国際交流のススメ

舞台芸術・海外公演に関する情報をニューヨークから発信します。

淡路人形浄瑠璃座北米ツアーって(5)

2009年12月11日 | 海外公演



さて、久々に淡路人形浄瑠璃北米ツアーについてです。前回は米国私立大学の雄・アイビーリーグの一角、コーネル大学での公演について書きました。ツアーも終盤に差し掛かり、次なる訪問地はマサチューセッツ大学です。ここは州立の大学ですが規模はかなり大きなマンモス大学です。ここでも主催はアジア・スタディーズというアジアの歴史や文化、言語や政治などを研究する部門です。もちろん劇場学部もあって演劇だけでなく、コンテンポラリーダンスの学科もあり公演も行われています。過去には笠井叡さんがこの大学で“花粉革命”だっかの公演をしています。僕も過去に何度か来たことがありますが、前回は確か「八王子車人形」のツアーだったと思います。

余談ですが、「八王子車人形」も歴史は淡路よりも浅いものの、古典人形芝居のグループで遣う人形も淡路や文楽のものと似ています。ここの特徴はまず、人形遣いが一人で人形を操る・一人遣いであるということ。そしてなんと言ってもこのグループがユニークなのは、その名の通り小さな台車の上に人形遣いが座って人形を操るという点です。人形の足が人形遣いの膝に固定されているので、人形遣いの足使いと同じように人形の足も動きます。

歌舞伎もそうですが、地方へ伝わるうちにそれぞれの地方で農村などに根付いたりして、継承された古典芸能が多く存在します。なかなか見る機会がないですけどねえ。八王子車人形はプロですから各地で公演活用も行っていますので機会があれば観劇されてみては?







マサチューセッツ大学では、公演以外に子供向けの特別公演や一般に向けてのワークショップなどが予定されていてなかなか盛り沢山でしたが、劇場はLA以来、久々に普通の飛び切りバトンなどもある劇場でした。ただ、キャパが800席ほどあり人形芝居としては大きめでちょっと心配しましたが、思ったよりも客席が遠くなく、ただ字幕がプラズマでは見えにくいかもとのことで、スクリーンを吊って字幕は映写することにしました。大学の劇場ではしばしばあるのですが、ここでも主だった管理スタッフ以外のスタッフは学生がバイトで働いていました。まあ、ちょっと技量やスピードで不十分なこともありますが、これも経験ですからね。若い彼らと仕事するのも楽しいこともありますしね。劇団の皆さんもアメリカの劇場に慣れてきて、仕込みも素早く完了し、その分早く終わって飲みに(食事に)行くことに。地ビールが飲めるお店に皆で行きました。





舞台も無事綺麗に飾れて、いよいよ公演ですが、1回目の公演は内容を少し変更して子供向けの上演としました。「壷坂」を抜いて変わりに人形解説を入れて60分ほどのプログラムに。近隣の小学校から400-500人の子供たちが集まりました。アメリカでは、こういった子供向けの公演やレクチャー・デモンストレーションはよく開催されます。助成金の交付条件に教育プログラムを入れることを義務付けているものもありますが、やはり地域コミュニティへの貢献として本公演だけでは不十分であり、せっかくの機会なのだからと、教育プログラムを積極的に実施している団体・劇場は多いです。まあ、非営利団体が基本のアメリカですから、そういったコミュニティ向けのプログラムや教育プログラムを実施するのは彼らのミッションでもあり、当たり前の行為とも言えます。

劇場と地域、アーティストと社会の関わりについて、日本でもさまざまなプログラムが開催され始めていますが、子供たちの通う学校側の協力や理解も当然必要で、日本ではまだまだその辺りが難しいですよね。こういう時、アメリカではまず公立の学校に声をかけます。それは公立だからという理由ではなく、公立は予算がなく独自に芸術教育を行うことが難しいからというのが大きな理由の1つです。特にNYのような大都市では大学同様、裕福な子供は私学に通うことが多いようです。日本では公立の学校は自由裁量が小さいので、カリキュラムを自由に組めませんが、アメリカでは大枠は決まっているものの、その中で何をどう教えるかの裁量はもう少し自由なようです。

学校から直接、授業時間以内に鑑賞の来るので、こういう子供向けの教育プログラムはもっぱら朝が多いです。このときも朝10時スタートでした。こういうの嫌がる人もいますが、何度も言うように、税金や公的な性格のお金を貰ってツアーをする以上、そういった付随する交流・教育事業に協力すべきですし、そういった活動が長い目で見れば観客の維持・拡大に貢献している訳ですし、芸術への支援の必要性を認められる社会層の育成にも貢献していると思うのですが、どうですか?でないと仕分け作業でばっさりなんて時に支援してくれる世論が育たないなんてことになりませんか?「優れた舞台芸術は公的支援がなくてもプロモーションによって自主興業が可能」なんて乱暴な理論に反論できなくなってしまうんじゃないですかね。



 

解説はここでも、松井似の元ヤン・記虎さんが担当。子供たちも熱心に聴いてくれています。



参加者多数のため選抜された子供たちが3人づつグループになって人形遣いに挑戦しました。


子供向け公演の次は場所を変えて一般・大人向けのレクチャー・デモンストレーションを劇場学科の協力で実施。キャパ150席程度のブラックボックスシアターに学生、教職員、そして一般の人たちが大勢、つめかけてくれました。




フォーマットとして、まずは淡路人形浄瑠璃の歴史や地勢的な特徴など概要を話してから、浄瑠璃、三味線、人形の順で解説、引き続いて人形操作の解説を行った後で参加者に人形操作を体験してもらいます。時間が許すならば参加者で浄瑠璃の1節をみんなで練習してみるなんてこともやりました。




淡路人形浄瑠璃座の若大将、皆のアニキこと、竹本友庄さんによる浄瑠璃解説。ツアー中は一人酒場でウィスキーのグラスを傾けることの多いアニキも床本を参加者に見せるなどサービス満点。


 

本日の三味線解説は鶴澤友重さん。もう一人の三味線奏者・鶴澤友弥さんと交代で解説を務めて頂きました。友重さんはヨーダの幼いころにそっくりで、友弥さんは西川きよしの娘・西川かの子にそっくりです。





人形解説はここでも来期の去就が未だ決まらない松井似にして元ヤンの記虎さん。
解説にも淀みなく、参加者たちを冗談で笑わせたりしながらも、人形について細かく解説してくれます。参加者の皆さんも積極的に参加、終了後も座員に話しかけて質問するなど有意義な時間を過ごしてもらえた様子でした。



 


こうしてマサチューセッツ大学での公演も無事終了し、ツアーは最終章、ウィリアムズカレッジへと続きます。






最新の画像もっと見る