Matt Bianco - Falling
急に趣味をやめたのは 去年の12月
特に意味はない ずっとすきなことを続けるのが怖くなっただけ
気がついたら老後になっていたりするのが怖くなっただけ
日課のなくなった僕は メッセ発信しなくなった僕は
世間様に背を向けて 愛するものを守るために壁になってシャットダウン
自分自身の電源を切って 毎晩小さな死を迎える
夜寝ている間になにもかもを忘れて 朝になったら空っぽの頭をリセット
考え事しながら シャワーを感覚記憶で浴びて
日課に戻ったら 突然の空間移動 こういうことってあるんだな
生まれ変わるように毎朝自分自身をリセット 他のなにも関係ない
鈍くなって慣れていって流していく 自分自身を脅かす物事を
シャットダウン
ヒューマニティしか信じられない
兄弟のネコのタイだってそうさ
通りすがりは幻 すべてが変わっていく
この半年の間にどれだけの物事を通過しただろう
家と職場の往復の一所懸命 それ以外のなにも見聞きする気はない
彼女との生活に帰っていく
更に鈍くなって慣れていって流していく 自分自身を脅かす物事を
シャットダウン
今日も あなたはいない
いつになっても いつまでもひとりぼっち
今日も あなたは来ない
いくつになっても いつまでもひとりぼっち
梅雨の夜の空気は蒸して 家のネコは瞳スネて
誰もいないけど 誰も来ないけど
雨が心を揺らして
こんな夜は さみしさに誰かに電話したい
雨が心を濡らして
こんな夜は 悲しさに誰かに逢いたくなるけど
涙ぐむひとり寒く
両手で自分の肩を抱いて
もしも愛されたなら
わたしを知るのなら
雨が心を揺らして
こんな夜は さみしさに誰かに電話したい
雨が心を濡らして
こんな夜は 悲しさに誰かに逢いたくなるけど
こんな夜は 悲しさに誰かに泣きたくなるけど
泣きたくなるけど
今年、クレイジー・リッチが流行った。
3月末の夜、向かいの家の奥さんが崩壊して2階の窓から乱れた髪で、今にも気のフレた声で落ちてきそうだった。
僕は家の前からその夜、町中の不吉な空気を感じていた。
僕の気の狂った母は、経済的にうまくいっている僕を当てにして、毎日のようにインターホンを押し、ドアを叩いた。
次の日には郵便配達の人が同じようにインターホンを押し、ドアを叩いた。
2月の上旬には、最後の犬が郵便局を語って国中に転送不要の郵便物をバラまいた。
その後1ヶ月くらいしてから、僕の住んでいる市から、謎の給付金の郵便物が届いた。
僕と僕のネコのタイは泣かなかった。家のドアを開いて一歩家を出ると空気が狂っている。政府崩壊の日が来たのかもしれない。
タイは今年、9歳になろうとしている。
白いボディのネコのタイも家の外の空気を敏感に察していた。
4月8日の朝だった。その日は晴れだった。
大阪に出張していた父が帰ってくるので、僕はタイを2階の窓際から外を眺めさせた。タイを自立させた。僕は1階に降りて外に出て道の角から、家の2階の窓際から青空の下、町を見下ろし見張っているタイに両手を挙げた。
「タイー! タイー!」
タイにはとりあえず2週間分の食事を用意しておいた。父ならこの町の異常な空気をすぐに感じとるだろう。
僕はテーブルに、父に簡単なメッセを残した。
「この町には精神科がないので、隣町の精神科にお世話になってきます」
僕が家を去る時、タイは泣かなかった。
リトル・スカイ・タイ。
今日は快晴だ。
タイは今にも大空を、青空を飛ぼうとしている。
2か月後には僕も短期入院で家に帰るだろう。
タイは人社会のギセイじゃない。
タイなら生き残るだろう。