前回に途中までだったシンガポールでの詐欺の顛末をご報告したい。
ダウンタウンで旨そうな中華料理店を探しながらぶらぶら歩いていると、「すみません、今は何時ですか?」と若い男に聞かれた。シンガポールの公用語は一応英語だが、俗にシングリッシュ(シンガポール・イングリッシュ)と云われる独特の表現や発音がある。だが、慣れれば香港やビルマの英語よりはずっと分りやすい。時計を見せると、彼は「日本の方ですね。実は私の妹が看護婦として横浜の病院に行こうとしています。母はそれを心配しています」。私が興味がありそうな顔をしたのか、彼は更に続けた。「宜しかったら、お願い出るのであるなら、日本の事情を母に話して安心させて頂けないでしょうか?」と頼まれた。これから食事をしたかったのだが、30分もあれば全て済むだろうと承知した。彼は喜んでタクシーを止めた。
タクシーは10分ほどで目的地に着いた。小ぶりな家屋が多く集まる住宅地だった。降りるときにタクシー代を払ったのは私だった。大した金額ではなかったが、私にタクシー代を払わせるのは筋が違うのではないかと疑問を持った。家の中に案内されたが、彼の母親は居なかった。二階から彼の兄だと名乗る男が現れた。「我々の妹の病気が重いのです。脳腫瘍と診断されて弱っています。美人なのに可哀そうです」とコーヒーテーブルの前のソファーに座ると直ぐに云った。話が全く違う。「私はつい最近までラスベガスのカジノでディーラーをやっていたのです。今はシンガポールのカジノで働いています」と云いながら鮮やかな手つきでトランプをいじりだした。「貴方はバカラをやったことがおありですか?」と聞かれた。当然知っている。以前にアメリカ空軍の将校クラブで大儲けをしたことがある。日本の「オイッチョかぶ」に似たゲームである。コツさえ覚えれば、八百長さえされなければ 勝つチャンスは非常に高い。だが私は「知らない、やったこともない」と答えた。半々だった警戒警報が既に100%に変っていた。「お教えしますよ」とルールを教えてくれ、「妹が帰って来るまで、少し遊んでみましょう」と云った。ゲームになると私を勝たせてくれた。必ず私に有利なカードが配られる。相当な業師であった。そして「遊びでやってもいても面白くありません。ブルネイから遊びに来ている人がいます。二人で組んでブルネイ人からお金を巻き上げましょう」と云って、インチキなゲームを仕組む手順を私に説明した。バカラをご存じの方も多いと思うが、「9」が一番強いカードである。自分の引くカードは3枚までだが2枚で止してもいい。2枚のカードの合算が4か5であるならもう 一枚引き、何とか9に近づける。だが、失敗すると、3枚の合算が11や12になってしまうこともある。それは、「1」と「2」に同じである。従って、3枚目に何が来るか非常に重要である。ペテン師のディーラーは私に3枚目に何が来るか、私だけに見せるような方法を取ったり、最初からいいカードを配るようにした。その辺のことは自在に出来るらしい。
車の停まる音がしてブルネイ人がやって来た。本当にブルネイ人なのか、シンガポール人なのかは定かではなかった。約束通り、最初は私が勝ち、手元にはUSドルで2,000ドル以上(当時のレートで約24万円ほど)が貯まった。詐欺師ディーラーはこれまでになくいいカードを私に配った。相手は「もっと大きくかけて、負けを取り戻したい」と云ってきた。そして、アタッシュケースを開けて私に見せた。およそ3万ドルほど(約360万円)のドル紙幣があった。「自分はこれだけの現金をかけるのだから、貴方も手持ちの現金を見せてくれ」と云ってきた。そして自分のカードをポケットに入れてトイレに行った。その隙に詐欺師ディーラーは「絶対に勝てます。この3万ドルを勝ち取りましょう」と云って、次に私が引くカードをそっと見せてくれた。
妹が帰ってきて、コーヒーとサンドウィッチを出してくれた。妹は詐欺師ディーラーの云った通り、かなりの美人だった。だが、彼等は兄妹にはとても見えなかった。旨いサンドウィッチではなかったが、空腹を満たしてくれた。「どうします?続きをやりましょうよ」と催促された。ブルネイ人も頃合いを見計らってトイレから戻ってきた。「いいよ、やりたいよ。だけど。俺は出張旅行の途中だ。3万ドルもの現金を持っているわけないだろ」と逃げの姿勢を見せた。すると、「現金がなくてもクレジットカードを持っているでしょ。空港に行けば現金を引き出せます。車で送らせます」。実は、私はこのように云われるのを待っていたのだ。このままではこの家から出て行けない。例え出られても交通手段がない。
