キャメルクラッチという技、プロレスに拷問技数あれど、こうまで直接的にそのキツさが分かる技もそうそう無い。
最近はあまり見なくなったので簡単に説明をすると、相手がマットにうつ伏せの状態で倒れているところに前向けに跨り、背中に腰を下ろして座り、相手の首(顎あたり)をクラッチしてぐっと反り上げる。当然相手は海老反りになり背骨が軋む。相手の両腕を自分のヒザ(深ければ腿)の上に乗せて固定すれば、脱出が不可能になる。
相手の背骨を逆に曲げて破壊する技で、つまりはバックブリーカーの一種である。しかし、相手を担ぎ上げて背骨を軋ませるカナディアンやアルゼンチンバックブリーカーと異なり、相手の背中に乗っかって力任せに反らせて痛めるわけで、その破壊力が一等上に見える。同様に相手の上に腰を落として反らせて痛める技にボストンクラブ(逆エビ固め)があるが、ボストンクラブが足方向から相手の身体を曲げるのに対してキャメルクラッチは頭方向から力を加える。どっちが効くかについては難しいが、キャメルクラッチは技を掛けられている相手の苦悶の顔が正面に見える。なのでえげつない。グイグイと締め上げると相手の表情が苦痛に歪む。残忍さが際立つので、悪役レスラーには実に相応しい。
「悪役レスラーにふさわしい」と書いてしまったが、それは当方がこの技を「ザ・シーク」のフィニッシュホールドであると思い込んでいるから筆が滑るのである。実際は、悪役ばかりが使用する技ではもちろんない。ラーメンマンだって使う。そもそもこの技を世界的に有名にしたのは、エル・サントであると言われている。メキシコの伝説的英雄であり、ルチャ・リブレの聖人。
もっとも、メキシコではこの技を「カバージョ」と呼ぶ。Caballoとは馬のことであり、つまり相手に馬乗りになって固めるためにこの名称となっている由。馬の手綱を引く格好に確かに相似形である。キャメルはラクダであるから、ヨルダン出身ということ(実際はレバノン移民)でアラブ色を前面に出していたザ・シークならではのネーミングなのだろう。アラブではやはり馬よりラクダである。
エル・サントのことはもちろん知らない(長いキャリアを誇っていたものの全盛期は'40~'50年代である)ので、僕はこの技をカバージョと呼ぶこともなくキャメルクラッチとしか理解していなかった。
さてそのザ・シークであるが、僕が知るのはかなり年老いてから。アブドーラ・ザ・ブッチャーとタッグを組んでいる時である。当時、人気絶頂のザ・ファンクスと抗争を繰り広げていた。悪役を絵に描いたようなレスラーで、火を吹き凶器攻撃を得意としていた。五寸釘でテリーファンクの腕を切り裂いたシーンは今でも夢に出てきそうな程鮮明に記憶している。そのシークが、キャメルクラッチでよく相手を痛めつけていた。流血した顔で舌なめずりをしつつ相手の頭をぐいぐい引っ張っている残忍なイメージ。どうも反則ばかり印象に残って、ちゃんとした技はキャメルクラッチしか憶えていない。昔のレスラーは「この技一本槍」みたいな人が多かったけれど。
晩年、もっと老いてからは、大仁田厚のFMWなどで日本にも来日していた。しっかりと悪役を演じきり、プロというのはこういうものだと感動を覚えたことすらある。
このように、キャメルクラッチはシークの影響もあり、アラブギミックのレスラーの間でその後も広く使われた。シークの甥であるサブゥーはもちろん、最近ではモハメド・ハサンなどが有名らしい(実はあまり知らない)。アラブ系レスラーの伝統技となったと言ってもいいのか。
そのアラブギミックのキャメルクラッチの中で、最も有名な場面は、アイアン・シークがボブ・バックランドからWWFのタイトルをキャメルクラッチで奪ったシーンだろう。
話がそれるが、僕は子供の頃からバックランドが大好きだった。こう言うと、必ずプロレス観戦の通人から「シロートめ」と言われる。曰く、バックランドはただのスポーツマンである。善人ぶっている。プロレスラーとしての佇いに欠ける。哀愁が無い。下手である。等々。
