最近のインテルのCM「マグロをパソコンに置き換えてください」、「眉毛をパソコンに置き換えてください」というのと、この本の収録作品は似ている。
そして、どの作品も読み手を選ぶ。
あまりのドタバタで、主人公も、読者も、考える暇を与えられない。
それについていけるかどうか、そこが分かれ道。
私は脱落しかけて、ようやくたどり着いたという感じ。
「女王様でも」は、主人公は自分の娘や母親に振り回される裁判官の女性。
次女が自然主義団体(宗教団体?)に入ろうとするのを、周囲の女たちが止めようとして、大騒ぎ。
主人公の母は、国家間の調停責任者という立場を放り出してまで、孫を考え直させるために帰国してくる。
洗脳だ、個人の権利だ、なんだと騒動が持ち上がるが、焦点となっているのは、まさに「女性の問題」である月経。
だけど、これを、それこそクロマグロや、鯨と置き換えると、世の中にありふれている騒ぎに共通する。
頭に血が昇って騒ぎてたてることをのおかしさを皮肉ってるんだと思うんだけど、なぁ。
「タイムアウト」は中年の危機に目覚めた物理学者が取り組んだタイムマシン理論の実験につきあわされた主婦と心理学者の物語。
登場人物は皆40代。
あちこちで主婦の駆け落ちと不倫の噂が絶えず、主人公たちも、よろめきだす。
おいおい、昼メロか、金妻か。
SFが出てこないわけでもないが、ちょっとしたおまけとしか言いようがない。
中年の危機といえば、突然自分が若くないことに気付き、いやそうではないとスポーツカーを買ったり、スポーツを始めたりすることらしい。
私の周囲でも(私自身も含めて?)、そろそろ起きだしているような予感が。。。
「スパイス・ポグロム」は、スペースコロニーの中の主人公のアパートを舞台に、宇宙人、謎の宇宙人の客人(地球人男性)、アパートの住人(憎たらしいガキども、憎めないストリッパー)、主人公の婚約者、ストリッパーの彼氏も交えて、「スクリューボールコメディ」(あとがきよると)が繰り広げられる。
主人公の女性は、同居人である宇宙人との言語的コミュニケーション問題に悩まされているが、実のところ、言語的問題のないはずの子供(は、言語的問題もあるのかもしれないが)や自分の婚約者とのコミュニケーションにトラブルを抱えているという話だ。
ここまで周囲に翻弄されている主人公の様子に、読んでるこちらが先に疲れてくる。
我慢比べだったが、なんとか体力が尽きる前に読み終えた(面白んだけどね)。
「最後のウィネベーゴ」は、キャンピングカー「ウィネベーゴ」がアメリカのほとんど全部の州で禁止令が発令されている世界が舞台。
絶滅しかけている車というタイトルだが、実は、犬が絶滅した世界の物語で(犬は勘定に入れませんでは猫が絶滅していたけど)、動物愛護協会が秘密警察のようなノリで表現されている。
カメラマンが、ウィネベーゴに乗って旅をしている夫婦の写真を撮るときの描写がだるくて、本当に読むのをやめようと思った。
しかし、最後の最後に、すべての伏線が集約してきたとき、あのだるい描写が活きてきて、ああ、そういうことなんだ、と納得した。
最後のウィネベーゴに出てくる犬(多分アバヴァンとターコ)が表紙になっているけど、モノクロとピンク色の少ない色数ながら、ステキなイラストです。
イラストレーター河出書房の奇想コレクションのシリーズを手掛けておられるようですね。
http://www.taikomatsuo.com/book.html