なんでもありのプロレスにも禁じ手がある。
金的、目潰し、噛み付きなどはやってはいけない。これはもちろん他の格闘技も同様。また、髪の毛やトランクスを掴んではいけない。これも当たり前のこと。それ以外はたいていのことはやっても良く、プロレスがking of sportsと呼ばれるのもあらゆる手を使って相手を攻めていいというルールがあればこそ。他では出来ない頭突きや肘打ちなども認められている。ストリートファイト(喧嘩)の次にルールの制約がない格闘技ジャンルである。だからこそ面白いのだ。
しかし、一つだけ他の格闘技にあってプロレスでは反則と言われる技がある。
それは拳で殴ることである。
「体のいずれの箇所をもナックルパート(正拳)で殴打してはならない。」
(プロレスリング競技者規約 競技者の禁止事項 第一条の1 新日本プロレス)
殴っちゃいかんのだ。プロレスはグローブをつけず基本は素手で行う。なので、最も危険なパンチは禁止されている。この点だけが他の格闘技と一線を画す部分である。
したがって、先日小島を破って天山がIWGPを奪い返したがパンチを多用していた。あれは反則なのだ。ただ、5秒以内であれば反則は行ってもよい、というプロレス独特の「5秒ルール」があるが故に見逃されていただけのこと。猪木の「ナックルアロー」も同様に反則だ。
しかし、人間というもの、戦うときにはどうしても「手」が出る。それが戦闘本能というもの。その時にレスラーはどうするか。
そういうときには、平手打ちであったり、掌底突きであったり、空手チョップを繰り出すのである。これなら正拳ではないので反則にならないのだ。
その中でもチョップ(手刀)は、手の側面の固い部分を鋭角的に相手に打ち込む技であり、正拳に次いで威力を発揮する技である。なおchopとは「叩き切る」という意味。
チョップについて書こうとしたのだが前置きが長くなりすぎた。
さて、チョップと言えば力道山の空手チョップ。もちろんチョップという技は手刀として空手などで古くからある技ではあるが、プロレスに取り入れたのは力道山が最初であると言われる。当時「相撲のツッパリから発想して空手チョップを考え出した」と力道山が語ったという伝説があったが、これは疑問である。しかし、力士時代突っ張りを得意としていた力道山の腕力はチョップを打つのに向いていたのだろう。「空手」という欧米では神秘の格闘技に、更に神秘的な「相撲」のエッセンスを入れた力道山のセンスは敬服されるべき。
もちろん僕は力道山を知る世代ではないので「懐かしビデオ」で見ているに過ぎないが、最初の力道山のチョップは今で言う「袈裟切りチョップ」であった。相手の首の側面部に向かって打ち下ろす形で、相手の頚動脈を狙う。これでシャープ兄弟などはキリキリ舞いだった。
その後、力道山は「水平打ち」を多用するようになる。これは、相手のノド笛を狙って手刀を打つというえげつない技で、やられる側はたまったものではない。ノドボトケに手刀を打ち込むなんて、考えただけで恐ろしい。ウェスタンラリアートよりダメージは大きいのではないだろうか? 腕より手刀の方が固いだろうし。
さて、この力道山の水平チョップは、力道山の死とともに封印されてしまったように思う。鍛えようのないノドボトケを狙うチョップなど事故に繋がる。アメリカでは州によってルールが違うらしいが、明確に「禁止技」としていた所もあった由。
その後、後を継いだ馬場さんが「脳天唐竹割り」を使い出す。これは相手の脳天に打ち込むチョップで、水平打ちに比べて痛め技になるのは否めないが、迫力はある。馬場vsブルーノ・サンマルチノで、必殺技ベアハッグに捕えられた馬場さんが、サンマルチノに何発も脳天チョップを叩き込み逆に相手をぶっ倒したことがあった。馬場さんならではの迫力である。後年、チョンと相手の頭にチョップを入れていたように見えた馬場さんでよく揶揄の対象となったが、あれでも会場で見ると、手の骨と頭蓋骨のぶつかる音がカーンと聞こえたものだ。それを思うと、若い頃のジャンプして脳天に叩き込んでいたチョップの威力が想像できる。
馬場さんは水平打ちもやったが、どちらかと言えば、もう既に「チョップ」ではなかったように思う。つまり、手の側面部でなくて掌が当たっていたからだ。ダメージの軽減だろう。打ち込む部分もノドボトケではなく胸板が多かった。
