042:豆（ほにゃらか）

いつしゆんを煮くずれてゆく豆腐よりあやふく熱せられゆく時代

041:こだま（ほにゃらか）

死者達の叫びがこだまするやうにチャネルのあはひ響き渡れり

040:道（ほにゃらか）

右向かばこぞりて右へ　ゆふぐれの報道（ニュース）は並べて同じ切り口

039:乙女（ほにゃらか）

「母さんはときをり魔女の占ひ師」さてもをかしく乙女は喩ふ

038:灯（ほにゃらか）

みちの辺のほのかに白き夕顔がここへそこへと灯せるあかり

037:花びら（ほにゃらか）

花びらの舞ひちる春の小さき手にわれこそ引かれゐたかもしれぬ

036:組（ほにゃらか）

棟上げの式か　組みたる梁の上（へ）に大工のかしらの誇らしく立つ

035:株（ほにゃらか）

ひと株の苺を買うて帰らむか　子らの笑顔がそそのかすゆゑ

034:シャンプー（ほにゃらか）

東洋の美女チャン・ツィイーのシャンプーに＜Ａ＞とふ文字の凛と立ちたり

033:鍵（ほにゃらか）

その鍵をわれら失くしてしまひしかアジアの鉄扉ひらけぬままに

032:上海（ほにゃらか）

金色に醸せる紹興酒（シャオシンチュウ）のかげ発酵しえぬ歴史　上海

031:寂（ほにゃらか）

水に棲む生きものたちの寂しさが赤く澱みて潮（うしほ）ぞ染むる

030:政治（ほにゃらか）

負け難き男（を）の子らふたり対峙してお砂の山に政治は生（あ）れむ

029:草（ほにゃらか）

ふるさとの水は甘露の水なりき草にも木にもあまねく浸みて

028:おたく（ほにゃらか）

なにごとも精通しえぬ虚しさに＜おたく＞未満を引き籠もるわれ