浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

グローサーフント イン アクション 1

2011-06-02 00:01:21 | Weblog


 閃光が刃のように駆けた。地に突き刺さり、弾けて砂を舞い上げる。
 チャペック軍曹は走る。装甲の足で砂地を蹴り、レーザガンを備えた機械の腕を振って、細い木の脇をすり抜ける。重みは感じない。着用者の思うままに動く装甲戦闘服-PKA Ausf.Gに守られているからだ。
 一つを大きく地を蹴って、地のくぼみに飛び込む。間近に光条が突き刺さり砂煙を吹き上げる。チャペック軍曹は放たれてくる光条へと目を向けた。防護グラスの向こうには、乾いた大地がうねりながら伸び、まばらに木が立っている。敵の姿が見え隠れする。
 軍曹は地のくぼみから左手を振り向ける。そこには腕に一体化されたレーザガンがある。それをぶっぱなした。かすかに感じるのは反動ではなくレーザに貫かれた大気の発する衝撃波だ。励起された大気分子を残像のように残して疎林の中に突き刺さる。乾いた砂が弾けて散った。敵の姿は身をかがめる。まろい装甲に守られた彼等もまた装甲化歩兵だ。独立地球傭兵軍を名乗っているが、本当のところはただの戦争の犬どもだ。チャペック軍曹は犬は好きだが、奴らは撃ち殺したいほど嫌いだ。その軍曹の間近に次々とレーザ光が突き刺さり、砂柱を立ち上げる。敵も同じ気持ちらしい。砕かれた石くれが飛び散り、軍曹を守る装甲にあたって音を立てる。
 彼の装甲戦闘服PKAは、戦闘力を強化したG型-グスタフに、さらに強化装備を施したものだ。もともとのキャノピーも装甲蓋に防護グラスをはめ込んだものに置き換えられている。だとしても敵の集中射撃には耐えられない。このままではここ自体も突破される。軍曹は体ごと振り返る。そうしなければ装甲にさえぎられて後ろが見えない。そこにはすこし離れて大柄な姿がある。二本の足で立ち、二本の腕を持つけれど人ではない。大犬-グローサーフント-と呼ばれるマシンだ。
「口頭命令、11号、援護しろ」
 チャペック軍曹は命じた。グローサーフントの頭部がすばやくめぐって軍曹を見た。人の形とはまったく違う。犬とすらまったく違っている。グローサーフントは素早く応答信号を返して、その頭部を敵へとめぐらせる。形は必ずしも犬のそのものではないが、すばやく小刻みに動かして敵を捕捉し続けるさまは、宙の臭いを嗅ぎ取ろうとする犬のようだ。
 それは砂色の乾燥地塗装に彩られ、くすんだ緑の斑紋で迷彩された体には、白く11の機番が書き込まれている。白の11がその犬の名前だ。大柄な見かけに思うよりずっとなめらかに動き踏み出し、長い左腕を敵へ向かって差し伸ばす。そして光を放った。薄紫のレーザ光条は疎林を飛びぬけ敵らのある辺りに突き刺さる。グローサーフントは新兵どもよりずっといい動きをする。機体は大型だが、装甲戦闘服のように人を乗せることはない。細身の胴体は人を乗せないからであるし、長い腕は構造と動力のみから作られている。その足も人の形とは違う。膝の下にもう一つ、前向きに傾く関節があってそれもまた犬の足のようだ。背にはエンジンを収めたふくらみがあり、その両脇には一本ずつのパンツァーシュレック-つまりロケット発射筒がある。敵からの応射が空を切る。グローサーフントは恐れるふうもなく左腕を向け、レーザを放った。
 敵も動いた。地のうねりを拾うように低く駆ける。卵を前に傾けたような、まろい形を持つ重装甲の装甲戦闘服は、援護のレーザ銃火に守られながら、軍曹の右側へ右側へと回り込もうとしている。このままでは敵に包囲される。
 つまり正面と右との両方から十字砲火を受けると言うことだ。
「11号、レーザー指示方向を優先判断。包囲を阻止しろ」
 軍曹は口元のマイクに怒鳴り、レーザを放った。だが撃ちかえしてくる光条は一つから二つに、二条は三条に、さらに増えてくる。押さえ込もうにも、射すくめられているのはチャペック軍曹の側だ。軍曹らの正面の敵もまた撃ちかけてくる。正面に四、五機、回り込もうと謀っている敵もまた四、五機あり、合わせて二個小隊程度であるらしい。
「くそ!」
 チャペック軍曹も撃ち返す。だが敵の数を撃ち減らすこともできなければ、敵の展開を防ぐこともできない。所詮は火力であり、火力とはすなわち数だ。
 からだごと振り返り、軍曹は部下達の姿をを探した。彼と同じく装甲戦闘服PKAグスタフを装着して、疎林の中に展開しているはずだ。飛び来る敵のレーザと、応じて撃ち返す光条も見える。それぞれにつき従うグローサーフントたちの姿はすぐにわかった。そのグローサーフントと装甲戦闘服の歩兵とで一つのセルをつくり、軍曹を含めて四つのセルは、広い横隊を疎林に敷いて阻止線を作っている。四機のグスタフと、四機のグローサーフントがあれば十分に戦える。だがあそこにあっては、いま役に立たない。軍曹は唸った。
 あそこに阻止線を敷かせたのは小隊長のチャペック軍曹自身ではある。正面からの突破を阻止するためだ。敵はそれを押し切るのではない、阻止線の右側へ回り込んでこちらを包囲しようとしている。正面で阻止できても、そうなってしまったら遅い。
 グローサーフントで戦力を強化してあるが、小隊はわずか4人でしかない。グローサーフントを恃んで阻止線を引かせたが、今では広げすぎている。再配置しなければならない。
「!」
 音を立てて間近の石くれが弾けた。軍曹は左腕を振り上げ内蔵されたレーザを撃ち返す。敵の射撃が正確になってきている。
「小隊の阻止線を再配置する・・・・・・」
 そこまで言ったときに、またふたたび敵のレーザが間近に突き刺さる。
「11号、援護しろ」
 了解応答がすぐにイアホンに響く。忠実なグローサーフントは、長いアームを敵へと向けレーザを放つ。
 薄紫の光条は、疎林の中を飛びぬけて、敵の姿の間近に突き刺さる。