野叟解嘲(やそうかいとう)ー町医者の言い訳ー

老医師が、自ら患者となった体験から様々な症状を記録。その他、日頃、感じていることや考えていることを語ります。

症状軽減の理由説明

2023年04月29日 | 日記

ある種の姿勢をとることで症状が軽くなる話から、理学療法や代替療法の有効性に言及するのは、話が飛躍して分かりにくかったかもしれません。屁理屈を付けて説明します。

末梢神経損傷の分類に、neuropraxis、axonotomesis、neurotmesisの3段階があることはご存じでしょう。この内、もっとも軽度なのが neuropraxis ですが、軸索が温存され、神経周囲の組織の損傷のみということになっています。神経伝達が遮断されるが、数日から数週間で回復するとされています。この状態までに至らない、さらに軽度の圧迫による障害は、まず血流障害から始まると想像します。神経外科医ならば手術で脳や脊髄の表面を日常的にみていることと思います。その風景を思い出して見るとわかりますが、神経組織表面に微細な血管が多数走行しています。手術操作で、ほんの少し触れるだけで細かな動脈から静脈まで、簡単に虚脱させられ、血流を阻害します。この状態が長く続くだけで神経症状が生じることは簡単に理解できると思います。

さて、脊柱管狭窄症を考えると、いきなりneuropraxisに陥るのではなく、始まりは循環障害だということも想像しやすいでしょう。日頃、見慣れた繊細、脆弱な神経組織表面の血管系への圧迫は、ほんの2,3㎜改善するだけで神経機能の回復につながるということも理解できるのではないでしょうか。つまり、脊柱管狭窄を2,3㎜改善するだけで自覚症状の軽減になるということも分かっていただけるでしょう。

思えば、リマプロスト、サルポグレラートなどの治療薬も血流改善を謳っている筈です。これらの薬剤の効果に疑問を持つ医師も少なくないようですが、ここで説明した通り、軽症のうちであれば、血流改善により症状の軽減は得られるわけです。しかし、病状が進行してしまえば、血流改善だけでは軸索機能の回復は図れないのは当然で、手術を盛んにしている外科医から見れば、薬物療法や理学療法などの効果は眉唾ものに映るのかもしれません。しかし、小生は自らの経験からそれらの治療法は理にかなっていると考えます。

また、外科的治療を検討するなら、薬の効果がある内の方が術後の回復も期待できると考えます。患者側からは納得が得られないかもしれませんが、手術の効果を上げるには、軽症のうちに行う方がベターと考えます。一般的に、どんな病気も軽いうちは薬で治療し、薬で間に合わなくなったら、手術を考えるという傾向があると思いますが、狭窄症のような、ある意味物理的なものは、薬で根本解決するはずがないのであり、早めに手術を考えてもいいと思っています。実際、患者さんにもそのように勧めて、感謝されることもあります。脊椎外科は、術後の患者満足が得られ難い領域ですが、軽いうちに手術した方が結果はいいのではないかと考えます。



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