Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

全人類に読んでほしい本

2023-11-23 17:03:10 | 読書感想文(小説)

今年も残りあとひと月と少しになりました。つい最近まで夏だった気がするのに秋が来ないうちに冬が来たかと思うほど寒くて、なんやねんもう、という感じです。

さて、年末が近づいてくると、今年見た映画とかドラマとか、読んだ本とかを振り返るんですが、
今年はあまり映画を見ることができず、振り返るネタがあまりありません。
邦画は「怪物」とか「福田村事件」とか「国葬の日」とか。
洋画は「ウーマン・トーキング」「パリタクシー」「イーオー」「ザ・ホエール」くらいかな?
家庭の事情であまり映画館に足を運ぶ余裕がなくなってしまったので、見たい映画はいっぱいあったのですがスルーしてしまいました。

かわりにドラマはちょくちょく見るようになったのですが、視聴疲れといいますか、追っかけるのが大変で離脱したものも結構ありました。
現在放送中のドラマで意外と面白いのが、「今日からヒットマン」。内容はきわどいけど深夜枠だからいいのかな、ということで。
「パリピ孔明」は毎週森山未來が見られるのがうれしいのですが、来週最終回なのがさみしいです。

そろそろ本題に入りましょうか。本です。タイトルにある、「全人類に読んでほしい」本です。

最近ちょっと興味があって、児童小説やYA(ヤングアダルト)小説をよく読んでます。もっぱら図書館で借りて読んでるのですが、
その中で最近とくに「おお!」と思ったのが、アメリカのYA小説、「かわいい子ランキング」です。著者はブリジット・ヤング。
日本で著書が刊行されるのはこれがはじめてだそうです。

14歳のイブ・ホフマンは、詩が大好きで、目立つのが苦手な14歳の女の子。ある日、学校に行くとみんなの自分を見る目がおかしい。
それは、学校のみんなのスマホに送られた「かわいい子ランキング」のせいだった。学校一目立つ、みんなのあこがれのソフィーが2位で、
地味でおとなしいイブが1位だったから。そのせいでソフィーとイブの立場は逆転。イブにすり寄る女の子もいれば、あのランキングを
作ったのはイブだとデマを吹聴する男の子も。イブとソフィー、そしてイブの親友のネッサやほかの女の子たちも、ランキングに振り回されて
心おだやかでいられなくなり…そもそも、あのランキングは誰が書いたの?

地味で内気な主人公が、突然スポットライトを浴びて輝くシンデレラストーリー、なんていう昭和の少女漫画みたいな展開はいっさいなく、
イブとソフィーがそれぞれの立場で悩み、対立ではなく共闘するという、幼い少女たちをエンパワメントする力強い作品でした。
ランキング1位になってから、イブのスマホは通知音が鳴りやまず、送られてくるメッセージは読むのが堪えないものばかり。
大人だって、同じことをされたら心を病んでしまう人が現実にたくさんいるのに、ましてや子供をや、です。子どもだからこそ加減を知らずに
ひどい言葉をぶつけてしまう、という考えもあるでしょうが、じゃあ大人はみな加減を調節できてるのか、というと疑問です。

誹謗中傷にうちのめされるイブを励まし、闘いに導くのは誰かというと…それはネタバレになるので伏せるとして、ランキング2位にされて
しまったソフィー、彼女もまたイブと同じくらい主人公力のある女の子でした。最初はわかりやすいライバル役のブロンド美女かなと
思ったけど、彼女のおかれたつらい状況と優しい性格、たくましさには読みながらおばちゃん(私のこと)は何度も泣かされ、ついでに目から
うろこがぽろぽろ落ちました。人を見た目で判断してはいけない、と。この本のテーマは「ルッキズム(外見至上主義)」なのですが、
イブとソフィー、ネリィやほかの女の子たちがルッキズムと闘う姿は応援したくなったし、それだけで終わっちゃいけない、私自身も
変わらなきゃいけないぞと強く思いました。変わるのは難しいけどね。

女の子たちがかっこよく立ち上がる中、男の子はというと…女の子たちみんなのあこがれのソフィー同様、男の子の中にもブロディという
人気者がいました。彼については物語の中でもうちょっと掘り下げてほしかったなと思うんですが、終盤で出てくるブロディのセリフ、

「ぼくたちは、みんなの期待どおりにやってるだけなんだから」

は、ぐさっとときました。彼もまた、周りから期待されてる自分を演じているからです。なりたい自分ではなく。
ブロディはそのあとすぐ退場してしまうんですが(ネタバレー!!)、彼の、彼と同じ悩みをもつ若者の、その後に幸あれと祈るばかりです。

ところで、アメリカの児童小説やYA小説を読むと思うんですが、人種やセクシャリティのバリエーションが豊かで、
いろいろ勉強になることが多いです。この小説の主人公のイブはユダヤ系アメリカ人で、イブの性格はユダヤの習慣や宗教、
価値観に影響されているところがあります。
イブの親友のネリィはお母さんが南米からの移民でお父さんは白人、
ソフィーは白人ですが家庭環境が複雑で、イブやネリィと違って裕福ではありません。
みんなそれぞれ差別と偏見に苦しんでます。みんな苦しんでるから平等、というわけではないのに。

イブが、寝る前にユダヤ教の詩「イスラエルよ、聞け」をつぶやく場面があるのですが、いまガザで起こっていることを考えて
複雑な気持ちになりました。イブは自分がユダヤ人であることをおおっぴらにしたくありません。差別されるかもしれないからです。
ネオナチの存在も恐れています。
いま、イブと同じ立場の子どもたちは、どんな気持ちで眠りについているのでしょうか。
イスラエル政府と首相に向けられるべき批判と憎悪を、手の届く範囲にいる彼女たちに向けようとする人がもしいたら。

もちろん、差別の問題はユダヤ人に限った話ではありません。イブだけがかわいそうなわけでもない。世界中で同様のことが起きています。
だからこそ、あらゆる属性の人に、この本を読んでほしいと思うのです。

余談ですが、先日「アップステージ」というYA小説を読んだのですが、中学校の音楽の授業で
ミュージカル「ミュージック・マン」を演じるというお話でした。そしたら、この「かわいい子ランキング」でも、ネリィとブロディが授業で
「ミュージック・マン」に出演するというじゃありませんか。これは偶然?それともミュージック・マンはアメリカの中学校でそんなに人気なの?
細かい話ですがちょっと気になったので。


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