ああ 美味しい!

美味しいものを求めて
ひたすら食べ続けます

職人のリズム2

2004-04-19 19:01:04 | yomoyama

「お待ち申し上げておりました」
「あら輝」のご主人はいつも元気いっぱいだ。
「いつものでよろしいでしょうか」

変化している鮨、行く度になにかが変わる。
シャリの加減、ツメの味、ネタの仕込み加減。
客層も幾分変わってきている。
居合わせた客の話を聞くのも楽しい。

マグロの塊がつけ台に、サク取りもパフォーマンス
ネタを切る、シャリを握る、客と会話する、一人で一生懸命だ。
おいしい鮨は、テンポが速い。アドリブもある。

若い職人にはエイトビートが似合う。


つつじ

2004-04-18 19:43:50 | yomoyama


爽やかな小春日和のなか、みんなが、それぞれの目的をもって歩いている。
道路わきのつつじからやさしい香りがする。
ピンクや白が緑のコントラストの中にうかび、目が痛いほどだ。

前から不思議な軍団が、うつむき加減でぐいぐい押し寄せてくる。
作業ズボンの左右のポケットに新聞が突き刺さる。
我先に券売り場へ急ぐ。
競馬場のスタンドが見えた、たくさんの人が「ウォー」と言っているようだ
脇の緑の広場では、思い思いに座りこんで、新聞をみている。
家族づれもいる。オジサンもいる。たばこをふかした女性もいる。
掃除をしているおばさんたちの背中に「皐月GI」のゼッケンが。
心なしか、みんなうつむいている。早く駆け抜けたい。

軍団を抜けた先に、美味しいパン屋がある。
目指すパン屋は喧騒とは離れゆっくりとした時間を刻んでいた
対面式のケースには、デニッシュ、あんぱん、フルーツで飾られたパン
食パン、バゲット。おいしい香りに包まれほっとする。
店員はせかすわけでもなく、勧めるわけでもなく、おいしそうなパンと
ともに微笑んでいた。奥の厨房では、職人がバゲットにクープを入れていた。
すべるように窯へパンが入る。パンを見ていると次々と買いたくなる。
うきうきとしてくる。店先のベンチで休んでいると。奥から職人が
「バゲット焼けたからもってって」無造作に渡された。
かりかり音がしている、熱い、いい香りがただよう、耐えられずにバリっと
割る、蒸気が立ち上る。そのまま食べた。何物にも替えがたい至福の時。
これに会いに来たのだ。目をとじて深く深呼吸をした。

ふと我に返る、あの軍団の中を、もう一度通らなければならない。
今度は、新聞売りのスタンドと焼きそばを売るアンちゃんが見えた。
バスが到着したらしい、新たな軍団がわらわらと券売り場へ走る。
みんな新聞を持っている。今度はみんな目がぎらぎらしていた。
一人一人がそれぞれ独立していた。誰とも話していない。同じ方向へ
歩いている。一瞬、真空状態のようにシンと静まり返った。早く駆け抜けたい。

みんなが、それぞれの目的をもっているかのように歩いている。
伏目がちで、早足に通り過ぎた。
手にバゲットの残りを掴み、パンの香りを振りまいている自分がいる。
道路わきのつつじがやさしい香りを放つ。
つつじは、胸をはってしっかり活きていた。




花吹雪

2004-04-16 20:42:38 | yomoyama

さくらのはなびらがまいおりてきた
たくさんのおもいでがおりてきた
うたごえやざわめきもきこえてきた
いいかおりもしてきた
よろこびもきこえてきた
かなしみもきこえてきた
たくさんのおもいでがおりてきた
さくらのはなびらはいつのまにか
すがたをけした


職人の仕事場

2004-04-15 07:41:33 | yomoyama


シャラント 竹内豫一氏に初めて会った、ずっと前から知っていた職人に
出会った気がした。店のわきに職人募集の張り紙「一生涯パンを作る人」の字が
竹内氏自身「一生涯パン職人ということだろう」。誰もが自分の仕事にこんなに
真剣になれるのだろうか。パン職人に共通する頑固さは見ていて気持ちのいいものだ。

奥の方で竹内氏の声が、「どうぞこちらへ!」はじめて厨房へ入る。休み
の前の厨房はがらんとしていた。窯の前で洗濯物を干していた。
「ちょっと待って」といいながらT-シャツとパンツがボンガードの前に干される。
あいさつもそこそこに、前掛けをきりっとしめて、職人の顔が戻る。
ここの厨房は竹内氏の城。粉をこねる台の前に初代JPB会長の写真、師匠だ
そうだ。毎日基本に帰る、師匠に言葉をかけながらあのパンが捏ねられ焼かれ
出来上がっていくのだろう。

