手の記憶

窓から見える緑が日に日に鮮やかになっていく。
ゴールデンウィーク・・・観光地や行楽地は、人が溢れているだろう。
しかし、この窓から見えるのは、農作業をする人が行き交う穏やかな風景だ。

今日は、隣の家の人が、早朝から苗代づくりをされていた。
男性が二人。親子だ。
一人は高齢のおじいちゃん。
二人で鍬を持って作業されている。

見ていると面白い。
黙々とそれぞれが作業をしているのだが、二人の動きがピッタリ同じなのだ。
耕す速度。
鍬の持ち方。
体の動かし方までそっくり。
作業している二人は、そのことには気づいていないのだろうけれど・・・

二人は、親子であると同時に、師弟関係でもあることが分かった。
宮大工の西岡常一氏の言葉を思い出す。

「技は数値ではあらわせません。文字で本にも書き残せませんな。それは言葉にできないからです。技は人間の手から手に引き継がれてきた「手の記憶」なのです。そしてこの手の記憶の中に・・・知恵が含まれているのです。」

機械やコンピュータにはない「手の記憶」。
それが、私の目の前にもあった。

知恵は、言葉では表せない。
人から人へ・・・
手から手へ・・・
師匠から弟子へ・・・
親から子へ・・・
その記憶を引き継ぐ中で見えてくる。

コンピュータには知恵を引き継ぐ“手”はない。
人間だけが持つ“引き継ぐ力”を忘れてはならない。