Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

ジーヴズ!ジーヴズ!

2012-02-22 20:47:44 | 読書感想文(海外ミステリー)



昨年暮れに放送された某執事ドラマに触発されて、文春文庫から発売されている、P.G.ウッドハウスの
「ジーヴズの事件簿」シリーズの「才智縦横の巻」と「大胆不敵の巻」を読みました。

この小説の舞台は20世紀初頭のロンドン。気はいいけど頭がちょっくらライト感覚(by川原泉)の金持ち青年
バーティと、バーティに仕える超有能執事のジーヴスの日常が描かれています。親友のビンゴや叔母のアガサ、
双子のいとこなどに次から次へと面倒な問題を押し付けられるバーティ。自分で考えるよりもジーヴスに頼んだ
ほうが手っ取り早いと、何から何までジーヴスまかせにしているのですが…

「事件簿」とあるからミステリー色が強いのかなと思いきや、殺人も窃盗も起きず、ビンゴの恋愛トラブルや
アガサ叔母がバーティに持ってくる無理めの縁談話など、事件と言っても結構こじんまりしたものばかりなのですが、
これが意外と面白かったです。20世紀初頭という舞台設定が、シャーロック・ホームズの時代とリンクするので
馴染みがあったからというのもあります。バーティ君の優雅でのんきな生活をうらやましく思いつつ、

「そうそう、この時代は働かなくても親戚の遺産で遊んで暮らせる人がいたのよねぇ」

なんてため息ついたり。(ホームズの世界ではその遺産を巡っていろいろ事件が起きてましたが)
あと、出てくる食べ物がとってもイギリスらしくてよかったです。基本的に美味しくなさそうで(<おい)。

バーティ君の悩みは、親友のビンゴが誰かに一目ぼれするたびにその恋の成就を手伝わされたり(そして大抵は
失敗する)、叔母のアガサが押し付けてくる結婚話をどう回避するかなど、これまたうらやましくなるくらい
のんきなものばかりなのですが、当の本人は生きるか死ぬかの問題のごとく悩み、困り果てます。
そして最終的に泣きつく先は、超がつくほど優秀な執事のジーヴス。このジーヴス、執事としてバーティ君に
実に完璧に尽くしていますが、2人の間には別に永遠の忠誠を誓うような主従関係も禁断の愛もありません。

手癖の悪かった前任の執事を首にしたバーティ君が、新しい執事を大沢家政婦紹介所に頼んだらたまたま来たのが
ジーヴスだった、というだけの話。なのでバーティ君もジーヴスもそれなりにうまが合うものの、基本は
ビジネスライク。2人の間にはべたべたした友情はありません。その代わり、たとえ主従の関係と言えども
ジーヴスはバーティに言いたい放題です。特にファッション関係。挿し絵がないので頭の中で想像するしか
ないのですが、バーティ君のファッションセンスは斬新すぎてジーヴスじゃなくてもついていけません。
本人は流行の最先端を行っているつもりなんですが、そのどれもがメーターを振り切ってるとしか言い様が
ないものばかり。しかも、そのまずさをジーヴスが冷静に説明しても、意固地になってはねつけてしまうし。
バーティ君が抱え、一人ではどうすることもできない幾多のトラブルよりも、彼のファッションセンスの
ゆゆしき問題のほうがジーヴスにとっては厄介なのでしょう。うん、わかるわかる。

それでも「ジーヴスの事件簿 才智縦横の巻」の最後に収録されている、ジーヴス目線で描かれた一篇を
読むと、ジーヴスはジーヴスなりにバーティとの主従関係を楽しんでいるのがわかります。気ままな
独身男同志、気楽でいいんですね。そんな気楽な日々を、バーティ君が
「小さな女の子を引き取って育てようかな~♪」
なんて何も考えてないにもほどがある思いつきで壊そうとすれば、完璧な計画と大胆な行動力でご破算に
してしまいますし。こういう振る舞いを利己的だと思う人もいるかもしれませんが、私は結構好きです。
ジーヴスはジーヴスなりに、バーティ君の人柄を好ましく思っているわけだし。

文春文庫からは「才智縦横の巻」と「大胆不敵の巻」の2冊しか出ていないのですが、このシリーズ以外にも
ウッドハウスの他の作品も日本で出版されているので、また読みたいと思います。まずは同じ文春文庫から
出ている「ドローンズ・クラブの英傑伝」かな~?


あと、この「ジーヴスの事件簿」を読んでると、ジーヴスのバーティに対する冷ややかな視線と完璧な
仕事ぶりに、ミステリーもどきの某執事小説はこれが元ネタだったんじゃないかな~などと思えて仕方ありません
でした。向こうは仕える相手がお嬢様だから、まあちょっとはロマンス要素があるけどね。
でも、ジーヴスとバーティの関係にミステリー要素を加えたのがあの小説だとしたら、ミステリーである
必要なんてそもそもなかったんじゃないかという気もします。ジーヴスはミステリーがなくても十分面白いので。
まあ、それを言ったらあの小説の存在価値すらあやしくなっちゃいますけどね。

ところで、某執事ドラマは近々スペシャル版が放送されるそうですね。
主人公と執事よりも、ジーヴスにおけるビンゴの役どころを演じている風祭警部の活躍が楽しみです。


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