生活困窮者の住まいに「空き家」活用 “事故物件”を危惧し増えぬ現状も
生活困窮者の住まいに「空き家」活用 “事故物件”を危惧し増えぬ現状も https://dot.asahi.com/wa/2021061700060.html 近年、高齢者や障害者、生活困窮者やひとり親世帯などの入居を拒まない住まいを「セーフティネット住宅」と呼び、国が支援を始 めているのをご存じだろうか。実は、これに空き家を活用する試みが始まっているという。コロナ禍で収入が減った人たちを支える取 り組みの現状と課題を取材した。 * * *
宮本晨子(あさこ)さん(83)は、30年前に夫を、5年ほど前にひとり息子を亡くしているおひとりさま。今年1月から、東京都豊島 区にある空き家を活用したセーフティネット住宅「共生ハウス西池袋」で共同生活を始めている。 それまで長く住んでいた同じ豊島区内のアパートの家賃6万円が払えなくなってしまった。原因はコロナ禍による収入減だ。仕事 は、警備会社の社員寮の賄い。十数年もの間、午前3時から午前9時まで住み込み社員の“母”となり世話をしていた。給与は月に10万 円ほどで、他に夫の遺族年金などを含めると、ぜいたくしなければ十分暮らしていけた。 だがコロナで状況が激変した。会社の業績が悪化して寮に住む社員の大半がいなくなり、宮本さんの給料も下げられた。 「5月の給料は1万2千円。そのうち4千円は『ごめんね、本当に少なくて』と社長の奥さんがポケットマネーから出してくれました」 (宮本さん) 家賃を払えなくなったのは昨年の秋ごろから。このままでは、建物明け渡しの強制執行が避けられない。困った宮本さんは同区の 「くらし・しごと相談支援センター」で相談し、共生ハウス西池袋を紹介してもらった。 共生ハウス西池袋はシェアハウスの形態をとる困窮者向けの一軒家だ。部屋は1階に1室、2階に3室。トイレや風呂、キッチンは共用 で、家賃は共益費込みで3万9千円。入居時には敷金や火災保険料として家賃1カ月分がそれぞれ必要になる。 宮本さんは賄いの仕事をやめ、6月から共生ハウス西池袋を運営する一般社団法人コミュニティネットワーク協会が開設した地域交 流スペースで働いている。利用者に健康マージャンを教えるのが主な仕事だ。「これである程度の収入は見込める」と宮本さんは笑顔 を見せる。 「本当にありがたいです。これからは貯金して、自分の葬式代ぐらい出せるようにしておかないとね」 セーフティネット住宅とは、「住宅確保要配慮者」と言われる高齢者や障害者、生活困窮者、ひとり親世帯などの入居を拒まない住 まいをいう。住宅確保要配慮者だけが入居できる住まいとして自治体に登録すると、建物の改修費や入居者の家賃などの一部が助成さ れる。 この制度に空き家を活用したのが、先に紹介した共生ハウス西池袋だ。 オープンは昨年7月。現在は、宮本さんのほかに発達障害のある40代の男性と、同協会顧問の高橋英與(ひでよ)さん(72)の3人が 暮らす。 「豊島区は空き家率が23区で最も高く、独居高齢者の割合も高い。(共生ハウスで)その両方を解決できると考えました」と渥美京 子・同協会理事長(61)は言う。 活用する空き家は不動産業者に紹介された。物件のオーナーが「社会の役に立つなら」と、住んでいなかった一軒家を貸してくれ た。10年間の賃貸借契約を結び、1130万円かけてシェアハウスに改修した。改修費のうち150万円は豊島区からの助成だ。 契約はオーナーと協会、協会と入居者とがそれぞれ結ぶ。協会は月々の賃料をオーナーに払い、入居者は協会に家賃を払う。これに よりオーナー側は確実に賃料が得られ、協会は困窮者を支援できる。 さらに協会がセーフティネット住宅として区に登録したことで、入居者1人当たり月4万円の家賃が補助される。 「おかげで池袋駅から徒歩10分ちょっとという好立地にもかかわらず、2万9千円という安値で提供できます」と渥美さん。入居の条件 は豊島区民で月収が15万8千円以下であること、生活保護を受けていないこと、などだ。
■“事故物件”危惧 専用住宅わずか シェアハウスでは見ず知らずの人が一緒に暮らす。高橋さんは、運営を始めたばかりのこの住宅で入居者の利用状況を見るため、自 ら住み込んでいる。 「生活する時間帯が違うので、お互いあまり関与していませんね。食事もバラバラで、自室で過ごすことが多い。一方で、玄関の鍵の 使い方で困っていた宮本さんに発達障害のある男性が使い方を教えてあげたり、宮本さんが寮に勤めていたころは、僕らに仕事先から 持ち帰った総菜をお裾分けしてくれたりなど、互助の関係もできてきています」 当面は細かなルールはつくらず、ゴミ捨てや掃除などは宮本さんたちの自発的な協力に任せている。問題が起きれば、そのつど解決 していく考えだ。 セーフティネット住宅を制度化した改正住宅セーフティネット法は、2017年に公布された。登録物件は全国に6万件ほどあるが、大 多数は一般の人も入居できる物件で、住宅確保要配慮者の専用物件は2848戸にとどまる(6月4日現在)。 共生ハウス西池袋は、住宅確保要配慮者の専用物件としては、豊島区内で2番目だという。 総務省の住宅・土地統計調査(18年)では、全国に空き家は約849万戸ある。これらがなかなかセーフティネット住宅に結びつかな い背景を、空き家活用株式会社(東京都港区)の和田貴充社長(44)は次のように解説してくれた。 「オーナーの不安がハードルになっています。生活困窮者への賃貸で家賃が滞納されたり、高齢者が孤独死して“事故物件”となった りすることを避けたいと考える人もいます。近隣住民とのトラブルを危惧する声もあります」 社名のとおり、同社は1都3県、関西圏、中京圏を中心に空き家情報を独自に調べてデータベース化。「AKIDAS」というサイトで紹介 している。 経済的な理由などから、住まいを見つけるのが困難な人たちに空き家を提供するのは、一見理にかなっているように思えるが、必ず しもうまくいっていない。 自治体での取り組みもあまり進んでいない。和田さんによると、空き家一つとっても、複数の部署が関わっているため連携しにく く、ここに住宅確保要配慮者を担当する部署が加われば、さらに連携は難しいためだ。 「共生ハウス西池袋のある豊島区のような例は、ほかに聞いたことがない」。そう和田さんは話す。 一方で、生活困窮者に空き家を改修して貸し出す、独自の取り組みを始めている会社もある。京都府京田辺市にあるリノベーター だ。社長の松本知之さん(41)は10年ほど前に個人で購入した空き家を高齢者に貸したことをきっかけに、低所得者や生活保護受給 者、外国人などに空き家を提供するビジネスを始めた。 3年前に法人化し、現在は大阪や京都を中心に松本さん個人が持つ約20物件のほか、法人で約70物件ほどの空き家を買い取り、最低 限のリフォームをして生活困窮者らに貸し出している。
