最後に、私自身が若い頃に詠んだ歌を収めて、後書きとしたい。
人の詠んだ歌や、歌論を批評した後に、自分の歌を紹介するのは、
たいへん勇気がいります。
この際に、改作しようかとも考えましたが、
これは当時の私の「思い」であり、当時の「力」ですから、
ここは正直にそのままの形で出しましょう。
ご批評頂けるなら、ありがたくお受けいたします(笑)
今まで、ありがとうございました。
「水 槽」
君恋はば呪ひにちかき名を抱きて潮満つるとき君を帰さず
水とざし熱を生む女(ひと)身籠もりて白き乳房は母となりゆく
稚児なるやひしと抱く腕あはれなり心問ひつめ母は老いゆく
終焉の光放ちて祭り消ゆ変はらぬ日々に帰る後朝(きぬぎぬ)
はるばるの春花吹雪頬濡らすつぼみけむれる故郷遠く
ひそやかに終りを告ぐる遮断機よ背の向かうに赤く落ちゆく
春菖蒲(あやめ)群れて咲く沼夏となる蒼き迎え灯ひそむ合掌(てのひら)
黄昏(たそがれ)を紅消ゆるまで見つめをり君のいとなみ彼方に在りて
幹をゆく水の流れに揺らされて葉脈の声はくれなゐを知る
こころから君恋はば恋ひよ長月に母の呪詛(いのり)は掌をしたたりて
凛々となほ青竹は天を刺すはるけき空に竹となりても
「鏡の中へ……群青の昼に……」
われはもう海へは行けぬ 行けぬよと君の寝顔にかなしく笑ふ
もてあそぶつもりの数珠にからまれてわれの呪詛(いのり)はわれへと環る
淋しさに滅びてみたきわたくしの形骸(かたち)は鏡の前立ちつくす
厭はしき男の視線断ちて後、君を凝視(みつ)むるわれに戸惑ふ
かなしみを官能に沈め髪梳けぬわがため髪よやはらかくなれ
啼きやまぬ風が夜を梳く君もまたなにか淋しく眠らむとする
ろんれーろん傷つけかへすこともせず秋の夜長にぶらんこ揺らす
冬の香に胸を鋤かるる あくまでも空はあの日の青さを嘲笑(わら)ふ
人群るる闇に潮(うしお)の消せるならせめてやさしく昼にありたし
群青の昼に輪舞(をど)りてさざめくは人となりたき人かもしれぬ
いつよりか二十歳の化粧 鏡へと目つむるままに静かに入らむ
部屋と部屋つなぐ受話器を抱きをり緑けむれる朝に黙して
海鳴りにわが魂は誘はれ男(ひと)を呑みほしくれなゐを吐く
雨の夜もあなたの声に浸されて泣きたいほどにやさしき時間
わが歌よわが身よ君の哀しみをつつみて歌ふぬくもりとなれ
(ほにゃらか)
人の詠んだ歌や、歌論を批評した後に、自分の歌を紹介するのは、
たいへん勇気がいります。
この際に、改作しようかとも考えましたが、
これは当時の私の「思い」であり、当時の「力」ですから、
ここは正直にそのままの形で出しましょう。
ご批評頂けるなら、ありがたくお受けいたします(笑)
今まで、ありがとうございました。
「水 槽」
君恋はば呪ひにちかき名を抱きて潮満つるとき君を帰さず
水とざし熱を生む女(ひと)身籠もりて白き乳房は母となりゆく
稚児なるやひしと抱く腕あはれなり心問ひつめ母は老いゆく
終焉の光放ちて祭り消ゆ変はらぬ日々に帰る後朝(きぬぎぬ)
はるばるの春花吹雪頬濡らすつぼみけむれる故郷遠く
ひそやかに終りを告ぐる遮断機よ背の向かうに赤く落ちゆく
春菖蒲(あやめ)群れて咲く沼夏となる蒼き迎え灯ひそむ合掌(てのひら)
黄昏(たそがれ)を紅消ゆるまで見つめをり君のいとなみ彼方に在りて
幹をゆく水の流れに揺らされて葉脈の声はくれなゐを知る
こころから君恋はば恋ひよ長月に母の呪詛(いのり)は掌をしたたりて
凛々となほ青竹は天を刺すはるけき空に竹となりても
「鏡の中へ……群青の昼に……」
われはもう海へは行けぬ 行けぬよと君の寝顔にかなしく笑ふ
もてあそぶつもりの数珠にからまれてわれの呪詛(いのり)はわれへと環る
淋しさに滅びてみたきわたくしの形骸(かたち)は鏡の前立ちつくす
厭はしき男の視線断ちて後、君を凝視(みつ)むるわれに戸惑ふ
かなしみを官能に沈め髪梳けぬわがため髪よやはらかくなれ
啼きやまぬ風が夜を梳く君もまたなにか淋しく眠らむとする
ろんれーろん傷つけかへすこともせず秋の夜長にぶらんこ揺らす
冬の香に胸を鋤かるる あくまでも空はあの日の青さを嘲笑(わら)ふ
人群るる闇に潮(うしお)の消せるならせめてやさしく昼にありたし
群青の昼に輪舞(をど)りてさざめくは人となりたき人かもしれぬ
いつよりか二十歳の化粧 鏡へと目つむるままに静かに入らむ
部屋と部屋つなぐ受話器を抱きをり緑けむれる朝に黙して
海鳴りにわが魂は誘はれ男(ひと)を呑みほしくれなゐを吐く
雨の夜もあなたの声に浸されて泣きたいほどにやさしき時間
わが歌よわが身よ君の哀しみをつつみて歌ふぬくもりとなれ
(ほにゃらか)