確かに頷ける部分もあるのだが、僕はむしろそのレスラーらしくないギャップが好きだった。アマレス仕込みの技は一流。パワーも十分。しかし童顔で爽やか、猪木のようなレスラー独特の匂いのようなものは皆無。パワーファイトの中で、シビれるようなテクニックを挟む。隠れた矜持。ここぞという場面では迎合しない。そんな一面が僕には魅力だった。好き嫌いは無論あるだろうけれど。
バックランドは、まだ20代でニューヨークMSGに君臨する。ビリー・グラハムを破りWWFヘビー級王座を獲得。
マディソンスクエアガーデンの王者は、パワーファイターが伝統である。ニューヨークは力持ちを望むのか。ブルーノ・サンマルチノのバックブリーカー。ビリー・グラハムのフルネルソン。そしてバックランドは、チキンウイング・フェイスロックを使うテクニシャンでありながら、フィニッシュに相手を目よりも高く差し上げるアトミックドロップを選択し、約6年間ニューヨークの帝王を務めた。
しかし時代は変わる。WWFは二代目のビンス・マクマホン・ジュニアが支配するようになり、拡大路線を歩む。その中で、プロレスラーとしての色気に欠ける(と観られていた)バックランドは、路線に合致せず、とうとう王座を明け渡すことになる。その刺客が、アイアン・シークだった。もともと正統派レスリングの使い手でアマレスの実力者であったが、イランからの亡命者でありアメリカと中東の対立が彼を悪役に据えた。そして、バックランドから王座を奪う。この時のフィニッシュが、アラブの切り札、キャメルクラッチだった。
この試合は、よく知られているようにバックランドはギブアップをしていない。
試合は当初からバックランドに精気が無いようにも見え、最初にアイアンシークの反則の首締めの後、腕を集中して極められる。バックランドも反撃はするものの届かず、サーフボードストレッチなどで体力を奪われ、そしてキャメルクラッチで固められた。もちろん強烈な締めだったが、アイアンシークがしっかりと腰を落としてから約10秒で、バックランドのマネージャーだったアーノルド・スコーランがタオルを投入するのである。
これには二種類の見方が当然ながら生じる。
確かに強烈なキャメルクラッチだった。バックランドの選手生命も危ぶまれたかもしれない。背骨を損傷することはそれほど恐ろしい。アーノルド・スコーランの判断は正しかったとも言える。
であるが、プロレスの世界でタオル投入というのは珍しい。戦うレスラーにはギブアップという手段があって、フォール3カウントと共に、それでこそ決着に説得力が生じる。戦意喪失。参った。それを自らの意思で表明することで勝負の行く末を観客に納得させることが出来る。スコーランはスーツ姿だった。ジャージを着て首にタオルを普通に掛けている姿であればともかく、これは予め白いタオルを用意していたとしか思えない。
ここで八百長論を言おうとしているのではない。八百長を了承していたのであれば、バックランドは自らギブアップしていただろう。ただ、バックランドを王座から転落させたい巨大な意思は働いていたのかもしれない。そのため、スコーランは密かにタオルを準備していた。そしてキャメルクラッチ。ただ、バックランドはギブアップをする気配がない。アイアンシークは強烈に締め上げる。危険だと見たスコーランは慌ててタオルを投入したのではないか。バックランドの王者のプライドを知っているがゆえに。それが、僅か10秒という時間に現れているように思える。この説得力に欠ける早すぎるタオル投入は、芝居ではないキャメルクラッチの強烈さがスコーランを慌てさせたのだ。
以上はもちろん妄想であるが、この時のキャメルクラッチは確かに強烈だった。
さて、キャメルクラッチはバックブリーカー、背骨破壊であると最初から書いているが、果たしてそうなのだろうか。
キャメルクラッチの完成形は、前述したように相手の背中に腰を落とし、相手の両腕を自分の膝上に固定し、顎の部分を両手で持ってぐっと反らせる。相手が海老反りになる状態。これは、確かにバックブリーカーである。
