美男子俱楽部

※単行本はBOOTHにて発売中。

「そして愛を誓うて貧乏になろうぜ、ベイビー」

2023-12-28 | 

俺達の運命は逐次変わっていく、それらに気が付かないから俺達は貧乏人なのかも知れない。しかしその様な事が何だというのだ。金で買えるものは安っぽいものだと、好きなロック歌手が言ってたぜ、ベイビー。その通りだと思うぜ、ベイビー。更にいえば、金はこの世で最も安っぽいものだと思うんだぜ。ベイビー。

だから人に金を求めないでくれ。愛してるぜ恋してるぜ。俺は。

街に出れば素敵で無敵。それだけの男だぜ、俺は。でも、いいぜ。ベイビー。君は。

 

愛の束をばらまいて

心を売って心を買うのだ。

細君を売り、愛を買うのだ。愛がなければ、愛は売れんのじゃ。細君は買えぬのじゃ、大君は見えぬのじゃ。

 

今、安心してくれ。しかし。

明日札束はすべて捨てるよ。

どんなにおもしろいんじゃろ。くほほ。


白い皿「生まれるまえから貧乏人」

2023-12-10 | 白い皿

 もしも前世があったとするならば、俺は高貴な人間であった。

 貴族とか、或いは王子とかであったのかもしれない。

 「高貴な人間であった」。もしもと云って仮定の話をしている筈なのに何故このひとは毅然たる態度で断言をしているのだろうか。アホーなのであろうか。それともアッホ?いいえそれは違う、確乎たる根拠があるからその様にしているんばい。一人で会話するな。ど下手な方言を使うな。

 確乎たる根拠とはまず自分なんかは労働に向いていないという点である。世に生ける大抵の人間は労働というものをしている。その対価として金銭をもらいその金で飯を食らい生きて居る。蓋し当たりまえの話である。しかし俺なんかは労働なんかをすると直ちにばてる。言えばたとえば九時始業の場合、九時十五分には果てている。という有様。情けない。

 これでは対価たる金銭がもらえず飯も食えず生きてゆかれない。この様な体たらくに成り果てたのも前世の俺が、金は有るからといって若いというのに毎日寝てばかりいてたまに起きたと思ったら庭で蹴鞠を十五分程度やって、「そろそろ果てるから高貴な俺は寝るざます」とか言って再び寝室に籠って寝る、という所業をなしていたからで、この自分、前世は、生き方は自堕落ながらもしかし実際は高貴つまりは身分は高く金はどこからともなく腐るほど湧いて出た、という証拠に他ならぬのである。

 根拠はまだある。俺は家で大っきい虫が出たら悲鳴を上げる。根っからの貧乏人は上げない。何故なら、慣れているから。しかし自分は「いやんっ」と比較的高音で悲鳴を上げる。情けない。そして大っきい虫が出た場合、これを駆除せねばならぬので、女の子のように内股になりながら、顔を対象から極力離しつつしかし逆に虫に向かってティシューを持った腕はもげるほど最大限のばし、梅干しを同時に三つ口に放り込まれた時みたいな顔をしてこれを抓む。

 この様な無様な按配でしか虫に対処出来ない、という事は前世では虫が一切出ぬ程清潔な家屋に住んでいた、そして万が一虫が侵入したならば「まァ、何て事かしら。私の神聖で聖なる聖域たるホーリーランドに愚かにも迷い込んだマジで愚かなこの愚物を掃討スルザマス」と細っそい端の吊り上がった赤縁眼鏡のPTA会長のおばはんみたいな口調で使いの人間にこれを駆逐させたという事に違いないのである。

 後、俺は王子様的顔面である。王子様的顔面とは、分かると思うけれど、顔立ちが非常に美形で整っている、という意味である。はっきりいって、恰好いい。自分なんかは加えて背が高く髪の毛はさらさらである。肌は白く王子様的温和、王子様的穏健という性格を兼ね備えていて、王子様的ささやき・王子様的下車・王子様的作り笑いなども習得している。