「わかった。現金を引き出してくるから待っていてくれ」と云い、席を立とうとした。すると、詐欺師ディーラーは私のカードとブルネイ人のカードを別々の封筒に入れて夫々にサインをさせ、スコッチ・テープ(日本で云うセロテープ)で封をした。「このようにすれば、安心でしょう。私が責任を持ってカードを保管しておきます」と云った。
私を誘った男とは別の男が運転席で待っていた。「妹」と私は後部座席に乗った。住宅街を抜けてから「看護婦として日本にはいつ行くの?」と聞いてみた。彼女はきょとんとした顔をした。「脳腫瘍だと云うのも嘘なんだろう?」とさらに聞いてみた。彼女は非常にためらいながら、運転している男には聞こえないように「病気でも何でもないわ」と云った。私は掛け金の3万ドルを喉から手が出るほど欲しかったが、旨く逃げ出せたことに安堵した。恐らく、もし私が戻ったら、次に私の引くカードが違っているのだろうと想像した。
24時間営業の空港の銀行窓口に行ってカードを出した。このカードのキャッシング(クレジットカードによる現金借り入れ)の限度額は50万円である。外国で使うことが多いので、用心のためにそのように設定しておいた。それを承知で「3万ドル」と窓口の行員に向い、また運転手兼用心棒兼見張り役の男に聞こえるように大きな声で云った。カードの番号をコンピューターに打ち込んだ後で「お客様、このカードではそのような額の現金は出せません」とカードを突っ返された。私は再度大きな声で「何かの間違いだろう、無制限の筈だ!」と云った。窓口の行員は呆れたような顔をしていた。私はそれを無視して「男」と「妹」に云った「カードを間違えたらしい、部屋に行って取って来る。必ずここで待っていてくれ。10分ほどで戻ってくる」。そして私は早足で渡り廊下を利用して道路の反対側の空港ホテルに逃げ込んだ。フロントで鍵を受け取るときに「誰から電話があっても、誰が訪ねてきても、たとえ日本の首相でも絶対に取り次ぐな」と云って部屋に行き、シャワーを浴びて寝てしまった。
次の朝、朝食も取らずにホテルを出て空港の中に入ってしまった。日本への一番機の出る2時間も前の時間だった。出発ロビーに入ってしまえば完全に安全地帯である。ゆったりした気分で美味しい朝食を食べた。
友人の場合は「息子の留学」、私の場合は「看護婦として日本へ」。そして、「日本の事情を説明して欲しい」と云うのが詐欺への誘い方である。とにかく日本の事情云々の言葉が出たら詐欺だと考えてくれぐれも用心して頂きたい。私の友人は「ご説明したいが、これから人に会うので、時間がなくて申し訳ありません」と丁寧に断って難を逃れた。読者諸兄諸姉は私のように誘い込まれるほど愚かではないと思うが、充分に用心なさることをお勧めしたい。一旦誘われると必ず博打に誘われる。そして大金をだまし取られる。
博打ではないが、もう一つの詐欺の例をご紹介したい。突如アフリカのナイジェリアから手紙が届く、それには「税金逃れのために、手元に現金を置いておけない。日本円で約2億円の現金を送るから受けて頂きたい。3か月ほど預かって頂ければありがたい。謝礼として2億円の15%をお支払するので、謝礼分と送金手手数量を差引いた額を3か月後にナイジェリアに送金して頂けないか?」。全くの詐欺である。2億円の15%は3千万円である。確かにおいしい話だが、この件を受けると、「送金にかなりの金額がかかる。申し訳ないがその分を少し立て替えて頂けないか」と云ってくる。最初は30万円、次に100万円、300万円と立て替え額が多くなり、そのうちに連絡が途絶える。この種の詐欺にもお気を付け頂きたい。






上の写真はどれもの豪華なネプチューン・ホテル。このホテルに泊れるのも、森林大臣が発行してくれた「指令書」のお蔭である。外国人である私がマダガスカル・フランでの支払いを認められているからである。円やドルで払う場合の半分以下の金額で泊れた。
マダガスカル唯一の国際貿易港のあるトマシナ(旧タマタベ、トマシナは「塩辛い水」の意)に来るときは必ずこのホテルを利用する。また、アンタナナリブに帰らずにトマシナの空港からレ・ユニオンを経由して日本に帰ったことも何度かあった。


上2枚はミラマ・ホテル。此処のレストランは鶏だけではなく、それ以外の料理も非常に旨い。また敷地が広く庭は公園を思わせるほどである。
ほぼ一年前、ビルマ編の最終回に埼玉県吾野の東郷公園の紅葉の写真をご紹介したが、今年もお見せしたい。先週の火曜日(11月18日)に写真仲間と撮影に行ったときの写真である。