ところで、相手の両腕を自分の膝に上げず、ただ乗っかって相手をぐっと反らせる場合もある。シークにもそういう掛け方をする時があって、相手の身体が完全に海老反りにはならない。こういう場合は、バックブリーカーではなくネックブリーカーとなる。曲げる主体が背骨ではなく首であるからだ。
そして大抵は顎を固めて頭部を引き上げるのだが、この顎の固め方でチンロックのダメージも与えることが出来る。また、引き上げる手を口部分に持ってくれば呼吸困難となり、また手を拳にして顔面の急所に押し当てるように引き上げればフェイスロックにもなる。単純な技に見えて様々な可能性がある。相手のダメージが蓄積した箇所を狙うことも可能。
バックランドがかつて君臨したWWFは、アイアンシークも短い王座に終わり、その後ハルク・ホーガンが立つ。そしてエンターテイメント色を強め、WWEへと移っていく。この流れの是非はひとまず措いて、そのWWEには後にスコット・スタイナーが上がった。あのリックと共にスタイナーブラザーズとして一世を風靡したレスラーである。その必殺技フランケンシュタイナーは語り草である。
このリングにおいて、スコットは筋骨隆々の身体に変貌し、キャメルクラッチをフィニッシュホールドに持ってくるのである。名称こそ「スタイナー・リクライナー」としたが。高角度パイルドライバーとも言える危険なフランケンシュタイナーは嫌われたのかもしれない。
このスタイナー・リクライナーは、腰を落とさない。中腰のままで顎を固め反り上げる。高角度キャメルクラッチと言うべきか。ボストンクラブに例えると、あの中野龍雄のシャチホコ固めのような形状である(無論前後逆だが)。
実はスコットの師匠の一人はシークである。正統派のキャメルクラッチも十分会得しているはずであるし、かつては使用していた。だが、WWEではシャチホコキャメルクラッチを前面に打ち出している。これは、やはり見栄えというものもあるのだろう。いくら苦悶の表情が分かりやすいキャメルクラッチもやはり寝技。比べて、スタイナー・リクライナーは立ち技キャメルクラッチである。
腰を落とさないキャメルクラッチはどう効くのか。そりゃスコットのような肉体をもってすれば何でも効くのだろうが、これは背骨より首にダメージがあるのかもしれない。チンロックの要素も強いかも。
ただ、好みの上から言えば、やはり腰をどっしりと落とした方が僕は効くような気がするが。
キャメルクラッチという技は実は奥が深いが、見た目単純であるので、複合技、派生技を生み出しやすい。複合技としてすぐに思い出すのは柴田勝頼のクロス式キャメルクラッチだろう。後藤洋央紀も使う。
これは相手の両足をクロスさせ固め(インディアンデスロックに近い)、そして上半身はキャメルクラッチに極めるわけであるが、これは複合技であり腰を下ろす場所が後部になってしまいキャメルクラッチ単体の威力は少し和らぐのではないかという不安もある。ただ、足も背中も首も痛い。後藤がやると、キャメルクラッチというより蝶野のSTFに近いように見えてしまう。それはそれで痛そうだが。
派生技として、あのミスター雁之助の「涅槃」という技がある。また分かりにくい名前だが、これはキャメルクラッチで上半身を持ち上げるところを、フルネルソンでやるのである。なんともえげつない拷問技。こんな無茶をよく考えるなと思う。
さらに、女子プロレスだが風間ルミの「ドラゴンパンサー」。これはなんと、ドラゴンスリーパーとキャメルクラッチの複合技である。なんてことをするんだ。死ぬぞ。
ここまでは知っていたのだが、さらに他に無いかと検索をしていたら、こんなページを見つけた。維新力の「アルカトラズ」という技は、なんとチキンウィングフェイスロックとキャメルクラッチを合体させている。なんということを。
しかしこういう技をいくつか見ていると、クロスフェースもナガタロックⅡもなんだかキャメルクラッチに見えてきた。もうこうなると線引きが怪しくなってくるのでこのへんで。