この「胸板へのダメージ軽減型チョップ」はその後のレスラーに受け継がれていく。水平打ちはもはや絶滅したと言っていい。もうチョップという名称は、手の側面部を使う場合に限って使うようにした方がいいのではないか。胸板に平手で打ち込むのは「チョップ」ではないと思う。
小橋健太というレスラーは大好きである。寡黙で男気があり、しかも強い。今おそらく日本で一番強いレスラーだろう。だからこそ…と思うのだが、あの「マシンガン水平チョップ」は止めた方がいいのではないかと僕は思っている。
先日、天龍の胸板の血管を弾けさせたチョップはTVで見た。効くのだろうとは思っている。しかし、あれはプロレスで言うギミックがかなり色濃く出てしまっているように思える。真面目な小橋がやるから余計目立つのだ。先日のも、我慢して受け続けた天龍の方を評価したくなる。あんなに何回も連発して打たなくても、小橋なら重いのを一発でいいではないか。どうしてもあの連発チョップは少し、僕には安っぽくみえる(小橋ファンがもし読んだらイヤな気分になるでしょうが、小橋は本当に強いのだから自分の強さの表現プランももう少し工夫した方がいいと思う)。
形勢逆転にチョップが使われることもあり、なかなかに格好いい。橋本真也が、相手がラリアートを打ち込もうとする腕を袈裟斬りチョップで叩き落すときなど思わず声が出てしまったりする。この橋本真也が打ち込む袈裟斬りチョップこそ、今に残る本物のチョップである。平手を当てるのではなく完全に鋭角的に打ち込んでいる。手刀、という言葉を使えるのは橋本真也の渾身の一発である。
橋本はラリアットも使わず、キックとともにこの袈裟斬りチョップで試合を組み立てる。見るからに痛そうである。早く元気になって本物の手刀を打ち込んでもらいたい。
また、トップロープからの脳天打ち、また小川直也のようなキカン気のレスラーに打つ耳そぎチョップなど、使い方が多岐にわたって面白い。また水平打ちこそ絶滅したものの、小橋が打つローリング袈裟切りチョップなどは明らかに必殺技の匂いをプンプンさせており、まだまだチョップは生き続けている。
というところで終わろうと思ったのだが、特殊チョップ技について書くのを忘れていた。
クロスチョップという技がある。両手の手刀をクロスさせて相手のノドに打ち込むもので、ノドボトケを直接狙う形にはならず、理屈ではかなり効く技のはずであるが、なんとなしにマイナーなイメージを僕が持ってしまうのは、ラッシャー木村が多用していたせいもあろう。打ち込むときに木村はちょっと足がドタドタしてしまうのであまり格好がよくなかったからだ。最近では中西がこれをやるが、洗練された技になる可能性はある。
これがフライング・クロスチョップともなると実に華麗な技となる。もちろんミル・マスカラスの必殺技で、とにかくカッコいい。いい後継者が現われないものか。
モンゴリアンチョップという技は、つまりダブルの袈裟斬りチョップと言う言い方も出来る。両方の頚動脈を狙うのでダメージはかなりあるはずなのだが、なんとなしに軽い感じがしてしまうのは何故だろう。もちろんキラーカーンの技であったわけで、カーンの奇声を発しながら相手に打ち込んでいく姿はなかなか悪役的で絵になったのだが、他のレスラーではなかなかあの域に達するのは難しい。天山がよく打つが、彼は打つ前にひとポーズ入れるのでなおさら軽い。あのポーズはギミック的要素が強すぎて、やはりタイトル戦では小島にそこを衝かれていた。なかなか難しいのである。
金的、目潰し、噛み付きなどはやってはいけない。これはもちろん他の格闘技も同様。また、髪の毛やトランクスを掴んではいけない。これも当たり前のこと。それ以外はたいていのことはやっても良く、プロレスがking of sportsと呼ばれるのもあらゆる手を使って相手を攻めていいというルールがあればこそ。他では出来ない頭突きや肘打ちなども認められている。ストリートファイト(喧嘩)の次にルールの制約がない格闘技ジャンルである。だからこそ面白いのだ。
しかし、一つだけ他の格闘技にあってプロレスでは反則と言われる技がある。
それは拳で殴ることである。