■終わらぬコロナ 安い物件求める リノベーターが所有する大阪府寝屋川市の物件に3カ月ほど前から住むのが、ひとり暮らしのタツロウさん(仮名・63)。運送会社 で配送アルバイトをしているが、コロナ禍で会社が請け負う荷物が減り、月収が3万?4万円減ったという。 「貯金とかあればよかったんだけれど、まさかこんな状況になるとは。コロナはいつ終わるかわからないから、今のうちに家賃が安い ところに住み替えようと思った」 同社の取り組みを紹介するテレビ番組を偶然見て、松本さんに連絡を取った。敷金も礼金も、保証人もいらない。どんな人でも入居 を拒まないと知り、思い切って電話したという。 希望条件に合う空き家を見つけるまで数カ月かかったが、ようやく住める家が見つかった。空き家になっていた長屋の一区域だ。仕 事場に近く、2階もある。以前住んでいた1Kのアパートとは雲泥の差で、家賃は前より1万円ほど下がって4万3千円。周辺の相場より断 然安い。 「狭い部屋だと体が休まらないけれど、ここだとゆっくりできる。ただ、建物が古いので掃除は大変です。ベランダの水漏れは松本さ んと2人で修理しました」(タツロウさん) 松本さんによると、昨年秋ごろから、タツロウさんのように、コロナ禍で収入が減ったことで将来の不安を抱えた人が、より安い賃 貸住宅への住み替えを相談してくるケースが増えた。直接電話で問い合わせる人のほかに、自治体から紹介された人もいる。 課題は、リノベーターだけではじゅうぶんな数の住まいを提供できない点だ。実際に家を貸せるのは10人の希望者に1件ぐらいだと いう。 大阪府の60代男性はリノベーターに物件を申し込んだが、男性が希望する地域では同社が空き家を購入するのが難しく、住まいは借 りられなかった。その後も松本さんに何度かメールをしてきた男性の最後のメッセージは、「家を追い出されて、路上生活者になりま した」だった。松本さんは「物件数が1ケタ、2ケタ足りない」となげく。 カフェや店舗、グループホームなどで注目される空き家の活用法。困窮者向けの住まいにも目を向ければ、空き家の使い道はさらに 広がる。(本誌・山内リカ)
借金してでも払え!
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税金Gメン取り立て、各地でトラブル
借金してでも払え! 税金Gメン取り立て、各地でトラブル https://mainichi.jp/articles/20210602/k00/00m/020/126000c 納税を担当する市役所の窓口。小さな自治体では専門の職員を配置することも難く、滞納者からの徴収は難しくなる(写真の自治体 と本文は直接関係ありません) 生活苦から税を滞納していた男性が職を失った。強引な取り立てに遭って仕事で使う取引口座を差し押さえられてしまったためだ。 取り立て主は市町村ではない。「租税債権管理機構」という聞き慣れない組織。納税の義務は生存権より優先されるのか。自治体に代 わって税を集める「税金Gメン」の実態を追った。 分納認めず、財産差し押さえ
男性は茨城県内に住む40代。大手運送会社から委託される配送業務で生計を立てていたが、3月に委託契約を解除された。機構が委 託費の振込口座を差し押さえたことで滞納の事実が運送会社に伝わった。「税金滞納者とは仕事できない」。仕事をもらえなくなって しまった。 男性は15年ほど前から建設会社を経営していたが、景気低迷で業績不振が続いた。育ち盛りの3人の子を抱える生活は苦しく、市民 税などの納付が困難に。市の担当者に相談したところ、「可能な範囲」での分納が認められた。月に5万~10万円。精いっぱいの額を 納税してきた。 状況が一変したのは2009年末。「財産を差し押さえます」という通知書が突然、自宅に届いた。送り主は「茨城租税債権管理機 構」。市から委託されて徴収業務を引き継いだという。急いで機構に電話すると、滞納分の約500万円を一括で払えという。「市は分 納を認めてくれていた」。これまで通り「可能な範囲」の支払いを申し出たが、取り合ってもらえない。それまでの倍の約10万~20万 円を何回か納付したが、機構は容赦なかった。会社の「売掛金」を差し押さえられ、経営は行き詰まった。 配送業務は昨年にようやく見つけた仕事だったが、今回の口座差し押さえでそれも失った。「仕事を見つけても機構にまた同じこと をされるかもしれない」。 滞納が続いたことで延滞金も膨らみ、納税しなければならない額は1000万円を超えた。新型コロナウイルス禍で求人が減少し、仕事も 見つからない。どうやって納税するか。男性は途方に暮れた。 納税は憲法30条に記された国民の義務だ。国と地方は集めた税金を予算化して社会に必要な政策を実施していく。だが、税金は生活 困窮者を追い詰めてまで徴収するものなのか。茨城に飛び、実情を探った。 徴収できれば市から成功報酬
