夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

Phantom of the Opera

2005年07月08日 | 演劇
今日も、警察からはなるべくロンドン中心部に出かけるなという注意が出ているので、かなり迷ったけれど、友人の家にいて、BBCを見ていた。幸い、何人かの弁護士と電話でインタビューができて、仕事のほうも思ったより進んだ。
アフリカ宣言のサインのときは、小泉さん真ん中にいたけど、あの緑色のペイズリー柄のネクタイは全然似合っていなかった。

それでこうしてエントリーもしているのだが、表題は、
私の一番お気に入りのミュージカルだ。
ちなみに今までロンドンまたはNYで見たものは、キャッツ、レミゼラブル、ミスサイゴン、ライオンキング、アイーダ、Beauty and the Beast, We will Rock You, マンマミーア。

初めて見たのは、1993年、留学中の英国でだが、感動のあまり、劇場でテープ(当時はまだCDはそれほど一般的でなかった)を購入し、大学の寮の部屋でいつもかけていたので、ほとんどのナンバーは今でも歌える。

今回、12年ぶりに同じ劇場:Her Majesty Theatreで見た。
(夜と週末はミュージカル・オペラ、夜開いてる美術館等に通っています。)

映画版を有楽町マリオンで見て、また、ロンドン行きの飛行機でやっていたので、それをまた見て、劇場版をまた見たくなったからだ。
私は演劇フリークだが、たとえ好きな役者が出ていても、同じ演目を二度見るということはあまりないのだが。

やはり、いろいろな意味で、非常に優れたミュージカル作品だと思う。

まず、内容面だが、ガストン・ルルーの原作を下敷きに、普遍的なテーマを斬新なスタイルで描いていることにあると思う。優しく、必ず幸せにしてくれるであろう男性と、危険で一緒にいても不幸になりそうな男性(このことは、私の一番好きなナンバーAll I Ask of You において、それぞれの男性がChristineに歌いかける科白が、 Raoulのそれが “Let me lead you from your solitude” であるのに対して、Phantom のは、“Lead me, save me from my solitude”であることに象徴されている)との間で揺れる女性というのは、源氏物語の浮舟と匂宮・薫大将の三角関係にも遡れる普遍的なテーマである。(そういえば、劇中最も美しいシーンであるPhantomがchristineを船に乗せ、地下水路をこぎ行くシーンは、匂宮が浮舟を舟に乗せて連れ出すシーンと似ている)

また、ChristineはPhantomに亡父の面影を投影しているので、これも古典的なエレクトラ・コンプレックスから説明できよう。
孤児である彼女の孤独とPhantomの孤独が共鳴しあって惹かれ合ったということも説得力をもって伝わってくる。

そして、これがミュージカルの場合、非常に重要な点なのだが、ミュージカルという形式の利点を十二分に生かしていることである。
ミュージカルには、「どうしてそこで急に歌い出すのか?」という根本的な不自然さが常に付きまとう(三谷幸喜の『オケピ!』にもそういう科白があるし、タモリもだからミュージカルは嫌いだと公言している)が、この作品では、舞台がオペラ座であり、主人公はPhantomと歌の指導を通じて心を通わせるという設定だから、歌うことはむしろ必然である。

さらに、作曲家が愛する女性の歌をプロデュースして成功させるというストーリーは、現実のA ウェバーと、当時の妻でchristine役のサラ・ブライトマン(後に離婚)の関係とも完全に重なっている。(日本でもTKと華原朋美がそのような関係だった)

そしてまた、劇中歌も、絶妙に物語とリンクしている。
RaoulがChristineを幼馴染と気づく場面で彼女が歌っているアリアThink of Meは”We never said our love was evergreen, or as unchanging as the sea, but please promise me, that sometimes, you will think of me!”となっており、その直後の再会のシーンで、Raoulは、子供のころ、彼女の赤いスカーフを拾うために海に入ってずぶぬれになった思い出を語る。

また、Phantomの、天才的な才能を持ちながら社会から隔絶された孤独感も、彼が作曲したという設定の音楽の素晴らしさとのコントラストで効果的に描かれている。これは、映画版『砂の器』(TV版は噴飯物)にも共通する。
Masqueradeはまさに、仮面の下に孤独を隠すPhantomの生き様そのもの、そして、劇の最後のフレーズは、”Hide your face, so the world will never find you”である!

