野叟解嘲(やそうかいとう)ー町医者の言い訳ー

老医師が、自ら患者となった体験から様々な症状を記録。その他、日頃、感じていることや考えていることを語ります。

脊椎病変と自律神経症状

2023年07月17日 | 日記

さて、脊柱管狭窄症の症状というと間欠性跛行が有名ですが、他にも様々な症状があることはご存知でしょう。

しかし、自律神経症状に言及したものはほとんど見たことがありません。単に私が不勉強なだけかも知れませんが。

自らが経験した症状を紹介します。

<起立性低血圧> 所謂、立ち眩みです。リハビリの一環として、ぶら下がり健康法ではありませんが、手術後1年くらいしてから、自宅でも牽引療法に変わるものとして、ぶら下がり運動を始めました。そんなことをしてもすべり症が戻るとは考えていませんでしたが、やってみるととても気持ちがいいことに気づき、自宅車庫の梁に介護用の小型の手すりを取り付け、寝る前などに僅かな時間ぶら下がるようにしました。すると、何の関係か分かりませんが、ぶら下がると立ち眩みが出現し、意識を失いそうになることがありました。中学生の頃、立ち眩みから気を失ったことが2度ほどあり、自分でその直前の感じを覚えていますので、今では意識を失う前に危険な姿勢を直すことが出来ます。このぶら下がりの時も、目の前が暗くなる感じが出てきたところで、手すりから降りて、事なきを得ましたが、少し休んで再び試すと立ち眩みがまたやってくるのです。3回くらいは再現できました。このようなことが、おそらくその日の体調との関係でしょうが、時々現れます。脊椎に伸展刺激が加わると、迷走神経の異常な反射が誘発されるのではないかと想像しています。個人的な経験ですが、環椎軸椎亜脱臼の患者さんで何人かで起立性低血圧によると思われる、失神を見たことがあります。脊椎病変で、そういうことが起きうると思っています。

<体温調節障害>此は、今にして思うと、かなり早い段階で出ていた症状だと考えています。30代の頃、間欠性跛行の症状が出始めていた頃、下肢の症状として、寒暖の感覚障害とそれに伴う体温調節障害があります。

どういうことかと言いますと、足は冷えているように感じるのに手で触れてみると逆に暖かく、寧ろ火照り気味だったり、逆に熱く感じているのに触れると冷たかったりということがあります。特に日中、長時間歩行した夜、寝床でそういう感覚のためになかなか寝付けないことがよくありました。最近では、お年寄りの「足が冷えて寝付けない」という訴えに、「触った時には冷たくないでしょう?」と確認すると、「そうなんです」という答えが返ってきます。こういう人たちには、脊柱管狭窄症が隠れていないか、確認の検査をおすすめします。大抵は軽症ですので、リマプロストなどがよく効きます。

自覚的に熱い、冷たいと感じているだけではなく、その状態に対して体温調節が働くと、足が冷えていると感じる時には、全身は体温を上昇させる方向に働き、足は冷たく感じているのに嫌な汗をかくように体が火照って来ます。逆に足が火照っていると感じるときには、体が冷えていくということになりがちです。どちらも深いな症状です。若いお医者さん達にはわかりにくいと思いますが、年寄りや若くても狭窄症がある人には、このような症状もあることを知っていると、対処の仕方が変わるでしょう。


鎮痛、除痛の重要性

2023年07月09日 | 日記

ある姿勢をとることで症状が軽くなる話で、初めに気づいたのが智歯を抜く手術後の麻酔の覚め際だったことを書きましたが、その後も別の手術を受ける機会があり、その都度、麻酔が覚めきらない時に、すべり症による足のしのしびれが軽くなることを経験しました。

これは何故だろうと考えたとき、術後経過のところで紹介した膝の痛み(ハムストリングスなどの異常な緊張)を思い出しました。痛みは、筋肉の緊張が解放されることで消えましたが、その根本原因は腰椎病変に対する無意識の防御姿勢にあることも説明しました。