最近はあまり見なくなったので簡単に説明をすると、相手がマットにうつ伏せの状態で倒れているところに前向けに跨り、背中に腰を下ろして座り、相手の首(顎あたり)をクラッチしてぐっと反り上げる。当然相手は海老反りになり背骨が軋む。相手の両腕を自分のヒザ(深ければ腿)の上に乗せて固定すれば、脱出が不可能になる。
相手の背骨を逆に曲げて破壊する技で、つまりはバックブリーカーの一種である。しかし、相手を担ぎ上げて背骨を軋ませるカナディアンやアルゼンチンバックブリーカーと異なり、相手の背中に乗っかって力任せに反らせて痛めるわけで、その破壊力が一等上に見える。同様に相手の上に腰を落として反らせて痛める技にボストンクラブ(逆エビ固め)があるが、ボストンクラブが足方向から相手の身体を曲げるのに対してキャメルクラッチは頭方向から力を加える。どっちが効くかについては難しいが、キャメルクラッチは技を掛けられている相手の苦悶の顔が正面に見える。なのでえげつない。グイグイと締め上げると相手の表情が苦痛に歪む。残忍さが際立つので、悪役レスラーには実に相応しい。
「悪役レスラーにふさわしい」と書いてしまったが、それは当方がこの技を「ザ・シーク」のフィニッシュホールドであると思い込んでいるから筆が滑るのである。実際は、悪役ばかりが使用する技ではもちろんない。ラーメンマンだって使う。そもそもこの技を世界的に有名にしたのは、エル・サントであると言われている。メキシコの伝説的英雄であり、ルチャ・リブレの聖人。
もっとも、メキシコではこの技を「カバージョ」と呼ぶ。Caballoとは馬のことであり、つまり相手に馬乗りになって固めるためにこの名称となっている由。馬の手綱を引く格好に確かに相似形である。キャメルはラクダであるから、ヨルダン出身ということ(実際はレバノン移民)でアラブ色を前面に出していたザ・シークならではのネーミングなのだろう。アラブではやはり馬よりラクダである。
エル・サントのことはもちろん知らない(長いキャリアを誇っていたものの全盛期は'40~'50年代である)ので、僕はこの技をカバージョと呼ぶこともなくキャメルクラッチとしか理解していなかった。
さてそのザ・シークであるが、僕が知るのはかなり年老いてから。アブドーラ・ザ・ブッチャーとタッグを組んでいる時である。当時、人気絶頂のザ・ファンクスと抗争を繰り広げていた。悪役を絵に描いたようなレスラーで、火を吹き凶器攻撃を得意としていた。五寸釘でテリーファンクの腕を切り裂いたシーンは今でも夢に出てきそうな程鮮明に記憶している。そのシークが、キャメルクラッチでよく相手を痛めつけていた。流血した顔で舌なめずりをしつつ相手の頭をぐいぐい引っ張っている残忍なイメージ。どうも反則ばかり印象に残って、ちゃんとした技はキャメルクラッチしか憶えていない。昔のレスラーは「この技一本槍」みたいな人が多かったけれど。
晩年、もっと老いてからは、大仁田厚のFMWなどで日本にも来日していた。しっかりと悪役を演じきり、プロというのはこういうものだと感動を覚えたことすらある。
このように、キャメルクラッチはシークの影響もあり、アラブギミックのレスラーの間でその後も広く使われた。シークの甥であるサブゥーはもちろん、最近ではモハメド・ハサンなどが有名らしい(実はあまり知らない)。アラブ系レスラーの伝統技となったと言ってもいいのか。
そのアラブギミックのキャメルクラッチの中で、最も有名な場面は、アイアン・シークがボブ・バックランドからWWFのタイトルをキャメルクラッチで奪ったシーンだろう。
話がそれるが、僕は子供の頃からバックランドが大好きだった。こう言うと、必ずプロレス観戦の通人から「シロートめ」と言われる。曰く、バックランドはただのスポーツマンである。善人ぶっている。プロレスラーとしての佇いに欠ける。哀愁が無い。下手である。等々。