 自分の事を指して、自分は何に見えるか、と問えば世界中の人間が「Prince」と答えるに違いなくこれは前世の名残的な恩恵であると推断される。

 その他にも欲しい物は我慢しない(できない)で買う、綺麗好き、貯金はしない、虚弱、インテリ、高踏的、ポエティック、中性、執念深い、虚無主義など色々あるけれど、自分の性質・個性の何れを取り上げても、前世で高貴であった、という根拠にしかならず、やはり俺は前世で貴族若しくは王子の類いであったのだ。ふふふ。

 

 という様な事を考えていて仕事をしないので、少なくとも現世の俺は永続的に貧乏人であると推定される。


白い皿「逆襲のやまのうち(3)」

2023-12-08 | 白い皿

 そして俺は今日、風呂に入るタイミングで「バキューム山内」を出動させ、「おい、床掃除が終わったら、今晩の飯でも炊いてやがれ」と出来もしない要望を押し付けて、浴室に入った。

 くほほ。山内の馬鹿め。と心の中で所期の目的から外れた悪態をつきながら、髪などを洗っていると部屋のほうから「ピー、ピー」という機械音が聞こえる。訝りながらシャワーを止め脱衣所に出ると、テーブルの下で山内が例の機械音を鳴らしながら停止しているのが見えた。寒っ、と言いながら仕方なくびしょ濡れのまま近づくと通常、青く点灯している所が赤く点滅している。おかしいな、と思いつつ再びスイッチを押してやると、山内は何事もなかったかのようにすいすいと掃除を再開する。とりあえず安心した俺は再び浴室にはいり、髪を洗い直した。

 しかし、それから二、三分経つとまた山内がピーピーと叫きだす。寒さを怺えて再度スイッチを押しに行くと、山内は嫌味なほどげんきに動き出す。そしてまた髪を洗う、山内が叫く、スイッチを押す。髪・山内・スイッチ。K・Y・S。くさっ、やばいんじゃねえの?酢昆布。山内が叫く度に、「えっ、俺はまだこんなだるい事をしなくちゃならねえのかよ。いい加減にしてくれよ。早く所定の位置に戻りて蓄電して逐電」とか言っている様できわめてむかついた。

 入浴がおわり脱衣所に出て濡れた体を拭いていると、部屋の奥で山内がソファーの下からぬっと出て来て、真先に脱衣所つまりこちらに突進してきた。

 「おやおや、脱衣所に新規発生した芥発けーん。同じ芥でも、てめえは作家としちゃ、芥川龍之介にはほど遠いよ。自殺するってエピソードだけは真似られても動機としちゃ、地面に叩きつけられて、くだらねえ群衆に踏んづけられて埋もれただけってのが関の山だろうぜ、与太郎」

 とのニュアンスを含んだ「コォーーーーー」という無機質な悪声を響かせながら。


白い皿「逆襲のやまのうち(2)」

2023-12-07 | 白い皿

 と、無理矢理思い込んだが、無理だった。なぜなら無理矢理、思い込んだから。

 俺も最初は偶然だと思った。しかしこの厭がらせとも云える残酷な事象は、俺が入浴と同時にロボット掃除機を稼働した三回のうち、三回起こったのである。入浴している時間はばらばらなのに。

 俺のむかつきは極限まで達した。分解して目覚まし時計にしてやろうかと思った。しかし俺にそんな技術は無かった。いかがなものか。たとえば、これが五右衛門とか言う犬ならいいのだ。主人の入浴中、退屈凌ぎに部屋中を駈け回ったり、小便したりするのだけれども、やはり一人ではさみしい。むなしい。そんな中、「ガチャ」浴室の扉が開く。主人が帰ってきた。そう認識される前にすでに五右衛門はかけ出しており、主人のもとにたどり着くや否や足に頬をよせたり、ぺろぺろ嘗めたりして存分に甘える。そんな感じで来られたら愛嬌があるので自分とてむかつきはしない。然るにこのロボット掃除機たるや「コォーーーーー」と無機質的に言いながら接近して来るなり、足を無残に吸引しようとしてくる有様が非常に腹が立つのであって、無機物に体を小突かれてうれしい人間はいない。ちょっと痛いし。