ダウンタウンで旨そうな中華料理店を探しながらぶらぶら歩いていると、「すみません、今は何時ですか?」と若い男に聞かれた。シンガポールの公用語は一応英語だが、俗にシングリッシュ(シンガポール・イングリッシュ)と云われる独特の表現や発音がある。だが、慣れれば香港やビルマの英語よりはずっと分りやすい。時計を見せると、彼は「日本の方ですね。実は私の妹が看護婦として横浜の病院に行こうとしています。母はそれを心配しています」。私が興味がありそうな顔をしたのか、彼は更に続けた。「宜しかったら、お願い出るのであるなら、日本の事情を母に話して安心させて頂けないでしょうか?」と頼まれた。これから食事をしたかったのだが、30分もあれば全て済むだろうと承知した。彼は喜んでタクシーを止めた。
タクシーは10分ほどで目的地に着いた。小ぶりな家屋が多く集まる住宅地だった。降りるときにタクシー代を払ったのは私だった。大した金額ではなかったが、私にタクシー代を払わせるのは筋が違うのではないかと疑問を持った。家の中に案内されたが、彼の母親は居なかった。二階から彼の兄だと名乗る男が現れた。「我々の妹の病気が重いのです。脳腫瘍と診断されて弱っています。美人なのに可哀そうです」とコーヒーテーブルの前のソファーに座ると直ぐに云った。話が全く違う。「私はつい最近までラスベガスのカジノでディーラーをやっていたのです。今はシンガポールのカジノで働いています」と云いながら鮮やかな手つきでトランプをいじりだした。「貴方はバカラをやったことがおありですか?」と聞かれた。当然知っている。以前にアメリカ空軍の将校クラブで大儲けをしたことがある。日本の「オイッチョかぶ」に似たゲームである。コツさえ覚えれば、八百長さえされなければ 勝つチャンスは非常に高い。だが私は「知らない、やったこともない」と答えた。半々だった警戒警報が既に100%に変っていた。「お教えしますよ」とルールを教えてくれ、「妹が帰って来るまで、少し遊んでみましょう」と云った。ゲームになると私を勝たせてくれた。必ず私に有利なカードが配られる。相当な業師であった。そして「遊びでやってもいても面白くありません。ブルネイから遊びに来ている人がいます。二人で組んでブルネイ人からお金を巻き上げましょう」と云って、インチキなゲームを仕組む手順を私に説明した。バカラをご存じの方も多いと思うが、「9」が一番強いカードである。自分の引くカードは3枚までだが2枚で止してもいい。2枚のカードの合算が4か5であるならもう 一枚引き、何とか9に近づける。だが、失敗すると、3枚の合算が11や12になってしまうこともある。それは、「1」と「2」に同じである。従って、3枚目に何が来るか非常に重要である。ペテン師のディーラーは私に3枚目に何が来るか、私だけに見せるような方法を取ったり、最初からいいカードを配るようにした。その辺のことは自在に出来るらしい。
車の停まる音がしてブルネイ人がやって来た。本当にブルネイ人なのか、シンガポール人なのかは定かではなかった。約束通り、最初は私が勝ち、手元にはUSドルで2,000ドル以上(当時のレートで約24万円ほど)が貯まった。詐欺師ディーラーはこれまでになくいいカードを私に配った。相手は「もっと大きくかけて、負けを取り戻したい」と云ってきた。そして、アタッシュケースを開けて私に見せた。およそ3万ドルほど(約360万円)のドル紙幣があった。「自分はこれだけの現金をかけるのだから、貴方も手持ちの現金を見せてくれ」と云ってきた。そして自分のカードをポケットに入れてトイレに行った。その隙に詐欺師ディーラーは「絶対に勝てます。この3万ドルを勝ち取りましょう」と云って、次に私が引くカードをそっと見せてくれた。
妹が帰ってきて、コーヒーとサンドウィッチを出してくれた。妹は詐欺師ディーラーの云った通り、かなりの美人だった。だが、彼等は兄妹にはとても見えなかった。旨いサンドウィッチではなかったが、空腹を満たしてくれた。「どうします?続きをやりましょうよ」と催促された。ブルネイ人も頃合いを見計らってトイレから戻ってきた。「いいよ、やりたいよ。だけど。俺は出張旅行の途中だ。3万ドルもの現金を持っているわけないだろ」と逃げの姿勢を見せた。すると、「現金がなくてもクレジットカードを持っているでしょ。空港に行けば現金を引き出せます。車で送らせます」。実は、私はこのように云われるのを待っていたのだ。このままではこの家から出て行けない。例え出られても交通手段がない。