確かに頷ける部分もあるのだが、僕はむしろそのレスラーらしくないギャップが好きだった。アマレス仕込みの技は一流。パワーも十分。しかし童顔で爽やか、猪木のようなレスラー独特の匂いのようなものは皆無。パワーファイトの中で、シビれるようなテクニックを挟む。隠れた矜持。ここぞという場面では迎合しない。そんな一面が僕には魅力だった。好き嫌いは無論あるだろうけれど。
バックランドは、まだ20代でニューヨークMSGに君臨する。ビリー・グラハムを破りWWFヘビー級王座を獲得。
マディソンスクエアガーデンの王者は、パワーファイターが伝統である。ニューヨークは力持ちを望むのか。ブルーノ・サンマルチノのバックブリーカー。ビリー・グラハムのフルネルソン。そしてバックランドは、チキンウイング・フェイスロックを使うテクニシャンでありながら、フィニッシュに相手を目よりも高く差し上げるアトミックドロップを選択し、約6年間ニューヨークの帝王を務めた。
しかし時代は変わる。WWFは二代目のビンス・マクマホン・ジュニアが支配するようになり、拡大路線を歩む。その中で、プロレスラーとしての色気に欠ける(と観られていた)バックランドは、路線に合致せず、とうとう王座を明け渡すことになる。その刺客が、アイアン・シークだった。もともと正統派レスリングの使い手でアマレスの実力者であったが、イランからの亡命者でありアメリカと中東の対立が彼を悪役に据えた。そして、バックランドから王座を奪う。この時のフィニッシュが、アラブの切り札、キャメルクラッチだった。
この試合は、よく知られているようにバックランドはギブアップをしていない。
試合は当初からバックランドに精気が無いようにも見え、最初にアイアンシークの反則の首締めの後、腕を集中して極められる。バックランドも反撃はするものの届かず、サーフボードストレッチなどで体力を奪われ、そしてキャメルクラッチで固められた。もちろん強烈な締めだったが、アイアンシークがしっかりと腰を落としてから約10秒で、バックランドのマネージャーだったアーノルド・スコーランがタオルを投入するのである。
これには二種類の見方が当然ながら生じる。
確かに強烈なキャメルクラッチだった。バックランドの選手生命も危ぶまれたかもしれない。背骨を損傷することはそれほど恐ろしい。アーノルド・スコーランの判断は正しかったとも言える。
であるが、プロレスの世界でタオル投入というのは珍しい。戦うレスラーにはギブアップという手段があって、フォール3カウントと共に、それでこそ決着に説得力が生じる。戦意喪失。参った。それを自らの意思で表明することで勝負の行く末を観客に納得させることが出来る。スコーランはスーツ姿だった。ジャージを着て首にタオルを普通に掛けている姿であればともかく、これは予め白いタオルを用意していたとしか思えない。
ここで八百長論を言おうとしているのではない。八百長を了承していたのであれば、バックランドは自らギブアップしていただろう。ただ、バックランドを王座から転落させたい巨大な意思は働いていたのかもしれない。そのため、スコーランは密かにタオルを準備していた。そしてキャメルクラッチ。ただ、バックランドはギブアップをする気配がない。アイアンシークは強烈に締め上げる。危険だと見たスコーランは慌ててタオルを投入したのではないか。バックランドの王者のプライドを知っているがゆえに。それが、僅か10秒という時間に現れているように思える。この説得力に欠ける早すぎるタオル投入は、芝居ではないキャメルクラッチの強烈さがスコーランを慌てさせたのだ。
以上はもちろん妄想であるが、この時のキャメルクラッチは確かに強烈だった。
さて、キャメルクラッチはバックブリーカー、背骨破壊であると最初から書いているが、果たしてそうなのだろうか。
キャメルクラッチの完成形は、前述したように相手の背中に腰を落とし、相手の両腕を自分の膝上に固定し、顎の部分を両手で持ってぐっと反らせる。相手が海老反りになる状態。これは、確かにバックブリーカーである。