何を話そうか緊張していると、竹内氏のほうから「これ三宅さんがくるから
とっといたんだ、食べてみて」とさっそくきた。

バゲットをたべた、どこか懐かしい香りと旨み、バリバリのクラスト
噛んでいくうちに、じんわり広がるおいしさは何物にもかえがたい。
どこかで味の記憶のスイッチが入る。前と変わっていないが和のテイスト
である。ここまで微妙な味わいはどこからでてくるのか。今でも一人で
この広い厨房を取り仕切る、朝早くから真剣勝負が始まる。客の喜ぶ
顔を想いながら40年、毎日同じ仕事を繰り返す、パンは魔物だと言い切る
。毎日変化し、人を試してくる。フランスパンの仕込みは一番気を使うもの
5kGの粉をこね、ちょっとした水加減はたった大匙一杯の水で大きく
出来上がりが変わってくるそうだ。

つい、「これおいしいですね」月並みな返事がでてしまった。というのも
クラストがどうだ、旨みがどうだ、この人の作るパンにどんな言葉をあて
はめても皆陳腐化してしまう、そんな迫力がある。安いほめ言葉はない
ほうがいい。このパンがどうやって作られ、どんな苦労をして作られた
か,ここへ到達するまでの数十年の職人人生すべてが語りかけてくる。

「次、これ食べてみて」わたされたパンはやや引きの強いコッペ風のパン
間にフィリングが、黒いごまのようなペースト。一口運ぶと、ふわっと
草の香り、次に独特の豆ののような旨みが広がる。「エゴマですよ」
冷蔵庫からだしてみせてくれた。「これは手間がかかるんですよ」なんと
すり鉢でゆっくりと擂り砂糖と水を若干加えていく、結構ねばりがでて
まとめていくのに時間をかける。素材選び、パンとの相性、時間をおしまず
自分が美味しいと思うものを創造していく。まだまだアイデアはあふれて
きている。「今、凝っているのはベリーです」ここ数年、店の脇に植えたブルーベリー、
ブラックベリーと本当においしいものがどんどんできた。これでデニッシュ
を作ったら美味しいのは当然、無農薬で安心して食べられお客様にも
絶対喜ばれる。今年は、ベランダを作りさらに鉢に苗を植えざっと10鉢
まで増やした。「ちょっと上をみない」1階の厨房から裏へ上がらせてもらい
2階のベランダへ。ひとつひとつの木に倒れないよう支柱がつけられ、丁寧
な仕事が、お客さんに教えてもらったという木酢液を使った、虫除けやら
有機肥料がある。これを散布する道具も揃えた。これだけの想いを込めて
ブルーべりを作る、絶対に買ったほうが安いなどという言葉は職人からでなかった
でようがなかった。

捏ね台横のラック。細かくパンの種類によってブレンドされた粉、ラック2段
にざっと20袋ぐらいか、これだけは人任せにできない、自分で計量しチェックする。
ほとんどのパンがシャラントブレンドになっている。これからの季節は
新麦の季節、ただでさえ配合に気を使っているのに、もっとバランスの崩れた
ものが登場する時期、職人の格闘がはじまる。天気の状態、酵母のこと、
水の温度、身体で覚えた技が粉と向き合う、お客には絶対見せない姿かも
しれない。

お会いできた日は、息子さんが札幌へ店を出し順調に滑り出した頃、デパートの催事を
受けSOSが発せられ、手伝いに行くという前日のこと。息子さんのことが
語られる、とてもうれしそうだ、職人はすぐさま父親の顔になった。
「もう、荷物は送ったんだ」「長靴まで送ったよ」「これこれ、ピティビエとタルトを
仕込んでね、息子に食べさせようと思ってさ」「俺は向こうへいったら言われたこと
だけしかしないつもりだ」 息子さんの店で手伝いながら、思わずほころぶ父親の顔が
見えた。