「わかった。現金を引き出してくるから待っていてくれ」と云い、席を立とうとした。すると、詐欺師ディーラーは私のカードとブルネイ人のカードを別々の封筒に入れて夫々にサインをさせ、スコッチ・テープ(日本で云うセロテープ)で封をした。「このようにすれば、安心でしょう。私が責任を持ってカードを保管しておきます」と云った。
私を誘った男とは別の男が運転席で待っていた。「妹」と私は後部座席に乗った。住宅街を抜けてから「看護婦として日本にはいつ行くの?」と聞いてみた。彼女はきょとんとした顔をした。「脳腫瘍だと云うのも嘘なんだろう?」とさらに聞いてみた。彼女は非常にためらいながら、運転している男には聞こえないように「病気でも何でもないわ」と云った。私は掛け金の3万ドルを喉から手が出るほど欲しかったが、旨く逃げ出せたことに安堵した。恐らく、もし私が戻ったら、次に私の引くカードが違っているのだろうと想像した。
24時間営業の空港の銀行窓口に行ってカードを出した。このカードのキャッシング(クレジットカードによる現金借り入れ)の限度額は50万円である。外国で使うことが多いので、用心のためにそのように設定しておいた。それを承知で「3万ドル」と窓口の行員に向い、また運転手兼用心棒兼見張り役の男に聞こえるように大きな声で云った。カードの番号をコンピューターに打ち込んだ後で「お客様、このカードではそのような額の現金は出せません」とカードを突っ返された。私は再度大きな声で「何かの間違いだろう、無制限の筈だ!」と云った。窓口の行員は呆れたような顔をしていた。私はそれを無視して「男」と「妹」に云った「カードを間違えたらしい、部屋に行って取って来る。必ずここで待っていてくれ。10分ほどで戻ってくる」。そして私は早足で渡り廊下を利用して道路の反対側の空港ホテルに逃げ込んだ。フロントで鍵を受け取るときに「誰から電話があっても、誰が訪ねてきても、たとえ日本の首相でも絶対に取り次ぐな」と云って部屋に行き、シャワーを浴びて寝てしまった。
次の朝、朝食も取らずにホテルを出て空港の中に入ってしまった。日本への一番機の出る2時間も前の時間だった。出発ロビーに入ってしまえば完全に安全地帯である。ゆったりした気分で美味しい朝食を食べた。
友人の場合は「息子の留学」、私の場合は「看護婦として日本へ」。そして、「日本の事情を説明して欲しい」と云うのが詐欺への誘い方である。とにかく日本の事情云々の言葉が出たら詐欺だと考えてくれぐれも用心して頂きたい。私の友人は「ご説明したいが、これから人に会うので、時間がなくて申し訳ありません」と丁寧に断って難を逃れた。読者諸兄諸姉は私のように誘い込まれるほど愚かではないと思うが、充分に用心なさることをお勧めしたい。一旦誘われると必ず博打に誘われる。そして大金をだまし取られる。
博打ではないが、もう一つの詐欺の例をご紹介したい。突如アフリカのナイジェリアから手紙が届く、それには「税金逃れのために、手元に現金を置いておけない。日本円で約2億円の現金を送るから受けて頂きたい。3か月ほど預かって頂ければありがたい。謝礼として2億円の15%をお支払するので、謝礼分と送金手手数量を差引いた額を3か月後にナイジェリアに送金して頂けないか?」。全くの詐欺である。2億円の15%は3千万円である。確かにおいしい話だが、この件を受けると、「送金にかなりの金額がかかる。申し訳ないがその分を少し立て替えて頂けないか」と云ってくる。最初は30万円、次に100万円、300万円と立て替え額が多くなり、そのうちに連絡が途絶える。この種の詐欺にもお気を付け頂きたい。






上の写真はどれもの豪華なネプチューン・ホテル。このホテルに泊れるのも、森林大臣が発行してくれた「指令書」のお蔭である。外国人である私がマダガスカル・フランでの支払いを認められているからである。円やドルで払う場合の半分以下の金額で泊れた。
マダガスカル唯一の国際貿易港のあるトマシナ(旧タマタベ、トマシナは「塩辛い水」の意)に来るときは必ずこのホテルを利用する。また、アンタナナリブに帰らずにトマシナの空港からレ・ユニオンを経由して日本に帰ったことも何度かあった。


上2枚はミラマ・ホテル。此処のレストランは鶏だけではなく、それ以外の料理も非常に旨い。また敷地が広く庭は公園を思わせるほどである。
ほぼ一年前、ビルマ編の最終回に埼玉県吾野の東郷公園の紅葉の写真をご紹介したが、今年もお見せしたい。先週の火曜日(11月18日)に写真仲間と撮影に行ったときの写真である。