「体のいずれの箇所をもナックルパート(正拳)で殴打してはならない。」
(プロレスリング競技者規約 競技者の禁止事項 第一条の1 新日本プロレス)
殴っちゃいかんのだ。プロレスはグローブをつけず基本は素手で行う。なので、最も危険なパンチは禁止されている。この点だけが他の格闘技と一線を画す部分である。
したがって、先日小島を破って天山がIWGPを奪い返したがパンチを多用していた。あれは反則なのだ。ただ、5秒以内であれば反則は行ってもよい、というプロレス独特の「5秒ルール」があるが故に見逃されていただけのこと。猪木の「ナックルアロー」も同様に反則だ。
しかし、人間というもの、戦うときにはどうしても「手」が出る。それが戦闘本能というもの。その時にレスラーはどうするか。
そういうときには、平手打ちであったり、掌底突きであったり、空手チョップを繰り出すのである。これなら正拳ではないので反則にならないのだ。
その中でもチョップ(手刀)は、手の側面の固い部分を鋭角的に相手に打ち込む技であり、正拳に次いで威力を発揮する技である。なおchopとは「叩き切る」という意味。
チョップについて書こうとしたのだが前置きが長くなりすぎた。
さて、チョップと言えば力道山の空手チョップ。もちろんチョップという技は手刀として空手などで古くからある技ではあるが、プロレスに取り入れたのは力道山が最初であると言われる。当時「相撲のツッパリから発想して空手チョップを考え出した」と力道山が語ったという伝説があったが、これは疑問である。しかし、力士時代突っ張りを得意としていた力道山の腕力はチョップを打つのに向いていたのだろう。「空手」という欧米では神秘の格闘技に、更に神秘的な「相撲」のエッセンスを入れた力道山のセンスは敬服されるべき。
もちろん僕は力道山を知る世代ではないので「懐かしビデオ」で見ているに過ぎないが、最初の力道山のチョップは今で言う「袈裟切りチョップ」であった。相手の首の側面部に向かって打ち下ろす形で、相手の頚動脈を狙う。これでシャープ兄弟などはキリキリ舞いだった。
その後、力道山は「水平打ち」を多用するようになる。これは、相手のノド笛を狙って手刀を打つというえげつない技で、やられる側はたまったものではない。ノドボトケに手刀を打ち込むなんて、考えただけで恐ろしい。ウェスタンラリアートよりダメージは大きいのではないだろうか? 腕より手刀の方が固いだろうし。
さて、この力道山の水平チョップは、力道山の死とともに封印されてしまったように思う。鍛えようのないノドボトケを狙うチョップなど事故に繋がる。アメリカでは州によってルールが違うらしいが、明確に「禁止技」としていた所もあった由。
その後、後を継いだ馬場さんが「脳天唐竹割り」を使い出す。これは相手の脳天に打ち込むチョップで、水平打ちに比べて痛め技になるのは否めないが、迫力はある。馬場vsブルーノ・サンマルチノで、必殺技ベアハッグに捕えられた馬場さんが、サンマルチノに何発も脳天チョップを叩き込み逆に相手をぶっ倒したことがあった。馬場さんならではの迫力である。後年、チョンと相手の頭にチョップを入れていたように見えた馬場さんでよく揶揄の対象となったが、あれでも会場で見ると、手の骨と頭蓋骨のぶつかる音がカーンと聞こえたものだ。それを思うと、若い頃のジャンプして脳天に叩き込んでいたチョップの威力が想像できる。
馬場さんは水平打ちもやったが、どちらかと言えば、もう既に「チョップ」ではなかったように思う。つまり、手の側面部でなくて掌が当たっていたからだ。ダメージの軽減だろう。打ち込む部分もノドボトケではなく胸板が多かった。
この「胸板へのダメージ軽減型チョップ」はその後のレスラーに受け継がれていく。水平打ちはもはや絶滅したと言っていい。もうチョップという名称は、手の側面部を使う場合に限って使うようにした方がいいのではないか。胸板に平手で打ち込むのは「チョップ」ではないと思う。
小橋健太というレスラーは大好きである。寡黙で男気があり、しかも強い。今おそらく日本で一番強いレスラーだろう。だからこそ…と思うのだが、あの「マシンガン水平チョップ」は止めた方がいいのではないかと僕は思っている。
