド「サマンサタバサ」を
日本発の世界ブランドに育てようと、広告に米人気歌手のビヨンセさんなど日米欧のセレブを起用するマーケティングを展開、女性のあこがれを誘う手法で成長したが、2008年度は一転して最終赤字となった。同社の寺田和正社長は「有名人と同じモノを持とうとする気持ちが薄れた」と語っている。宣伝手法を見直すほか、海外出店もニューヨークに広告塔をつくるやり方からアジアで地道に広げる戦略に転換する。
★ブランドコンサルタント、ビーエムウィン・ブランディングオフィスの水野与志朗社長は「広告など既存の手法だけではブランド価値を高めるのは難しくなった」と指摘する。
★1~10月の登録台数が前年同期比22.8%減となるなど低迷が続く輸入車市場で、9月に輸入車初のハイブリッド車(HV)を発売したメルセデス・ベンツ日本は、日本でだけ「ハイブリッド」の文字を記したプレートを車体に付けられるオプションを設けた。トヨタ自動車のHV「プリウス」は一目でプリウスと認識できる外観が特徴である。しかし、ベンツのHVの見た目は普通のSクラスと変わらない。「販売店から外観でハイブリッドを強調できる方が売りやすいと言われた」ことのよる措置だが、老舗ブランドのベンツでさえ消費者の価値観の変化を考慮せざるを得ない。
★ティッシュ「ネピア」ブランドを持つ王子ネピアは、テレビCMを取りやめて、その宣伝費の半額を東ティモールのトイレ整備に振り向けたところ、値上げにもかかわらず衛生用紙市場でシェアがわずかに拡大した。
★新たな答えを導く公式は、エコや社会貢献なのか。ブランド力を磨くための模索は続く。
●今日の気づき
★生活者主権の時代に生活者を「魚」に見立てるのは、してはならないことだが、自分も「魚」の1匹だという認識で、あえて分かりやすい例として、世界の海を泳ぐ魚と漁師の関係で考えてみる。海面下の魚群は水温や餌事情など様々な変化で移動を始めているにもかかわらず、漁師は従来からよく獲れた漁場に従来と変わらない餌を撒き、網を張る。しかし、漁獲量は思わしくない。魚群探知機には確かに魚影が映っているので、同じことを繰り返すが、結果は同じで、むしろ漁獲量は減る一方である。魚に「意志」があるかどうかは分からないが、魚群探知機では魚影は映し出せても、魚群の「意志」、魚群の「意志」が向いている方向までは探知できない。海面の上からはよく見えないのだが、漁場が大きく変化していることは間違いない。
★消費市場も大きく変化している。過去の経験では予想がつかない変化軸を変えた変化が起こっているのではないだろうか。巨費を投入して効果のない宣伝などあろうはずがない。効果が出ないのは効果の出せない宣伝をしているからではないだろうか。的を射ていないだけであろう。あたかも魚影が見えているものの、魚群が変化を起こしているのに、従来と同じように餌を撒き、網を張っているのと似ている。
★「ザ・ゴールド」が例に取り上げられているが、すでに自社内で巨大2銘柄があり、それをも凌ぐようなインパクトがなかったように感じている。既存2銘柄に対して、激しい自社競合を展開するほどの目が覚めるような驚きと違いがあれば、メディアが取り上げ、消費者の関心も集めたと思われる。「ビール素人」にも分かるくらいの強いインパクトがあれば、自社3銘柄揃い踏みも可能であったように思う。
★しかし、これは現実が示すように、不可能に近いほど困難なことではなかったのかもしれない。あまりにも周りの味が向上しているので、違いが出し切れなかったのではないか。あるいは、専門家から見て、確かな違いがあったとしても、周りの味のレベルアップが、その違いを生活者に気づかせられなかったのではないだろうか。一方、割安とはいえ、「第三のビール」は競うように味を上げ、新商品を連発し、次から次へと宣伝攻勢をかけている。「ザ・ゴールド」の宣伝展開も品質・味のアピールも、こうした新しい動きの中に埋没した観があり、宣伝の効果を目立たなくしてしまったのではないだろうか。
★そういう市場環境を作ってきたのはビール業界自身である。毎年、銘柄名を覚えられないほど、ビール系3ジャンルで新商品が発売される。銘柄名だけを見て、ビールなのか、発泡酒なのか、第三のビールなのか、言い当てられる人は少ないのではないだろうか。値段を見て、初めて判別でき、売場で買おうかどうしようかと考えていると、頭に映像が残るテレビCMに背中を押されて、つい買ってしまうと、意外とおいしいと、買ったことに後悔をしない。といって、次もその銘柄を買うかというと、違った銘柄を試してみようと、初めて経験する銘柄を買ってみる。ほとんど後悔することはなく、それなりに、味に合格点を与えている。銘柄に頑なにこだわっている人以外は、そんな感じではないだろうか。銘柄にこだわっている人でも、大勢で飲む時には、普段はあまり飲まない銘柄でも、おいしく飲んでいる光景をよく見る。
★2008年11月初旬1週間の首都圏コンビニエンスストアのビール系飲料のPOSデータが手元にある。ビール、発泡酒、第三のビールとも、上位の銘柄を見ると、同じ銘柄の500ml缶と350ml缶が隣り合わせの順位で並んでいる。ところが、ビールは「アサヒ スーパードライ」と「キリン ラガー」は500mlが上位で350mlが下位だが、他の銘柄は350mlが上位で500mlが下位となっている。一方、発泡酒と第三のビールは同じ銘柄で500mlが上位で350mlが下位で並ぶ。ビール党は量を我慢して出費を抑え、ビール党以外は量を優先して出費を抑える傾向が見て取れる。
★ビール市場は縮小傾向にあるとはいえ、ビッグマーケットであることには変わりはない。ビール系飲料全体の味が上がり、味の差が接近している。様々と飲み比べて、「どれがおいしい」でなく「どれもおいしい」というのが現状と言える。そういう市場では、宣伝の効果が現われやすいはずである。金額もさることながら、マーケティングの在り方が問われているのではないだろうか。
★消費市場全体が冷え込む中で、エコカーの販売が好調である。様々な特典があるとはいえ、エコカーの市場は、従来の車の市場の延長でなく、新しい市場を形成しているのではないだろうか。PB商品が好調なのは、従来商品が安いというのでなく、「PB」という新しい市場が形成されているという見方ができる。従来の延長でありながら、そのつながりをいったん断ち切って、新しい市場を創造する、そういう市場の変化が大きく顕在化しているのではないだろうか。
(東)