リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

第28回 亜細亜の宝 安全に泳げる川の奇跡について。

2016-04-26 18:04:33 | ”川に生きる”中日/東京新聞掲載

メコンで考えた日本の川について、世界農業遺産に認定された「清流長良川の鮎」ではあるが、本当の「亜細亜の宝」は安全で泳げる水にあるのだということ。。

 

29回 亜細亜の宝

四月十六日は、ピーマイというラオスの元旦にあたる。日本の盆と正月、灌仏会(かんぶつえ)が一体となったような日で、先祖を供養し、仏像を水で清めて新年を祝う。新年を迎える行事として水を掛け合う「水掛まつり」がある。道ばたに待ちかまえて、通りかかる人に水をかける。
 子どもたちは容赦ないから、カメラなど持って出歩けない。それでも日中の気温が四〇度を超えるこの季節、水を浴びるとむしろ、すがすがしい気分になる。
 六月から十月にかけて、雨期のメコンはウコン色の大河だ。しかし、乾期となる十二月から翌年五月は、水深一㍍の川底がみえるほど、澄んだ流れとなる。酷暑の季節、澄んだメコンの流れをみると飛び込みたい思いに駆られるのだが、川で泳ぐのには危険がある。
 ラオス南部からカンボジアにかけてのメコンは、日本ではすでに駆逐された寄生虫病、住血吸虫症の一種、メコン住血吸虫症の危険地域だ。四、五月は水中にいる吸虫の幼虫が活発に動き、寄生虫症となる危険性が最も高い時期に当たる。涼しげなメコンを目の前にして、川面を見ているしかない。
 日本の川を思う。暑い夏の午後、体を沈めて長良川の水面(みなも)を漂う。それは、川の近くに暮らす者のたのしみ。海から離れた岐阜市周辺の熱さは日本有数だが、その夏に、長良川があることのありがたさをしみじみと感じる時だ。
 国際空港から一時間余りの岐阜市街、県庁所在地を流れる川で、病気の心配もなく泳ぐことができる。岐阜県は世界農業遺産として「清流長良川の鮎(あゆ)」の認定を受けた。もちろん、鮎という魅力的な魚とその漁を世界に発信するにやぶさかでないのだが、街を流れる「澄んだ安全な水」という奇跡を、私たちはもっと誇っても良いのではないか。
 アジアの自然がすさまじい速度で失われていく今、日本の川を「亜細亜の宝」として誇りたいと思うのだ。(魚類生態写真家)

 

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