【2009年10月26日(月)】消費不振はいろいろな問題点を炙り出してくれる。所得が減り、かつ所得が安定しないということは、生活者にとっては大変厳しい現実だが、炙り出された問題点が改善されて消費生活が豊かになることは望ましいことである。そういう方向に進んでいくことは間違いない。生活者に支持されないと、特に生活者に直接かかわりを持つ川上・川中・川下の企業の存続は危ぶまれるからである。言い換えれば生活者の支持を得られない「生活関連企業」は生き残れないということであり、しかも、生活者は豊な消費社会への様々な局面を経験して「見る目」を養ってきたので、生活者に納得させるべく説得力のある対応をしないと生き残れないということである。
10月26日付の日本経済新聞 9面の《経営の視点》に〈規模の追求、幻想にすぎず〉、〈低価格商品、智恵でつくる〉の見出し。旧態依然の低価格商品の開発手法に1つの疑問符を投げかけている。大手スーパーの、規模による仕入でコストを引き下げ低価格を実現する、という考え方はスーパー台頭期から変わっておらず、川上への対応を考えていかなければ、低価格化の結果として得られる利益を確保できなくなってしまう、と。大手スーパー各社の2009年3月~8月期の営業赤字は低価格化攻勢に生活者が価値を見出さず生活者の求める商品を提供し切れなかったことも一因だったのではないかとも言える、と解説している。そして、規模の追求が利益をもたらすというのは幻想に過ぎない、規模がないと低価格品ができないというのは言い訳だ、センスと智恵でいい商品はできる、といった、消費財と小売業に詳しい専門家や小売業経営者のコメントを紹介している。結論として、「身近な店舗にいい商品があること。これが強い会社をつくる第一歩だ。」と結んでいる。
これだけ厳しい経済環境下、消費環境下では、企業が利益を出すのは並大抵のことでは実現できない。もともと、企業の利益は、企業活動を構成するすべての部門が関係し合って生み出されるものである。仕入では規模を拡大するだけでなく新しい仕入先の開拓も必要になる。商品開発、物流、販促、販売、人材の育成・活用・配置、情報の活用、意思決定の速さ等々、様々な要素で改善・改革が求められる。
また、同記事では、大手ホームセンターがメーカーと共同開発し448円(750ml)で販売する南米チリ産ワインの成功を紹介している。
記事の内容とは離れるが、ホームセンターの食品販売で日頃感じていることがある。発端は10年以上も前になるかもしれない。その辺りは非常に曖昧だが、正月の何日目かに、正月料理に飽き、冷たい炭酸飲料を飲みたくなった。幸い冷蔵庫にストックがあったので、その思いはすぐに叶えられたが、正月明けに入ってきたドラッグストアの新聞折込チラシを見て、「驚愕」という言葉が相応しいほど驚いたことがある。炭酸飲料が1アイテムだけ、食品スーパーのチラシ価格に負けない破格の値段で特売にかかっていた。まだドラッグストアが取り扱う食品数が今のように多くない時である。チラシ紙面の中でも周りの商品との対比で違和感すら覚えるほどである。多分、冷蔵庫に炭酸飲料のストックがなかったら近くにチラシの店舗があるので、すぐに買いに行ったと思う。その時は、銘柄、種類は問わずに炭酸飲料であれば何でも良いというように、選択の許容範囲は極めて広かった。チラシに載った1アイテムの炭酸飲料が与えたインパクトを忘れることができない。もし、同じ商品がスーパーのチラシに載っていれば、ほかの買物がない限りはスーパーまで行こうとは思わなかったであろうし、ドラッグストアのチラシを見なかったら、通常価格でもコンビニエンスストアに走ったことと思う。品揃えは、顧客個人のニーズよりは顧客共通のニーズが優先される。品揃えのアイテム数や特売対象商品のアイテム数、特売商品の組み合わせによるメニュー提案など、スーパーとドラッグストアやホームセンターとでは同じ次元で特売を論じることはできないが、ドラッグストアやホームセンターの特売がスーパーに与える影響も少なからずあるのではないだろうかと考えている。