茨城租税債権管理機構は01年に設立された一部事務組合。職員の大半は各市町村と県からの派遣で構成される。県内全44市町村から 「処理困難」とみなされた税の滞納事案を引き受け、市町村に代わって財産調査や徴収、差し押さえなどを行うのが業務だ。 市町村は年5万円の負担金に加え、機構に1案件を委託するごとに9万円を支払う。さらに、徴収を完了すれば徴収額の10%を追加で 納付する。取り立てに成功すればするほど機構の収入が増える仕組みだ。この成功報酬の仕組みが厳しい取り立てに走らせる要因と指 摘されている。 納税に関する相談を受ける茨城県商工団体連合会を訪ねると、幹部がこう証言してくれた。 「機構ができる前は市の職員が滞納者を訪ね、『生活は大丈夫ですか?』と目配りしてくれた。しかし、機構は滞納者の事情を一切 考慮せず、機械的に強引な取り立てを続けている」 機構にも話を聞いた。担当者は「個別の回答は避ける」とした上で、「国税徴収法や地方税法にのっとり適切に対応している。滞納 者と相談の上、分納に応じる場合もある」と証言。最大限の配慮をしながら徴収業務に当たっているという。 ただ、男性は機構の職員から乱暴な口調で「『親が税金を払わない』と子どもに伝えに行くぞ」「消費者金融から借りてでも払え」 などと「脅し」を受けたと言う。両者の言い分は、食い違っている。 全国に42組織、訴訟沙汰も 「税金Gメン」は自治体の外に拡大
取材を進めると、これは茨城だけの特殊事情ではないことが分かってきた。 自治体に代わって税を徴収する組織は茨城を皮切りに全国で作られ、総務省によると、20年7月時点でその数は42。一部事務組合や 広域連合、法人格のない任意組織など形態はさまざまだが、どの組織も市町村からの委託で税を取り立てる「税金Gメン」の役割を 担っている。 強引な徴収をめぐるトラブルも各地で起きている。滞納問題に関する相談を税理士らが受け付ける「滞納相談センター」(東京都) には、徴収組織から無理な取り立てや差し押さえをされたという相談が5年間で100件以上、寄せられているという。 訴訟に発展したケースもある。宮城県大崎市では19年、生活の困窮を理由に税を滞納した60代女性が同県地方税滞納整理機構による 徴収方法が違法だとして機構の運営に参加する県と市に慰謝料など220万円を求めて提訴。訴状などによると、女性は障害がある無職 の長男と2人暮らし。17年から徴税業務を担当した機構が分割納付を許さず、女性は母から借金をして100万円を納付したが、機構は女 性の口座に給料が振り込まれた際、口座残高の約8万7600円全額を差し押さえた。 税の徴収をめぐっては、生きていくための必要最低限のお金や生活に不可欠な衣類や寝具など、差し押さえを禁じる財産を法律で規 定しているが、女性は当時の記者会見で「死んでしまおうと何回も思った」と主張。結局、今年1月に県と市が女性に解決金を支払う ことで和解が成立した。 仕事増・人員減、小泉改革への恨み節も
なぜ、自治体自ら税を徴収しなくなったのか。背景には、滞納者への対応にマンパワーを割けない市町村の厳しい現実がある。小泉 政権下で進んだ改革に対する「恨み節」も聞こえてくる。当時の三位一体改革では、所得税(国税)を減らして住民税(地方税)を増 やす形で国から地方へ3兆円の税源移譲を行った。しかし、これは市町村の裁量で使える税の比重を高める一方、自力徴収の範囲が拡 大することを意味した。地方税の柱となる個人住民税の滞納額はこの時期から大幅に増加している。 聖域なき改革を掲げた小泉純一郎首相(当時)。地方に権限を移譲する三位一体改革によって地方財政が悪化したとの声は自治体か ら根強い 権限と財源が地方に移る一方、「官から民へ」の流れの下で進んだ行政のスリム化や市町村合併などで地方公務員の数は減り続け、 ピーク時の1994年に約328万人いた職員数は20年に276万人にまで減少。徴税に携わる職員は納付書発行などの煩雑な作業で手いっぱい なのが実情だ。 自治体の業務の中でも滞納者からの徴収は、財産調査や差し押さえ、公売を含む強制徴収の手続きなど、高い専門知識が求められ る。これに対応できる職員がいない市町村も少なくない。小さな自治体の場合は職員と住民が顔見知りの場合も多く、厳しく取り立て ることができない場合もある。こうした事情もあって、機構の設立が各地に広がっていったようだ。 もっとも、「税金Gメン」が必要となる最大の理由は悪質な滞納者の存在だ。資産を把握されないように純金を積み立てたり、所有 する土地や家を第三者に無償や低額で譲渡したりと、課税を逃れるためにあの手この手で財産を少なく見せかける。自治体を取材する と、こうした対応に四苦八苦する職員も多い。 地方自治体の職員数は大幅に減っている
では、せめて納得できる滞納理由があるケースに限り、徴収を見逃すことはできないのか。 「それも簡単ではない」と言うのは、地方財政や地方税に詳しい関西学院大学の小西砂千夫教授(財政学)。「滞納整理分のどこま でが回収可能か見極めが難しいので、差し押さえも徴収の放棄もできずに滞納事案そのものを放置してしまっている市町村もある」と 指摘する。 税収落ち込み、地方財政は火の車
自治体、納税者の双方から悲鳴があがる実態を、国はどう見ているのか。総務省は各都道府県と政令指定都市に対し「滞納者の個 別・具体的な実情を十分に把握した上で適正な執行に努めてほしい」と呼びかけている。ただ、国と地方は対等な立場。「自治体の判 断に立ち入るようなことはできない」(自治税務局)とし、突っ込んだ対策を取れないまま静観せざるを得ない状況だ。 租税の基本原則は「中立・公平・簡素」。悪知恵を利かせた者が資産を隠して課税を逃れ、生活に苦しむ人たちが強引な取り立てに 遭う現状をどう正せばいいのか。青山学院大学の中村芳昭名誉教授(租税法)は「自治体は人事異動も多く、税を徴収する専門性が身 につきにくく、マニュアル一辺倒の硬直的な運用になりやすい」と指摘する。「機構のような組織は住民に向き合う意識が薄く、(徴 収率を上げるだけの)成果主義に陥りやすい。滞納者の個別事情に沿って対応する努力が不可欠だ」と現状の改善を訴える。 長引く景気低迷や地方の人口減少が進む中、21年度の地方税収の見込み額は約39兆9000億円と20年度の計画段階と比べて約3兆6000 億円も減少する見通しだ。 コロナ禍で給付金の支給やワクチン接種の実施など自治体の業務範囲は広がっており、地方財政審議会(総務相の諮問機関)は先月下 旬、「自治体は未曽有の行財政運営を強いられている」として、国の財政支援を求める意見書を武田良太総務相に提出した。 マンパワーはない。しかし、滞納は放置できない。地方予算の大半を占める税をどう公平に徴収するか。自治体は重い課題を背負っ ている。【町野幸】
借りたものを返さない方が悪いのか?
