Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

アゴタ・クリストフ「悪童日記」

2015-05-17 23:04:28 | 読書感想文(小説)


アゴタ・クリストフの「悪童日記」を読みました。
映画を見てすぐに「原作も読もう」と思ったのに、なんやかやともたついているうちに入院したりしてなかなか実行に移せませんでした。
それが先日、久しぶりに一人で高松に出かけた折に偶然書店で文庫本を見かけ、ようやく読むことができました。ふぅ。映画の内容を忘れる前でよかったぜ!いや、忘れてたほうが良かったのか?(映画の感想はこちら

戦争が激しくなったため、母親に連れられて小さな町に住む祖母のもとに疎開した双子の兄弟。町の人々から魔女と呼ばれる祖母に過酷な労働を強いられ、劣悪な環境で暮らす兄弟は、生き抜くための練習をする。痛みに耐えられるように、飢えに耐えられるように、汚い言葉で罵られても何も感じないように。戦争が暗い影を落とす中、彼らは人間の醜さと愚かさを目の当たりにする。やがて戦争は終わり、双子の兄弟は生き抜くためにある決断を下すが―


映画を見たとき、ストーリーの流れがぶつ切りで「なんじゃこりゃ?」と思いましたが、小説は映像による情報がない分、さらにぶつ切り感があってシュールにさえ思えました。なので、私の場合すでに映画を見ている分、頭に入ってきやすかったですが、何の予備知識もなくこの小説を読んだらどんな感じがしたんだろうなと、映画を先に見たことがもったいないかったような気もしました。続編の「ふたりの証拠」と「第三の嘘」はまだ映像化されてないので、予備知識が入らないうちに読んでみたいです。この2冊は、地元の書店では手に入りにくそうなのでアマゾンで買うしかなさそうですが。

しかし、映画を見て予備知識を得たつもりで読んでも、映画と原作はやはり別物。映画は映画でえぐい描写が多かったですが、原作はそれを遙かにしのぐえぐさでした。映画の宣伝文句にあった「映像化は不可能と言われた」という使い古されたキャッチコピーも、今回に限り嘘ではありませんでした。というか、原作読んでから映画の内容を思い返すと、なんかものすごくマイルドで口当たりのいい映画だったような錯覚に陥ってしまいました。そりゃまあ隣の女の子がおばあちゃんの犬と××する場面なんて絶対無理だろうし、映画でも将校は双子のことを気に入ってたけど、だからといって双子に自分を○○で▲▲せるなんてできないだろうし。いくらなんでも、主人公を演じる子供の教育によくありませんわ。せいぜい、双子が警察につかまってぼっこぼこにされる場面くらいしかできませんよねぇ。あれは映像がある分、映画のほうがすごく感じたけど。ちなみに、映画と原作で一番違うのはおばあちゃんの体型でした。そりゃあれだけ過酷な生活してんだから、普通は痩せてるよなー、って。映画のおばあちゃんも好きだけど。

登場人物の名前が一切なくて、いつの時代のどこの国の話なのかも明確には書いてないシュールな小説ですが、各章が長くても5、6ページしかなくて、短い文章の中で起承転結ができてるので読みやすかったです。読みやすさの半分は映画を見たからというのもありますが。双子がいきなり警察に捕まる章は、捕まった理由(教会の女中の事件)が後から説明されたので「ええ?その順番でいいのかい?」と、マスオさん口調で思いました。

そして、淡々とした文章は確かに彼らの生活の過酷さと人間の醜さを描写していましたが、それに対する主人公たちの感情がまったく語られないので、地獄絵図のはずの彼らの住む世界がどこか滑稽にも思えました。双子とおばあちゃんのやりとりなんて特に。3人の置かれている状況は悲惨なのに、くすりと笑ってしまう場面がいくつもありました。そう思えるのは、巻末の解説にあったように、双子の生活に作者の子供時代が投影されているからかもしれません。もっとも、アゴタ・クリストフがこの双子たちのような悪童であったわけではないでしょうが。生きていくためには何でもしなくてはならない時代だったとしても。ちなみに、一番笑ったのは「ぼくらの従姉とその恋人」の章。最後に出てくる従姉のセリフに噴き出しそうになりました。

過激で陰鬱な場面が多いけれど、笑いを誘うようなところもあるので、読んでいてふと「漫画化するなら丸尾末広にしてほしいな~」という、無茶なことを妄想してしまいました。丸尾末広ならエログロも子供のピュアさも、別れの切なさも描いてくれると思うので。

歴史にあまり詳しくないので、巻末の注釈を読まないと物語の背景がわからなくて、読むのに時間がかかりました。次に読むときは背景が頭に入っているからもうちょっとスムーズに読めるだろう…と期待しているのですが、さてどうなることやら。昨日の晩御飯、私は何を食べたっけ…?



2 コメント

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おぉ、ついに! (あおむし)
2015-05-17 23:36:38
そうなんですよね。過酷でエグイ話なのに、感情抜きで淡々と描かれるあまりにおもしろくなってたり、自分の善悪や常識が揺らいでくる感覚がありました。
続編はそれぞれ矛盾することも多く、何が真実かを見失っていくようで、混乱しつつも面白かったです。

あと、おばあちゃんの体形は、映画で一番衝撃的でした。
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やっと読みました! (もちきち)
2015-05-18 22:37:52
>あおむしさん
こんばんは~。「悪童日記」、やっと読みました!
想像すると眩暈がしそうな状況なのに、双子の視点で語られると面白く感じちゃうんですよね。
ある意味、彼らがまだ子供でピュアだからなのかな?(それもちょっと違うか)
続編を読むのが楽しみです♪

おばあちゃんの体型、映画を見たときに思った「この生活でなんでその体型なんだ?」の謎が解けました。
原作を先に読んでる人には衝撃的ですよね。(^^;)
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