そこで、2009年10月中旬を中心とするチラシを見ることにした。見たチラシは、ホームセンター2社、ドラッグストア3社、総合スーパー3社、食品スーパー3社の合計11社である。チラシ特売の期間、特売対象アイテム、特売対象の同類商品の種類・商品数など、すべてを同じ条件で比べられないので、あくまでも参考だが、一部商品において、「ホームセンター・ドラッグストア」対「総合スーパー・食品スーパー」で同類または同アイテムの特売価格比較を試みた。
ビール系発泡酒と新ジャンル。ホームセンターA社は発泡酒のキリン・淡麗と淡麗グリーンラベル350mlを1ケース・24缶で2,880円(6缶当たり720円)。ドラッグストアE社は新ジャンルのアサヒ・ クリアアサヒ350mlを6缶で639円。一方、総合スーパーG社は新ジャンルのサントリー・金麦350mlを6缶で628円。総合スーパーH社も同じく金麦350ml6缶を637円。食品スーパーJ社も同金麦350ml6缶を628円としている。ビール系は新商品が次々と市場に投入され、ビール、発泡酒、新ジャンルの違いは商品名からだけではわかりづらく、価格を見て初めてわかるということもあるが、特売価格などが混じってくると、特に発泡酒と新ジャンルの区別がつかなくなる。味も良くなっており、生活者のブランドロイヤルティは弱くなっている。ビールには固定ファンが多いが、発泡酒や新ジャンルにブランドスイッチをした生活者はブランドへの固執がなくなり、価格やテレビCM、キャンペーンなどの影響を受けやすくなっている。ホームセンターやドラッグストアのビール系商品の特売はスーパーへの影響力を増している。
次は、緑茶飲料のサントリー・伊右衛門2ℓの価格を比較した。ホームセンターB社148円。ドラッグストアC社168円。ドラッグストアD社147円。対して、総合スーパーF社158円。食品スーパーK社158円(他の対象商品を含めて、よりどり2個300円)である。緑茶に限らず、ブレンド茶、ミネラルウォーター、炭酸飲料などのノンアルコール系飲料もホームセンターやドラッグストアではよく品揃えされている。この商品群での異業態競合も激しくなっている。
米も両業態群でよく特売の対象となるが、ドラッグストアや食品スーパーは5㎏袋が対象の中心になっている。米は同じ銘柄でも産地が多く、同じ産地でも農協によってパッケージの商品名表示に違いがある。例えば「秋田県産あきたこまち」、「秋田産あきたこまち」などの違いがある。さらには味を良くするためのブレンドが行われたりする。ここでは商品名は産地と銘柄だけとしたので、ここに挙げた商品はひとつとして同一のものはない。ただし、すべて平成21年産の新米である。ホームセンターA社の新米100%(チラシでは産地の表記はない)は10㎏3,080円。ドラッグストアD社の茨城県産こしひかりは5㎏1,680円。総合スーパーF社の秋田県産あきたこまちは10㎏3,480円。総合スーパーG社のPB秋田県産あきたこまちは5㎏1袋1,780円・5㎏2袋3,480円。食品スーパーI社の福島県産こしひかりは5㎏1,880円で同食品スーパーでは日替わり限定(1日限り)で茨城県産こしひかり5㎏を1,580円で特売。食品スーパーK社は秋田県産あきたこまち5㎏が1,980円だった。
さらに、マーガリンの雪印ネオソフト320gがドラッグストアE社が189円、総合スーパーH社が248円という比較もできた。
ここに挙げたのは、ある特定期間のチラシ広告に掲載された商品の比較であり、他の期間の特売では価格が違っていることもある。「チラシ特売」施策の比較ではない。しかし、単品ベースで見る限りは、ホームセンター、ドラッグストアの特売対象商品の訴求度は総合スーパー、食品スーパーと変わらない。単品購買であれば、最寄型のドラッグストアに顧客の足が向くだろうし、特売対象食品アイテムがホームセンターやドラッグストアの購買を促進することは間違いない。同類商品の競合だけでなく、特売対象商品に限定しても、異業態間で激しい競合が繰り広げられていることがわかる。