全国の多重債務者を救った「サラ金問題研究会」の知られざる功績とは
借りたものを返さない方が悪いのか? 全国の多重債務者を救った「サラ金問題研究会」の知られざる功績とは https://bunshun.jp/articles/-/44086
「サラ金」は、利息制限法で定められた金利を超過したグレーゾーン金利で貸し付けを行っており、借金返済に苦しむ膨大な数の被害 者を生み出した。そうした借金苦に悩まされる人たちの窮状を解決すべく、結成されたのが「サラ金問題研究会」だ。サラ金苦に陥っ た被害者と、被害者を支援する弁護士とが開始した社会運動は、やがてサラ金に対する規制強化実現の大きな原動力となった。 ここでは、東京大学大学院経済学研究科准教授の小島庸平氏が「サラ金」にまつわる約110年間の歴史を紐解いた一冊『 サラ金の歴 史 』(中公新書)を引用。サラ金規制強化のきっかけになった社会運動のあらましを紹介する。 ◆◆◆
「サラ金被害者の会」結成
「いくら苦しくても、死ぬのはやめてともに助け合い、サラ金地獄から抜け出そう」 そう呼びかけて「サラ金被害者の会」(以下、「被害者の会」と略)が結成されたのは、1977年10月のことだった。組織づくりを主 導したのは、同年5月に大阪で15名の若手弁護士が結成した「サラ金問題研究会」である。この研究会の目的は、サラ金に対する法規 制を議論し、被害者の救済方法を検討することだった。サラ金苦に陥った被害者と、被害者を支援する弁護士とが起こした社会運動 は、やがてサラ金に対する規制強化実現の大きな原動力となる。 弁護士の木村達也の回想によると、被害者の会が結成された経緯は、次のようなものだった。 1977年5月、サラ金苦の相談が増えていることに気づいた大阪の若手弁護士たちが、解決法を探るために「サラ金問題研究会」を結 成した。同年6月にメディアで好意的に紹介されると、全国から相談が殺到する。中でも研究会の呼びかけ人だった木村は、相次ぐ取 材や相談者への対応に忙殺された。見かねた先輩弁護士の中村康彦は、木村に「被害者の会」を組織するよう助言している。 中村は、公害訴訟の分野で多くの経験を積んでおり、被害者を組織することの重要性を知る人物だった。さらに、森永ヒ素ミルク中 毒事件で名を挙げた中坊公平も、1977年に大阪弁護士会の公害委員会から消費者保護委員会を独立させて委員長となり、78年には木村 を同委員に選任した。1960年代後半以降、四大公害病や食品汚染問題が次々と訴訟に発展しており、そこで蓄積された弁護士たちの経 験と組織が、サラ金問題でも活かされていた。そんな経緯もあって、サラ金問題は「第二の公害」とも呼ばれた。 中村の助言を受けた木村は、さっそく「被害者の会」の組織化に動き出した。しかし、日々返済に追われ、昼も夜も懸命に働いてい る人びとの中から、運動の核になってくれそうな候補者を探すのは難しかった。
借金返済に苦しむ仲間が結束
ある夜、木村は、協力してくれそうな相談者たちを会議室に集め、被害者の会の必要性を説いた。しかし、彼らに「被害者」の意識 は少なく、反応も発言もほとんどない。そこで、木村は自己紹介を兼ねて全員に厳しい取り立ての体験を話してもらうことにした。す ると、次々に発言が続き、参加者の緊張感と警戒心が一気に薄れ、仲間意識が芽生えた。後に、木村は、「サラ金被害者は孤独と不安 の中で悩み苦しんでも人に相談できず、一人耐え続けていたのだ。借金返済に苦しむ同じ仲間を見出して安心し、結束したのだ」と振 り返っている。 木村らの努力の結果、1977年10月24日に全国で初めて被害者の会が大阪で結成された。記者会見には新聞社やテレビ局の記者が数多 く集まり、マスコミの「サラ金地獄」報道はさらに加熱していった。
若く勢いのある弁護士を引きつけたサラ金問題
この時、被害者の会の初代会長職を引き受けたのが、当時50代の男性Mだった。Mは、多重債務者としてサラ金からの厳しい取り立て を受け、親子四人で心中しようと夜の街をさ迷ったことがあった。空腹に耐えかねて一本のコーラを買い、公園の水で薄めて分け合っ て飲み、そのうまさから心中を思いとどまったという経験の持ち主である( 江波戸 1984 )。 余談だが、サラ金被害者の救済に奔走した弁護士の木村晋介は、上の内容とはやや異なるM会長の経験談を聞いて衝撃を受け、サラ 金問題に関わるようになったと振り返っている( 木村 1990 )。こちらの木村弁護士は、椎名誠の自伝的小説『哀愁の町に霧が降る のだ』に登場する木村晋介、「怪しい探検隊」や「東日本何でもケトばす会(東ケト会)」のメンバーである。 この時期のサラ金問題は、メディアで盛んに報道されたこともあり、若く勢いのある弁護士を多数引きつけていた。後に日弁連会長 となる宇都宮健児も、多重債務者に関わる案件を引き受けることで事務所独立の契機をつかんだ。北海道釧路市の今瞭美のように、地 方に波及したサラ金問題の実態を鋭く告発し、武富士から「天敵」( 中川 2006 )と恐れられた弁護士もいた。皮肉にも、サラ金業 界は、被害者を増やしすぎたがゆえに借金問題を扱う弁護士に安定した収入を与え、被害者運動を継続して支援することを可能にした のである( 上川 2012 )。
被害者の会に対し、世間の目は冷たかった
