美男子俱楽部

※単行本はBOOTHにて発売中。

路上ライヴ(表現の極意・体現者) ②

2022-06-10 | エッセイ

 しかしこの兄ちゃんたるや、俺はこのような人々犇めくプレイスでこのようなうす汚ない田舎国ジャパンにてそれに相応しいなりをしこのように夢とギタァを抱え込みながらこのような現代社会に於けるストレス・不服・わけの分からない焦燥に苛まれているであろういまこの俺周辺の人類をミスター・チルドレンなどの楽曲によって激励、希望を与え救っているのだよ、ふはは、聞け聞け、俺の歌を。あぁ気持ええ!満足じゃわい!といった具合なので、君、人の曲ばかり歌わんと、自分のメッセージ届けなあかんのちゃいますの、表現っちゅうんは自分の考えを伝えなあかん。このように。と俺は背嚢より自身で拵えた詩集を引っ張り出して大声で此れを朗読。

 するとどうだろう、人々が歩みを中断して当方を一斉に御覧なすった。これや。これぞ表現や。見てみい、純度一〇〇%のメッセージっちゅうんはこのように仰山な人の心を打つもんなんじゃい。はは。みな感極まって立ち尽くしておるわ。ひひ。あぁ気持ええ、満足じゃわいっ。

 ほいで、暫く此方のそんな具合を拝見していたいかついおっさんが、こちらへ歩み寄って来たものだから「なんや、感激して握手でもして欲しくなったんか」と手を差し出すと先方も手を差し出して来たは良いがそれは握り拳で、俺の顔面を命中。「うるさいんじゃ、ボケェ」俺は後ろに倒れ込み曇天を仰いだ。

 そうか。いや、これで良いのだ。これが表現や。自分を表現したら厳しい批判を受ける事も在る。でも、だからと云って、人様のもの(表現)に逃げるなや。自分の有態の気持に心打たれてくれる人は必ずおる。その様な人が居る事を宝のように胸中で大切にしたらええんとちゃうか。とカバーの兄ちゃんに声を掛けたがそこに兄ちゃん既に居らず雑踏は再度動きを取り戻し、俺は誰にも聞こえぬ様な小声でミスター・チルドレンを歌い己を激励した。



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