先述の大手ホームセンターの「448円ワイン」の成功事例は、低価格商品の開発ということだけではなく、様々な視点を与えている。(東)
10月26日付の日本経済新聞 9面の《経営の視点》に〈規模の追求、幻想にすぎず〉、〈低価格商品、智恵でつくる〉の見出し。旧態依然の低価格商品の開発手法に1つの疑問符を投げかけている。大手スーパーの、規模による仕入でコストを引き下げ低価格を実現する、という考え方はスーパー台頭期から変わっておらず、川上への対応を考えていかなければ、低価格化の結果として得られる利益を確保できなくなってしまう、と。大手スーパー各社の2009年3月~8月期の営業赤字は低価格化攻勢に生活者が価値を見出さず生活者の求める商品を提供し切れなかったことも一因だったのではないかとも言える、と解説している。そして、規模の追求が利益をもたらすというのは幻想に過ぎない、規模がないと低価格品ができないというのは言い訳だ、センスと智恵でいい商品はできる、といった、消費財と小売業に詳しい専門家や小売業経営者のコメントを紹介している。結論として、「身近な店舗にいい商品があること。これが強い会社をつくる第一歩だ。」と結んでいる。
これだけ厳しい経済環境下、消費環境下では、企業が利益を出すのは並大抵のことでは実現できない。もともと、企業の利益は、企業活動を構成するすべての部門が関係し合って生み出されるものである。仕入では規模を拡大するだけでなく新しい仕入先の開拓も必要になる。商品開発、物流、販促、販売、人材の育成・活用・配置、情報の活用、意思決定の速さ等々、様々な要素で改善・改革が求められる。
また、同記事では、大手ホームセンターがメーカーと共同開発し448円(750ml)で販売する南米チリ産ワインの成功を紹介している。
記事の内容とは離れるが、ホームセンターの食品販売で日頃感じていることがある。発端は10年以上も前になるかもしれない。その辺りは非常に曖昧だが、正月の何日目かに、正月料理に飽き、冷たい炭酸飲料を飲みたくなった。幸い冷蔵庫にストックがあったので、その思いはすぐに叶えられたが、正月明けに入ってきたドラッグストアの新聞折込チラシを見て、「驚愕」という言葉が相応しいほど驚いたことがある。炭酸飲料が1アイテムだけ、食品スーパーのチラシ価格に負けない破格の値段で特売にかかっていた。まだドラッグストアが取り扱う食品数が今のように多くない時である。チラシ紙面の中でも周りの商品との対比で違和感すら覚えるほどである。多分、冷蔵庫に炭酸飲料のストックがなかったら近くにチラシの店舗があるので、すぐに買いに行ったと思う。その時は、銘柄、種類は問わずに炭酸飲料であれば何でも良いというように、選択の許容範囲は極めて広かった。チラシに載った1アイテムの炭酸飲料が与えたインパクトを忘れることができない。もし、同じ商品がスーパーのチラシに載っていれば、ほかの買物がない限りはスーパーまで行こうとは思わなかったであろうし、ドラッグストアのチラシを見なかったら、通常価格でもコンビニエンスストアに走ったことと思う。品揃えは、顧客個人のニーズよりは顧客共通のニーズが優先される。品揃えのアイテム数や特売対象商品のアイテム数、特売商品の組み合わせによるメニュー提案など、スーパーとドラッグストアやホームセンターとでは同じ次元で特売を論じることはできないが、ドラッグストアやホームセンターの特売がスーパーに与える影響も少なからずあるのではないだろうかと考えている。
そこで、2009年10月中旬を中心とするチラシを見ることにした。見たチラシは、ホームセンター2社、ドラッグストア3社、総合スーパー3社、食品スーパー3社の合計11社である。チラシ特売の期間、特売対象アイテム、特売対象の同類商品の種類・商品数など、すべてを同じ条件で比べられないので、あくまでも参考だが、一部商品において、「ホームセンター・ドラッグストア」対「総合スーパー・食品スーパー」で同類または同アイテムの特売価格比較を試みた。