話を被害者の会に戻そう。Mが会長職を引き受けることでようやく組織された被害者の会に対し、世間の目は冷たかった。多くの消 費者団体は「借りたものを返さない方が悪い」と関心を示さず、一般からの寄付もごくわずかしか集まらなかった。登録会員は一年足 らずの間に800名を超えたが、自身の問題が片付けば会に寄り付かなくなるか、サラ金に追い詰められて活動どころではなくなってし まった。逆境の中でもM会長はくじけず、「夫や妻、兄弟がサラ金禍にひそかにあえいでいるかもしれないんですよ。他人事じゃない んだ」と、熱心に活動に取り組んでいた。 被害者の会の運営に意欲を燃やすMは、自宅の電話番号を公開して相談者からの電話に連日対応し、優しい言葉をかけ続けた。しか し、会結成から3ヵ月が経つ頃、Mは心身に不調をきたしてしまった。「どの相談も暗く重く悲しいものであったから、その精神的苦し みから逃れられない」と言うのである。さらにその3ヵ月後、Mが被害者から預かった返済金約800万円の使い込みが発覚した。「酒を 飲まずにはいられなかった」というのが、Mの釈明だった。 被害者の会は、横領したMを自首させることに決めたものの、この経緯が某新聞にすっぱ抜かれ、運動は一時苦境に陥った。精神的 にも経済的にも深い傷を負った当事者たちが被害者運動に従事するのは、決して容易ではなかった。 それでも、1983年までに全国で21の被害者組織が結成され、運動は着実に全国へ広げられた。恐怖心や罪悪感を煽られた多重債務者 たちが業者に毅然と立ち向かうには、法律的知識を身につけるだけでは不十分で、弁護士や被害者の会といった背後の「味方」が必要 だった( 大山 2002 )。サラ金禍に苦しむ人びとの声は、有能な弁護士たちや自助グループの支援もあって、徐々に大きくなって いった。
破産件数の急増
追い込まれても返す金のない多重債務者が、自殺や夜逃げ以外の方法で問題を解決しようとすれば、最後に残された手段は自己破産 である。その方法を確立したのが、被害者の会と、それを支援する弁護士たちだった。 1952年から70年代までの破産事件数は、おおよそ年間2000件前後で推移していた。しかし、1984年には2万6385件へと急増し、この うち貸金業関係の比率は、初めて数値の得られる85年には67.1%と、3分の2以上を占めた。 1983年6月18日付の『朝日新聞』朝刊は、「自殺、心中や夜逃げよりは、なけなしの財産を投げ出しても自己破産の宣告を受けた方 が――。サラ金の返済に困り、ぎりぎりのがけっぷちに立たされて、裁判所に自ら破産を申し立てる人が急増」と報じている。貸金業 規制法が制定される前後の時期から、多重債務によって破産を余儀なくされた人びとの存在が明らかになりつつあり、サラ金の引き起 こした社会問題として大きな注目を集めていた。 こうした破産件数の増大は、多重債務者の深刻な状況を一面では反映していた。しかし、そこから債務者の悲惨な状況のみを読み取 るのは正確ではない。破産件数の増大は、苦境にある多重債務者たちが、過剰な債務の支払いを回避するべく積極的に抵抗を試みたこ との反映でもあった。
破産宣告を受ける予納金「5万円」も払えない
1980年当時、サラ金問題研究会に集まっていた弁護士たちは、利息制限法を活用して元本を減額する調停申立や任意整理には限界が あり、最後の救済手段は自己破産しかないと判断していた。しかし、この頃はまだ自己破産は一般的ではなく、破産宣告を受けるには 最低5万円、ときに50万円もの高額の予納金を裁判所から請求された。サラ金問題研究会の弁護士たちは、まずこの予納金の減額を求 めていくつかの訴訟を起こしている。5万円も払えないような多重債務者が、相談者の大多数だったからである。 次いで、1982年10月には、サラ金問題研究会が編者となって小冊子『自分でできる破産』を発行した。同書は一般書店では流通しな かったにもかかわらず約2万冊も売れ、自己破産件数増加の最初の呼び水となった。 この間の動きに深く関わっていた木村達也は、「破産・免責手続きを認めなければ、多重債務者は自殺か犯罪に走るしかない。消費 者信用に多重債務、返済不能者の発生は不可避であり、破産・免責手続こそ消費者信用の安全弁である」と訴え続けていた。 その甲斐もあって、破産宣告をまるで「死の宣告」かのように考える誤解が徐々に解け、中には『自分でできる破産』を持って法律 事務所に駆け込んでくる人も現れた。弁護士たちの粘り強い努力により、破産はサラ金問題の有力な解決策となったのである。破産件 数の増加は、弁護士たちの熱意と、多重債務者たちが過去の失敗を乗り越え、人生の再出発に踏み出そうとした苦闘の結果でもあっ た。
貸金業規制法の立法過程
だが、木村たちは、自ら利用の道筋をつけた破産申立も、結局は事後的な対症療法に過ぎないと自覚していた。本質的には、サラ金 をはじめとする貸金業に適切な規制を加え、高利の多重債務に苦しむ人びとをこれ以上生み出さないような立法措置が不可欠だった。 利息制限法と出資法の関係を整理し、上限利率を引き直す作業は困難を極めた。業界・被害者・与野党・政府の利害が複雑に絡み合 う中で、上限金利については容易に意見がまとまらず、7年近い歳月をかけて1983年にようやく貸金業規制法が制定された。貸金業規 制法が制定されるまでの道のりは、長く困難に満ちたものだった。 1979年に政府が法案作成を断念した後、与野党や業界・日弁連から提出された貸金業規制法案は、過剰取り立てや過剰融資に規制を 加える点では一致していた。しかし、上限金利の扱いについては鋭く意見が対立しており、この不一致が法案成立に多くの時間を要し た最大の原因だった。
「不当利得」とされたグレーゾーン金利が合法化
