浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

グローサーフント イン アクション 3

2011-06-17 12:45:16 | Weblog


「撃て!」
 白煙がはじける。パンツァーシュレックの弾体は唸りを上げて飛び去った。明るく強い炎を引きながら駆け抜け、敵の二機へと二つづつ突きかかってゆく。
 衝撃が響く。乾いた地に輪を描いて広がり、赤く輝く断片が飛び散る。吹き上がる煙の塊に敵の姿は押し隠されて見えない。
「グローサーフント、突撃、前へ!」
 チャペック軍曹の命令に、四機のグローサーフントは一斉に地を蹴った。大柄な機体を低く構えて駆ける姿は獲物目指して走る猟犬そのままだ。チャペック軍曹も駆けた。着用した装甲戦闘服の力で、グローサーフントと変わらぬ速さで駆け進む。
 目指す先の煙の中から丸みある敵の姿が、転げるように踏み出してくる。その姿、スーパーAFSは左腕を振り上げる。奴から光がほとばしった。辺りに漂う煙と砂塵が輪となって散った。刃となったレーザ光条が薙ぐように振るわれる。駆けるチャペック軍曹の間近で光が弾けた。白の11号が黒く強い影を引き、その体から何かが飛び散った。
 機体は駆けながら大きく揺らぐ。天を仰ぐようにして、けれど白の11は止まらない。地を踏み駆ける勢いは止まらない。ひととき天を仰ぐようだった上体も、振り下ろすように再び敵を向く。異形の頭部は敵を見据え、左腕を振り上げる。レーザを放った。しかしレーザは敵をかすめて遠く青空へ吸い込まれる。だが白の11はそのまま駆ける。そして蹴った。駆け足の勢いのまま、足を振り上げる。
 スーパーAFSは玉のように跳ねた。宙を舞い、砂へと叩きつけられる。
 白の11の勢いは止まらない。駆け寄りさらに踏みつける。振り下ろすように左腕のレーザガンを突きつける。放った。
 光が激しく散る。スーパーAFSの装甲蓋が音を立てて弾け飛ぶ。何かが砂地に飛び散る。
 白の11はすぐにその異形の顔を上げた。頭をめぐらせ、新たな獲物を探す。グローサーフントは死んだ獲物を漁りはしない。白の11にわずかに遅れたもう一機、白の12もすでに動かないスーパーAFSに見向きもしない。
 残りの二機、白の13と14も獲物へ襲い掛かっていた。スーパーAFSの放つ光条を恐れもせずに駆け詰めよる。敵の放ったレーザがグローサーフントの一機に突き刺さる。火花を激しく散らしながら煙を噴き上げ、そのグローサーフントは地へ突っ伏した。
 だがまだ一機が残っている。それがレーザを放つ。スーパーAFSのまろい機体へ突き刺し、さらに詰め寄る。グローサーフントは機械の腕を振り上げ叩きつけた。大きく指を広げて揺らぐスーパーAFSに掴み掛る。丸みある装甲に滑りながらも指を立て、砂色の迷彩を削るようにして横なぎに突き飛ばす。音を立て、砂を跳ね上げながら倒れたスーパーAFSにグローサーフントはさらにレーザを放った。丸みを帯びた機体は内側から弾けるように燃え上がる。
 だが横合いから閃光がとび来る。グローサーフントは異形の顔を素早くむける。
 チャペック軍曹もそちらを見た。地のうねりふくらみを盾に、二機のスーパーAFSがレーザを放ってくる。奴等のさらに背後には、さらに四機のスーパーAFSがいる。敵の一角に食い込みはしたが、敵を押し崩したわけではない。逆襲されたら、こちらこそ押し切られる。軍曹は命じた。
「口頭命令、グローサーフントはパンツァーシュレック統制射撃、目標、第一小隊長指示方向」
 グローサーフントはその頭を素早くめぐらせ、つづいて体ごと敵に向き直る。
「11、12は右側目標、13、14は左側目標。ようい!」
 命令と共に、グローサーフントたちはすぐに身をかがめ、背のパンツァーシュレック発射筒を前へと向ける。だがその姿は三機に撃ち減らされている。
「撃て!」
 今度は三つのパンツアーシュレックがロケット推進の炎を引いて飛び去る。乾いた地のうねりに潜む敵の姿へと吸い込まれた。白煙が重い音とともに弾ける。軍用弾頭の炸裂は大きな炎など出さない。閃光のあとに白煙が広がるばかりだ。白煙を背に敵の丸みある姿が駆ける。
「続けてグローサーフントは各個射撃。撃ち方はじめ」
 グローサーフントたちはレーザを放った。その左腕から放たれた光は、炸裂の名残の煙を貫き、衝撃波と共に吹き払う。
 その向こうから敵も撃ちかえしてくる。チャペック軍曹は歯噛みした。もはや先のように突撃して、敵を排除するのはむつかしい。四機しかないグローサーフントの一機は撃破され、十分に優位とは言えない。パンツァーシュレックも使い切ってしまった。激しく光が飛び交い、チャペック軍曹の間近にもレーザが突き刺さり砂煙を吹き上げる。
 敵の射撃が強まる。離れた奥にいる四機と、手前の近くにいる二機とが続けざまに光条を放ってくる。その二機が地の陰から飛び出した。
 だが彼等は押し攻めてはこなかった。砂を蹴り、一気に駆けて大きく退く。背後の四機が激しく撃ちかけて来るレーザに守られながら退いてゆく。それは終わりの始まりだった。敵の姿は二機ずつのペアを保ちながらすばやく駆け退き、次のペアが退くのを待つ。そうやって引き抜くように後退していった。このゲームの終わりと言っていい。
 敵はただの威力偵察チームであり、こちらはたかが一個中隊の機動歩兵でしかない。いずれどちらかが-多くは威力偵察側が-戦闘を切り上げて退く。敵からすれば今回の消耗は大きすぎるくらいだ。それは防御側であるチャペック軍曹の中隊にも言えることかもしれない。軍曹は無線を開いた。
「バーダー伍長、アーレ上等兵の収容を終了したか」
『こちらバーダー。アーレは重傷、歩行不能。意識あり。装甲戦闘服より離脱。バイタルサインでは喫緊の命の危険は無し』
「小隊長了解」
 チャペック軍曹は通信系を切り替える。
「第一小隊長より中隊本部へ。第一小隊正面の敵は後退した。負傷1、グローサーフント被撃破1。救護輸送機要請」
『中隊本部了解』
 上空を、空中指揮中の中隊曹長機が飛びゆき過ぎる。
『まもなく、517重戦車大隊が支援に急行する。現陣地保持』
 無線を切ってチャペック軍曹は息をついた。
 要るときには来ず、無用となってからも留まる。軍隊とはそういうものだ。それからグスタフの装甲蓋を開いた。
 埃っぽい風が吹き込んで装甲服の中を巡る。鼻の奥を突くオゾンの臭いがする。飛び交ったレーザ火箭が生み出した臭い、この戦争の臭いだ。
 いまや三機となってしまったグローサーフントたちが、立ち尽くしたままおしなべて軍曹を見つめている。その異形の頭部も、今見れば犬のように思えないことも無い。
「第一小隊グローサーフントは警戒態勢に移行。自律射撃を禁じる」
 了解を告げる音が軍曹のヘッドセットに響き、そしてグローサーフントたちはそれぞれに身を翻した。砂交じりの風が吹き寄せ、流れてゆく。