今回役者の中では、Raoul役のOliver Thorntonが貴公子然とした美貌なのがとても印象に残った。ウェールズ人で12歳で初めて見たミュージカルがこれだったそうだ。

映画版との比較では、まず、プロローグの終わりにシャンデリアのベールが解かれるところで、シャンデリアの光が当たったところから、モノクロの画面がカラーの19世紀末の輝かしいオペラ座の場面に変わっていくという、映画ならではの演出がすばらしい。

また、劇場版では、Phantomにやられっぱなしでどちらかというと情けないRaoulが、映画版では仮面舞踏会の後でも決闘しようと剣を抜いたり、墓場のシーンでは、Phantomと戦って実際にねじ伏せるところまでいっている点で、優しいだけでなく、強く勇敢な理想的な男性という面が強調されている。

また、映画版では最後にRaoulが競り落とした猿のオルゴールを妻だったChristineの墓に供えると、そこにPhantomのバラが置かれているという場面が付け加えられている。

ひとつ、映画版の方がリアリティを欠くのは、マダム・ジリーがPhantomが見世物小屋から逃亡するのを助けたという設定だ。劇場版ですら、娘のMEGが、朋輩の出世に全く嫉妬しないのが、不自然なのだが、映画では、さらにその母親が恩人なわけだから、「なぜ私の娘にこそ個人指導してくれない?」ということになりはしないか?この親子はお人よし過ぎないか、と思うのは私の性格がひねすぎているから?

私自身は、12年前に見たときは、留学という目的を果たし、次は結婚、と思っていた時期だから、Christineに感情移入し、前述のAll I ask of youも、彼女の立場から、孤独から救ってくれる男性にめぐり会いたい、と思いながら、オックスフォードの寮の部屋でこの曲を聴いていた。同じ意味で、中学のときから好きだったCarpentersのOnly Yesterdayの"After long enough of been alone, everyone must face their share of lonliness""I've found my home here in you arms"というフレーズも繰り返し聞いていたのだが。が、今回は、Phantomの救いのない孤独な魂と自分を重ね合わせてしまう。最後のシーンは、涙が止まらなくなった。

自分には過ぎた相手と結婚して10年経っても癒されないほど、私の孤独は根本的なものだったのだと今回気づかされた。

今回見た他の作品・We Will Rock Youとマンマミーアは、それぞれQueenとABBAのヒットナンバーの人気に依拠した作品で、ちょっと掟破りじゃないかと思う。

オペラ座の怪人 スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]
ジェラルド・バトラー,エミー・ロッサム,パトリック・ウィルソン
メディアファクトリー

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

戒厳令のロンドンから

2005年07月08日 | profession
あまりたくさんの人には知らせていない(いない間に研究室で変なことされると困るので)が、私は今、researchのためにロンドンに来ている。
心配してくださっている方もいらっしゃると思うので、書いておく。

うちの法科大学院は3学期制で、2学期は8月から始まる。
民法7部あるうちの3,4,6部のほか、英米法と中国法も担当するから、今のうちにまとまった調査をしている。

1992年から1993年までオクスフォードの大学院に留学し、その後も銀行の出張で1994年と1995年に来ているから、ちょうど10年ぶりだ。

(研究費(交通費込みで年間30万円)がどうせ全然足りないし、今私のあらを探そうを躍起になっている人がいるので、休暇届を出して100%私費できている)

今回の主要な目的は、昨年と今年の春、アメリカでも調査し、それと比較しようとしている、英国の信託法や信託業務、そして不動産登記制度の調査だ。

そのために、非常にショッキングな出来事に遭遇することになってしまった。

先週は、母校の一つ、オックスフォード大の法学部図書館でリサーチしたり、10数年ぶりに恩師ふたりと会ったりした。卒業したSomerville College(サッチャー元首相の出身校)に宿泊したのも、何もかも懐かしさに涙の出る経験だった。

今日は、午後にClifford ChanceとFields and Fishersの信託業務担当のパートナー弁護士とアポがあったので、それまで、大英図書館で調べものをしようと、居候させてもらっている友人(前に勤めていた銀行のロンドン支店のスタッフで、英国人と結婚して30年近く英国に住んでいる人で、私が銀行でロンドン支店の融資案件の審査をしていたときから、親しくさせていただいている。昨晩はオペラフリークの彼女の指南で二人でロイヤルオペラハウスにリゴレットを観にいった。
ご親切に甘えご厄介になり、本当に申し訳ないと思っている。
でも大学の教師は逆成果主義、まじめに研究や教育をやればやるほど、こうして可処分所得や自由時間が減っていく。だから、10年以上論文かかない、授業ではレジュメも配らないなんていう先生が出てくるわけだが)
)の、ロンドン郊外の家を、9時前に出た。