利息制限法と出資法の間のグレーゾーン金利については、最高裁が1968年に「不当利得」と判示していた。にもかかわらず、規制法 案の検討過程では問題が蒸し返された。業界と与党がグレーゾーン金利の合法化を求め、これに反対する野党・運動側と真っ向から対 立したのである。結局、各党と運動側、業界の間で議論はいつまで経ってもまとまらず、最終的には大蔵省が間に入って法案を成立さ せている。 こうして1983年に国会を通過した貸金業規制法では、上限金利は109.5%から40.004%へと半分以下に引き下げられた。業界の利害 を重視する自民党は上限利率54.76%を求めていたから、野党や運動側の主張を認め、業界に一定の譲歩を求める判断だった。 その一方で、たとえ利息制限法違反のグレーゾーン金利であっても、債務者が任意に支払い、法令で定める書面が提出されていれ ば、有効な弁済とみなされることになった。いわゆる「みなし弁済」条項である。1968年の最高裁判決で「不当利得」とされたグレー ゾーン金利が、貸金業規制法のみなし弁済条項によって合法化されたのである。 被害者の会や弁護士たちは、当然ながら「貸金業界寄りの法案で賛成できない」とすぐさま反対の意見を表明した。しかし、木村達 也は成立した規制法を見て、腹の中で密かに「やった!」と快哉を叫んだという。約7年にもわたって繰り返し法案が流れたこともあ り、上限金利40%が引き下げの限界と考えていたからである。当時の情勢は、それほどまでに厳しいものだったのだろう。 だが、みなし金利条項は後日に禍根を残した。2006年の貸金業規制法改正の際、グレーゾーン金利の扱いは再び大きな問題として取 り上げられることになる。
成立後の法律を健全に成長させた弁護士たち
ともあれ、こうして1983年4月にようやく貸金業規制法が成立し、施行は同年11月からとされた。制定から施行までの半年余りの間 に、大蔵省は規制法に関連する政省令を策定しなければならない。 その政省令案について、日弁連に事前の内示と意見の照会があった。大阪から呼び出されたサラ金問題研究会の木村達也たちは、東 京のホテルに泊まり込んで内示された政省令を何回も検討し、貸金業者の債権取立規制をはじめ、詳細な規定を追加した。貸金業規制 法に命を吹き込む政省令の検討過程で、木村たちは「この法律は私達が作ったのだ」という自負の念を強めたという。 さらに、貸金業規制法成立後も、木村たちは解説書を出版して各地で学習会を開催し、貸金業者の違法行為に対して厳しい告発運動 を展開した。木村は、「成立後の法律を健全に成長させたのも私達だった」と語っている。貸金業規制法の成立・運用の両面で、被害 者の運動とそれを支える弁護士たちの経験と手腕が果たした役割は、確かに極めて大きかった。
新たなヤミ金手口か「後払い現金化」
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相談相次ぐ 専門家「法規制を」
新たなヤミ金手口か「後払い現金化」相談相次ぐ 専門家「法規制を」 https://www.sankei.com/west/news/210205/wst2102050011-n1.html 二束三文の商品にあえて高い値を付けて代金後払いで販売し、販売価格の何割かを即座にキャッシュバックする形で、現金を融通す る業者が増えている。規制の穴を突いた新たなヤミ金手口とも指摘され、こうした商法は「後払い現金化」と呼ばれる。新型コロナウ イルス感染拡大による収入減を補うために業者を利用して、“借金苦”に陥った人もいるといい、多重債務者の支援団体では、法規制 の対象に加えるべきだと訴えている。(杉侑里香)
■昨年秋以降に相談増
「月ごとの収入があればブラック、クレカなしでもOK」「消費者金融やカードローンといった借入ではありません」 インターネットで「後払い現金化」を検索すると、金融業者ではないとうたいながらも、現金の融通を持ちかける文言がズラリと並 ぶ。 多重債務者らを支援する「大阪クレサラ・貧困被害をなくす会」(大阪いちょうの会)によると昨年秋以降、こうした形で現金を融 通する業者が急増。同会には利用者からの相談が20件以上寄せられているという。 たとえば、すぐに現金2万円を必要とする人がこれらの業者を利用した場合は、こんな流れとなる。 サイト上の手順に従って個人情報を入力し、欲しいわけでもない風景写真を4万円の後払いで購入する手続きを踏む。写真データが 「商品」として手元に届くと、その日のうちに「キャッシュバック」として2万円が振り込まれる。給料日になり現金が入れば、「購 入代金」の4万円を業者に支払う。 「購入代金」を支払えないと訴えたところ、業者に「個人情報をネット上にさらす」などと脅された人もいるという。
■「商品」価値はほぼゼロ このケースでは、「キャッシュバック」(2万円)された2倍の額を「商品」の「購入代金」(4万円)として業者に支払うことに なる。これらが貸金業と認定されれば年利は利息制限法の上限(20%)をはるかに上回るため、警察の摘発対象となるのは明らか だ。 「商品」として利用されるのは風景写真のほか、ゴルフレッスンの解説文やギャンブル攻略法のデータなど。いずれも金銭的な価値 はほとんどゼロで、同会の植田勝博弁護士は「実態は商品売買を隠れみのにした高利貸。ヤミ金融にも該当し、出資法などの各種法律 に違反するのは明らかだ」と話す。
