浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

チーム0・F・INF 助走7

2015-11-12 23:35:53 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 結局、日曜の朝までかかったさ。
 マジで朝さ、徹夜さ。そろそろ徹夜が厳しいお年頃さ。だが、だが、だがだがだがだがだがだがっ!完成させたさ。そうさ。アイハヴコントロール!
 待ち合わせのファミレスで、俺は、玉ちゃんの前に、どん、とキュリオスを置いたったさ。
「どうよ?」
「おお、いいねえ」
 玉ちゃんはでっかい背をかがめて、俺のキュリオスに見入ってくれる。全塗装する時間は無かった。申し訳ない。
「いや、いいんだよ」
 玉ちゃんは言う。これだけ綺麗にヤスリ当ててヒケ消して、そのあとにクリア吹いたっしょ、と。
「判ってくれる?」
「わからいでか。こちとらモデラーよ」
 徹夜明けの脳に染みるぜ。玉ちゃんは続ける。無塗装デカールって結構、ハードル高いのよ。無塗装簡単仕上げってだけで、結構軽く見られる向きあるけど、逆に手間かかるから、エアブラシ持ってるなら、サフで仕上げて塗る方が早いもん、と。
「相馬ちゃん、マーカーと水性で細部に筆入れて、クリアーで閉じてから、デカール貼って、さらに艶消しで閉じるのって、すっげー手間だったっしょ」
「おう」
「エッジも立ててきてるしね」
「おう」
 泣けるねえ。判ってくれる奴がいる。
「ゲーム対応てんこ盛り武装とはいえ、これ、いいよ」
「マジで?」
「・・・・・・」
 玉ちゃんは無言で親指を立ててくれる。生きててよかった。ガンダム握りしめたまま死んでなくてよかった。
 言われる通り、ゲーム対応てんこ盛り武装だ。両手にはシールドを一枚ずつ。さらに、腕につけるアダプターに、ライフルと、ミサイルの両方をつけている。このために、アストレアを二個買いしたようなものだ。さらに俺は、メーカーに部品請求して、ミサイルを二基追加している。それは、キュリオスの脚、膝から突き出した特徴的なフィンに取り付けられている。
「見ててくれ」
 俺は、テーブルの上のキュリオスを手に取り、コキコキと変形させる。寝そべり変形と言われるが、俺は構わないと思う。っていうか、俺はキュリオスが好きなんだ。脚をガニマタにし、先の膝のフィンに後退角を着ける。成り行き任せっぽいが、腕に着けたシールドで膝のフィンを挟むので、一応、形は決まる。そして、その状態で、腕と、足のミサイルランチャーは全て機体上面に、一方ライフルは機体下面に来るようにセットされる。
「おー、良いじゃん。戦闘機的武装フィット理解」
 このために、ピンバイスだの何だの、新規設備投資したのだ。特に足のミサイルランチャーのセットアダプターの自作に、とんでもないクソ時間がかかった。こいつのおかげで間に合わないかと思った。いや、マジで。ホントに、聞いてくれ玉ちゃん、膝の外側にランチャーが来るようにしないと、飛行形態でランチャーが上面に来ないだろ?しかもランチャーの付け根で取付け角が動かないと、フィンの後退角に対応できないんだよ、なあ、なあ、なあ。
「おう、それはわかってんだけどさ、有田君がさ・・・・・・」
「そのうち来るだろ、あの子、ちゃんとしてるし。来られなくなったら電話くらいするだろ、心配しなくていいから、俺のキュリオス見ろよ見ろよ見ろよなあなああ」
「来てるんだよ、あそこ」
 玉ちゃんは、窓の外を指さす。俺は振り返る。ちょっと驚いた。俺たちのいるファミレスへ向かってくる道を、有田君と女の子が歩いてくる。
「俺、あの女の子と、模型屋の前ですれ違ったことあるぞ?」
 すこし前だ。あの子、たしか模型屋の中を覗き込んでいて、そして、ごめんなさいごめんなさい言いながら駆け去って行った子だ。
「うん。俺も見たことある」
 その女の子が、いま、有田君と肩を並べて歩いている。楽しげに有田君を見つめて、笑っている。
「玉ちゃーん」
「相馬ちゃーん」
 俺たち二人は、顔を見合わせて、ニヤニヤ笑う。
「青春っすなあ」
「青春っすよ」
 だが、女の子は足を止めて、有田君に小さく手を振る。有田君は彼女へと振り向く。そういう何気ないしぐさが決まるのは、イケメンの特権だ。この世には、選ばれたイケメン階級があるのだとしみじみ思う。有田君は、彼女に、そうだ、彼女だ。彼女に何か言っている。彼女の方は楽しげにうんうんうなずいたり、首を振ったりする。それから彼女は、肩のところで、もう一度手を振る。
 有田君はうなずき返し、同じく肩のところで手を振り、それから振り返る。俺と玉ちゃんは、席の影にぱっと隠れた。彼は小走りに、ファミレスへと駆けてくる。ぴんぽんぴんぽんぴんぽ~ん、入店のチャイムに続いて、歩いてくる気配。
「おはようございます。すみません、遅れました」
「うん、いいんだよ。おれたち、いまきたとこだし」
「それより、このきゅりおす、みてくれよ」
「お二人とも、どうされたんですか?」
 ううん、なんでもない、と俺たち二人は声を合わせる。
「ねえ、たまちゃん」
「うん、そーまちゃん」
「何か棒読みっぽい」
「それよりさ、どりんくばー、さんにんぶんとってあるから、のみものをもってきなよ」
 あ、すみません、と有田君は頭を下げて、荷物鞄を置いて、ドリンクバーへ向かってゆく。
「ええこやのう」
「ほんにのお」
 俺たち二人は、肩を並べて、向かいの席に有田君を迎えた。有田君は何か察したらしい、神妙な顔をしている。
「あの、もう、お聞きになったかもしれませんが、僕は、池内さんの・・・・・・」
「あ、そうじゃないって」
 俺は手を振る。そんなことよりおれのきゅりおすはどうよ、みてくれよ、なあ、なあ、なあなああなあああああぐっ!、半ば発狂しかけた俺の脇を、玉ちゃんの肘がえぐる。
「相馬ちゃん徹夜で仕上げたらしいからさ」
 それより、と、玉ちゃんは自分の箱を、テーブルに乗せる。
「約束の品、間に合ったぜ」
 そう言ったときの、玉ちゃんのかっこよさと言ったら。まあ、俺は惚れないけどさ。また、玉のハゲ、開けてみてくれよ、などと言いながら、箱を有田君の前にそっと押し出すんだぜ。結婚指輪かっつーの。
「すみません」
 言って彼は箱を開く。そして、ホントに結婚指輪を見た時のように動きを止める。それから、玉ちゃんを見た。
「すみません、ホントに」
「なに言ってるんだよ。有田君は俺たちのロッコンで、ティエリアなんだぜ。俺たちの用意できる、最高の機体を使ってほしいんだ」
 きらっきらする笑顔で、玉ちゃんは言った。
 ちょっと惚れるぞ、おい。