ところが、途中のWest Hampsteadという駅で停まってしまい、「電車は再開する見込みがないので、駅から出て下さい」といわれた。
このときは、ロンドンの地下鉄は相変わらずunreliableだな、くらいしか思わず、139番のバスに乗りかえた。

バスは非常に混雑していて、携帯電話で外部と話していた他の乗客と情報交換したら、「ラッセルスクエアでバスが爆発し、その関係で全ての地下鉄がとまっている」とのこと。このとき初めてただならぬことが起こっているとわかった。

バスは、11時前にやっとOxford Circusに到着し、当初10番のバスに乗り換えて大英図書館に行こうと思っていた私だが、情報を集めるために、近くにあったJCBプラザに寄った。

そこで、BBCのニュースを見ていると、地下鉄やバスなど複数の箇所で爆発が起こり、同時多発テロの可能性が高いとの事、ロンドンは地下鉄全線と国鉄だけでなく、zone1(最中心部)のバスは全て止まっているとの事。
戒厳令というのはちょっと大袈裟かもしれないが、スコットランドヤードの人がTVで「Stay where you are」といっていたし、会社の人はみな建物から出るなといわれていたようなので。

携帯電話もネットワークが混み合って全然つながらないので、親切な日本人のスタッフが、電話を貸してくれて、アポのキャンセルと、日本の夫への電話ができた。その時点では夫は深刻さがまだよくわかっていなくて、私はいらついた。

そういえば、似たようなことが婚約中にあったな。地下鉄サリン事件の日、夫の使っている路線がやられたので、夫から「心配しているのじゃないかと思って」と私の職場に電話があったが、私は夫の使っている路線だったことを知らなくて、冷たいと言われてしまった。

ここでじっとしていた方がいいのか、それとも早く帰ったほうがいいのか、(でも、交通機関はないし、タクシーも捕まらない)、下手に動くとまた何かに巻き込まれるかもしれない、と迷っているところに、JCBの男性スタッフが、タクシーを調達してきてくれ(前の仕事柄UCカードばかり使っていたが、これからはJCBをもっと使おう、と決意した)、他の客と一緒に乗ることができ、その人たちのホテルに寄ってから、13時ごろやっと滞在先にもどることができた。

といっても、高校生のお嬢さんが帰宅するまで家に入れないので、近くの中華料理店で食事しながら、広東人だという主人と広東語で話したりして(広東語の響きはいつも私に楽しかった香港時代を思い出させる)時間をつぶし、15時ごろやっと家にたどりついたわけである。

情報は錯綜しているが、今のところ、地下鉄の三箇所の爆破では少なくとも33人が亡くなり、バスの爆発で亡くなった方の数はいまだ不明、150人以上が重傷を負っているそうだ。

平日の9時前後という通勤時間を狙ったテロに、昨日のオリンピックの狂喜から一転してロンドンは激しい怒りと悲しみに襲われている。バッキンガム宮殿にも半旗が翻っている。

私も、被害者になっていたかもしれないのだ。
事件の起きたEuston, Kingscrossといった駅は、大英図書館のすぐ近くだから。
きっと被害者の中には観光客も多数含まれているだろう。
無辜の人を無差別に傷つけるテロへの怒りを、心から感じた。

9.11を思い出すと、私は香港にいて、ずっとCNNを見ていたが、画面の端の文句が、
America Under Attack
America in War
War Against Terrorism
とだんだん扇情的になっていったのをよく覚えている。

しかし、BBCの放送は、もっと冷静で、いろいろな現場からの生中継の下に、交通情報等が字幕のように帯状に流れている、とてもtidyなものだ。ここにも国柄を感じる。

オックスフォード大法学部の先輩で好感をもっていたブレア首相が、最近イラクのことではアメリカの子分みたいになっているのが気に入らなかったが、彼の、以下のコメントには全面的に同意する。

"Whatever they do, it is our determination that they will never succeed in destroying what we hold dear in this country and in other civilised nations throughout the world."

それにしても、ブッシュの談話はBBCに流れても、小泉さんは全然出てこないな。
G8のメンバーがずらっと並んだ前でブレア首相が声明を読み上げた映像でも、両隣にはブッシュとシラク、その隣にも別のメンバーがいて、小泉さんは映りもしなかった。こういうことで英国の日本観がわかるよなー。

人類全体を巻き込むこういう悲惨に対して、法学研究者というのは、どのようなhelpができるのだろうか?いつもいつも考えてしまう。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする