貸金業法・19日に施行
「ヤミ金」流入懸念
多重債務者の救済を図るための貸金業法(貸金業規正法が改正)が、19日に施行された。まず、夜間に加えて日中の取り立て規制の強化などから始まり、10年6月までに上限金利が引き下げられる。
借りすぎるによる悲惨な状況を無くすことができるのか、いよいよ正念場だ。消費者金融業界も対応を迫られている。
◇ 債務整理後、ケア必要
「借金がどうしても返せないのですが」「自己破産すると、どうなるのですか」。多重債務者がおずおずと相談員に尋ねるーーー12月14、15の両日東京・飯田橋の相談窓口で開かれた無料の相談会に、多重債務者75人が続々集まった。金融庁と各地の弁護士、司法書士らによる全国一斉の「相談ウィーク」の一コマだ。
12月10日からの1週間で全国450ヵ所の相談窓口には、多重債務者5500人が訪れた。対応した弁護士と司法書士はのべ1400人。これだけの全国規模の相談会は初めてだ。
借金など経済苦を理由に自らの命を絶つ例が後を絶たない状況に、政府・金融庁も全国で相談体制づくりに乗り出しているのだ。
「この1年で相談体制が整備され、多重債務者を減らす効果が表れている」と評価するのは多重債務者問題に詳しい新里宏二弁護士。確かに5社以上から借金がある多重債務者は2月の177万人から10月末には139万人に減少。今回の法改正でグレーゾーン(灰色)金利の廃止が盛り込まれたのを踏まえ、過払い金の返還が進んだこともある。
ただ、法改正でも依然、カバーできていない分野がある。いったん債務整理しても、仕事に就けずに再び借金に走る人も多い。違法なヤミ金融業者はそうした弱者に狙いを定めている。
飯田橋での相談窓口でも、「自己破産した直後から郵便受けにヤミ金の勧誘はがきがあふれるようになった」との声が少なくない。官報に自己破産者の名前と住所が記載されるためで、ヤミ金対策を求める声は強い。生活設計などの相談に乗る体制整備も求められている。
◇ 金利下げ、中小に打撃
消費者金融大手のほとんどは、改正法で10年6月までに灰色金利が撤廃されるのを前倒しする形で貸し出し上限金利を引き下げてきた。引き下げは収益基盤をもろに直撃するにもかかわらず、前倒しに踏み切るのは「優良な顧客を逃せば生き残れない」(アコム)の危機感があるからだ。
アコムが6月に新規顧客向けで年27.37%だったのおを18%にしたのを皮切りに、アイフルが8月に18%で追随。プロミスも12月19日から17.8%に、武富士も来年1月に18%に引き下げる。
ただ、大手でも、「レイク」ブランドを展開してきた米ゼネラル・エルクトリック(GE)は、今後の高収益が期待できないことから日本での消費者金融業からの撤退を検討しているとされ、そのドライさを見せつけることになりそうだ。
一方、大手がカバー仕切れない貸し倒れリスクの高い顧客層を相手にしてきた中小業者の多くは引き下げに耐えられないとみられている。金融機関の後ろ盾がなく高い資金調達コストを強いられているためで、「残るも地獄、退くも地獄」(中小貸金業者)とされる。
金融庁によると、約5年前に約2万7千社あった貸金業者数はすでに1万775社(10月末)まで減ったが、再編と整理はさらに進みそうだ。一方で、融資が受けられなくなった多重債務者が法外な金利で貸し付ける「ヤミ金融」に流れることも懸念されている。
◇ 業界は自主規制も
今回の法改正が実りあるものになるかどうか。夜間に加えて今後、日中の執拗な取り立ても規制される。金融庁は新たに業務改善命令を出せるようになり、監視を強めていく考え。さらに同庁は、業界の自主規制ルールの順守も求めていく方針だ。
同ルールは19日に発足する新たな業界団体「日本貸金業協会」の設立協議会が制定作業を進めてきたもので、同日、実施に移す。このルール、過剰貸し付けにならないよう工夫されている。
たとえば、パチンコ店や競馬場、風俗店の同じビルや隣接施設に新規の出店はしない、と盛り込まれている。同協議会は、既存店舗についても「2年半後の完全施行までに、自主的に移転するよう努める」としている。
テレビCMも、午前7~9時、午後5~10時については、今後は中小も含め控える、ことに。1ヵ月の返済総額を「月収の3分の1以下」、または「年収の36分の1以下」にするといった形で、わかりやすい目安も入った。業界努力が試される。
◇ ◇
■ 貸金業法の主な施行スケジュール
06年12月20日 公 布
07年 1月20日 無登録業者などの罰則強化
12月19日 取り立て規制の強化
日本貸金業協会の設立で自主規制ルールの導入
09年6月まで 貸金業者の参入条件を純資産300万~500万円から
2千万円に
信用情報機関を指定する制度を導入
10年6月まで グレーゾーン金利を廃止し、出資法の上限金利を20%に
引き下げる
貸付総額を年収の3分の1までとする総量規制の導入
貸金業者の参入条件を純資産5千万円に