■「給料ファクタリング」に代わり台頭 近年のヤミ金融の手口としては一昨年から昨年初めにかけて、将来の給料を担保に現金を融通する「給料ファクタリング」が横行し た。社会問題化した結果、金融庁は貸金業に当たると判断し、警察当局が摘発を強化したため、昨年夏ごろには衰退。代わって台頭し たのが「後払い現金化」だったとされる。同会によると「給料ファクタリング」から「後払い現金化」に転換した業者もあるという。 同会の前田勝範司法書士によると、多重債務者のほか、コロナの影響で収入減となった人が当座の資金繰りのため「後払い現金化」 に手を出して苦しむ例もあるといい、「実態が違法なヤミ金だと気づかないまま利用する人も多い。業者の実態把握を進め、民事訴訟 の提起や規制強化の必要性を訴えていく」と話している。 ◇ 大阪いちょうの会は、6日午前10時~午後5時に弁護士や司法書士による電話相談会「新型ヤミ金(後払い・ツケ払い現金化サー ビス等)被害110番」(06・6361・0546)を実施する。相談無料。
「レビュー書いて報酬」はヤミ金かも…司法書士らが啓発 https://www.asahi.com/articles/ASP226RYCP22PTIL00M.html インターネットで買い物をしてキャッシュバックを受け、後に代金を払う「後払い現金化」が広がっている。実態は法外な利息の返 済を迫るヤミ金だとして、司法書士らでつくる「大阪クレサラ・貧困被害をなくす会(大阪いちょうの会)」が2日に記者会見し、注 意を呼びかけた。6日に無料の電話相談会を開く。 「最短10分で現金化」「レビューを書くだけで現金報酬」。ネット上で「後払い現金化」を勧める業者のサイトには、こんな言葉が 並ぶ。購入を申し込んだ客が「商品」の感想を投稿するとすぐ、「お礼」として代金の半額ほどが振り込まれる仕組みだ。客は代金全 額を期日までに払う必要がある。 「商品」はおおむね3万~10万円ほどだ。「いちょうの会」ヤミ金対策委員長の司法書士の前田勝範さんによると、「誰でも見られ るネット上の写真や動画のURLがメールなどで送られてくるだけ」という。 ある業者のサイトでは、3万円の「商品」を購入すれば1万7千円をキャッシュバックするとうたう。商品は「情報商材」としか書か れていない。これは実質、1万7千円を借り、1万3千円の利息を付けて返すのと同じだ。年利は900%を超える計算になる。 期日までに代金を支払わないと、購入の際に登録した氏名や住所、勤務先をネット上にさらす悪質な業者もいるという。会には昨秋 以降、20件以上の相談が来ている。前田さんは「あくまで物の売買だと業者に説明され、困ってもどこに相談していいかわからない被 害者もいるはず」とみる。 ヤミ金問題に詳しい堂下浩・東京情報大教授(金融論)は「金を送って過大な利息の返済を求めるやり方で、実質的にヤミ金だ」と 指摘する。サイトが目立ち始めたのは昨年6月ごろ。「クレジットカードの現金化はこれまでもあったが、新しい手口だ」と注意を呼 びかける。 相談会は6日午前10時~午後5時にいちょうの会(06・6361・0546)へ。弁護士や司法書士らが応じる。府外の人でも相談できる。 (国方萌乃)
“後払い現金化”商法の業者急増 専門家
「事実上のヤミ金融」
“後払い現金化”商法の業者急増 専門家「事実上のヤミ金融」 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201230/k10012791171000.html ヤミ金融の新たな手口とみられています。風景写真などを代金後払いで販売した形にして、キャッシュバックなどの名目で現金を融通 する業者が2020年春以降、急増していることが分かりました。感染拡大の影響で収入が減った人などが利用していますが、受け取った 額のおよそ2倍にあたる代金を支払えず悪質な取り立てを受けるトラブルが相次いでいるということで、専門家は「事実上のヤミ金融 であり、実態を早急に把握する必要がある」と指摘しています。 「後払い現金化」と呼ばれるこの商法は、1万円から20万円ほどの商品を代金後払いで販売する一方、商品のレビューを書き込む謝礼 やキャッシュバックの名目で利用者に現金を融通するものです。 扱う商品は風景写真や電子書籍などさまざまで、期日までに支払うことを条件に、販売代金の半額程度の現金が申し込んだその日のう ちに振り込まれます。現金がすぐに手に入る手軽さから感染拡大の影響で収入が減った人などが利用しているということですが、関係 者によりますと、商品の多くはデータで提供されるだけで、事実上、現金のやり取りのみが行われているということです。 現状では貸金業法などの規制の対象になっていないため、販売サイトには「借金の履歴が残らない」「ブラックでもOK」などというう たい文句が並んでいます。 しかし、利用者が支払う代金は受け取った額のおよそ2倍、年利に換算すると数百%にあたるため、期日までに支払えず業者から悪質 な取り立てを受けるトラブルが相次いでいるということです。 「後払い現金化」の業者は新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年3月以降に急増したとみられ、販売サイトは12月25日現在、確 認できただけで61に上っています。