ビール系発泡酒と新ジャンル。ホームセンターA社は発泡酒のキリン・淡麗と淡麗グリーンラベル350mlを1ケース・24缶で2,880円(6缶当たり720円)。ドラッグストアE社は新ジャンルのアサヒ・ クリアアサヒ350mlを6缶で639円。一方、総合スーパーG社は新ジャンルのサントリー・金麦350mlを6缶で628円。総合スーパーH社も同じく金麦350ml6缶を637円。食品スーパーJ社も同金麦350ml6缶を628円としている。ビール系は新商品が次々と市場に投入され、ビール、発泡酒、新ジャンルの違いは商品名からだけではわかりづらく、価格を見て初めてわかるということもあるが、特売価格などが混じってくると、特に発泡酒と新ジャンルの区別がつかなくなる。味も良くなっており、生活者のブランドロイヤルティは弱くなっている。ビールには固定ファンが多いが、発泡酒や新ジャンルにブランドスイッチをした生活者はブランドへの固執がなくなり、価格やテレビCM、キャンペーンなどの影響を受けやすくなっている。ホームセンターやドラッグストアのビール系商品の特売はスーパーへの影響力を増している。
次は、緑茶飲料のサントリー・伊右衛門2ℓの価格を比較した。ホームセンターB社148円。ドラッグストアC社168円。ドラッグストアD社147円。対して、総合スーパーF社158円。食品スーパーK社158円(他の対象商品を含めて、よりどり2個300円)である。緑茶に限らず、ブレンド茶、ミネラルウォーター、炭酸飲料などのノンアルコール系飲料もホームセンターやドラッグストアではよく品揃えされている。この商品群での異業態競合も激しくなっている。
米も両業態群でよく特売の対象となるが、ドラッグストアや食品スーパーは5㎏袋が対象の中心になっている。米は同じ銘柄でも産地が多く、同じ産地でも農協によってパッケージの商品名表示に違いがある。例えば「秋田県産あきたこまち」、「秋田産あきたこまち」などの違いがある。さらには味を良くするためのブレンドが行われたりする。ここでは商品名は産地と銘柄だけとしたので、ここに挙げた商品はひとつとして同一のものはない。ただし、すべて平成21年産の新米である。ホームセンターA社の新米100%(チラシでは産地の表記はない)は10㎏3,080円。ドラッグストアD社の茨城県産こしひかりは5㎏1,680円。総合スーパーF社の秋田県産あきたこまちは10㎏3,480円。総合スーパーG社のPB秋田県産あきたこまちは5㎏1袋1,780円・5㎏2袋3,480円。食品スーパーI社の福島県産こしひかりは5㎏1,880円で同食品スーパーでは日替わり限定(1日限り)で茨城県産こしひかり5㎏を1,580円で特売。食品スーパーK社は秋田県産あきたこまち5㎏が1,980円だった。
さらに、マーガリンの雪印ネオソフト320gがドラッグストアE社が189円、総合スーパーH社が248円という比較もできた。
ここに挙げたのは、ある特定期間のチラシ広告に掲載された商品の比較であり、他の期間の特売では価格が違っていることもある。「チラシ特売」施策の比較ではない。しかし、単品ベースで見る限りは、ホームセンター、ドラッグストアの特売対象商品の訴求度は総合スーパー、食品スーパーと変わらない。単品購買であれば、最寄型のドラッグストアに顧客の足が向くだろうし、特売対象食品アイテムがホームセンターやドラッグストアの購買を促進することは間違いない。同類商品の競合だけでなく、特売対象商品に限定しても、異業態間で激しい競合が繰り広げられていることがわかる。
先述の大手ホームセンターの「448円ワイン」の成功事例は、低価格商品の開発ということだけではなく、様々な視点を与えている。(東)