 などと言いつつ思ったのが、これはロボットである。と自分自身が信じ切っているから、許せないのであって、これを例えばペットとおもう、思い込む事によって少なからずこれに愛情なんかが湧いて、許せる気になるのではないのか。

 ぬいぐるみとて、愛情を持ってかわいがったり話し掛けたりすれば愛着が湧いて、ペット更には家族と言えるまでの関係になる事もあると聞く。(そこまで行くと少し怖いが。)

 愛されたいのなら、まずじぶんから愛す。俺とロボット掃除機の間に愛が生まれる様に、まずはこいつに名前でも付けてあげようと思う。そうする事によって、生物的になると言うか、同居人みたいになって、親睦が深まるのではないかと思われるからである。

 様々な愛称を思案した結果、「バキューム山内(やまのうち)」と名付ける事にした。バキュームという部分には掃除機らしく、のびのびとたくさん吸って欲しい、という俺の願望的なものが込められている。後の「山内」というのは俺が以前勤めていた職場にいた上司が、こんな名前だったと思う。嫌な奴だった。

 では何故、そんな嫌な奴と同様の名前を付けたのか。たとえば、このロボット掃除機を稼働するタイミングで「行け山内」と発音してみる。するとなんということでしょう。山内は「ハイ」と返事をして床に這い蹲り、地面の塵や埃の類いをしゅらしゅらと啜り始める。それを蔑んだ目で上から見下ろす俺という構図が完成するという按配で、俺は愉快な思いをする事ができるかも知れぬのである。卑劣な男である。


白い皿「逆襲のやまのうち(1)」

2023-12-06 | 白い皿

 拙宅にはロボット掃除機というのがある。

 直径四十cm弱程の、背の低い円壔状のロボットである。是れによって、態態掃除機を引っぱりだしてきて、部屋を動き回りながら塵や埃を吸引せずともスイッチ一つでこのロボが稼働、勝手に移動して、勝手にごみを吸引、勝手に所定の位置に戻って来るという非常に目覚ましいアイテームなのである。

 自分はこれを二万円くらいで買った。

 俺の様な売れて無い物書きでも、これ位は頑張れば買える。ふほほ。こんなに便利な物を使い便利な思いをして、便利な暮らしをしている人間もあまりいないだろう。

 と、調子に乗るがしかし俺は何だ、物書きとか言っておいて最近は全然物を書いていないじゃないか。この原稿を書くのに一体何箇月空白をあけているのか。自分に物書きを取り除いたら何になるのだろうか。ただの売れてない奴。むなしい。

 そんな只の売れていない奴でも、ロボット掃除機のお蔭で、そこそこ快適なおそうじライフを過ごしていたのだけれども、問題が生じた。

 自分は風呂に入るタイミングで、これを稼働させる。

 なぜなら、自分が部屋でくつろいでいる時にロボット掃除機を稼働させると、くつろいでいる自分の周辺のゴミを吸引しに来たこれに「おらおら、邪魔やんけ。足どけんかい、足」と言わんばかりに足をくんくん小突かれるからである。折角の寛ぎの時間まで吸引して欲しくはない。ならば、自分が浴室にいるタイミングで部屋の中を思う存分綺麗にしてもらおうかしらん。と考えたのである。

 しかし、このロボット掃除機たるや、自分が入浴を終え、脱衣所に降りたタイミングを見計らって真直ぐ突進してきやがるのである。「はぁーい、お掃除しますよー」と体をがんがんにぶつけてくるおばはんのごときである。

 俺は足をくんくんされるものだから、おばはんの邪魔にならぬ様に片足を上げたり、股を開いたりしてこれを除けるのだけれども、おばはんは容赦ない。お構い無しに連続攻撃をあびせてくる。

 むかつくぜ。何故俺は脱衣所でひとり、両足を交互に上げたり股を開閉したりしてマリオネットのごとくアホーに動かなければならないのだろう。まあ、元はといえば機械なんぞに掃除を全面的に任せた俺も悪いのかもしれない。これくらいの偶然で腹を立ててどうする。これ位で怒っていては、俺は一生ただの売れない奴だ。