夏以降相談急増 コロナ影響も ヤミ金融の相談に応じる各地の司法書士事務所には、2020年夏以降、利用者からの相談が合わせて700件以上相次いでいます。 このうち、大阪市の司法書士事務所には、7月ごろから「代金が支払えず困っている」といった相談が寄せられるようになりました。8 月に100件を超えてからは月を追うごとに増え続け、11月は262件に上ったということです。 ほとんどが「借金の履歴が残らない」といううたい文句にひかれて申し込んだものの期日までに代金を支払えなかったケースで、勤務 先に電話がかかってくるなど悪質な取り立てを受けたり、別の業者を利用して支払いに充てるうちに、多重債務の状態に陥ったりする 利用者も多いといいます。 また、秋から特に相談が増えたという別の司法書士事務所では、新型コロナウイルスの影響で収入が大幅に減り、当面の生活費を得る ためやむなく手を出してしまったという人が多いということです。 司法書士の前田勝範さんは「感染拡大の影響で家賃や光熱費も払えないという人が増える中、本当に困っている人は目の前の今、現金 がほしいと思っている。『後払い現金化』の業者はそこにつけ込み、暗躍している形だ。また、借金ではないという認識で一般のサラ リーマンなども利用しているが、実態は法律で定められた上限の数十倍にあたる金利で貸し付けを行っているのと同じで、結果的に多 重債務の状態に陥るケースは非常に多い。安易に手を出すのはやめてほしい」と話していました。
利用者「手を出し後悔」 「後払い現金化」の利用者の中には、新型コロナウイルスの影響で減った収入を補おうとした結果、事実上の借金が膨らんでしまった という人もいます。 運送会社に勤める30代の男性は、感染拡大の影響で残業がなくなり、毎月の収入がおよそ8万円減りました。残業代を含めて家族4人を なんとか養っていた男性は生活が立ち行かなくなり、食費などの足しになればと7月に「後払い現金化」の業者を初めて利用しまし た。「借金の履歴が残らない」といううたい文句にひかれたといいます。 この業者は、SNSで収入を得るための情報を2万円で販売するとしていて、購入してレビューを書き込めばすぐに1万円をキャッシュ バックするという内容でした。収入が大幅に減り困っていた男性は、その手軽さから迷わず申し込んだといいます。 商品はLINEに送られてきたPDFファイルだけでしたが、サイト内に「役に立った」というレビューをひと言書き込むと、すぐに1万円が 振り込まれたということです。 男性は「当時はなんとか食べていかなければという思いが強かったので、現金が振り込まれた時は安どした」と話しています。 しかし、収入が回復しない中で倍の額の2万円を支払うことは難しく、1か月後の期日を迎えてしまったという男性。するとその翌日、 勤務先にいきなり、業者から電話がかかってきました。貸金業の場合は法律で禁止されている行為です。 会社や家族に知られてしまうとあせった男性は、支払いを済ませるために別の業者を利用し、金を工面します。その後は、支払い期日 が来るたびに別の業者を利用する悪循環に陥り、支払い額はわずか3か月間で2万円から13万円にまで膨れ上がったということです。 さらに、深夜・早朝を問わずLINEで「刑事告発する」などというメッセージを送りつけたり、個人情報をネットにさらすと脅したりす る業者も現れ、男性は精神的に追い詰められてしまったといいます。 相談を受けた司法書士が業者と連絡を取ったところ取り立てはなくなったということで、男性は「はじめは『助かった』という思いで したが、途中から借金と同じだと気付きました。家族に心配をかけたくない一心でしたが、手を出してしまったことを後悔していま す」と話していました。
業者の販売サイトは60超 「後払い現金化」の業者が運営するサイトは、12月25日現在、確認できただけで合わせて61に上っています。 サイトの開設に必要な、インターネット上の住所にあたる「ドメイン」の取得時期をNHKが調べたところ、1つを除く60のサイトはいず れも2020年3月以降で、新型コロナウイルスの感染拡大後に急増したとみられることが分かりました。販売サイトで扱う商品は風景写 真や電子書籍、絵画などさまざまで、最も多かったのは「収入を得るための情報を有料で紹介する」というものでした。 価格は1万円から20万円ほどで、いずれもその半額程度をキャッシュバックするとしていますが、関係者によりますと、商品はPDFファ イルなどのデータで提供されるだけで、価格に見合う価値はないものがほとんどだということです。利用者が実際に商品として購入し たPDFファイルの中には、別のサイトの文章やイラストを切り貼りしただけのものや、ネット上で誰でも閲覧できる状態になっている ものもありました。 NHKは今回、販売サイトを運営する複数の業者に電話で取材し、ヤミ金融の認識について聞きました。このうち、風景写真を販売して いるという業者は「商品を購入し、宣伝に協力してくれた利用者に早い段階で協力金を支払っているだけだ」として、ヤミ金融にはあ たらないと主張しました。 一方、別の業者は「携帯電話でダウンロードできる商品を販売しており、貸金業ではない」としながらも「金融庁などから指導や指摘 があればすぐに対応したい」と話していました。
専門家「事実上のヤミ金」 ヤミ金融の問題に詳しい東京情報大学の堂下浩教授は、「『後払い現金化』は商品の売買という形をとっているが、実質的には金銭の 貸し付けと回収という、貸金業を構成する2つの要素で成り立っている。また、利用者が受け取る現金と商品の代金の差を年利に換算 すると法律で定められた上限を大幅に上回ることから、こうした商法は事実上のヤミ金融と考えられる」と指摘しています。 そのうえで「行政が具体的な手口や取り立ての実態を早急に把握したうえで、国民に注意を呼びかけていくことが必要だ」と話してい ました。
金融庁「実態把握進める」「後払い現金化」の業者が急増していることについて、金融庁は「売買の契約であっても実態からみて
貸金業にあたる可能性は十分にあり、現在、手口や被害の状況について把握を進めている。今後は捜査当局とも連携して対応して
いきたい」とコメントしています。 そのうえで「目先の現金を得るため安易に手を出してしまうと、トラブルに巻き込まれるおそれが
あるので注意してほしい」と話して いました。