ところで、相手の両腕を自分の膝に上げず、ただ乗っかって相手をぐっと反らせる場合もある。シークにもそういう掛け方をする時があって、相手の身体が完全に海老反りにはならない。こういう場合は、バックブリーカーではなくネックブリーカーとなる。曲げる主体が背骨ではなく首であるからだ。
そして大抵は顎を固めて頭部を引き上げるのだが、この顎の固め方でチンロックのダメージも与えることが出来る。また、引き上げる手を口部分に持ってくれば呼吸困難となり、また手を拳にして顔面の急所に押し当てるように引き上げればフェイスロックにもなる。単純な技に見えて様々な可能性がある。相手のダメージが蓄積した箇所を狙うことも可能。
バックランドがかつて君臨したWWFは、アイアンシークも短い王座に終わり、その後ハルク・ホーガンが立つ。そしてエンターテイメント色を強め、WWEへと移っていく。この流れの是非はひとまず措いて、そのWWEには後にスコット・スタイナーが上がった。あのリックと共にスタイナーブラザーズとして一世を風靡したレスラーである。その必殺技フランケンシュタイナーは語り草である。
このリングにおいて、スコットは筋骨隆々の身体に変貌し、キャメルクラッチをフィニッシュホールドに持ってくるのである。名称こそ「スタイナー・リクライナー」としたが。高角度パイルドライバーとも言える危険なフランケンシュタイナーは嫌われたのかもしれない。
このスタイナー・リクライナーは、腰を落とさない。中腰のままで顎を固め反り上げる。高角度キャメルクラッチと言うべきか。ボストンクラブに例えると、あの中野龍雄のシャチホコ固めのような形状である(無論前後逆だが)。
実はスコットの師匠の一人はシークである。正統派のキャメルクラッチも十分会得しているはずであるし、かつては使用していた。だが、WWEではシャチホコキャメルクラッチを前面に打ち出している。これは、やはり見栄えというものもあるのだろう。いくら苦悶の表情が分かりやすいキャメルクラッチもやはり寝技。比べて、スタイナー・リクライナーは立ち技キャメルクラッチである。
腰を落とさないキャメルクラッチはどう効くのか。そりゃスコットのような肉体をもってすれば何でも効くのだろうが、これは背骨より首にダメージがあるのかもしれない。チンロックの要素も強いかも。
ただ、好みの上から言えば、やはり腰をどっしりと落とした方が僕は効くような気がするが。
キャメルクラッチという技は実は奥が深いが、見た目単純であるので、複合技、派生技を生み出しやすい。複合技としてすぐに思い出すのは柴田勝頼のクロス式キャメルクラッチだろう。後藤洋央紀も使う。
これは相手の両足をクロスさせ固め(インディアンデスロックに近い)、そして上半身はキャメルクラッチに極めるわけであるが、これは複合技であり腰を下ろす場所が後部になってしまいキャメルクラッチ単体の威力は少し和らぐのではないかという不安もある。ただ、足も背中も首も痛い。後藤がやると、キャメルクラッチというより蝶野のSTFに近いように見えてしまう。それはそれで痛そうだが。
派生技として、あのミスター雁之助の「涅槃」という技がある。また分かりにくい名前だが、これはキャメルクラッチで上半身を持ち上げるところを、フルネルソンでやるのである。なんともえげつない拷問技。こんな無茶をよく考えるなと思う。
さらに、女子プロレスだが風間ルミの「ドラゴンパンサー」。これはなんと、ドラゴンスリーパーとキャメルクラッチの複合技である。なんてことをするんだ。死ぬぞ。
ここまでは知っていたのだが、さらに他に無いかと検索をしていたら、こんなページを見つけた。維新力の「アルカトラズ」という技は、なんとチキンウィングフェイスロックとキャメルクラッチを合体させている。なんということを。
しかしこういう技をいくつか見ていると、クロスフェースもナガタロックⅡもなんだかキャメルクラッチに見えてきた。もうこうなると線引きが怪しくなってくるのでこのへんで。
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