麻酔の覚め際の、いささか不自然な姿勢でしびれが軽減するのは、前回紹介した、姿勢そのものによる効果に加えて、麻酔により、腰の異常な防御姿勢、筋緊張が軽減され、姿勢による脊柱管の拡張を手助けしたと考えます。

その後も、ごく偶に睡眠導入剤を使う機会があり、このときも起床時の症状軽減が得られました。主にゾルピデムを少量使ったのですが、おそらく自然な睡眠より筋緊張の軽減があったと想像します。メーカーの説明では、Ω1,2受容体に対する選択特性から、ゾルピデムは筋緊張低下作用は弱いので、高齢者の転倒を 引き起こしにくいとされていますが、小生には十分筋緊張低下をもたらしたようです。

さて、麻酔学を学んだ方ならばお分かりでしょうが、麻酔の目的の第一は、もちろん痛みを取り除くことですが、単に痛みをのぞくだけではなく、痛みから生じる望ましくない反射(反射的な体の反応)を防ぐということも重要な目的です。麻酔まで大袈裟にしなくても、痛みを取り除く、或いは軽減するということは、体に不利な反射を抑制し、全体としての症状の軽減が得られる方法だと考えます。

人は薬について、可能ならば使用したくないと考えます。当然であり、妥当な考え方だと思いますが、場合によっては、鎮痛剤は本来の効能よりも広い影響を及ぼすことがあり、それは副作用という意味ではなく、癒すための手段として重要なものではないでしょうか。


リハビリは続く ー 怪我の功名? ー

2023年07月01日 | 日記

3月に硝子体手術を受けたことをお知らせしました。その術後にうつ伏せ寝を強制されたことも紹介しましたが、この際、予想外のこと(後述する説明を読めば、予想できないことではないことが分かるのですが)が起きました。

手術後、暇があればベッド上で俯せになっていたのですが、うつ伏せから起き上がると、両足のしびれが消失と言っていい程に軽くなっていたのです。その際に使用した器具が次の写真です。市販のクッションに手を加えたものだとのことですが、なんとアマゾンを探すと似たようなものが製品として紹介されていました。硝子体手術後のうつ伏せ寝のためにと。

 左の写真が実際に使用したクッションです。

 こちらはアマゾンのカタログからの写真です。手術後、上の器具を使って、ひたするら俯せでいました。

さて、何が起きていたのでしょうか?

脊柱管狭窄症は少しだけ背中を前屈させると症状が軽減するということを習ったことがあるでしょう。その姿勢が僅かに脊柱管の前後経を拡大するのですね。だから、おばあさんたちがシニアカーを押して歩くと長く歩けるのですね。その様子が図3です。俯せになると、図4のように、これを90度右へ回転させた形になります。(図3を90度回転させたものです)図3

 

   図4

さらに、うつ伏せ寝は単に背中を軽く前屈させているだけではなく、弱いながらも牽引する力も加わっていると考えられます。

図5のように、シニアカーを押しているとき、脊椎には重力により上下に圧迫する力が加わっています。

 図5

これに対して、うつ伏せでは図6のように上下方向に軽い牽引力が働きます。このためにうつぶせ寝の後、足のしびれが劇的に軽減したものと想像します。

図6

理学療法に「体位牽引」というものがあります。教科書の図を一部改変して、1例を示します。腰椎病変の急性期、症状軽減の手段の一つとして紹介されています。

意識せずに、この牽引療法を行っていた訳です。もちろん立ち上がって動き出すと、その効果は10分もすれば消えますが。

牽引療法に対して賛否の意見があることは知っていますが、個人の感想ですが、「効果はある」と思います。ただし、以前にも書いたように、治すものではなく、癒す効果があるという意味です。

この個人的経験を患者さんたちに紹介し、日常生活の中で、それぞれの方法で体位牽引療法を行うことを勧めています。