やあよのブログ

コツコツと詩を書いています。楽しく読んでいただければうれしいです。

知恵

2019-06-11 09:55:04 | 日記
ゆみにはある想い出がある。小学校4年のころだったと思う。
ゆみは父と母、兄の4人暮らしで、おおむね平穏な日々を営んでいたが、
父と母が不仲になり、ある日母がゆみを連れて家を出た。
ゆみは母の実家の近くの小学校へ転校することになってしまった。
しかし父からの再三の呼びかけで、ゆみは母と一緒に父と兄のもとへ
戻ることになった。
転校してから1か月くらいのことである。
ゆみはもとの小学校の教室に出戻ることになった。
子供の心にも出戻りは影響があった。
父や兄が転校せずにいたことで、家庭の問題だということは
同級生にもなんとなくわかったはずだ。
ゆみは教室で気まずさに耐えていた。
そして出戻ってすぐに、テストがあった。
1か月の転校の間に、教科書が違ったため、教わっていない問題ばかりがテストに出ていた。
ゆみはテスト用紙を前に困り果てた。
そして机の引き出しからドリルをこっそりと少しだし、答えを用紙に書いた。
カンニングだ。
ゆみは汗をかきながら、ドリルから答えを書き写した。
その日の放課後、学級会で中村という少年が、
ゆみのカンニングについて議題を出した。
「川上さんが今日のテストでカンニングをしていました。
よくないことだと思います。」
中村は中傷するかのようにそう言った。
ゆみは全身が恥辱で真っ赤になるほどだった。
「わたしはカンニングをしていません!わたしはカンニングをしていません!」
ゆみはあまりの恥辱に泣き出してそう言った。
嘘をついたつもりはなかった。
ゆみの涙は止まらなかった。
クラス中の同級生がしんと静まり返った。
クラスのものでゆみに同情しないものはいなかった。
カンニングの件は、誰も追及せず、そのまま立ち消えになった。
立ち会った担任の先生もなにも言わなかった。
議題を出した中村少年だけが、なにか心に思ったまま、
ゆみは追及を免れた。
40を過ぎ、当時の自分と同じ年頃の子供を持つようになってからも
ゆみはその想い出が忘れられない。
ゆみの子供も心の働きがある。
素直に伸びて行ってくれればいい、ゆみはそう思っている。

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