先日、天龍の胸板の血管を弾けさせたチョップはTVで見た。効くのだろうとは思っている。しかし、あれはプロレスで言うギミックがかなり色濃く出てしまっているように思える。真面目な小橋がやるから余計目立つのだ。先日のも、我慢して受け続けた天龍の方を評価したくなる。あんなに何回も連発して打たなくても、小橋なら重いのを一発でいいではないか。どうしてもあの連発チョップは少し、僕には安っぽくみえる(小橋ファンがもし読んだらイヤな気分になるでしょうが、小橋は本当に強いのだから自分の強さの表現プランももう少し工夫した方がいいと思う)。
形勢逆転にチョップが使われることもあり、なかなかに格好いい。橋本真也が、相手がラリアートを打ち込もうとする腕を袈裟斬りチョップで叩き落すときなど思わず声が出てしまったりする。この橋本真也が打ち込む袈裟斬りチョップこそ、今に残る本物のチョップである。平手を当てるのではなく完全に鋭角的に打ち込んでいる。手刀、という言葉を使えるのは橋本真也の渾身の一発である。
橋本はラリアットも使わず、キックとともにこの袈裟斬りチョップで試合を組み立てる。見るからに痛そうである。早く元気になって本物の手刀を打ち込んでもらいたい。
また、トップロープからの脳天打ち、また小川直也のようなキカン気のレスラーに打つ耳そぎチョップなど、使い方が多岐にわたって面白い。また水平打ちこそ絶滅したものの、小橋が打つローリング袈裟切りチョップなどは明らかに必殺技の匂いをプンプンさせており、まだまだチョップは生き続けている。
というところで終わろうと思ったのだが、特殊チョップ技について書くのを忘れていた。
クロスチョップという技がある。両手の手刀をクロスさせて相手のノドに打ち込むもので、ノドボトケを直接狙う形にはならず、理屈ではかなり効く技のはずであるが、なんとなしにマイナーなイメージを僕が持ってしまうのは、ラッシャー木村が多用していたせいもあろう。打ち込むときに木村はちょっと足がドタドタしてしまうのであまり格好がよくなかったからだ。最近では中西がこれをやるが、洗練された技になる可能性はある。
これがフライング・クロスチョップともなると実に華麗な技となる。もちろんミル・マスカラスの必殺技で、とにかくカッコいい。いい後継者が現われないものか。
モンゴリアンチョップという技は、つまりダブルの袈裟斬りチョップと言う言い方も出来る。両方の頚動脈を狙うのでダメージはかなりあるはずなのだが、なんとなしに軽い感じがしてしまうのは何故だろう。もちろんキラーカーンの技であったわけで、カーンの奇声を発しながら相手に打ち込んでいく姿はなかなか悪役的で絵になったのだが、他のレスラーではなかなかあの域に達するのは難しい。天山がよく打つが、彼は打つ前にひとポーズ入れるのでなおさら軽い。あのポーズはギミック的要素が強すぎて、やはりタイトル戦では小島にそこを衝かれていた。なかなか難しいのである。
好きだったんです!バイソン木村!!あんなにキレイなのに「バイソン」なんてかわいそうだよな、といつも思ってました
ラッシャー木村もすっかりマイクパフォーマンスでお馴染みになってしまいましたが昔は迫力ありましたよね。
しかしこうやって凛太郎さんのお話伺ってると今のプロレスも魅力的なのにどうも見る機会がないですね。お書きになってた小島
K-1やPRIDEはゴールデンタイムでやるのに‥。
やっても視聴率が上がらないんでしょうかね?
と、またまたチョップからずれてしまいました
いつもながら誠にすみません
胸板とか赤くみみずばれしてるの見るとそう思います。
ところで、バイソン木村という選手は実に艶っぽい人で…。こういう見方をしてはいかんのですがやはり女性の色気を感じましたね。まあパートナーがアジャでしたので妙な気持ちにならずに済んでましたが(笑)。
そういえば天龍は突っ張りまで「天龍チョップ」と言ってたな。ありゃあどう考えてもチョップじゃねーよ(笑)。
若い時の長州や天龍源ちゃん見れて面白いです~
(関西でやっていたかの確認はしていないのですが…笑)
鶴田のことを考えると、かえすがえすも惜しかったですねぇ。自己演出があまり上手くなかっただけで、実力は当時最強だったかと思います。あれで猪木のようなアピール力があったなら…。本当に残念でした。