また、札幌から戻ったら、ここに立ち、パンを捏ね、窯で焼き、お客さんと話し
淡々と一日が過ぎていくのだろう。
話している間ずっと小さな音でラジオが鳴っていた。



麻布十番

2004-04-13 18:40:13 | yomoyama

六本木ヒルズができて地下鉄が通ったが、麻布十番は都会になったのだろうか。
その昔、近くの箪笥町に住んでいた頃、麻布十番に行くと、更科でそばを
食べて、鯛焼きを買い、映画館で豪華3本だてを見るのが、最高の娯楽
だった。「ベンハ―」、「十戒」を何回も見たような記憶。帰りに親父と豆源で
揚げ煎を買って、ぽりぽり歩きながら食べて帰る姿が思い出に残る。
取材で伺った十番のパン屋、店の前の空き地に黒塀が残っているの
が見えた。聞くと料亭の跡地だそうだ、花街があって賑わっていたころ、この
パン屋は酒屋をやっていたそうだ。街が変わり人が変わる、しかし
都会になりきれない何かが、麻布十番には残っていた。

桃源郷

2004-04-11 18:38:45 | yomoyama

秩父清雲寺の枝垂桜を見に行った。今年は暖冬で、既に天然記念物の
枝垂れは柳のごとく新緑。花より団子、すぐさま気持ちを切り替え、秩父
そばを巡るたびに、一日49食(一食はご主人のチェック用)限定という
和味へ、自分のそば畑でそばを作り、自家製粉というこだわり、ご主人
の自己評価点81点のそばは、美味しかった。水が全く違う、空気も
おいしい、そばもうまい。三拍子そろったところで満腹。でもなにか足りない!
物足りなさは、「花」のせい?。いけいけGOGOで車は雁坂トンネルを抜け
甲斐の国へ突入、空気も幾分澄んでいる気がする。塩山への道すがら
ワイナリーロードを進むと、ピンクの絨毯が目に飛び込んできた。
めざす桃源卿だ。今、桃の花が真っ盛り。濃いピンクがかたまって見える。
桃の木の下で一服。ひらひら風とともに花びらが舞い散る。やはり花の力は偉大
オーラを感じる。自然と歌が出ててきた。

よのなかに たえてさくらのなかりせば はるのこころは のどけからまし
もものきの はなふくよかにいろめいて あきのみのりに こころざわめく

桃源郷は、美しい「花」だけでなく、実りまで人を誘惑するという、あやしいところ
だった。



職人のリズム

2004-04-10 14:37:19 | yomoyama

技術者にはないものが職人にある。
リズムだ。自然に身体がゆれてしまう「アレ」だ。

先日、すきやばし次郎の小野二郎さんの握る鮨をいただいた
カウンタに座るや、ピーンと張り詰めた何かが。居合わせた誰もが
臨戦体制、ややあって「はじめましょうか」サウスポーの左手がシャリ
の桶へ、身体がそれとなくワルツを踊っているようにリズムを取っている。
わさびを指先で取る、右手のネタと融合、くるっと返す。本当に緩やかに
ながれて鮨が運ばれる。一寸の乱れなし。

食べる自分も踊ってしまった。

車椅子

2004-04-06 17:35:25 | yomoyama

電話がなった。電話の声にエコーがかかり聞きにくい。
音楽関係の仕事をしている弓田さんだった。コンサートの企画が
あるということでアポイントを取った。その日、事務所にみえられたが
なかなか4Fにこられない、どうしたのか待ちわびていると、再度
電話がなる。弓田さんの言われるままに近くの喫茶店で会うことに。
ビルをでて一瞬目がとまった、体格のいい立派な方が車椅子に。
近くの喫茶店へ向かう、すぐさま玄関でつまづく、わずか7,8cmの段差が
乗り越えられない、私も「よいしょ」とばかり前輪を持ち上げる
店のテーブルにつく、「オーダーは何にしますか?」「コーヒーを」お願いします。
と弓田さん。名刺を出して、三宅ですと言おうとしたとたん、名刺が出てこない
、足だけでなく手も不自由なことがわかった。書類も持てないようだ。
でも、どうやって電話をかけてきたのだろう、お茶はどうやって飲むのだろうか、
水を飲んだらトイレはどうするのだろうか。耳にイヤホンがついているのが見えた。
耳も不自由なのだろうか。もっと大きな声で話さなくては。
話題はコンサートのことへ、仕事のことを話しはじめたが、弓田さんのことが
気になって話しは上の空。喉が乾いたかな?向こう側へまわり、コーヒーカップ
を持って弓田さんの口元へ、おいしそうに飲まれている。自分の抜け殻が前に
いるようだ。コーヒーに砂糖を入れるのか聞くのを忘れてしまった。ミルクは入れるのか
。自分ならここで少し水を飲むが、どうしようか。
いろいろ考えているうちに、何を話したか忘れてしまった。
帰り際、駅まで送って行こうか迷っているうち、「原宿へ行きます」と弓田さん。
思いのほか早いスピードで車椅子はすべるように立ち去った。