Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

川村元気「億男」

2018-10-03 21:17:32 | 読書感想文(小説)


もうすぐ映画が公開する、川村元気の「億男」を読みました。「世界から猫が消えたなら」も映画公開前に読んだのですが、結局映画は見に行きませんでした。「億男」公開前に地上波で放送するかな~?


弟の借金を肩代わりしたせいで、妻子に家を出ていかれた図書館司書の一男は、ある日偶然手に入れた宝くじで3億円を当ててしまう。手に入れた金をどう扱うか途方に暮れた一男は、大学時代の親友で今はIT長者の大富豪である九十九のもとを訪ねる。しかしその直後、九十九は姿を消した。一男が当てた3億円を持って-九十九を捜すために、一男は一男が知らない九十九を知る、九十九の友人たちを訪ね歩くが…


えー、映画公開前なので、感想は物語の核心に触れないよう、ざっくり、雰囲気重視でいきたいと思います。

まずは、映画で主人公の一男を演じるのは、われらが律(半分、青い)こと麦田(義母と娘のブルース)こと佐藤健なわけですが、その一男が小説の序盤で

また妻子に出ていかれてる。

原因は、失踪した弟の借金三千万を肩代わりしたこと。まるまる肩代わりしなくても、他に方法があったのにもかかわらず。ちなみに弟にも妻と子供がいますが、いるという情報だけで小説の中には名前すら出てきません。

そしてさらに、一男は図書館司書という本業の他に、副業として深夜のアルバイトをしています。そこで一男は

またパンをこねている。

こねるといってもパン工場の流れ作業なので、理想の食パンを試行錯誤して作ってるわけではありませんが、これがそのまんま映画でも使われたら、観客は佐藤健がパンをこねるところを大スクリーンで見られるわけです。ぎぼむすファンには嬉しいサプライズですね。多分。

一男の親友の九十九は、映画では高橋一生が演じます。最初は佐藤健と高橋一生が同い年の役かぁと首をかしげましたが、小説を読んでいくうちに九十九が高橋一生の姿をしていることに違和感がなくなって、むしろ高橋一生が九十九をどう演じるのか楽しみになってきました。実写化の情報を先に知ってしまうと、小説を読むのに邪魔になることがよくあるのですが、今回はむしろ良かったです。映画では設定が少し変わってるかもしれませんが。

「世界から猫が消えたなら」は基本設定からしてファンタジー要素の強い小説でしたが、この「億男」はあらすじを読んだ限りではそうでもないかなと思っていたのに、読んでみたら前作よりもさらにファンタジーな小説でした。ファンタジーといっても妖精とか妖怪とか妖魔が出てくる非現実的なものではなく、現実ではあるんだけど非日常的な出会いの中で「お金とはなにか」「幸せとはなにか」をひたすら言葉で突き詰めようとしている小説でした。非日常的なことが淡々とつづられているので、ツッコミどころも相当あるのですが、あまりに多すぎて途中で麻痺してしまいました。慣れって恐ろしいですね。

一男には妻と幼い娘がいて、借金の問題でこじれてしまったけれど、修復してまた一緒に暮らしたいと思っている。それはまあ一男の物語の重要な部分ではあるのですが、とりあえず置いとくとして。それ以上に印象に残ったのは、やっぱり一男と九十九の友情、友情…いや、うん、友情でした。落研でともに過ごした大学時代、卒業旅行のモロッコ、15年間の空白を経ての再会、空白を埋めるための一男の旅…朝ドラで女同士の友情物語を見たばかりだったので、男同士のそれを読むことが出来たのはよかったです。BLとか恋愛感情による直接的なものではなく、例えるならBUMP OF CHICKENの曲の歌詞のような距離感の2人の話を。まあ、映画の主題歌がBUMPなのでそう思ったのかもしれませんが。

一男が訪ねる九十九の友人3人は、いろいろな意味で浮世離れしていて個性的ですが、予告で見た感じだと一番期待できそうなのは藤原竜也演じる志々雄もとい百瀬です。小説を読む時、百瀬=藤原竜也で想像しながら読んだら笑いが…じゃなくて百瀬の言葉のひとつひとつに説得力を感じました。うーん、見える、見えるぞぉ、ハヅキルーペも割れるほどのテンションで叫ぶ藤原竜也が!(何を期待している)

お金があるないの問題は個人にとってとてもデリケートなことなので、読む人によっては「何言ってくれてんの、ケッ」な小説ではありましたが、一男と九十九という青春時代にかけがえのない時間を共に過ごした2人の物語だと思って読んだので、面白く読めました。一男が自分のダンナだったら嫌だなぁという気持ちは読み終わった今も変わりませんが。そういうところは律と一緒だね!

細かいツッコミですが、九十九の部屋でどんちゃん騒ぎをする場面で「おかまタレント」というやや時代遅れの名称が使われていたことにひっかかりました。一男と娘がフレンチレストランでランチを食べる場面は、柔軟に描かれていたのに。あの場面は一男の価値観で書いてるから仕方ないと言われたらそれまでですが、そこがちょっとだけ残念でした。


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