072:箱（ほにゃらか）

閉ざされし箱に籠めたる＜時＞と＜愛＞　どうぞこの箱ひらきたまふな

071:老人（ほにゃらか）

約束をたがへし罰を受くるごと老人（おいびと）となる太郎かなしも

070:章（ほにゃらか）

いにしへの大和ごころを章（あきら）かにせむと紐解く浦島太郎

069:カフェ（ほにゃらか）

カフェオレに浮かぶハートが嬉しくてもつたいなくてギザギザにせり

068:報（ほにゃらか）

報告は書面で出来む　それよりも、もつと話を聞いてくれぬか

067:事務（ほにゃらか）

ゆふぐれの事務所を閉める直前にかかる電話を見逃せなくて

066:ふたり（ほにゃらか）

ふたり子のためなら死ねる　ふたり子のためにも死ねぬ　われは母なり

065:鳴（ほにゃらか）

目覚ましが「朝ぞ、起きよ」と鳴るからに「春ぞ、しばし」と頼みてゐたり

064:百合（ほにゃらか）

白百合は馨しすぎる　見舞ひ人（びと）帰りしあとを噎ぶばかりに

063:オペラ（ほにゃらか）

ずば抜けて華麗なるかな胡蝶蘭　オペラ・セリアのアリアが似合ふ

062:竹（ほにゃらか）

竹とんぼ　くるりくるりと舞ひ上がり思ひ思ひに着地してゆく

061:注射（ほにゃらか）

点滴につながれてゐる小（ち）さき手に刺さるは憎きこの注射針

060:韓（ほにゃらか）

ハングルは大いなる文字　韓国に生れし女（をみな）に許されし文字

059:くちびる（ほにゃらか）

愛もなく くちびる合はす哀しみに少女はいつかこの日を悔いむ

058:抵抗（ほにゃらか）

プライドをもちて抵抗するかぎり＜負け犬＞などと呼ばせぬだらう